宇宙の牢獄

無限の監獄があった。それは地表から延びる頑強な素材の軌道エレベーターをつたって、月へと至る。その最中のもっとも外側にらせん状に設置されているある設備。うごめく者たちに力はない、皆一様におびえたようなしぐさで日々の仕事を全うしている。誰一人としてその輪を乱すものはいない。疲れ果て、眼にクマがあり、手首には焼き印を持つ。彼らはチューブ型の監獄の中らせん状の階段と、階層ごとに上下にくぎられたチューブ状の建造物の中にとらわれた囚人たち、彼等はそこから出られないのだ。
だが、エレベーター自体それは想定していない。月へと続くはしご、そんなロマンを持つ呼び名で呼ばれた事もある。それが完成した当初、誰も囚人のための設備が必要になるとは思わなかった、それは後から設置されたものだ。完成後、徐々に地球はくさり温暖化や戦争新種のウイルスなどが蔓延しはじめてから、全てがかわった。月はノアの箱舟となった、地球の代わりに人類の第二の母星とする計画が始まった。その後、我さきにと月へ急ぐものではしごは統制をうしない、パニックが起こり、たびたび争いが起き、やがては多くの囚人が生まれてしまった。設備は後からロボットたちによってつくられそこが牢屋になったのだ。悲しい物語だ。地球が腐ることもこのはしごや月の基地も、初めは誰もがそんな想定はしていなかったのだから。

今日も二人の親子がエレベーターに乗って月への道を行く……かと思いきや、宇宙服をきて、軌道エレベーターのすぐそばの、エレベーターと無限の牢獄との間の、内側の隙間となった空間をつたい、自力で密航していく最中だった。そのうち、下からエレベーターがやってきた。エレベーターは中心部をとおっていて、親子はその外側、覆うようにして存在している壁のような空間にへばりつき、のぼっている途中だった。子供は親におんぶをされていて、黙りこんでいる。やがて下から静かな振動がつたわってきた。
「エレベーターだ」
母親が声をあげる。15分くらいで、それは親子においついた、エレベーターがとまり、親子に声をかけた。
「一人だけなら、大丈夫です」
涙を流した母親は、娘だけをエレベーターの上にのせた。娘はうさぎのカチューシャをつけていた。ボーっとして何もわからないのだ。やがてロボット警備員がやってきた、バケツのような顔の、青い制服と星のバッチをつけた警備員が、警棒を片手に二人、エレベーターに垂直になった姿勢のまま、こちらに向けて駆けて来た。
「さっ早く」
その瞬間、娘はさとったように、母親をみて涙を流して、こういった。
「マ……」

ここは軌道エレベーター。罪を犯す事だとしっても密航者は絶えない月へわたるためのはしご。腐りゆく地球から逃げるため、あるものの生き残りをかけて、あるものはそのために罪を犯し、ときにその周辺の監獄へ入れられる。

宇宙の牢獄

宇宙の牢獄

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted