CLOUD SIDE - yourself - (第4話)
- CLOUD SIDE -
yourself - 本当の自分 -
クラウドは、窓に手を添えて外を眺めた。夜になっても失われない華やかな雰囲気、まばゆい街の輝き、そして魔晄炉から吹き出す不思議な光。故郷のニブルヘイムとは比べ物にならないほど、世界が違い過ぎている。
「よ、クラウド!」
背中を叩かれて、クラウドは少しよろめいた。
「ザックス」
歳は2つしか違わないが、逞しくて明るくて、とても強い。でも擦れた所が無くて、人を分け隔てたりしないで、一般兵でもソルジャーでも、タークスでも関係なく、友達の多い男だった。
「なーんだ? なんか暗いな」
「うん……ちょっとね」
「なんだよ? 恋の悩みか? それだったら俺に任せとけって!」
「そんなんじゃないよ」
「嘘つけって! そういうのに悩むお年頃じゃねぇの」
「ホントに違うって!」
クラウドが少しムキになると、ザックスは一瞬目を見開いたあと、屈託なく笑った。
「悪い、冗談だよ」
そして、クラウドの髪をクシャクシャと掻き回す。
「こないだの任務の事、まだ気にしてんのか?」
ザックスが言うと、クラウドは視線を下に向けた。クラウドが悩んでいる事など、ザックスにはお見通しだったのだ。
「お前が悪いなんて、思ってないからさ、そんな悩むなって」
クラウドの髪を掻き回したあと、ザックスはクラウドの肩に手を置いた。
「ま、誰にだって失敗はあるし、いつまでも気にしてたら疲れるぜ?」
下に向けた視線をザックスに戻すと、彼はまた笑顔を向けてくれた。
「俺だって、失敗することあるし」
「え?」
「それにさ」
ザックスは、クラウドの肩に置いた手をすべらせ、腕をそっと掴んだ。
「お前に何かあったら、そっちの方がキツイわ、俺」
「ザックス……」
クラウドが言いかけたところで、ザックスの携帯電話が鳴った。誰と話しているのかクラウドには分からなかったが、また新しい任務に出かける話なのだろう、ということは察知できた。
ザックスは電話を切ると、「仕事入っちまった」と言って手を振った。
「じゃ、またなクラウド。本ッ当、気にすんなよ!」
その場を離れながら、ザックスはクラウドを指差して言った。
「ザックス、待って!」
クラウドが呼び止めると、ザックスは足を止めた。
「あの……ありがとう」
ザックスは、親指を立てて嬉しそうに笑った。
ホントに、気にすんなよ……。
--- ザックス……?
「待っ……!」
手を伸ばすと、現実は変わっていた。
朝焼けの赤に染まったステンドグラスが、教会の中を照らし始めた。クラウドが目を覚ますと、鮮やかな緑とまばゆい白が視界を埋め尽くしていた。彼女は居なくなってしまっても、この花達は咲き続けている。まるで、本当はそこに彼女がいて、花達の世話をしているかのように。
壊れた屋根から見えるのは、かつての栄華の大都市。今は既に、輝きは失われている。
--- 久しぶりに、あの夢を見たな……。
クラウドは額に手を当てた。
少年兵として神羅に入社して、初めて友達と言ってくれた人。
歳は2つしか違わないはずなのに、大きくて、あったかくて、ストレートすぎるほど素直で、欲しい言葉をくれた人。
もう2度と、その笑顔を見る事が出来なくなってしまったけれど、戦いが終わって、ザックスが命を落としたあの場所にバスターソードを突き立てた日、同じ夢を見た。神羅兵だった頃、ザックスと知り合って、一緒に任務へ出かけることもあった。その頃、彼の一言がクラウドを救ってくれた。とても嬉しくて、思い出すと頑張ることが出来た。色々つらいこともあったけれど、挫けそうになった時、いつも思い出していた。
「君が……会わせてくれたのか……?」
クラウドは、咲いている花にそっと囁いた。彼女が大切に世話をしていた花を見ると、今でも彼女がそこに居るような気がしてしまう。でも、答えはどこからも返ってこない。
