トマトドッグ

2131年の五月。私は無性にオムライスが食べたくなった。しかし……問題発生……家の冷蔵庫からトマトケチャップがいなくなってどれくらいたつだろう。そこで私はトマトキャットなるキメラ生物を買い始めることにした。今年の夏も暑い。だが私はできることなら育てられる食物は自分の農地で育てたい人間だ、ましてや自分で育てるものなら無農薬がいい。しかし政府から、地球温暖化によって郊外にあるこの地でも農地をつくることは控えるようにとお達しがでて、畑は増やすわけにもいかず、キメラ生物とやらを一匹、庭で飼う事にした。子どもは初めは喜んでいたが、キメラというものを知らなかったらしい。22世紀になって私たち人間は植物と動物を掛け合わせ、その新生物から、植物の果実を受け取るすべを考え付いた。まさに悪魔の研究である。これもまた温暖化によって進められた研究の一部、植物に必要な温度は、動物の体温を利用する、温暖化の理由を作った人類は、さらに悪魔の研究によって地球を救おうと考えた。一度悪魔の研究を始めれば、とことん悪魔になるほかはない、人間の考え付きそうな事だ。私は犬に名前をつけた。トマトキャベツ次郎である。駄菓子からの発案だ我ながら言いセンスをしている、だが飼い始めてしばらくして、異変がおきた、トマトキャベツ次郎の首筋のあたりに、たまにしめ縄のような跡がついている。それは買い始めて一週間後の土曜日の事だった。私は家族のものを夕飯前によびだし、といただすことにした、リビングにて映画を見ながらバカ騒ぎしていたほかの二人の家族を、ソファの前に座らせた。しかし妻は食事の準備だという、仕方がないが、まず息子だ、子どもは一人しかいない、子どものいたずらだろうか、私は動物愛護団体の者ではないが、しかしペットを大事にすることから生命とはいわずとも家族の大事さはわからなくてはならないと思うのだ。
「やい、息子よ、ちょっとそこへ、ソファに腰をかけなさい、あのトマ次郎、失敗、トマトキャベツ次郎についてどう思う」
「植物と動物を掛け合わせるなんて気持ち悪い」
「なっ」
私はすぐさま息子を疑った、しかし、抱き寄せてこう諭したのだ。
「でも、トマトケチャップを作ることができるんだよ~~」
「かわいそうだから仲良くしてるよ」
「えっ!?」
ドレミの音階で軽快な会話は終わった。ドレミファソという感じだった。となればあとは妻しかいない。

 その次の日から、私は妻の行動を監視しはじめた、妻はときに私との目線をあえて外す時がある。隠し事があるときだ、私は彼女が、トマ次郎から生えてくるトマトを、食器の陰にかくしてのこして、捨てているのを目撃した、それは常に功名に、食卓にて私が視線を隠したり、隠したふりをするときに、ササッと瞬間的な動作で、まるで予備動作もなく行われるのだ、それについては三日後に気がついた、それまで妙な動きをする事はわかっていたし、食事中目線を外しているので浮気デモしたかと思っていたがそうではなかったようだ。私は妻の中の悪魔性について考え始めた。しかし同時に私は考えたのだ。家族のものに相談せず犬を飼う事をきめた。ひょっとすると妻は犬が嫌いで、妻の中では彼は何重にも悪魔であり、しかし私の中で彼は希望、なぜならトマトケチャップの原料なのである。人間の工夫は、いいほうに成果を結ぶこともあれば、悪い方向に進むこともある、いい悪いを判断するのは、個人かもしれない、例えば私は温暖化で地球人類がすべて滅びればいいと思うのだ、だから妻が犬が嫌いなら、トマ次郎はよそに渡そう、取り返しのつかないことになるまえに。
 私は知的だった。ある日、深夜、シャワーを浴び終わったあといい雰囲気のベッドの中で奇襲攻撃的に問いかけたのだ。
「妻よ。犬が嫌いかね」
「いいえあなた。トマトが嫌いなの」

後日調べたところによると、どうやら犬の首にできたあざのような跡は、キメラ生物特有のもので、別に異常な模様ではないようだった。家族の仲を引き裂こうとするとは、やはり悪魔の研究である。

トマトドッグ

トマトドッグ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-12

Copyrighted
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