女性サイバーゲーマー

電脳世界、それは現実社会の物理的な空間ではなく、たとえばコンピューター内につくられた、仮想空間のこと。複数の人間が仮想空間に共有し、仮想的な肉体を持つ事も、場合によっては思考をやり取りする事もある、つい最近までsf上のアイデアでしかなかった概念は今や現実の一部としてごくあたりまえの日常として機能している、不思議なもので、それまで非日常ととらえられていたものが日常に変ると、日常のほうの非日常に気づく事もあるのだ、それはきっと、仮想空間内でのやり取りの中で非日常に対する感受性がよくなることで必然的に、それを体感する人間の中に実生活に対してシュールリアリズムのような視点が芽生えるからなのかもしれない。
 
 ところであるサイバースペース。メモリアでは仮想空間をつかったオンラインゲームが話題だった、それもただのオンラインゲームではなく、人間が実際にあるボックスの中にはいり、物理的に運動をする事によってゲーム内の人間をコントロールという仕組みでできていた。それはあるボックスの中にいくつかのセンサーを体に取り付けた人間が、宙づりの状態で運動をすることによって、コンピューター内のユーザーインターフェイスにアクセスできるという仕組み。ここに今日、一人の少女が現れた。
 「はあ……ここがメモリアのゲームセンターか、人が多いな、それに、男性ばっかりだ」
少女は男嫌いだった、とくに中年嫌いだった、メモリアのオンラインゲームの筐体は、とても一家に一台もてるような大きさでも、値段でもない、そのどちらも普通乗用車一台分はあるだろう。
 「だからいやなのよねえ」
少女はいったん帰宅した、だが二日三日、そして一週間後、2週間後に顔をだし、ついに1ヵ月たったころ、少女は思い切ってその筐体に入り、オンラインゲームを体感してみる事になった。
 「わあ、かわいいー」
ゲーム空間はかわいい女性キャラクターばかりで男性がいない。そこにたどり着くまでの苦痛はあっても、そのオンラインゲーム上で、少女はすばらしい戦績を残した。中でも一番すきだったのは、スターメモリーというシューティングゲームで、ゲーム内容は、舞台は未来の地球、人口が増えすぎたので数世紀前に、一時的に地球上のすべての男性が月に移住した、という設定。少女しかいない地球で、少女も兵役に従事しなくてはいけなくなり、そんな中、数億年前に宇宙に旅立った人類の男性の一部が、襲撃してくるという話。一か月の間にシューティングゲーム(射撃ゲーム)に主に熱中し、ゲームセンターで顔が知れるほどの猛者になっていった。
 彼女は今では高校生になり、いつしかゲームセンターにいくのも、男性を見るのも苦ではなくなったそうだが、実は彼女こそ僕の親友の彼女で、なぜ男性が怖くなくなったのか、ついこの間話を聞いたので、その内容を最後に記そうと思う。
「男の人も女の人も仮想空間ではなりたい自分になる、そういう思いでは、誰が何を選ぼうと同じだから、仮想空間では平等よ」
だそうだ、ちなみに一度そのゲームセンターというのが……自分の家の近所のゲームセンターで、彼女の腕を見たことがあるが、彼女のプレイは人込みが出来るほどの人気で、彼女はまんざら、そういう扱いを苦手とはしていないようだった。何しろプロゲーマーチームと一緒に特訓することもあるそうだ。今では前述のスターメモリーというゲームだけではなく、男性キャラクターを動かすゲームをする事もあるそうだ。彼女いわく、
「二次元は別物」
らしい、そういうゲーム内ではたとえば対戦相手がどんな筋骨隆々のキャラクターでも、ある種の安心感をもって接する事ができるらしい。

女性サイバーゲーマー

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-23

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