小さく息をついて、クラウドは立ち上がった。自分だけしか居ない静かな教会の中で、失ったものの大きさは決して変わることがないのだと思い知る。もう誰にも、そんな思いはさせたく無かった。しかし、戦いが終わった今でも、悲しみはくり返され続けている。それは昨夜も痛いほど身にしみて分かった。失う悲しみも、最期の願いを叶えてやれなかった自分の不甲斐無さも。けれど、ザックスがくれた言葉を思い出して、クラウドは立ち上がる力を取り戻せた気がした。少しだけ、前に進んでもいいと許された気がした。
クラウドは教会を出る前に、そこに咲く花を振り返った。悲しみは消えないけれど、少しだけ目を閉じて、彼女への想いを馳せる。
「また来るよ」
そこに彼女が居たら、きっと花のように笑ってくれたのだろう。
* * * * *
昨夜、暗闇から襲われたモンスターと戦った時、左腕に体当たりされた傷は、思ったよりも目立つと気づいた。爪で切られた右腕はあまり目立たなかったが、左腕の怪我をそのままにして帰れば、ティファやマリンに心配されてしまうと思い、クラウドは八番街の仕立て屋に立ち寄った。服が仕立てられている間、自分の傷の手当てをする。見えないように腕を隠してしまえば、服が多少変わっていても彼女たちは気にしないだろう、と考えたのだ。
左腕の部分だけ袖を長くした服を着て、クラウドは再びフェンリルに跨がった。ようやく、セブンスヘブンのあるエッジへ戻ることが出来る。
「クラウド!」
店の前につくと、店からマリンが出て来た。朝起きたらクラウドが居なかった事を知り、心配していたのかもしれない。
「マリン、どうした?」
「ティファから聞いたの、夜に出かけたって。帰ってくるの待ってたんだよ」
「そうか……」
「ティファは大丈夫って言うけど、クラウド遅いから」
「悪かった」
マリンを連れて店に戻ると、ティファは店のイスに座ってクラウドを待っていた。
「お帰り」
でもティファの顔には、不安の色が浮かんでいた。帰りが遅かったから、心配していたのだろう。
「ああ……悪かった、遅くなって」
「ううん、無事ならいいんだ」
そう言って、ティファはイスから立ち上がった。
「朝ごはん、食べるでしょ?」
「俺はいい……出かけるから」
「どこに? 帰って来たばかりじゃない」
「食材。無いと困るだろ?」
「それは……そうだけど……」
ティファは時々、何か言いたそうにして黙ってしまう事が多かった。クラウドには、ティファが何を言いたいのか分からなかったが、言わないのなら、そのまま聞かなくても問題は無いと思っていた。
「あのね、クラウド」
クラウドは黙ってティファに視線を返した。
「いつも、荷物を運ぶの頼まれるって言ってたでしょ? それ、きちんとした仕事にしたらどうかな?」
「きちんとした……仕事……?」
「うん。頼まれるってことは、求められてるって事だと思うし。それに、クラウドじゃないと出来ないと思うんだ」
クラウドは視線を下に向けた。そして、夕べの事を思い出す。間に合わなかった悔しさも、彼の悲しみも、彼の母の無念も、クラウドの過去をフラッシュバックさせる。頼まれた物を望み通りに届けてやれなかったのに、それを仕事になんてしていいのだろうか、という思いがクラウドの頭を過った。
「電話なら、ここで受けたらいいし、私もお店開ける前まで手伝うよ。マリンだって、電話番くらい出来るよね?」
ティファに聞かれて、マリンは頷いて答えた。
クラウドは、少し目を伏せて息をつく。
「……考える時間をくれ。すぐには決められない」
それまで笑顔だったティファは、クラウドの言葉で表情が変わった。しかしクラウドは、それには気づかない。
「そう……そうだよね。うん、分かった」
「行ってくる」
それだけ言うと、クラウドは再び店を出て行った。ティファやマリンの気持ちは分かるけれど、その時のクラウドは辛い気持ちが拭いきれなくて、そこまで考える余裕は無かった。
