*星空文庫

求めていた俺 sequel

メズタッキン 作

第三部 「黒崎寛也編」

十話 シンジの死

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施設の廊下を歩きながら笹原は思った。
自分は今以上に頑張らなければ!それに何よりもっと沢山子供達と触れ合おう。もっと近くに寄り添ってあげよう。


しかし二日後、そんな笹原の想いは虚しく・・。 彼女たちの平和な日常は一瞬で奪われた。

忘れもしない午前十時三十二分の出来事だった。
いつも通りピアノを演奏して歌う笹原と円になって彼女を取り囲み陽気に歌う子供達。

『さーいーたーさーいーたー♪チューリップのはーなーがー♪なーらんだー、なーらんだー、あーかーしーろーき・・・』

その時だった。

カランコロン・・
部屋の扉の隙間から筒状の物体が転がってきた。
『なんだろう?・・・・ッッ!!!!』
誰よりも先に危険を察知したのは笹原だった。

『みんな伏せてぇえええええええええええええええええええええッッッ!!!!』

カッッッッッッ

世界が真っ白に染まった。
筒状の物体は突如、莫大な光量の光を発したのだ。 閃光手榴弾(フラッシュバン)だ。
笹原は機転を利かせて咄嗟に手で両目を覆ったから良かったものの、不運なことに閃光は一瞬で子供達の視界を奪った。あと1秒早く、笹原が声をかけていれば・・。

閃光が発せられてから約三十秒後。笹原は目を覆っていた両手を下ろしてみる。


『眩しいよ・・!見えないよ・・・!』

視界を奪われた子供達は泣きながら右往左往している。ショックで意識を失った子供もいた。

『大丈夫!?』

恐怖で震えている子供達の一人に駆け寄り肩を
揺さぶる笹原。

『う、うん・・。少し見えるようになってきた・・。』

『よ、よかった・・。』
笹原はホッとして胸をなでおろす。
『他のみんなは・・』

ドッッッ・・。

笹原が振り返ろうとした瞬間だった。
どこからか投擲された一本のナイフが根元まで彼女の背中を貫いていた。

『え?なに・・これ・・』

ピチャリと、気味の悪い音が笹原の耳朶を打った。恐る恐る足元を見てみるとそこには赤黒い水溜りができているではないか。否、これは水溜りなどではない。 血溜りだ。

『・・・そんな・・。私・・・』

ドシャッッ

グラッと体勢を崩した笹原は全身から力を失い血溜まりの中に倒れ臥した。

『(まだいっぱいやり残したこと・・・あったのに・・・)』

笹原は目蓋を閉じ、そのまま意識の底に沈んだ。

『キャーーーーーーーーーーーッッ!!』

これを目撃していた女性職員が悲鳴を上げて
狼狽する。

バァン!!
『何事だ・・・さ、笹原先生ッッ!!』
悲鳴を聞きつけて男性職員達が部屋の扉を蹴破り、笹原の元に駆けつけた。

『良かった・・、大丈夫だ、幸い急所はギリギリ外れている!』

男性職員の一人が慎重に笹原の背中のナイフを
抜いた。
笹原は一命を取り留めたが意識不明の重体だ。
男性職員は胸ポケットから携帯電話を素早く取り出し百十九番に通報する。

『もしもし大変です!!児童養護施設“さくら園”にて女性が1人大量出血しています!!
至急救急車を・・』

フッ・・・

その時、一瞬にして部屋全体が暗黒に包まれた。ブレーカーが落ちたのか?いや、違う。


『レディィィィィィィィスエエエエエエェンジェントルメェェェン!!!!』

突然、暗闇の中で軽薄で上調子な声が園内に響き渡った。

『誰だッ!!何処にいる!!』
男性職員が声のした方向に目をやると、

パッ!

どこからか現れた三つのスポットライトが
同時に一箇所を照らした。

そこにようやく現れた一人のシルエット。
そのシルエットがパチンと指を鳴らす。
『暗転☆解除』

すると再び照明がつき、部屋が明るさを取り戻す。
そして謎の声の主の容姿が露わになった。
紅を入れた表情の読み取れない白塗りの顔、長袖の寛衣、その姿はまるでサーカスのピエロを彷彿させる。

『誰だ、お前は!』

男性職員の一人が箒を片手に警戒している。

『そんなに怒らなくてもいいんだよゥ。ボクの名は ”ロナウドタックン” 。通りすがりの道化師(ピエロ)さ。』

『・・なぜ笹原先生を刺した?」

道化師ロナウドの不気味な格好に恐怖心を抱きわななく子供達を庇うようにして男性職員は箒を構えて立ち塞がる。それにつられて他の職員達も立ち上がり、ロナウドを包囲する。

