時代の安売り

 タイムワープ・システムセンターには、今日も大勢の人だかりができている。人だかりのすみからすみまで、うれしそうなはしゃぎ具合、誰も彼も時間旅行を楽しみにしている観光客だ。さながらここに集まる人々は時間旅行というバカンスにでかける人々、ここは空港といったところ。最後尾から上を見上げるとそれは球体がたてに二つ重なったような施設で、その中心部を突き刺すようにして細い塔がたっている、らせん状の階段のようなものは、階段として使うものではなく、タイムワープに必要な技術、機械設備ということらしい。

 繁盛しない靴屋を経営している中年男性、エガは、過去へと飛び、時間旅行によって、自分と似たような人間に出会う為の機会をうかがっていた、それが明日の知恵や、活力になればいいと考えていた。この日のためにお金をたくさんたくわえた、しかし、タイムワープ・トラベルには一定の責任が伴う、時間旅行法では、過去を変えてはいけないし、旅行会社が設置した以外の時間、空間、人物、物質への接触はほぼ不可能になっている。この新技術が開発されたがゆえに、時間旅行は一般の消費者にも可能になったともいえるわけで、その分では感謝こそせよ、文句をいう事ではない。しかし、文句はなくとも、彼エガのような貧乏人には、購入できる旅行パッケージも限られている。だからこそのこの旅行というわけでもある。やがて3時間も待ち、長い行列の途中で彼は待ちに待った入口にさしかかり、15分後、やっと中へと入ることができた、中も人だかりが多く、けれど外よりもさらに熱気につつまれていた。クーラーが涼しくなければむんむんとして居心地の悪い空間だろう。そんな事を考えながら、床は本物の空港のように大理石のような綺麗な床を見渡す、靴であるけばキュッキュッと心地いい音があたりに響く。気づかれないように遊びをしながら、かかとをまわして、前方あたりをみまわした。カウンターがずらりと並ぶ、カウンターはしきられていて、番号がわりふられている、皆一様に自分の望む販売所の前にならんでいる。彼の目指す場所は一番左奥にあるカウンターだ。

「申し込みをしたエガです。安いパッケージで、その……無名の靴屋さんを見に行く旅です」

カウンターの職員はにこにこした小太りの中年女性で、きれいなパーマをかけていた、丸顔でなんだかマスコットキャラクターのようだった。その笑顔になんだか本当に旅行にきたような気分になれたので、彼は背筋をしゃんとのばして、この旅行に誇りをもって挑もうとおもったのだった。やがて奥にとおされ、ロッカールーム、貴重品預かり所、カウンター職員が、図書館のような背後の設備に、お客にわりふられた番号をもとに貴重品を預かって厳重に保管している、彼もまた安心して、先ほど入口カウンターで預かった鍵をみせた。それは腕時計の形をしているもので、時間旅行の際にも、タイムマシンと接続して機能する、もしもの際には、自分で旅行から帰ってこなくてはならないため、この管理は客のつとめだ。

その奥にはまるでジェットコースターのような椅子と、踏切のような設備があり、準備ができたお客から過去へ飛ぶことになっている、ふみきりは、横に10列ほどあり、傍らには必ず二人の職員がついていて、皆きっちりとした機械工のような制服と、帽子を付けている。一人がパーソナル・コンピューターらしき備え付けの端末設備とにらめっこをしている。

彼は、ほかの旅行客と同様に、その手前で職員にとめられ、“タイム・ワープ・ウォッチ”をわたされた。懐中時計型の端末で、これがこのタイムワープ・システムセンターといつでも連絡をとることのできる装置だ、防水機能もある、頑丈で、たいていの事で壊れる事はない、もしもの事、予測不能な事故や事件が起きたさいには、自分からここへ救助信号を送る事ができる。

さて、いよいよ出発のときはきた、彼はジェットコースターのような設備に腰をかけ、そのときをまった。傍らのマイクロスピーカーから声がした。
「5秒前、……3、2、1、ミスターエガ、良い旅を!!」
ジュッ白い煙幕に包まれたかと思った瞬間、コースターの椅子は跳ね上がり上空へ飛び立ち、施設の真ん中を通る細い塔をらせん状の階段のような設備たどってぐるぐると高速で回転しながら上空へとびたっていった、するとその重みを体がうけとるか受け取らないかという段階で、はるか高く、雲の上に電磁波の塊のような、雷の塊のようなものが見えて、彼の体はそこへ吸い込まれていった。

「う……ここは……」
「おや……あなたは?」

彼が降り立った時代は19世紀のイギリス、時代は様々な産業の工業化の真っただ中で、街は賑やかさと同時に不穏な空気につつまれて、路上を歩く失業者らしき人物もちらほらと散見された、そんな中、自分に声をかけたのは、どうやら自分はある店の前で倒れていたらしく、その店の主人らしき人物だった、にこやかにほほ笑む表情からは、人の好さがうかがえる、そこで覚った、この人物こそ、今度のタイムトラベル・パッケージに書かれていたヨハンなる人物だと、そして彼の背後には、靴屋の看板が見えた、“オードリー”と。文献によれば、彼の叔父の店で、病気でなくなった叔父のあとをつぎ、彼が継いだらしい。その旅行代金によって彼は、唯一彼のもとで修業をするという事を許されていたのだ。