フェンリルに跨がって空を見上げた。そこからは見えない場所にミッドガル壱番街がある。彼は今、どうしているだろうか。しかし、彼を訪ねる気持ちにもなれない。いつも食材を分けてくれた彼の兄にも、会いに行くつもりは無い。どこか別のルートで食材を手に入れるしかないと思った。
クラウドはフェンリルでエッジを走り抜け、街の外へ出た。そしてミッドガルを臨む丘に突き立てられた大剣を視界に確認しながら、2度と彼の存在を心から消さないと誓いを立てる。ミッドガルを出る時のそれは、クラウドの日課のようなものだった。
ミッドガルより虚無の地を走り抜け、クラウドは農場の多い南東の方角へ向かった。
クラウドは、フェンリルで走っている間、見た夢の事をずっと考えていた。
あの時、ザックスが言ってくれた言葉を決して忘れない。
神羅に居た頃、その言葉で頑張って来れた。
こんな自分でも必要とされ、大事に思ってくれる人が居た。
それが、とても嬉しかった。
そんな大切な人を亡くしてしまったけれど、自分が誰かから必要とされるならば、それに応えてやれ、と言われているように思えた。クラウドが神羅に居た頃、ザックスには人として憧れ、大切な存在だった。それは彼が、自分を必要としてくれる人に応えていたからなのだ。
--- 俺にも、応えることが出来るかな……。
問いかけても答えは返ってこない。決めるのは自分自身だ。でも、きっと彼なら、必要とされているならば応えようと努力するのだろう。
なんでも屋だ、クラウド。
俺たちは、なんでも屋をやるんだ。
人に必要とされたら応えようとする彼らしい提案だった。彼のようには振る舞えなくても、自分なりのやり方でやっていったらいい。ミッドガルを臨む丘で最期に彼が残した言葉は、クラウドの中で生き続けている。そしてその約束は、迷っていたクラウドの心を確実に動かしていた。
* * * * *
エッジに戻って来たのは夕日が沈む頃、セブンスヘブンの開店時間の間際だった。いつもより野菜が手に入らず、その日持ち帰った食材は多くは無かった。
「おかえり」
ティファは、いつものように迎えてくれたが、思ったより手に入った食材が少なかったので、クラウドは視線を落として「遅くなって悪かった」と答えた。
「どうしたの?」
「うん……あまり、手に入らなかった」
「そうなんだ……でも、大丈夫だよ。今までの残りもあるから」
「そうか……」
「疲れたでしょ? 部屋で休んでて」
「ティファ」
カウンターの中で洗い物を片付けているティファを呼んだが、ティファは背を向けたまま片づけを続けていた。
「うん?」
「やってみようと思う」
「何を?」
「配達の仕事」
クラウドに背を向けて片づけをしていたティファは、驚いて振り返った。
「ホントに?」
クラウドが頷くと、ティファの表情は驚きから笑みに変わった。
「そっか。じゃあ色々準備しなきゃね」
「ああ。悪いけど、またちょっと出かけてくる」
「うん、行ってらっしゃい」
嬉しそうなティファの顔を見て、クラウドは改めて決めて良かったと思った。昨夜は自分の不甲斐無さに気が滅入っていたが、昔ザックスが自分に語りかけてくれた言葉を思い出したことで、気持ちが前を向いて来た。これから始めようとする配達の仕事は、なんでも屋をやろう、と言った彼の提案の延長だと思えばいい。ジェノバ細胞が造り上げた人格ではなく、本当の自分が交わした約束が、これで初めて果たされるのだと思えた。
