三本の割りばし

ある高校の正午、ある少女の腹の中では、壮絶な会議と葛藤が行われていた。
「忘れたっていっちゃいなよ」
「恥ずかしいよ」
「母親に恥をかかせることになるわ!!」
「まさか財布も忘れるなんて!!」
少女マリは、真昼の教室の窓からサンサンと差し込む、元気な太陽光を恨んだ、いっそのこと植物になれたら、太陽を恨むだなんて、根暗な発想を抱かずにすんだのに、怖い母親、そして物忘れ、母子揃って……母親の顔を立てなくてはならない、友だちに相談するという気も起きない、マフィアの親分みたいな威厳のある母親がそれを失えば、きっとみんなからがっかりされてしまう。マリはがっかりとした目をとじ、陰らせて、弁当屋の彼女の実家の事を思い出す。
「そんな家が、弁当忘れるって何なのよ」
そして15秒経過、12時10分35秒、なんとか自分が忘れることにして逃げきろうと考えるも、しかし彼女はもう一つの事実に気が付いた。
「三本の割りばし」
それは常に母親から少女マリが持たされている、お守り。弁当屋としての信念と誇りである。
「いい?もし何も食べるものがなくても、お腹がすいたとか簡単に言っちゃだめよ、意地でもよ、縁起が悪いからね、食べ物を提供する店の人間が、そんなことで人から何かを求めるなんて、だめよ」
マリはかっぷくのよい、腹のつきだしたエプロン姿の母親の姿を思い浮かべ、その右手に握られているさいばしを思い浮かべた。
「ああお、おに、おにぎ、おに、ははのおに」
いいかけては消える、友人たちへの救難信号。机と座席並べ、彼女をかこむ3人の友人たちはすでに弁当をひらいてばくばくと昼食をむさぼっていた、なぜかおちこんで、腹を抱えている彼女をよそに、皆おしゃべりと食事に余念がない。彼女らはちょうど教室の右の奥のあたり、少しその1座席分ほど前に集まっていた。

「そうだ!!」

ペロリと舌をだし、彼女は狂気じみた発想によってこの葛藤を乗り越えることを考えた、
「まず第一の方法、割りばしの一本目を使おう」
心に念じる、それは彼女なりに考えた、昔話三枚のお札から着想をえた最終手段だった。

彼女はまず、机に文字をかいた、初めの箸の使い方はこうだ。口にしてはいけないといわれたが、文字におこしてはいけないとはいわれていない、しかし、皆食べる事に夢中でまったく気づかなかった。
「に……にほんめぇえ……」
二本目の箸は、わざと地面に落した。
「あっ」
みぎどなりのサチがそれにきづいた、ベリーショートの関西弁の、くせっけ、やさしい目が特徴の、そばかすのある少女だ。
「あら?なんで箸もってるん?あんたんとこ、弁当屋やんな、和食も洋食もあって、弁当箱ないってことは、サンドイッチかなんか?」
そういって、彼女は割りばしをひろってマリにわたした。
「あ……ありがとう……ふふふうふんふん」
かくなるうえは……最終手段、さっきの手段で大分怪しまれてしまったようで、担任の目が光っている、私は奇行によってこのクラスののけものにされたり、変人と思われるわけにはいかない……といいつつも彼女は最後の割りばしをうずたかくかかげて、得意のペン回しさながらの箸回しをしてみせた。拍手をする友人、ぼーっとみているクラスの人たち、それをみて、委員長のヨリコは、眼鏡の中の眼光をキラリとひからせて一言言った。
「忘れたんですね」
ヨリコは小学校からの大親友である。
「はい、お腹がすきました」
「素直にいえばいいのに」
無言で弁当箱をさしだし、サンドイッチをとっていい、というしぐさをした。ヨリコお手製サンドイッチ。まるで新婚さんみたいだ。とバカなことを考えながら、親友の恩義に感謝しつつも、太っている親友のエミコに笑われつつ、パクパクと三つサンドイッチをいただいたのだった。

三本の割りばし

三本の割りばし

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-08

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