*星空文庫

思い出の海と山と彼女21〜最終話

海獅子(マーライオン) 作

思い出の海と山と彼女21〜最終話
  1. 第二十一話 一緒に海に行く
  2. 第二十二話 居眠りしていたら2
  3. 第二十三話 昼から夜へと変わる時間に
  4. 最終話 波乱の日常の始まり

この作品は、なろうに並行して連載されている物です。

なお、現在の熊本を舞台にしている為。
作中で地震や、津波等の話題が出るので、不快な方は注意して下さい。

第二十一話 一緒に海に行く

 そして数日後の、天気の良いある日。



 「(ザーーーッ・・・、ザーーーッ・・・)」

 「う〜ん、今日は良か〔良い〕天気やね〔だな〕〜」



 僕は今、海水浴場に来ている。

 余り外には出ない悠ちゃんを、折角(せっかく)だから泳ぎに誘ったのだ。

 早く行かないと、盆になるとクラゲが出て来て泳げなくなるので。
彼女が水着を買ったのを見計らい、連れてきた。

 また干潮になると、マトモに泳げないので満潮になる時間を選んだ。

 それで今は、彼女が海の家に着替えに行っているのを、待っている所である。



 ・・・



 正直言って、有明海は海水浴をする様な海ではない。

 遠浅で、日本最大の干満の差のある海だから。
干潮の時は、最低でも数100m以上、先に行かないとマトモに泳げないし。
満潮の時は逆に、場所によっては2,30m行っただけで、海底がイキナリ5,6m落ち込む場所もあるので。
小さい子供は目を離せない。

 それ以前に、海水が潟(がた)特有の泥水みたいな水なので。
積極的に泳ぐ気にはなりにくい。

 なので、地元の人間も仕方なく利用している感じで。
どちらかと言えばプールを使うか、余裕があるなら天草の方で泳いだりしている。

 元々、そう言う事情がある上。
近年の海水浴を敬遠する傾向が、それを更に助長させていた。

 更に今年は、異常な猛暑であるのと。
平日なのも重なり、海水浴場にはあまり人影が見えない。



 「今日も雲仙が、良(よ)〜〔良く〕見ゆる〔見える〕」



 痛いほどの陽の光の中、それを涼しい海風が中和する様に吹いているので。
何とか、砂浜に居られた。

 暑い中、僕は遠くに見える雲仙を見ながら、現実逃避していたら。



 「颯ちゃん、待たせてゴメンね〜」



 背後から、悠ちゃんの声が聞こえた。



 「・・・颯ちゃん、どおかな〜・・・」

 「・・・」



 振り返り、声の主を見ると。
その姿に、僕は驚いた。

 彼女が着ている水着は、ブラがカップの周りをフリル、パンツの上部をフリルとサイドをリボンで飾られた。
上品な花がらの、可愛らしいデザインのビキニであった。



 「悠ちゃん、可愛かあ〔可愛い〕〜・・・」

 「えっ!」



 そんな可愛らしいデザインの、ビキニを着ていた悠ちゃんが。
いつも以上に、何だか可愛く見えた。



 「・・・颯ちゃん、それホント・・・」

 「う、うん」

 「はあ〜、良かった〜♪」



 僕が漏らした言葉を聞いて、悠ちゃんが問い掛けると。
半ば呆然としながらも正直に答えたら、彼女が満面の笑みで喜んだ。



 「さあ、一緒に泳ご♡」

 「ああっ、悠ちゃん、チョット待って〜」


 僕の返事を聞いて、ご機嫌になった悠ちゃんが。
イキナリ僕の腕を組み出した。

 ただでさえ、柔らかな感触が肘に当たるのが。
水着を着ている為、いつよりもその感触がした。

 更に、その他の場所も、彼女の滑らかな素肌が触れて。
僕は、何だか落ち着かなくなっていた。



 「ほら、早く〜、颯ちゃん〜」

 「ちっ、ちょっとぉ〜、そぎゃん〔そんなに〕引っ張らん〔引っ張らない〕で〜」



 ハシャいだ悠ちゃんが、僕を強引に引っ張る。

 そんなに引っ張ると、柔らかい物がもっと押し付けられるので。
僕は、色んな意味でヤバくなる。

 僕の、そんな状態に気付きもしないまま。
彼女が、僕を海の方へと引っ張って行ったのだった。



 **********



 「はあ〜、疲れた〜」

 「私も疲れたな〜」



 あれから二人は、悠ちゃんが言ったみたいに泳いだだけでなく。
二人で海岸沿いで、水を掛け合ったり、逃げる彼女を追い掛けたり。
まるでカップルが海で戯(じゃ)れ合う、テンプレの様な事もした。