『おやおやみなさん・・、そんなに血相を変えちゃってまぁ・・。』

ハタから見れば追い詰められている側の人間が何故こうも余裕なのだろうか。

『・・・・』
道化師はしばらく黙り込んだ後、懐からゴソゴソと何かを取り出した。

『あ、これ諸君らにお土産だよゥ。』

ゴロン・・

道化師がヒョイと転がしたのは風呂敷に包まれた丸い物体だった。

『(何だこれ、スイカか?)』

男性職員が慎重に風呂敷をほどくと、ツンと
した異臭がした。中にあったのは・・


園長の生首だった。

『・・キ、・・キッサマ・・!!』

怒り心頭に発する男性職員は自らの骨を粉砕してしまうほどの握力で拳を握り、今にも目の前のピエロに飛びかかりそうだったが、ピエロから感じる不穏なオーラに圧倒されて結局その場にとどまることしかできず歯噛みする。

『ちっくしょぉ!』

『人間とは残酷だねェ。目の前に憎き敵がいるのに、仲間が殺されたっていうのに自分の命や安全を優先する。結局人間は自分が一番大事なんだね。』

ニヤリと笑うロナウド。その前にもう一人、
この場において最も冷静な男性職員の一人が
尋ねた。

『笹原先生と園長の報復はいずれ行うとして、お前達は一体何が目的なんだ?どんな用があってわざわざここに乗り込んできた?』

『エクセレントッ!!いい質問だねぇ。
はなまる!!』

パンパカパーン!!

ピエロの頭の上に乗っている円錐型の帽子の上部がパカリと開き、この緊迫した空気に似合わない巫山戯たファンファーレとともに紙のヒラヒラがばら撒かれる。どうやら帽子に擬態した音声付きクラッカーらしい。

『目的なら簡単。ボクはここにいる子供達全員を保護しにきたのさっ。』

『保護だと?何のために?』

『そう。重要なのはそこだよゥ。でも実に申し訳ない。ボクが言えるのはそこまでだ。それ以上の事を部外者に口外するなと雇い主からの命令だからねェ。』

『雇い主だと?』


『う・・・うーん・・。うるさいなぁ・・』

『シンジ君!』
フラッシュバンのショックで意識を失いしばらく経ってようやく目を覚ましたシンジ。

いまだに視界が僅かながらぼやけている。
ゴシゴシと目を拭うとようやくピントがあった。だがそこに映っていた景色は・・。

『なに・・これ・・。ユミちゃん・・・?』


しまった。見せてはいけなかった。大失態だ。この子にトラウマを植えつけたくなどなかった。

大量出血をして倒れ臥す笹原と園長の生首を見てはいけないと戒める男性職員。だが、もはや時すでに遅し。

『ユミちゃん・・。嘘だ・・。あぁ』

絶望にシンジの目からは涙すら出ない。
これはビデオ録画などではない。現実だ。
一度見てしまったものを記憶の中から消去する機能など、人間には備わっていない。

『ユミちゃん・・、ユミちゃん・・』

まるでマシンのように歩調を変えずに足を動かすシンジ。

『危ない!あのピエロに近づいちゃだめだ!!』

もはやこの小童の耳には男性職員の声など一切届かない。敵の姿さえも視野にない。
シンジの目に映るのはたった一つの絶望だけ。

『イヤだ・・。ユミちゃん・・イヤだ・・イヤだ・・イヤだ・・・』

キィィィィィィン・・

その時、その場にいた全員が驚くべき光景を目撃した。聴く者すべてを不快にさせる高鳴りのモスキート音と共にシンジの体が突然蛍のように発光した。まるでシンジの魂が絶望と痛哭に呼応するかのように。

『(何だこの子は!?)』
得体の知れぬ恐怖を感じ取り総毛立たせる
職員達や他の子供達とは対照的に、たった1人、決して物怖じしない者がいた。
『おお、この力は・・・!』

道化師ロナウドタックンは感動していた。

『イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ
イヤだイヤだイヤだああああああああああああああああああああ!!!!!』

キィィィィィィィィィイイイン・・・

天地すらひっくり返すレベルの咆哮とともに、シンジの全身が “黒光り” する。

そして厄災は訪れた。


ゴォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッ

シンジの身体を中心に溢れ出る謎のエネルギー。それは“漆黒の炎”とでも形容すべきか。
漆黒の炎は次第に肥大化していき施設のあらゆるものを吹き飛ばす。壁や天井は一瞬にして破砕、黒い炎から発せられる莫大な熱波と衝撃波は全ての窓ガラスを同時に叩き割る。