「ストライフデリバリーサービス」は、ティファに「そのまんまじゃない」と言われたが、他に思いつかなかった。マリンは分かりやすくていいと言ってくれたので、クラウドは小さな社名をそれに決めた。ミッドガルで必要最低限の物を揃え、電話もセブンスヘブンの店の隅にあったものをクラウドの自室に移動させた。チラシは、セブンスヘブンに来る客の1人が好意で作ってくれた物が出来上がり、フェンリルで食材の調達に訪れたついでにチラシの配布を行った。配達の仕事は思った以上に反響があり、クラウドの1日のスケジュールは、あっという間に埋まっていくようになった。クラウドが留守中に店にかかってきた電話をティファやマリンが受け、クラウドの携帯電話に連絡をくれる事もあり、配達の仕事は日ごとに忙しくなってきた。クラウドの中に密かに存在していた焦燥感は、人々に必要とされ、忙しい日々を送っていくことで、次第に解消されていくようになった。
ある日、仕事中のクラウドに、1本の電話が入った。ティファからだった。
『ロイトさんって人から電話あったよ。住所聞いたけど、ロイトって言えば分かるって。知り合いなの?』
電話を片手に、クラウドはフェンリルに跨がった。
「ああ……知ってる」
『そう? 配達頼みたいから来てくれって。どうする?』
クラウドは、携帯電話を持ったまま思い悩んだ。あの日以来、ロイトには会っていない。もちろん彼の弟、ナリオにも。この仕事を始めるかどうか躊躇したのは、彼らの願いを叶えてやれなかったからであり、そんな自分がそれを仕事にしてもいいのだろうか、という気持ちがあった。そして配達の仕事を始めたら、いつかは会うことになるだろうと予想もしていた。どんな顔をして会ったらいいのかクラウドには分からなかったが、依頼を断る理由も無い。
「分かった、これから行く」
クラウドは電話を切ってポケットにしまい、フェンリルのエンジンをかけた。陽は既に傾きかけ、ロイトからの依頼がその日の最後の仕事になりそうだった。
フェンリルで荒野を走り抜け、ロイトの農場に到着した時、既に日は地平線から姿を消し、点在する民家に明かりが灯されていた。ロイトの自宅前まで歩き、クラウドは家のドアをノックした。家の中から足音がしてドアが開かれると、以前と変わらないロイトがそこに居た。
「久しぶりだな、まあ入って」
ロイトの自宅に招き入れられ、クラウドは彼に何と声をかけたらいいのか考えていた。しかし言葉を選ぶのが下手なクラウドは、適切な言葉を見つけられないでいる。
「あれから全然来てくれないから、どうしてるかと思ったぞ」
そう言いながら、ロイトはクラウドに椅子を勧めたが、クラウドは立ち尽くしたまま俯いた。
「……悪かった」
適切かどうかは分からなかったが、クラウドが最初に言葉にしたのは謝罪だった。ロイトは不思議そうな顔をして首をかしげる。
「何がだ?」
「……頼まれたもの……届けるって言ったのに、間に合わなかった」
するとロイトは、息を吐き出して頭を掻いた。
「やっぱり気に病ませちまったみたいだな。だとしたら、謝るのは俺の方だ」
ロイトからの意外な言葉に、クラウドは目をしばたいた。
「最初から無茶な頼みだったのに、あんたは何も言わずに聞いてくれたろ? それだけで充分だよ。間に合わなかったのは仕方がない。誰だって、時間を取り戻す事なんて出来ないんだから」
ロイトの言葉に、クラウドは再び胸を押しつぶされそうになる。時間は誰にも取り戻せない。どんなに願っても、後悔しても、何も取り戻せない現実を身にしみるほど良く分かっている。だからこそ、間に合わなかった事が辛くて苦しかったのだ。
「少なくとも俺は、あんたに感謝してるよ」
「え?」
「ナリオからの荷物、届けてくれたろ?」
そう言ってロイトが見せたのは、携帯電話だった。
「メテオの災害のせいで、もともとあった自宅の電話、回線が寸断されててな。それで、ずっと連絡が取れなかったんだよ。でも携帯電話なら電波塔が無事だったから、あんたが荷物を届けてくれたあと、すぐ話すことが出来たんだ。母さんとナリオも。だから、あんたが居なかったら、今でも連絡が取れないままだった」