そこで修行は始まった、周りには失業者がいたが、この靴屋は、栄はしなかったが彼の人の好さと商才には度肝を抜かれたし、これによって自分の事業い影響を受けるのではないかと思った、日々メモをとり、彼の熱心な働く姿を見ていると、こっちまで初めて靴をつくったときのような、少年のような心を思い出したのだった。

一方そのころ、タイムワープ・センターには一報が入った―—不測の事態―—を知らせるベルがなり、その発生源を突き止める作業にはいった、主に“時間のゆがみ”を探知したとき、そのベルはなる、それはつまり“過去がゆがむ”という可能性なのだ。旅行者が過去に接触することで過去が改変される、それは一番避けなくてはならない、しかしいくつもの施設のプログラムの改善によって、そんな事は、万に一つもなくなったはずだった、それはこの施設いて、初めてともいっていい経験だった。

エガとヨハンは、次第に親密になり、やがては経営論のような話から、エガは思わず自分の秘密を話してしまった、そして自分の持つすべての——未来知識——を与えてしまった、次の日から異変がおきた、その店―—オードリー―—が突然繁盛しはじめた、エガにも何がおこったかすぐに理解できた。

“自分が過去を変えてしまった”

そう悟り、彼はしぶしぶ元の時代に帰る決心をして、その夜の内にヨハンに話をした。ヨハンは、最後にこんな話をしてなぐさめてくれた。
「あなたは叔父にとてもよく似ている、叔父の生まれ変わりかと思うほどだ、それは初めて出会ったころから感じていたことなのだ、だからどうか、落ち込まないでほしい、時間を変えた事で、罰を受ける可能性があるというが、それが何だというのだろう、叔父は不器用な人間だった、あなたも不器用だ、しかしたった一つだけ優れたところがある、手段や技術が不器用でもあなたには知恵も知識もある、ただ相棒がいなかっただけだ」
そういわれて、エガは涙を流し、その日のうちに、別れをつげ、夕食のあと、彼に見送られ一人郊外へとあるいていき、懐中時計に、腕の時計についている鍵を差し込み、端末を起動して、緊急救難信号のスイッチをおした。

「過去をゆがめてしまった可能性がある」

タイム・テレホンを受け取った職員はすぐさま上層部に連絡をとり、上層部は不足の事態の元を察知した。
「すぐさま職員がワープ用の小型タイムマシンでかけつけます」
ほんの数秒ののち、タイムマシンが何もない上空からころころと転がり落ちて来た、それは球体の形をしていた。
「大丈夫ですか?」
職員は励ましの言葉をかけた、しかし彼はしっていた。“過去を変える”という事は重大な犯罪であること、それは意図しようとしまいと、このタイムトラベルという行為の、未来に生きる自分たちのルール、規律、法律なのだ。しかし職員は励ましつづけた。

「たったひとつ、あなたが罰をうけない方法があります……それは……」

そんな方法があるのか、という期待と、しかし後悔とともに、彼は突然に白い光の中につつまれ、気が付くと、何か、指令室のような場所、大きな建物の中で、床には、彼の背後に檀上の机がならび、その上にパーソナルコンピューター、添うように椅子が均等にならんでいる、前方にモニターが膨大にならび窓のようで、まるで航空機のコックピットのような形をなしている、ある一室にとびだった事にきがついた。
職員が先におりたち、彼の手を引き、案内する―—タイムワープセンター、メインルームです―—そう紹介された中には、白い制服をきた職員がたくさんいて、モニターのまえにかじりついているものも数人いたがほとんどが自分ののっていたカプセルをとりかこみ、そして、拍手をしながら、笑顔で迎えた。彼は球体のタイムマシンのハッチを、外側の職員に解除され、解放され、ゆっくりと元居た時代の地面におりたった。

「おめでとう」
「おめでとう」

「な……何が!?」
わけがわからなかった、エガは知らなかったのだ、意図しようとしまいと、過去を改変する事は違法である。しかし過去の人物との強い結びつきが、現世との結びつきより強い場合、過去の改変は、免除される。彼はその第一号だったのだ。

「あなたは、調査の結果、彼の叔父であったことがわかった、つまりこの時間改変は、違法ではない、そして我々は、過去の何がかわったか、未来がどうかわったか、すでに予測する方法を失っているのだ」

そういわれて、ふと頭をよぎる事があった、だとすれば、彼のいる、彼の戻ってきた時代とは……本当に彼が元居た時代なのだろうか……と。しかし、旅行を終えて帰ってきた彼には、多くの取材や、仕事が舞い込んだ、それだけではない、彼がその後しらべたところによると、あのヨハンは、その後ブランドを立ち上げ、商売を繁盛させ、一代で莫大な富を築き上げ、商売を大成功したらしいことがわかった。そのことを、誰も不思議に思わない、そもそもが、貧乏だったヨハンを、あの旅行会社の一人さえ誰も覚えていなかったのだ、彼はなんとなく、あの法律の意味を一人でに解釈をした。
「もし僕がパラレルワールドに生きているとすれば、僕一人が、過去を変えた時代に生きる、その責任を全うしたのだな」
と。

時代の安売り

時代の安売り

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-06

Copyrighted
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