 幸いな事に、人が少なかったので、そう言った事は無かったが。
人が多かったら、多分、”爆発しろ!”と言った、殺気の篭(こも)った視線が僕に降り注がれたであろう。



 「ねえ、颯ちゃん」

 「ん、なに?」

 「・・・あのね、颯ちゃん。
 この水着、可愛い?」

 「・・・うん、水着もやけど〔だけど〕。
 それを着た、悠ちゃんの方がもっと可愛か〔可愛い〕・・・」

 「・・・颯ちゃん、ありがとう・・・」



 二人が並んで休んでいると、再度、悠ちゃんがそう言い。
僕が、照れながらも正直に答えたら。
彼女が、僕をジッと見詰めてお礼を言った。



 「良かった、この水着、颯ちゃんにだけ見せる為に選んだんだよ」

 「そうなの・・・」

 「うん、一緒に行った叔母さんが。
 紐のやつとか、布の面積が少ないのとかを選んできて、大変だったけど。
 何とか可愛い、このデザインの水着で妥協(だきょう)させたの・・・」

 「母さん・・・」



 母さんが、水着を選びに一緒に行ったのは、知っていたが。
まさか、そんな事になっていたなんて、知らなかった。



 「良かった、颯ちゃんに可愛いって言われて・・・」

 「(ピトッ)」



 ウットリとした口調でそう言いながら、悠ちゃんが僕にしなだれて来た。



 「颯ちゃん、颯ちゃんの肌、熱くて気持ちが良い・・・」



 僕の肩に頬を付け、ウットリした口調のまま、そう呟く悠ちゃん。

 そんな彼女の肩を抱くと、冷えた所為(せい)だろう。
触れた肌から感じる体温が、何だか少し冷たい。

 いくら暑くても、長時間水に浸(つ)かったら、体が冷えてしまうだろう。



 「(グイッ!)」

 「あっ・・・」

 「体が冷えとる〔冷えてる〕ね、もっとコッチに来んね〔来てよ〕」 

 「う、うん・・・」



 冷えた体を温める為、僕は悠ちゃんにくっ付く様に言うと。
それを聞いた彼女が、更に僕にくっ付き。

 彼女がくっ付いたら、抱いた肩に引き寄せ、更に密着させる。



 「颯ちゃん、おねがい頭を撫でて・・・」

 「なで・・・、なで・・・、なで・・・」

 「ああっ・・・」



 僕にくっ付きながら、こんどは胸元にしなだれ。
頭を撫でるように甘えるので、要望通り頭を撫でたら。
感に耐えない様な溜息を漏らした。


 「颯ちゃん、気持ち良いよぉ・・・」



 僕が頭を撫でていたら、ウットリした声でそう漏らす悠ちゃん。

 こうして僕は、彼女の体が温まるまで、しばらくの間そうしていた。

 その後も二人は泳ぐことも無く、ずっと一緒に居たが。
何となく、甘い空気が二人の間に漂(ただよ)い。

 そして家に帰るまで、甘い空気はそのままであった。

第二十二話 居眠りしていたら2

 『(え〜、本日の最高気温は・・・)』



 居間にあるテレビから、聞くのも暑い内容が流れている。



 「はあ〜、涼しゅうなると〔涼しくなるの〕も、まだまだ先や〔だ〕ね〜」

 「ホントだね・・・」



 その内容を見て、二人で溜息と吐(つ)く。


 今、二人はお昼を食べた後。
居間にあるソファーで、エアコンに当たりながら休憩していた。

 颯(そう)ちゃんは、今日の補習が午前中だけだったので。
終わると、すぐに家に帰り、少々遅い昼食を一緒に取っていたのだ。

 食事を終え、私と颯ちゃんは二人並んでソファーに座り。
一緒にテレビを見ていた。

 別に、面白い番組があるとか言う訳ではなく。
ただ二人で、涼みながらマッタリしたかっただけである。



 『(変わりまして、涼しい滝の映像をお送りします・・・)』



 テレビの映像が、今度は涼しい画に変わった。