メテオの災害から間もなく、携帯電話の電波は復旧された。しかし、電話の販売を扱っている店は、主要な都市だった所のみで、郊外に住む人々には手に入りにくい。元々、携帯電話を持っていればいいが、ロイトのように携帯電話を持っていない者は、おそらく今でも連絡手段は無いのだろう。
「昨日、久しぶりにナリオから連絡があってな。あれから日も経ったし、少し落ち着いたんだろう。それから、あんたのこと気にしてた」
「……どうして?」
「怪我……してたって言ってたぞ。大丈夫なのか?」
クラウドは、思わず左腕に視線を移した。傷跡が目立つので袖を長くして隠したが、ナリオは最初にそれを見ていたのだから、気にするのも仕方がない。
「大丈夫だ、気にする程の事じゃ無い」
「そうなのか? 手当てもしてやらずに、出て行けなんて言ってしまったから、なんて言って謝ればいいかって相談してきたんだ。怪我、酷かったんじゃ無いのか?」
「本当に……気にする程じゃ無いんだ」
ロイトは訝し気に眉をひそめたが、クラウドが気にしないで欲しいと言うのなら話を続ける意味はないと感じ取った。
「そうだ、頼みたい荷物はこれなんだが」
テーブルの上に置いてあった一枚の封筒を手に取って、ロイトはクラウドに差し出した。
「八番街のアクセサリーショップに届けてもらいたいんだ」
「分かった。中身は?」
「そうだな……依頼書って所かな」
クラウドは伝票を取り出して、届け先の住所と氏名、依頼人の氏名と連絡先、そして届け物として「依頼書」と書いた。クラウドはロイトが用意していた代金と封筒を受け取った。
「ちょっと待ってくれ」
伝票の控えを受け取ったロイトは、出て行こうとしたクラウドを呼び止めた。
「あんたさえ良かったら、ナリオのところに顔を出してやってくれないか?」
ドアに手をかけていたクラウドは、ロイトの言葉に振り返った。
「勝手なことばかり頼んでるのは承知してる」
クラウドは、どう言葉を返したらいいのか分からずに口を噤んだ。ずっと、あわせる顔が無いと思っていたのはクラウドの方なのだ。それこそ、なんて言って会ったらいいのか分からない。
「荷物を届けてから、考えてくれたらいい。会う気が無かったら、それでも構わないんだ」
「違うんだ」
「え?」
「なんて言ったらいいかな……そういう……事じゃ無いんだ」
クラウドが何を言いたいのか掴めないロイトは、ただ黙ってクラウドの言葉を待っている。自分のしたことが彼らにとって少しでも役に立てていたことが嬉しかったし、許されないと思っていた自分自身の気持ちが、少し救われたような気がした。
「あんたたちが思ってるような事じゃ無いんだ」
そして悪いのは自分自身だと思っていたクラウドは、彼らの気持ちをどう受け止めたらいいのか戸惑っている。しかし、それをうまく伝えることが出来ない自分がもどかしかった。
「荷物を届けたら……行ってみるよ」
クラウドには、そう伝えることしか出来なかったが、ロイトは安心したように笑って頷いた。
そして、クラウドはロイトの自宅を出てフェンリルの所へ戻った。夜空には輝く星がちりばめられ、冷たく澄んだ空気を肌に感じた。音のない夜、遠い星の輝きを見ると、一緒に星空を見上げた時の事を思い出す。
ねえ、クラウド。
わたしたち、ちっちゃいね。
あの無限の星のなかのひとつ、そのなかの小さなひとり。
今は、エアリスの言葉ひとつひとつがクラウドの胸に染み込んでいる。記憶している彼女の言葉、声、表情、仕種。どもれが忘れ難く、大切なもの。深い深い傷と共に、クラウドはそれを心に深く、消えないように刻み込んだ。取り戻した本当の自分の心へ、深く。だから彼女の事を思い出し、彼女への想いを馳せると、同時にクラウドの胸は押しつぶされそうになり、例えようのない痛みを伴う。自分の侵した罪の重さを抱えこみ、それでもそれが自分自身であると実感する。叶うことのない焦燥は、いつもクラウドの中で渦巻く苦しみとなる。
エアリス……
君に会いたい……。
CLOUD SIDE - yourself - (第4話)