ビキッビキビキッ・・・
ドドドドドドドドッッドドドドドッドドドドドドッドガガガガガガガガガガガガッッ

エネルギーの暴走は止まることを知らず・・
僅か十秒足らずで ”さくら園“は灰燼に帰した。
暫く経ってシンジは自我を取り戻し“さくら園”の焼け跡を一望する。
ここで漸く気付く。自分がどれほどの事をしてしまったのかを。

『僕は・・・僕は・・・』

罪悪感に俯くシンジの耳にパチパチと拍手をする音が聞こえてきた。

『素晴らしい。イッツァグレイト!だよシンジ君。』

件(くだん)のピエロ、ロナウドタックンだ。あれだけの大災害に巻き込まれたのにも関わらず無傷だった。間違いなくこの男は化け物だ。
しかしシンジが注目していたのは彼ではない。彼が肩に担いでいる人間だった。
気絶状態の笹原である。

『・・ユミちゃんは生きてるの?』

『ああ。彼女なら大丈夫だよ。いやぁそれにしてもさっきの力は凄いねェ。道化師はみんなをビックリさせる職業なのに逆にこっちが驚かされちゃったよアハハ。』

『・・・ユミちゃんを返せ。』

シンジはただロナウドをまっすぐ睨む。

『だーめ。彼女にはいずれ役割を果たしてもらうからねェ。返すわけにはいかないな。
本当は子供達も回収する予定だったんだけど、君が燃え散らしてしまったからせめて
彼女だけでもね。』

シンジにとって目の前の屑が笹原を拐う理由なんかどうでもよかった。ただ笹原を返して欲しい、望むのはそれだけだ。

『ところでおまえは誰だ?』

『ああ失礼。まだ君には名乗ってなかったか。ボクはロナウドタックン。“とある組織”の端くれさ。』

『ぼくは絶対におまえを忘れない。』

『そうかい。それじゃあ宜しくねシンジ君。
そろそろ時間だからボクはこの辺でお暇するよ。暗☆転ッ!』

ロナウドは言うと、シンジの視界が突如真っ暗に。
『(見えない!)』

二秒くらい経った後、視界は元に戻ったが、
その場には誰も居なかった。

『逃げたか・・・』


これから何処へいけばいいんだろう。幼いシンジにはこれから先のビジョンが無かった。
両親は遠方に出張中で会えない。シンジにとって“さくら園”はたった一つの居場所だった。だがその居場所すら失った。
残された選択肢はもう一つしかない。


ーーもう死んじゃおうかな・・。

シンジにとってさくら園は天国だった。だが
シンジはその天国すらも滅茶苦茶にしてしまった。
そんな人間は地獄がお似合いなのかもしれない。


シンジはただ歩いた。何のあてもなく街を徘徊した。ポツリポツリと、雨が降ってきた。

ーーここはどこだろう?

気付けば都会の中心まで来ていた。
自分の何倍も背が高い大人達が大勢行き交う世界。
渋谷のスクランブル交差点を地面を見つめながら歩く死人のような目をした幼子をすれ違いざまに不思議そうに一目する大人もいた。

ーーボクはどこに向かうんだろう。

一体何キロ歩いた事だろう。シンジは人混みから離れて郊外の住宅地までやって来ていた。道端の路側帯にパトカーが一台止まっているのが見えた。偶然車体から出てきた警官がシンジに話しかける。

『キミ、いったい一人でどこから来たの?
お父さんとお母さんは?』

『・・・・』

『あ、ちょっと・・、』

シンジは優しく話しかけてくれた警官に見向きもせずスタスタとその場を通り過ぎる。


さらに歩いて河川敷にやってきた。さくら園
崩壊から二日も歩いている。あれ以来ずっと
食事も睡眠もとっていない。喉も乾ききっていて体力も限界に近づいてきた。
陽もそろそろ落ちてくる。

『(ああもうダメだ・・)』

バタッ・・・

シンジはとうとう力尽き、膝から地面に崩れ落ちた。

『(さようなら、ユミちゃん、誠。さようなら、お父さんお母さん・・・)』

もう休もう。

シンジは全てを諦め、全身から力を抜き目を閉じた。


ーー思えば呆気ない人生だったな・・


“コラ!こんな所で寝たら風邪引くでしょ!”