 「・・・」

 「・・・」



 しかし二人は、それには何も言わず、ただ黙って見ている。

 そうやって私達は、テレビを見ながらマッタリしていたのであった。


 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 ・


 ・・・



 「(コツン)」

 「んっ?」



 不意に、何かが肩に当たり目が覚めた。

 どうやら知らない内に、眠り込んでいた様だ。

 そして、何かが当たった肩を見たら。



 「すー・・・、すー・・・」



 颯ちゃんが、私の肩にもたれ掛かっていた。

 どうも、彼も眠り込んでしまったみたいだ。


 ”ふふふっ、しょうが無いなあ〜”


 寝ている颯ちゃんを見て、思わず苦笑する。

 無防備な姿を、私に晒(さら)していたからである。

 しょうが無いと思いつつ。
私は颯ちゃんを、そのまま静かに寝かそうと思った。



 ・・・



 「(ゴロン)」

 「えっ!」



 静かに颯ちゃんを寝かせていたら、急に彼が私に倒れ込む。

 颯ちゃんは、横向きで私の方に前屈みになる形になり。
丁度、私の胸に頭が来る位置に来ていた。



 「(あ〜、ビックリしたな〜)」



 予想外の行動に、私は動揺を抑える。

 と同時に、私の胸に寄り掛かる様に頭を付ける、颯ちゃんを見て。
ある思いが心から湧き出した。


 ”かわいい・・・”


 昔から私の事を気に掛け、変わった私を受け入れてくれた。
その颯ちゃんが、私に身を委(ゆだ)ねて来ている。

 私に寄り掛かっている姿が、何だか私に甘えている様にも見える。

 その事と、小さい頃の可愛かった彼の姿を思い出し。
思わず、胸にある颯ちゃんの頭を抱き締めた。



 「(ギュッ!)」



 抱き締めた颯ちゃんの頭は、適度に重くて存在感がある。

 大きさも、まるで大きな縫いぐるみを抱いている感じだ。



 「んんんっ・・・」



 颯ちゃんの頭を抱いていたら、突然、彼が苦しみだした。

 どうやら、胸に抱いている内に口と鼻が塞がって、呼吸が出来なくなったみたいである。



 「すー・・・、すー・・・」



 慌てて、腕の力を緩めると、再び穏やかな寝息になった。


 ”えっ! 胸で窒息するのって、ホントにあるんだ・・・”


 そう思いながらも、今度は颯ちゃんを優しく抱き締めた。



 「(なで・・・・・・、なで・・・・・・)」

 「(意外と、髪が滑らかだね・・・)」



 彼の頭をを抱き締めながら、今度は頭を撫でる。
男の子にしては、けっこう滑らかな髪していて。
思ったより、撫で心地が良い。

 そうやって颯ちゃんを抱き締めつつ、頭を撫でていると。



 ”颯ちゃん、愛しているよ・・・”



 胸の奥から、そんな暖かい思いが溢(あふ)れ出す。



 ”誰にも受け入れられなかった私を、唯一人だけ受け入れてくれた”

 ”ずっと隣に、一緒にいてくれた”

 ”久しぶりに会って、変わった私を昔と変わらず接してくれた”

 ”そして、昔と変わらず一緒にいてくれた”



 そんな颯ちゃんの事をいつも見て、ずっと彼の事を考えている。

 再会した時芽生えたこの思いは、日を追うごとに大きくなって行く。

 しかし、それと同時に。



 ”私だけの颯ちゃんにしたい・・・”

 ”私だけを見て、他の娘(こ)を見て欲しくない”


 そんな、彼を独占したい欲望も出てきた。

 どうしようもなく醜いと思うが、もう抑える事が出来ない。


 ”私は、元男だし。
 だからこそ他の、本物の女の子を好きになってしまうかもしれない”


