仮面教会

―—ある噂がたった。とある新興宗教“仮面教会”が人々の幸福を強要していると、彼等は、アンドロイドと人間との境界を取り払おうとしていて、それは昨今対等しつつある人工知能、AIとつながりがあるのだと―—人その人生に満足するのだろうか?人がつくった自分の人生に……。

 ある記者が大雨の中立ち尽くし、自分の人生を振り返り、自分の仕事を恥じていた。彼は……幾度も浮気をしたことがある、幾度も友を裏切ったことがある、いくども小さな犯罪をしたことがある、だが都市と科学の便利な生活は、時にそれをなかったことにしてしまう。
 彼はとっさにメモをとりだして書き留めた、今の感情を、それを書かなくては、次の記事を書く資格がない、どういうつもりか、そんな気がした。大大雨は降り続けた、上空をみるとあまりに多すぎる高層ビルは、その雲間をつきぬけて、はるか遠く宇宙まで伸びているようにも見える。その光景になんとなく、男は倦怠感を覚えた。

 ホログラムのショーウィンドウには、きれいなアンドロイドのマネキンモデルがたくさんならぶ、大気汚染と温暖化の影響で、街は地面のスプリンクラーからあふれる特殊な冷気ミストのふりまくキリであふれている。ビルはまるで器械内部のような、まがまがしい姿をさらして、それは先祖返りしたような古い建築物の構造をしている。トレンチコートを傘代わりに、タクシーを探すため記者は走った。
「彼等の宗教は、現実逃避を選んだ、それは仮面をつける事だ。人間の生の実感とは何か、それは仮面をつける事だ、新興宗教の教祖は、アダムだ、アダムはいった。“仮面をつける事で信者に幸福を提供する”。謎が多い宗教ではあるが、仮面をつけたまま生活する縛りが、それを可能にしているという。」記者は、言葉を記録した、それは彼等の宗教に対する、彼は1時間前強烈な刺激をうけた……。だから彼のメモは、その刺激を受けた彼の……信者になりかけた男の……新しい記事の切り口だ。宗教は必要だ、特に彼のような迷い子には。

 人の人生にとって、当たり前の幸福とはなんだろう。それは、時に宗教が提供する。その新興宗教の信者は、身分を必要としない、身分を捨てる事によって宗教への入会が許される、新興宗教だが、秘密結社のような性質を持つ。
 教会はこの時代、アンドロイドによって作られた、とある国の後押しと莫大な財力によって人の生活、人の幸福を支援する、その代わりに、信者の個人情報を収集しているという噂もある、それを犠牲にしてまで信者のえた幸福とはなんだ?顔のない人生とはどういうものだろうか?。彼は数時間前を振り返るーー教会本部の前にたっていた。今一人の人間が、教会の裏口から顔をだした。職業バーテンダーの男性、きれいな仮面をしている。

 記者が彼の後を追う、すぐ前に躍り出て“仮面教会の人ですか”声をかけると、笑ったままの顔がこちらをふりむいた。その顔はぴくりともうごかず、無機質で透き通ったような綺麗な肌をみせていた。
「そうですよ」
「少しインタビューをさせてください、お時間よろしいでしょうか?」
「あなた一度見たことがあります、テレビで」
「仮面教会は、資金繰りやマフィアとの関係に様々な疑惑が噂されています、それでも教会を信じる理由はなんですか?」
「世界が偽物だからです」
「は?それは教義ですか?」
「いいえ?私がそう思うだけです、私たちは宗教ではありません、ありきたりの幸福を探し、演じているだけです、あなたたちこそ、自分の事をどうお思っているのですか?」
「……」
記者は小型マイクを彼にむけたまま、黙り込んでしまった。
「この時代に“当たり前”などひとつもない、誰もが嘘をつき、誰もが誰かを裏切っている、私の顔をみてごらんなさい、私の顔はずっと笑っているんです、ずっと演じていて、演じているという事に嘘をついていないのです、私は誰より幸福です、強制された運命とは幸福なのです」
記者はかんがえた、彼の幼少期の“しつけ”について。
「私たちは、アンドロイドと仲良く暮らすように教育されました、貴方の世代も同じはずです、それなのになぜ、アンドロイドの顔をつけるのですか?」
「あなたたちはアンドロイドやAIに仕事を奪われた人の事を忘れていますよ、今やほとんどの人間がどこかを機械に置き換えて、必要以上の能力を発揮しています、アンドロイドの人権を重んじるあまり、貴方たちは自分たちの権利を覆い隠している、そのことを忘れかけていませんか、勘違いしてはいけません、これは馬鹿にしているわけではありません、全ては自由なのです、あなた方のように常に人を責める事しか考える事がない人は、決して到達できない、真実の幸福とは団結なのです、我々の団結は仮面をつける事、それだけ、アンドロイドと人との違いを抹消するのです」

 記者は考えた、自分たちの仕事について、読者が喜ぶ事なら、なんでもする、だが自分たちが追いかけているものも、また仮面。誰もが何かに飢えている、足りないものの当てつけに、何者かを犠牲にしようとする。自分の人生も、嘘をついてばかりで、眩しい都市の生活にあこがれてばかりで、実際は何の自由も手に入れられなかった、記者はマイクを地面に転がした、先ほどから突然のゲリラ豪雨、傘さえもなげだした記者。降り注いでいる雨が、彼のマイクを容赦なく流して、小さな器械は側溝へと流れていった。

仮面教会

仮面教会

書き直しました。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-24

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