ハロウィンと陽気な魔女

先年のハロウィンのこと、あるイギリスの田舎町、昔ながらの風習が色濃く残るとある田舎町で起きた小さな物語。そこでは魔女伝説を中心として村おこしが盛んで、そこを訪れたダモファミリー。両親、子どもたち二人の兄妹の4人家族。彼らは母の実家に里帰り、帰省していた。毎年行われる恒例行事のハロウィンで、子供たちはトリック・オア・トリートのまじないをかけ、村々を回ることを楽しみにしていた。実家は奥まった場所にあり、近くにはうっそうとした木々のしげる林や、少しいくと山の中腹から湧き出た小川が流れていた。老婆はそれこそ魔女のような姿で、一家を出迎えた。毎年ではなく今年だけのことで、皆驚いて子供たちなんかも
「おばあちゃん、どうしたのー」
と声をあげて驚いていた。家は一軒家、二階建てで木造だ。少し小さいが、祖父祖母の立てた自慢の家だ。子供たちは祖父のアダムと暖炉の前でカード遊びをしていた、しかし兄のラモは、妹のマモにいじわるや、ばかにしてばかりだった。
「年頃でこまりましたよ」
という父のアロ。母のユミはおかまいなしにお化粧をととのえていた。そんな様子をみて、夕方ごろ、食事を用意していた老婆、祖母のエラは、娘に声をかけた。
「あの子たち、まだ川で遊んでいるかしら?」
「むしとりでもしているのかしら」
母は相変わらず自分の事をしている、母は作家で一人だけ家に残り小説をかいていた。祖母は、思い切っていってやることにした。
「こんな日くらい子供たちの相手をしてやりなさい」
「お母さんだってここにいるじゃない」
「あなたねえ、お化粧しているひまがあったら、ここは老人しかいないのだから、あんな化粧よりかまってやりなさいよ」
「明日にするわ、この原稿が終わらないと首なのよ」
「あんたねえ……」
ふう、と皮肉交じりに溜息をついたのは、娘のユミだった。
「ああ、木の香りのする家、いいわあ、おちつくわね」
そういってパソコンをとじた。
「お母さんとの口喧嘩、なつかしいわね、ちょっといってくるわ」
祖母のエラはびっくりした。娘がこんなに成長しているとは、むかしっからわんぱくで、口だけは達者な人間で、成長しているかと思いきや、口喧嘩は耐えず、大学生になっても、社会人になっても、子どもが出来てもかわらない、そう思っていたが……祖母は涙をぬぐった。
「おかあさん、ないちゃだめよ、化粧そこにあるから“最新の化粧よ”どうせお母さんも興味があったのでしょう」
「……!!!」
やはり、母と娘はいつまでたっても母と娘か。そんな事をおもって歯ぎしりしていたが、夕食の準備にかからなければならなかった、今夜はカレーなのだ。

やがて一時間もすると。家族皆が、まるでログハウスのような見た目の木造の一軒家に集まり、再び一息をついた。束の間の休息。時刻は7時。またもや兄妹は喧嘩をしていた。祖母はまたか、とため息をついた。さっきまで二階をかけまわって、
「ここで母さんが育ったんだぞ」
と父と一緒に仲良くすごしていたのに、父は今風呂に入っていて、兄妹は自由に遊びまわっていた。妹をなかせているのは兄だ、また意地悪をしたらしい、ふと気づくと背中に感触があり、視線を下げると、妹はキッチンでまだ料理をしていた祖母になきついてきた。
「おにいちゃんが人形を貸してくれないの」
それは祖父のアダムがわたしたプレゼントだ。
「あなたたち、仲良くしないとだめじゃない。ハロウィンは明日よ」
そういっても、兄はだんまりをきめこんで、母のユミ後ろに隠れていた。キッチンのすぐ前の母に、祖母が大きな声で母に呼びかけた。母はテレビの前のダイニングテーブルの前でまだひとりパソコンで仕事をしていた。
「ユミ!!」
「う……うん……ごはんできた?」
一瞬たじろいでこっちをむいたが、集中力がすごいようで、まるで状況を把握していないようだった。(この子はむかしからもう……)
「こら、いい加減にしなさい!!」
カレーの火をとめ、母親のユミに近づく老婆、その様子をみて、何かを察した兄のラモは、祖母にちかづいていった。
「おばあちゃん、仲良くして」
「あらあらあら」
祖母はびっくりして、エプロンの裏で水気をふいて、孫を優しくだきしめ、妹もよんで仲直りをさせた。
「二人ともいい子だねえ」
とそこまではよかったが、祖母は、母を振り返り大声でどなった。
「あなたが二人をみてなくてどうするの、あなた、お化粧ばっかりしているひまがあったらね」
「見てたよお母さん、ごめんごめん」
さっきまで開いていたパソコンはとじられ、テレビの電源はいれられていた。
「まったく、私のつめのあかでも煎じてのましたいわ、私は、魔女とよばれていたのよ」
それをきいて、思わず、怖くなったのか妹のマモが泣き出した。
「おばあちゃんが魔女だったー……」
母は冷静に娘をだきよせて、祖母にいった。
「ぷっ、お母さん、私のつけづめじゃない」

そういうと、祖母と母は一緒になって笑いだし、兄妹の兄の方のラモは、あっけにとられていた。
マモも一緒に笑い出し、部屋は団欒のムードにつつまれていった。

ハロウィンと陽気な魔女

ハロウィンと陽気な魔女

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-13

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