8月13日


同じ歌を、五年前に知った人がいて、五日前に知った人もいて、その二人が永遠に会うことは無くても、ちょっとだけ繋がっている感じが、おれ は好き。
カーステレオからお洒落な、外国語の ジャズが流れてて でも運転手はイライラしてるから、運転しながら 口ずさむ とか 粋なことはしなくて、助手席に座った 子どもは ビクビクしてる ワケでも無く、パパの機嫌が治るのを ジッとして お利口に して 待っていて、その子の耳にも ジャズが優しく届いていて ふとした時に 口ずさんじゃってたら いいな、とか、妄想する。

ともだち と あそび いくから、って言って 一人で海を見に行った あの子は 途中で何回も 大人に どこに行くの? って引き止められて、すごすご お家に 帰った ワケが無く、うるっせぇな、って低い声で言ったあと、全力でダッシュして 海とは真反対の 方向に行っちゃったけど 高いところに着いて、空がキレイで、こっちのが いいや、って満足して、ポケットに手を突っ込んで、その手は 百円玉を 握って出てきたから、そこらへんで アイスを買って、ぺろぺろ 舐めながら 意外と、野宿、イケんじゃね? とか考えてた。

ポケットに 百円玉は 無いし、低い声も 出せないし、パパのことも まだ 好き だから、助手席に 座った あの子は パパのくわえる タバコから 漂う 煙 を 吸っている、ワケ が 無く、と 言えない あの子の 乗る車の フロントガラスをブチ破って あの子を 海へ連れて行った、 ワケが無く、だから おれは あの子が パパを 好きでいる代わりに ジャズのことを 嫌いに なるとか、そういうのは 勘弁してくれよ、って 祈るしかない。

8月13日

8月13日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-13

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