天上世界と遠い存在。

 僕はその人について、言葉で伝わってきた部分でしか理解しえなかった。友の愛した存在について。
 雲の上の存在、だとするなら彼自身、なぜその人と分かり合う事が出来たのだろう。その時にはまだ、彼もまた雲の上の存在だったのか。彼はなぜ雲の上から降りてきたのだろう。彼自身の才能を見て、僕もまた彼にあこがれ、周回遅れの現実で、周回遅れの悩みを抱えて。友の愛した人の事も、いつか理解できると思っている、彼の好きなもの嫌いなもの、そして憧れた何かについて。いやすでに理解していたのかもしれない、そんなものを完全に理解する必要はないと。ただ単に、見聞きした時点で、何らかの影響を与えられていたのだと。

 毎日の日常は、空中バイクに乗って、親族の経営するレストランへ、朝から晩まで働いて、一日が終わる。その最中にずっと考える。新しい創作料理のアイデアについて。レストランのメニューの30パーセントは自分の発案だ。だが天上世界の人々を満足させるには、一流でなくてはいけないし、一流であり続けなくてはならない。天上世界の生活は厳しい、あれは、あそこは、常に上を目指し続ける者の世界だ。一度折れた自分には難しい。縛りも多いし、一度の失敗がその後の人生を大きく左右する。しかし、彼は飛び込んだのだ、その先に、何があったのだろう。自分にはまだ分からない、彼が愛した女性料理家とは、いったいどんな人物だったのか、そして彼の才能とは何だったのか、ただ一つ分かっていることは、それはとじられた殻をイメージしたところで決して理解できないという事だ。彼の存在も、彼女の存在も、まるっきり理解することも、成り代わることすらできないというのなら、僕は、ただ単に、挑戦によって偶然によって、自分の才能を発揮する、その日々を続けるしかないのだ。

 それならばさらに有意義な事は、彼のほかの趣味について思い出すことだ、人の好みや、人の自身はそれぞれある、ただそれを否定することもできるだろうが、決して人として過ちを持つような何かでなければ、彼について、いや、ありとあらゆる人間について、理解できる範疇では理解しようと思うのだ、それが、理想の料理と自分に近づく第一歩だと思う。

天上世界と遠い存在。

天上世界と遠い存在。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-15

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