溜息姫

 昔々、ある王国に、自分の考えを言葉にできない姫がいました。
使用人や家来まで、出ていく始末、彼女は何をしたのか、人の顔をみるたびに溜息をついたのです、近頃になってのこと、とある隣国のあるパーティに列席したころから、魂が抜けたようになり、そして溜息は余計ひどくなり、その月のうちに、ついには王や王妃まで気を病んで一時城を開ける事にしました、今城に残っているのは護衛と、王や王妃の影武者のみ、あとは身の回りの世話をするメイドと、執事が一人いました。

最後の執事は、日ごろからとてもね熱心な働きぶりで、しかしひとつだけおかしな点がありました、顔が少しも笑わないのです、ですが、それはただ単におもしろくなく笑わないという感じではなく、わらおうとするのに、ぎくしゃくした感じになるというだけで、特に際立って愛想がないという感じは受けない、むしろ礼儀正しく、清潔感のある青年でした。しかし、ついには彼にさえも、王女は溜息をつくようになったのです。
姫の一回目の溜息で、
「どうしたのですか」
笑わない執事が尋ねると
「あなたはなぜ笑わないの?魔女に魔法をかけられて、夜な夜な解く方法を探しているのは本当?」
執事は笑おうとしましたが、笑えませんでした。
三日後、二回目の溜息で、二人しかいなくなりました。
王や王女もそのうち戻ってくるはずでしたが、執事は、使用人たちまで休暇をとってしまったので、話すことがなくなりました。けれど、居心地が悪いわけではありませんでした。
一か月後、執事に向けた三回目の溜息で、
「私もいないほうがいいのでしょうか」
と尋ねると、
「そうではない、私は話をしたいのにまとめられないとき、人の期待にそれないと思って、溜息をついてしまう事があるの、私もあなたのように、夜な夜な実験をしているのよ」
執事はどもりました。執事は実験などしていません、ただ、現状のしぐさ、笑わない病気にかかった数年前から、少しでも口角があがるように夜な夜な、自室にて、鏡をみて練習をしているのです、それをほかの使用人が見て、不気味がる事がありましたが、それは、別にかまわなかったのです。
「私は、現状を変えようとしないのです、かろうじて、なんとかしようと考えるだけです」
すると、王女は、全てを話したくなる衝動にかられ、執事に話をしました。
「さっき言った事は本当よ、私が溜息姫がと呼ばれているのも知っている。お父様やお母さままでいなくなって、私が頼れるのはもうあなたしかいない……」
溜息姫はカーテンによりかかり、なきだしました、夜のツキが二人を照らしていましたが、執事は大広間の窓から一番遠い位置から、姫の事を見つめていたのでした。
「私の溜息の理由、物思いにふけると、人の顔をみて、話したいことがあればあるほど、深い溜息をつくけど、私隣の国の王子に恋をしてしまったようなの」

それから、何か月もたちましたが、白の外ではもう一つ、仮説の城壁のようなものが建てられ、そこに本物の王と王妃が仮住まいをつくっていました、そして姫の様子を探るように、使いの者やスパイなどに、城の様子を探らせるのでした、王や王妃が城から逃げ出してもう半年もたっていましたが、そこにはある狙いがあったのです。
「昔からあの子には、私たちの望むような格好や、望むような言葉ばかり要求してきた、あの子が溜息をつくのは、きっと言いたい事があるからなのだ」
王と王妃はわかっていました、王と王妃は、恋を疑いはしましたが、でも、あの人だけは、のろまな執事なので疑われません。その日のうち、密偵のものが帰還すると、中の者もつれて来たといいます、実はそれは、件の執事で、例の執事も一緒に王や王妃のもとへ参じたのでした。彼は自分から説明をするといって、王や王妃の前に、勇敢に、彼女の秘密を話したいと名乗りでたのでした。
「……その、おうさま、おきさき様、溜息姫の溜息が濃くなったのは、いっときのことで、恋煩いのように思われます、私はその相手を存じております、それから溜息の事ですが、きっと、使用人やのものどもが、お姫様の言いたいことがわかれば、お姫様は深く溜息はつかないように思われます」
そこで皆、姫に配慮するようにという条件で、いったんの間高給をだし、城に戻ってもらう事になりました、しばらくのあいだその執事がそばにおり、配慮をしておりましたが、例の恋煩いの件をしった使用人たちは、多少しぐさがどぎまぎしたりしましたが、何とか姫の気持ちを悟ろうと努力するようになり、王や王妃も余計に気を使う事もなくなり、気を病む事もなく、幸せに暮らしたという事です。

溜息姫

溜息姫

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-20

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