 そんな事を考えてしまい、不安になってくる。



 「(颯ちゃん、私、この思いを伝えるね)」



 颯ちゃんとは、これからもずっと側に居られるだろうが。
それだけでは足りなくなった。

 こんな不安に怯(おび)える位なら、駄目元(だめもと)でも告白しよう。

 駄目でも、仲が良いイトコの関係は変わらないのだから。



 「(颯ちゃん・・・)」



 私は、顔を彼に近づけ匂いを嗅ぐ。

 少し汗の匂いがするが、不快ではなく。
むしろ颯ちゃんの匂いだと思うと、ずっと嗅ぎたくなる。

 こうして私は、彼を抱き締めながら。
告白の決心を付けていたのであった。

第二十三話 昼から夜へと変わる時間に

 二人で泳ぎに行ってから、少し経った日の事。



 「(ペタッ・・・、 ペタッ・・・)」

 「(カッ・・・、 カッ・・・)」



 夕方になり、陽も沈み、西の空も暗くなりだした頃。
僕と悠(ゆう)ちゃんは、海への道を歩いていた。

 数時間前に、夕飯が済んだら一緒に海に来てほしいと言う。
彼女のお願いに応(こた)えて、一緒にきていたのだ。

 悠ちゃんは、薄いグレーのキュロットスカートに、黒のタンクトップの部屋着のままで来ていたが。
いつもの様に手を繋(つな)ごうとせず、僕から少し距離を取って歩いていた。

 道を歩いているのは、僕達二人だけで。
聞こえるのは、道を歩く二人のサンダルの音だけある。

 悠ちゃんの、何時(いつ)にも無い真剣な雰囲気に。
僕は何も言うこと出来ず無言になったので、更に歩く音だけしか聞こえない。

 こうして、|所々(ところどころ)街灯の光が見える、海岸への道を二人で歩いていた。



 ・・・


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 「あっ、まだ雲仙が見えるね〜」


 海岸に出たら、悠ちゃんが遠くを見てそう言う。

 海岸には、涼しい海風が吹いているので、ここで来るまでに感じた蒸し暑さは無かった。

 西の空は既に、赤みが僅(わず)かになり。
夜の黒に覆(おお)われ始めていて。

 さすがに一時期よりも、若干、陽が落ちるのが早くなった気がするが。
それでも7時を大きく過ぎないと、暗くなり始めなかった。

 しかし、その中でも雲仙は。
山の影を、暗くなり始めた空に写して、存在を示しており。

 また山の裾野(すその)には、島原の街の灯がポツポツと見えている。



 「ねえ、颯(そう)ちゃん・・・」



 そんな山影が見える、雲仙をしばらく見た後。
意を決した様に僕に振り向き、語り始めた。

 海風に流される長い髪を、掻(か)き流してながら。



 「前に私の事、女の子にしか見えないって言ったよね・・・」

 「う、うん・・・」

 「・・・だから言うね、私、颯ちゃんの事が好きなの、愛しているの!」

 「えっ・・・」



 突然、悠ちゃんが告白した。

 彼女が真剣な面持(おもも)ちで、僕の顔をジッと見ながら。



 「ここに来るまでは、颯ちゃんとまた昔みたいに楽しく暮らせると思ったけど。
 駅で、まるで大人の男の人みたいなっていたのに、昔と変わらず優しい颯ちゃんを見て、一目で好きになったの!」



 ・・・それは、僕もそうである。

 確かに、昔から女の子みたいだとは思っていたけど。
まさか本当に、女の子になってしまったとは思わなかった。

 それも、こんなに可愛い娘(こ)になったしまって。
僕は一目見ただけで、心を奪われてしまっていた。



 「日を追うごとに、颯ちゃんへの思いが強くなって。
 それと同時に、不安も強くなって行った。
 颯ちゃんが、誰か他の娘と付き合うんじゃないかなって。
 それも、本物の女の子とね・・・」

 「えっ?」

 「あの時、確かに颯ちゃんは、私の事が女の子にしか見えないって言ってくれたけども。
 やっぱり、どうしても元男だと言う事を考えてしまうのよ」



 僕も毎日、可愛い悠ちゃんを見ている内に、彼女とずっと一緒に居る事しか考えられなくなったが。
まさか悠ちゃんが、そこまで追い詰められていたとは。

 僕の考えが甘かった事を痛感する。

 僕は彼女とはイトコ同士だから、ここに居る限りはずっと居られると呑気(のんき)に考えていたのだが。
彼女は、僕が誰か本物の女の子に盗(と)らないかと、不安を抱えていたのだ。



