ソウゾウしい宇宙ステーション

 先々月の11日の夜、銀河の孤島の宇宙ステーション停泊所に一台のロケットが停まった。うちのホテルに泊まっているが、客たちは、マナーを守らず礼儀を知らない。やかましいし、自分たちだけで盛り上がっている。うっとおしい。どうか、ステーション内の倉庫にある私の大切な品々には気がつかないように、と祈った……。

 数日たっても、居心地が悪く収まりがわるい。どうか私の所有物に気がつかないように、と願っていたのもつかの間、例の騒がしい団体客の中の、あるカップルがやはり気がついてしまったようだ。私の宝物、倉庫にかくしてあった、年代物のロケット。展示物ではないが、巨大な透明なアクリルケースの中に大切にしまってある。それにのって何百年というときを冷凍睡眠の中旅をしたことを思い出す。
 あのころ、毎日必死でいきていて、全盛期の死に物狂いの努力の結果、私は人が一生で使い果たすことができないほどの資産を得てしまった。今はまだ、その使い道に悩んでいるのだ。例えば寄付、例えば学校を作ること、例えば、私の興味のある分野の業界を手助けするために使うこと、実践しているがどれもしっくりこない。
 話を戻そう、カップルは、私がなぜ見つけたのかと尋ねると、無言のまま。私が憎まれ口や不満をいうと悲しんでいたので、せっかくなのである約束をして、その、私にとって特別なロットの説明をした。これは、私が初めて、100年の寿命を超えて生きるのを決意したときに勝ったものなのだと、その時ですら、今でも続く有名なブランド宇宙船メーカーの、とても高価な特注品だったのだ。これがどれほど価値のあるロケットなのかという事をいうと、彼等は驚き、高揚し、その瞬間の目の輝きが、まるで子供のようだった。何百年と生きた人間にはない目の輝きだ、赤子の目の輝きににている、知らないものが害のないことをしり、何らかの見返りを求めるような希望に満ちた目だった。

 厚かましい客たちは、それから、2、3日滞在していたが、悪い気はしなかった、あのカップルは約束通り、あのロケットの事を秘密にしてくれているようだった。きゃっきゃっとうるさいにはうるさいが、花が咲いているのが珍しいといって、ガーデニング用の小さな花壇を覗いて、だけど荒らす事はしなかった。ステーションの宇宙船停泊所の前には、花壇が所せましと並んでいる、大きな木はない。大きな木を宇宙で育てるのは大変なのだ。私はそこで、頼まれた仕事をこなしていた、ほとんど執筆の仕事だった。その仕事場の窓から、時には彼等が従業員たちとともにゴミ拾いをしている時さえあったのをみていた。

 ロケットがあのカップルになぜ見つかったのだろう、しばらくして、従業員に尋ねると、発端は、どうやらトイレを探している最中で、ほかの客に酔わされておぼつかない足で立ち入ってしまって、うちの従業員にばれたようだった。ステーションの停泊所にはいくつか隠しスペースがあって、私の秘蔵の品々が隠されている。初めから、ほかの人間に言うつもりはなかったようだ。

 まさか私、ステーションのオーナーがステーション内にいることまでは気がつかなかったようだが、あのカップルは、それからも私に気を使い、あるいは一緒に写真をとりたいといって、2週間程度の滞在の間しばらく仲良くしていた。今でも手紙のやり取りはあるが、彼等は私が怒っていたことさえ、いい思い出だという、それで思い出した事がある、まだ100年の寿命を延ばすか否かまよっていたころ、私は病弱な娘のその後の人生を案じたのだった。
「お父さん、どうして」
「俺は、まだやりたいことがあるんだ」
そのときの自分にとって、それは嘘で、結局は私のほうが長生きしてしまったのだが。あまりに長生きすぎて、親戚には嫌われてしまっている。あの船が壊れるまで、その時まで気がつかなかった。ただ一つの人生を完璧にこなそうと考えすぎていた事に。

 親が子供より長生きをしてしまった、私にとっては、その奇妙な出来事さえ日常で、いい思い出だ、少し規模が違うが、ひょんなことで人の気持ちが変わる事もあるのだろう、それまで私は、頑ななまでに人間が嫌いだったのだが。今では、あの若者たちよりも、退屈を知らない、何十倍も若者としての人生を送った。

 滞在の間彼は、カップルの彼はまだ、私の目を見て、おどおどとしてばかりだった。彼は一つ送りものをくれた、それは途中たちよった駅で買ったという酒だ、私はその酒を、もらった日に飲み干した、だから私は何百年前、人間だったころを思い出したのだった。

ソウゾウしい宇宙ステーション

ソウゾウしい宇宙ステーション

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-19

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