頭の中で懐かしい女性の声が反響する。

ーー 笹原先生・・。ごめんなさい・・・。



コツン。

頭の天辺に何か軽いものが当たった感触がした。

ツンツン。

カラスか何かがつついているのかな・・。ボクの頭を・・。

『 おーいガキ、ンな所で寝てッと風邪引くぜ』

カラスなどではなく男の声がした。
シンジは声のした方向を見るために顔を上げてみた。

そこに二本の足が見えた。

そうか、さっきのは爪先で頭をつついていた感触だったのか。

『お、ようやく起きたか。』

シンジはさらに視線を上げてみる。

『見てんじゃねぇよ』

声の主の顔が確認できた。倒れているシンジの目の前に現れたのは高校生くらいの年齢で
、少し肩にかかるくらい長めの白い髪で、
棒付きキャンディを咥えている少年だった。
その少年は袖無しで肩から身体を覆う黒いマントを羽織っていた。少年は赤い瞳で、ジッと
シンジの目を見つめていた。
まるで吸い込まれてしまいそうな不思議な感覚だ。

『君はだれ・・』

シンジは少年に名前を訪ねようとしたその時、

グゥ〜〜〜

『はっ//////』

一瞬にして顔を赤らめるシンジ。

『・・もしかしてオマエ腹減ってんのか?』

パサッ

少年はマントの中からコンビニのカレーパンを取り出して倒れたシンジの眼前に放り投げた。
貴重な食料を見て目から生気を取り戻したシンジはピョンと起き上がり、袋を雑に開けてカレーパンを犬のように頬張った。

『うまい、うまい、うまうまうまうまい!』

カレーパンは一瞬でシンジの胃袋の中に収まった。
それを見ていた黒マントで白髪の少年はため息をついた。

『オマエ、その様子じゃ本当に何も食ってなかったのか?』

『・・うん。二日は何も食べてないよ』

『ていうかオマエ、俺に言うことがあんじゃねーのか?』

『あ、ありがとう!!』

『ったく・・。気が済んだらとっととウチ帰れよ。二度とツラ見せんな』

少年は一度頭をポリポリと掻くと、くるりと
振り返りその場を去ろうとした。

『あ、待って!!』

シンジはガシッと少年の足を掴む。

『な、何だよ』

『あ、あの・・さっきはカレーパンありがとう!・・ところでお兄さん見るからにあやしー格好してるけど・・ナニモノ?』

『ナニモノだぁ? そうだな・・俺は悪いヤツ
をブッ殺すヒーローさ。』

『悪いヤツを・・ぶっころす・・?』

『ああそうさ。社会の秩序を乱すクズどもを
抹消するのが俺の仕事さ。』

誇らしげに語る少年を見てシンジは思った事をそのまま口に出した。

『おお〜〜、カッコイイ〜〜!!』

『フン、見ず知らずのガキに褒められても嬉しくねーよ。』

プイッとそっぽを向く少年

『・・照れ隠し?』

『殺すぞ』

『あはは、お兄さん面白いね。』

『俺にはまだ仕事が残ってんだ。オマエはとっとと失せろ』

少年は今度こそシンジと距離を離してスタスタと歩き出す。

『待って!!』

しつこいシンジに流石に少年も少しイラっときた。

『次は何だよ・・』

『助けてくれたお礼に、お兄さんの”仕事“
とやらを手伝わせてよ!!』

『ああ?俺の仕事を手伝うだぁ?』

少年はシンジの目を真っ直ぐ見つめる。

『(このガキ・・中々見どころあんな)』

そして少年は再びシンジの元に歩みを戻す。

『・・ガキ、オマエにもいるのか?今すぐにでもぶっ殺したいヤツが。』

少年の質問に対し、シンジは突如目の色を変える。まるで世界の醜いものを全て見てきたかのような暗い目だ。

『・・うん、いる。』

シンジはさくら園を襲撃し、笹原を傷つけたピエロの顔を思い浮かべた。

『あいつを殺すまでぼくは何としても死ぬわけにはいかない。絶対にッ!!』

ギュッと怒りで拳を握りしめるシンジ。

『・・イイ覚悟だ気に入ったぜ』

ニヤリと笑う白髪の少年。

『ついてきなガキ、オマエを強くしてやる。
俺の弟子になるがいい。』

『・・本当に?』

『ああ、俺は人を殺すが嘘はつかねぇ』

『・・お願いしますお兄さん』

深々と頭を下げるシンジ。

だが少年はそんな彼を横目で流して言った。

『祠堂でいい。敬語を使われるとなんかむず痒いからな。』

『しどう?』

『ああ、俺は祠堂流星。ところでオマエは?』

『シンジ。神田シンジ。』

『・・カンダシンジ、つまらん名前だな・・。』

すると祠堂は咥えていたキャンディの棒を口から取り出し、その先端をシンジに向けて言った。

『今日からオマエは “キリュウ”と名乗れ。』

『キ・・リュウ?』


『そうだ。「鬼」のように非情で「龍」のように気高い存在。それがオマエの目指すべき強さの到達点、鬼龍(キリュウ)だ。』

『求めていた俺 sequel』

『求めていた俺 sequel』 メズタッキン 作

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-07-11
Copyrighted

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