 「だからお願い颯ちゃん、ハッキリ答えてくれない・・・。
 もし駄目でも、一晩泣いたらまた仲の良いイトコに戻るから・・・」



 悠ちゃんの、僕を見詰める瞳が揺れる。

 僕の呑気な考えが、彼女をここまで追い込んだ。

 僕は、悠ちゃんの事を考えていたように見えるが、実はそうでは無く。
僕が彼女を追い詰めていた。

 僕自身、悠ちゃんとの昔の事は。
マンガである”男だと思っていた幼馴染が実は、女の子だった”と言う、ネタでしかないと思っているし。
実際、余り男だとは思えなかった事もあった。

 だから、女の子になった悠ちゃんに違和感を感じなかった。

 それだからこそ、彼女に”女の子にしか見えない”と言ったのだが。
小さい頃からイジメられて、自分にイマイチ自信が持てない彼女が。
僕が本物の女の子に盗られないかと、不安に思ったのだ。

 だから、ハッキリ自分の気持を言って、彼女の不安と取り除かないと。

 また逆に、この辺りに居ない様な、こんな可愛い娘(こ)は。
存在を知られたら、誰か他のヤツに盗られかねない。

 同時に彼女から聞いた、カラオケボックスで何人もの男に言い寄られた話を思い出した。

 向こうでもそうなら、こちらで目立って可愛い悠ちゃんは。
恐らく、絶えず男が寄ってくるだろう。


 ”悠ちゃんは、僕の物だ!”


 その事を思い出すと。
いくら呑気な僕でも、彼女に対する独占欲がムラムラと沸き起こった。



 「悠ちゃん、僕も悠ちゃんの事(こつ)が好きたい!」

 「えっ!」

 「だけんがら〔だから〕、僕の彼女になってくれんね〔くれない〕!」

 「・・・うん、うん、嬉しいよぉ〜」



 悠ちゃんの目から、涙が溢(あふ)れ出したが。
しかしその顔は喜びに満ちた、泣き笑いの顔であった。



 「颯ちゃん〜!」

 「(トン!)」

 「(ギュッ)」



 悠ちゃんが、僕の名前を言いながら飛び込んできた。

 体当たりの様な感じで僕に飛び込むが、けっこう軽い体重なので。
僕は、余裕を持って受け止めると、彼女を抱き締める。

 それから僕は、胸に顔を埋め静かに泣く、悠ちゃんの頭を撫でてやった。



 ・・・



 「・・・颯ちゃん・・・」



 しばらく僕の胸で、顔を埋めていた悠ちゃんが。
僕の名を呼ぶながら、不意に顔を上げた。

 顔を上げると同時に、つま先立ちになったのか顔が急に接近し。
静かに目を閉じて、唇を軽く突き出す。

 鈍い僕でも、彼女が何を求めているのかが分かり。
顔を傾けつつ、顔を近づけてゆき。



 「(チュッ♡)」



 キスをした。

 初めの内は、ただ唇を付けただけだが、次第に唇を付けた状態で左右に動かしたり。
あるいは、相手の唇を自分の唇で挟んだり。
または、相手の唇を舌で軽く舐めたりしていると、彼女の体が小刻みに震え出した。

