自選歌集 2018年3~6月

誰よりも考え深く見えるのが真正面から見たカバなんて

今海で鯨が泳いでいることを僕はだいたい思い出さない

冷凍のピラフに入るエビたちは海も恨みも忘れてしまう

捨てられた卵のように散らばって真珠は海を諦めていく



ホームラン打たれたあとで本気出すおまえに頼るしかないチーム

図書館の書棚の前の踏み台の爪先立ちの靴下の白

八時だよ全員集合また来週ドリフ嫌いの大人が嫌い

ため池の汚れた水に鯉がいてきっと固くて重たいうろこ



おまえってシチューとカレーの分かれ目で醤油いれちゃうようなやつだな

名店のあのラーメンがお湯だけで再現される謎の革命

発売日に雑誌が店に並ばない街にも同じ明日は来るのか

折りたたみ椅子を片付け終わったらガランとしたね ではお元気で



その日からCMばかり繰り返しどこにも見つからない実体

脱出用ドアを開けたらこちらへと何かに追われダッシュする人

戦士より魔法使いが気に入ってリスペクトのない勝ち方をする

正しさは強さではなく吹く風に揺らして落とすナックルボーラー



狐憑きやっと尻尾が生えてきて会いたい人へ月夜を走る

かくれんぼ神社の森の陰に入りさらわれるのをひとりで待った

永遠は原っぱでしたさまよえば会えないはずの人に呼ばれる

夕暮れに僕らは帽子を取りかえてここが知らない街だと気づく



もう二度と同じようには撮れないと後からわかる集合写真

その背骨なにか仕掛けがあるのかと疑うほどの見事なお辞儀

空席が多い映画のヒロインがけなげに見える何をやっても

錆びついた機械は話しだすだろう人が滅んだあとの花野で



あやつりの糸が星へと伸びているあなたは誰のお使いですか

ねえペリカン大きな口で匿って星座になんかなりたくないの

戯れて紋白蝶が空に描くゆめとうつつの二重の螺旋

新しい世界へ行ってみたいからあなたとまわりだす観覧車

自選歌集 2018年3~6月

自選歌集 2018年3~6月

2018年3月から6月に「うたの日」で発表した短歌からの自選28首です。

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-11

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