*星空文庫

Young & Rich

nanamame 作

Young & Rich

***

車の屋根を開いて、オープンカーにして、高速道路をひた走る。

「やっほー!」

ベンベンは両手を上げて、シートから腰を浮かせて、息が終わるまで叫んだ。

「ベンベン、危ないよ!」

運転席のユギョムが、前を見たままベンベンに注意する。
危なくなんてない。危なくてもいい。時速120キロの風を全身に受けて、ベンベンはもう一度叫んだ。

自由の叫びだ。僕はもう自由だ。ユギョムがいてくれるから、もう何も怖くない。

「ねぇ、ユギョム、映画みたいなことしていい?」

「映画みたいなこと?」

ベンベンは後部座席に置いてあるボストンバックに手を伸ばす。ユギョムがまた「危ないよ」というけれど気にしない。
バックのジッパーを開けると、中身は帯封の付いた札束だ。バックいっぱいにお金が詰まっている。ミラーでそれを確認したユギョムは笑顔になった。

「いいね! やっちゃえ!」

ベンベンはとりあえず3つの札束の帯封をちぎって、オープンカーからお金をバラ撒いた。風に舞って、道路に飛び散るお金。後続車が慌てたようにブレーキをかける。お金を見て目の色を変えたのもわかった。それを見て、ベンベンは笑った。

「あははは! 驚いている~。あはっ!」

ベンベンはあと4つの札束を道路に撒いた。

〈貧しいモノへの施しだ〉

自分の言葉ではない言葉を思い出して、ベンベンの笑顔は凍りつく。シートに座って、嫌な記憶を振り払う。

「もっと飛ばしてよ」

「うん」

危ないことや痛いことが嫌いなユギョムも、今だけは常識など気にしない。僕たちはもうそんなものから遠く離れた場所にいる。
孤独とも言える自由のさなかにいる二人は、それでも二人でいるだけで満たされていた。



お金を消費するにはカジノだろう。という単純な考えで、二人は予約もなくカジノ付きの近辺で一番の高級ホテルに行き、札束の力で、最上級のスイートルームを1週間抑えた。

ユギョムは興奮した状態で部屋に入り、広い室内をぐるっと駆け回り、最後にキングサイズのベッドにダイブする。

「わぁ~、疲れた~」

「運転、お疲れさま」

ベンベンもベッドにダイブする。変わってあげる、と途中で言ったけれど、結局最後までユギョムが運転した。カジノまで少し遠かったので、慣れない運転で疲れただろう。カジノはまた明日でいい。

「ご飯、食べようか?」

「うん!」

「シェフを呼べ! あははっ」

高級フレンチのコースを部屋で食べる。値段で選んだワインも、飲みきれないのは分かっていて次々と開ける。
お腹いっぱい食べて、酔っ払って、二人とも狂ったみたいにケラケラと笑いながら服を脱ぎ散らかして、シャワーを浴びて、バスローブを羽織っただけの濡れた身体のままでベッドに倒れ込む。
怒られるようなことも、二人は気にしない。すべてお金があれば解決することだと思っている。金さえあれば、誰も文句を言わない、そういう場所にいる。

「あぁ~、飲みすぎた~」

「でも、美味しかったね」

「そう? 正直、高級すぎるものって味がよくわからない。ハンバーガーにすれば良かったかな」

「ユギョムは子供舌だから~」

ベンベンはうつ伏せに寝転がって、隣に仰向けに寝ているユギョムを見る。もう寝てしまったのか、濡れたままの髪もそのままに目を閉じている。

「ユギョム…」

「…う~ん」

目をゴシゴシと乱暴にこすって、ベンベンの方へ身体を向ける。だけど目は閉じたまま。味覚だけでなく、仕草も表情も、全部子供のようだ。ベンベンは、大人になっても子供のようなユギョムが大好きだ。
キスをする。バスローブの中に手を入れて、湿った素肌を弄る。

「今は無理~。できない~」

「じゃあ、キスだけ。いいでしょ?」

「うん…」

ユギョムは相変わらず目を閉じているのに、キスという言葉に応じて、唇を突き出す。かわいくて、笑ってしまう。
さっきよりも長めのキスをする。本当はセックスなんてどうでもいいくらい、キスだけでも、もっと言えば、ただユギョムがそばに居てくれるだけで十分なくらいだ。

「明日~、カジノで遊ぼうね~」

「うん、そうだね。おやすみ」



カジノは正直何が面白いのかが分からなかった。勝った負けたはどうでもいい。むしろ負けたい。お金を使い切るためにカジノに来たのに、たまに勝ってしまうから、また増えてしまって戸惑う。
カジノに来るために買った高級ブランドのスーツも革靴も、窮屈になってきた。もっとゆったりとラフな格好の方がベンベンは好きだ。
ユギョムはルーレットに飽きて、今はスロットを回している。今は楽しくお金を費やしているけれど、すぐに飽きるだろう。
その後は、何をしようかな。何もしなくてもいい。何の予定もないし、何も強制されることもない。

「ベンベン、なんかもっとゲームする?」

「もういいよ。飽きちゃった」

ユギョムがえへっと笑う。ベンベンもつられてうふっと笑う。

「そうだね~。僕も、飽きちゃった」

未練がましいカジノのスタッフを完全に無視して、二人は手を繋いで部屋に戻って、まだ夜にはなりきらないけれど昨日の残りのワインを飲んで、シャワーを浴びて、昨日できなかったセックスをした。

挿入を伴わないことが、二人の間の暗黙のルールだ。二人ともそれは嫌いだった。だけど裸ですべてをさらけ出したい欲望があった。他の誰でもない、ベンベンはユギョムに、ユギョムはベンベンに、自分のすべてを知っていてほしかった。それだけで、自分はまだ生きる価値があるのだと感じていた。だから、二人が大人の真似事ではない、自分の欲望に忠実に、身体を触れ合わせるのは、必然だったと思う。



逃げるように目覚める。ベンベンは息が荒くなっていることを自覚して、長い深呼吸を繰り返す。突然起き上がったから、隣で眠るユギョムが目覚めてしまわなかったか心配だった。その心配は杞憂だったけれど、ユギョムの寝顔が死に顔のように見えて、ベンベンは揺り起こしてしまった。

「んん~、どうしたのぉ?」

「あ、ごめん…、なんでもない…」

罪悪感に膝を抱える。ベンベンが何か言えない、怖い夢を見たことを、ユギョムは知っていた。
だから、優しく抱き寄せる。他の誰も、彼に優しくしなくても、僕だけは、うんと優しくしてあげると決めている。

「僕ねぇ、ベンベンの夢を見ていた。まだ小さい時、同い年に見えないって言われて、ベンベンが拗ねていた頃、一緒にサッカーして遊んだよね」

「ああ…、僕が全然できなくて、ユギョムが怒ったんだ。すっごい理不尽だった」

「へへっ。サッカーは誰でもできると思っていたんだもん」

抱き合っていると落ち着く。彼の匂いや、心臓の音や、肌さわりとか、自分ではない愛おしい存在が、側にいることが嬉しいから。

「ベンベンも、僕の夢を見てよ」

ぎゅっと目をつぶって、ただユギョムに寄り添う。

「うん。そうする」

そうであればいい。いつも、君を見ていた。それだけだ。
二人は真夜中に再び眠ったけれど、二人ともそれ以降、夢を見ることはなかった。

『Young & Rich』

『Young & Rich』 nanamame 作

GOT7、ベンベンくんとユギョムくんのお話。切なさと儚さと愛おしさを。 死ネタ注意。初のマンネ組のお話ですが、暗くてすみません。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-07-11
Copyrighted

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