 どうやら、キスの快感で膝が震え出したみたいだ。

 そうやって僕が、悠ちゃんの唇の感触を味わい。
徐(おもむろ)に唇を離すと、膝の力が抜けた彼女が倒れ込むように、僕に抱き付く。



 「・・・はあ、・・・はあ。
 ・・・颯ちゃん気持ち良かったよぉ・・・」



 息を切らして、僕に抱き付いていた悠ちゃんが。
ウットリとした口調でそう言うと、僕の胸に頬ずりをした。

 僕は、そんな甘える悠ちゃんの頭を撫でてやる。

 彼女の頭を撫でながら、何気なく遠くを見ると、もうカナリ空も暗くなり。
微(かす)かに白い地平線に、ボンヤリと雲仙が見えていた。

 海も黒くなり、海岸から先は全く何も見えない。

 思えば彼女との思い出は、何時(いつ)もこの海と山と共に有った。

 小さな頃の男だった時も、女の子に変わって来た時も。

 そして今日のこの事も、彼女との思い出の一つになった。

 そんな事を思いながら、僕は。
暗くなった、思い出の海と山の近くで、悠ちゃんを抱き締めていたのであった。

最終話 波乱の日常の始まり

 あの悠ちゃんと恋人同士になった日から、時は流れ。
夏休みが終わり、学校の始業式の日になった。



 「(ガヤガヤガヤ・・・)」



 体育館での、お偉いさんの長ったらしい話の後。
教室へと戻った僕のクラスメートが、首を長くして教師が来るのを待っていた。

 それも特に男子達に、前もって、二学期が始まって転入するのが。
とても可愛い女の子であると言う事が、流れていたためである。

 だから、教師がその女の子を連れてくるのを。
今か、今かと、待ち構えていたのだ。



 「な、な、な、颯太(そうた)。
 悠(ゆう)ちゃんって、可愛かとやろ〔可愛いんだろ〕」

 「かあ〜、俺にも紹介してくれんか〔くれよ〕」



 しかも、さっきから野郎どもがシツコク、僕に纏(まと)わり付いてくる。

 悠ちゃんの事を聞くためである。

 どうやら、夏休み中にショッピングモールで出会った。
あの、二人組が広めた様だ。

 女の子、しかも可愛い娘(こ)に関する、野郎どもの情報網の速さには。
唖然(あぜん)としてしまった。

 因(ちな)みに悠ちゃんは、朝一緒に学校に来たが。
ホームルームで紹介するために、始業式は職員室で待機していた。

 これは、事前に彼女から聞いていた事であり。
しかも教室が偶然にも、僕と同じ教室になってのもその時聞いた。

 だが、その事もどういう訳か、いつの間にか男子の間に伝わっていて。
その結果、僕の教室が騒がしかったのだ。



 「く〜、あぎゃん〔あんなに〕可愛か〔可愛い〕娘は、初めてばい〔だよ〕」

 「えっ! ほんなこつか〔本当かよ〕!」



 中には、登校途中の悠ちゃんを見た人間が、そう言ったのを聞いて。
反応していたのも居た。



 **********



 「(ガラッ)」

 「は〜い〜、大人しく着席しろよ〜」



 教室が騒がしい中、突然ドアが開き。
やる気なさそうな声を出して、担任が入って来る。 

 担任は、三十代初めの独身で、七三分けの神経質そうな顔をしていた。

 夏休みの間、早く帰れてノンビリ出来てたのが、二学期に入り。
これからは夜遅くまで、持ち帰りで仕事をしないと行けなくなるので。
多分それで、やる気が無くなっているのだと思われる。

 ドアの向こうには人影があり、それが多分、悠ちゃんなんだろう。
教室の男子連中もその影に気付き、殆(ほとん)どが教師の方を向いてなかった。



 「はあ〜、分かったたい〔よ〕。
 俺ん〔の〕話よりか、転入生ん方が良かとか〜〔良いのかよ〕・・・。
 じゃあ転入生、入ってくれんか〔入ってくれないか〕」

 「失礼しま〜す」

 「「「「「・・・」」」」」



 自分が無視された事に肩を落とした担任が、悠ちゃんに教室に入るよう促(うなが)し。
その声を聞き、彼女が入って来た。

 入ってきた悠ちゃんは、何の変哲(へんてつ)も無い、ごく標準的な半袖の夏用の白セーラー服を着ていて。
スカート丈は、膝上数cmのこちらでは短い部類に入る物である。

 それをスタイルが良く、垢抜(あかぬ)けた雰囲気の彼女が着ると。
取り立てて、特徴がある訳でない制服が、何だか上品な物に見えてしまう。

 悠ちゃんが入ると、一瞬、教室が静まり返り。



 「「「「「おおおっーーーー!」」」」」



 遅れて、歓声が爆発した。

 野郎どもの野太い声が、教室中に響く。



 「こら! こら! こら!
 静かにせん〔しない〕と、他の先生に怒(おこ)らるろう〔怒られるだろう〕が〜!」



 余りの声の太さに、担任が出席簿を叩いて、皆(みんな)を静かにさせる。



 「じゃあ、黒板に名前ば〔を〕書いて、自己紹介ばしてくれん〔くれない〕か」

 「分かりました」

 「(カツ・・・、カツカツ・・・、カツ・・・)」



 教師の指示に、悠ちゃんがチョークをを持って。
自分の名前を黒板に書いた。



 「大野(おおの) 悠です、よろしくお願いします。
 東京の方から来ました。
 こちらの方はイトコが居て、良く来ていたのである程度知っていますが。
 細かい所までは分からないので、良ければ教えて下さい」

 「「「「「うぉ〜、悠ちゃん〜!」」」」」



 振り返り、自己紹介をした後、一礼すると。
教室の野郎どもが、野太い声を上げ。
それを、女子達が呆(あき)れた顔で見ていた。



 「じゃあ、何か聞きたか〔聞きたい〕事(こつ)は無(な)かか〔無いか〕、聞いてみんか〔聞いてみろ〕」

 「ハイハイ、ハ〜イ〜!」



 続いて担任が、質問を受け付けると。
一人の男子が手を上げた。



 「悠ちゃ〜ん、スリーサイズはどん位ね〔どの位なの〕〜」

 「うふふっ、それは秘密だよ♡」



 そして、お約束のセクハラな質問をすると、当然、ソイツは女子からの白い視線を浴びてしまい。
一方の、質問された彼女の方は、可愛くセクハラな質問を躱(かわ)した。

 それは、以前の悠ちゃんでは考えられない躱し方で。
何と言うか、僕に告白してからある意味、自分に対し自信が出てきたみたいである。



 「じゃあ、次は誰か無かか〔無いのか〕〜」 

 「はいっ!」



 担任が次の質問を促したら、別の男子が手を上げた。



 「じゃあ、悠ちゃん。
 悠ちゃんには、恋人は居(お)らんとね〔居ないの〕?」



 これまたテンプレだが、今の僕にはドキリとする質問であった。



 「はい、居ます」

 「「「「「えええーーーーーっ!」」」」」

 「「「「「きゃーーーーーーっ♡」」」」」



 彼女が迷いの無い答えを言うと、男子からは悲鳴が、女子からは黄色い声が上がった。



 「ねっ♡」

 「「「「「(ギン!)」」」」」



 それの声にも構わず、悠ちゃんが、僕の方を見ながら小さく手を振ると。
教室中の男子の、殺気の篭(こも)った視線が僕に集中した。



 「なあ、颯太くん。
 後で、タップリと話ば〔を〕聞こうじゃなかかね〔ないかあ〕〜」



 すると突然、隣の席のヤツが。
ハイライトの消えた目と、三日月みたいに釣り上がった口で。
僕を見ながら、そう言ってきた。



 「ああ、そうたい(そうだ)な」

 「色々と、聞きたか〔聞きたい〕事(こつ)が有るけん〔有るから〕ね〜」



 反対側や、後ろの席のヤツも。
指を鳴らして、邪悪な笑みを浮かべ僕にそう言った。



 「はははは・・・」


 その周囲の反応に、僕はただ、乾いた笑いだけしか出て来ない。

 こうして僕は、悠ちゃんとの甘い生活と同時に。
学校での、波乱の日常が始まった事を自覚したのであった。



            思い出の海と山と彼女 終わり

『思い出の海と山と彼女21〜最終話』

これにて、この作品は終了します。

この様なチラシの裏で、ご覧になった方の。
お目を汚してしまい、大変申し訳ありません。

もしそれでも、最後までご覧になった方がいらっしゃいましたら。
どうも、ありがとうございましたm(__)m

『思い出の海と山と彼女21〜最終話』 海獅子(マーライオン) 作

 熊本県北部の、とある地域に住んでいる少年の元に、夏休みに入ってすぐ従兄がやって来る事になった。  少年が従兄を迎えに行くと、その変わり様に少年が驚いた。  なんと、従兄は女の子になっていたのだ。  従兄は、通称TS病に罹(かか)り女性化していたのであり。 とある事情で、少年の家に来る事になったのである。  前もって説明を受けていたの関わらず、その変わり様に驚くと共に、女性化した従兄の余りの可愛さに心を奪われ。  女性化した従兄も、昔から仲が良かった少年との再会を喜ぶが、再会した少年の成長ぶりにイトコ以上の感情を抱(いだ)いてしまう。  これは少年と女性化した従兄が、仲の良いイトコの関係から恋人になるまでの物語(全24話)

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-08-10
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