シロヒメは未来のアイドルだしっ☆

「ぷりゅりゅやーすみは、ぷりゅぷりゅウォッチ~♪」
「白姫!?」
 騎士の見習いである『従騎士』のアリス・クリーヴランドは、機嫌よさそうに歌っている白馬の白姫に目を見張った。
 白姫は騎士の馬であり、従騎士であるアリスが世話をしている。
 器用〝すぎる〟というくらい器用で、人間のするようなことは普通にこなしてしまう白姫。
 その中でも特に歌が好きで、気分が乗るといつも楽しそうに歌っている。
 そんな彼女がこうして歌っているのは、いつも通りのことではあるのだが――
 しかし、その〝容姿〟はまったくいつも通りではなかった。
「な……なんなんですかそれは?」
「ぷりゅー?」
 得意げに、かつアリスを馬鹿にしたように白姫が鼻を鳴らす。
「まー、アリスにはこのセンスわかんないしー」
「セ、センス……」
 絶句するアリス。
「センス……なんですか、それは?」
「ぷりゅーーーっ!」
 パカーーーーーーン!
「きゃあっ!」
 容赦なくアリスを蹴り飛ばしたあと、白姫は力強く言った。
「元気があれば、ぷりゅぷりゅできる」
「なんですか『ぷりゅぷりゅできる』って!」
「いま、アリスに気合入れたし」
「求めてないです、そんなこと!」
 抗議するアリスを白姫はやれやれという目で見つめ、
「もー、アリスはすぐシロヒメのこと悪く言うしー。シロヒメのかわいさに嫉妬してー」
「嫉妬してないですよっ!」
 顔に蹄鉄の痕をつけたアリスがさらに抗議する。
「暴力をふるうのはやめてくださいっ!」
「そんなのふるってねーし」
「ふるってるじゃないですか、思いっきり!」
「ぜんぜん思いっきりじゃねーし。思いっきりやったらアリス死んでるし」
「や、やめてください! なんてことを言う白姫なんですか! 死んじゃったらどうするんですか!」
「まー、アリス、無駄に丈夫だし。死なないし」
「死ななくても痛いです!」
 まったく伝わることのない抗議をくり返したあと、
「それより何なんですか、それは!」
「ぷりゅ?」
「サングラスですよ!」
「サングラスはサングラスだし」
 白姫はまたもアリスを馬鹿にするように、
「えー、アリス、サングラス見たことないしー? 遅れてるしー」
 遅れてる……のか?
 そもそもサングラスくらいアリスだって知っている。
 それでも――
 サングラスをかけた白馬を見るのは生まれて初めての経験だったが。
「どうしたんですか、それは……」
「サングラスだし」
「だからサングラスってことはわかってますよ。……それにしてもよくありましたね、白姫がかけられるようなサングラス」
「なかなか合うサイズがなくて困ったし」
「あったのが奇跡だと思いますよ。それはともかく……」
 アリスはおそるおそる、
「どうして、サングラスなんですか? まさか白姫、不良に……」
「なんてことを言うし」
 白姫は不本意そうに鼻を鳴らし、
「シロヒメ、不良じゃないし。純粋無垢な乙女だし」
「純粋……」
「なんか文句あるし?」
「い、いえ、ありませんけど」
「なら気をつけるし。シロヒメになめた口きいてるとイジメんだし」
「やめてください、いじめは!」
「だって、アリスが馬権を侵害するからー」
「馬権……人権みたいなものですか?」
「ちょうどいま馬権推進週間だし」
「あるんですか、そんな週間!?」
「あるし。だから、シロヒメのこと不良とか言ってんじゃねーし」
「ご、ごめんなさい……」
「まー、アリスにはこのおしゃれさはわからないしー」
 見せびらかすようにサングラスをかけ直し、
「シロヒメ、白馬界のファッションリーダーだからー」
「白馬界……ずいぶん限定された……」
「アリスってマジでセンスないからー。マジ聞いたシロヒメがマジ間違ってたからー」
「い、言いたい放題ですね。あと『マジ』多すぎですよ」
 相変わらず……というかいつも以上の暴言にあぜんとなるしかないアリス。
 と、白姫が疑問の核心となる言葉を口にする。
「シロヒメ、ちょっと総合司会の勉強してるんだし」
「は!?」
 総合司会――思いもしなかった単語が飛び出しアリスは目を剥く。
「あ……!」
 同時に納得もする。
「総合司会……だからサングラスなんですね」
「そうだし。総合司会と言えばサングラスだし」
「いや、そうとは限らないですけど……」
 すると、白姫はいきなり、
「ぷりゅにちは」
「は!?」
「ほら『ぷりゅにちは』って言ったら『ぷりゅにちは』って返すんだし。じゃあ、もう一回行くし」
「は、はあ……」
「ぷりゅにちは」
「ぷ……ぷりゅにちは」
「今日、天気いいですね」
「……はい?」
「ぼーっとしてんじゃねーし!」
 パカーーーーン!
「きゃあっ!」
「なに総合司会に暴力ふるわせてるし」
「ふるわないでください、暴力を!」
「総合司会が何か言ったらすぐに『ぷりゅですね』ってみんなで返すんだし!」
「『みんなで』って……白姫と自分しかいませんけど」
「いいからやるし!」
「は、はい……」
「今日、天気いいですね」
「ぷ……ぷりゅですね」
「お客さんいっぱい来てますね」
「ぷりゅですね……」
「というわけで今日のゲストは――」
「いませんから、ゲスト。来てませんから」
 このまま白姫のペースが続いてはまったく話が先に進まない。
「とにかく、なんで総合司会なんですか?」
「シロヒメ的に言うと、総合白馬だし」
「じゃあ、なんでその……総合白馬? なんですか」
「やるからだし」
「は?」
「将来的にやるし」
「将来的にって……」
 白姫は当然という顔で、
「芸能界で目指すポジションといえば、やっぱり総合司会なんだし」
「芸能界!?」
 またも唐突すぎる発言にアリスは驚きの声をあげてしまう。
「というわけで、次はトーク番組やるしー」
「い、いや、いまのがある意味トーク番組だったんじゃ……」
 そして白姫は、
「ぷーりゅりゅ、ぷりゅりゅ♪ ぷーりゅりゅ、ぷりゅりゅ♪」
「なんだか聞き覚えのあるオープニング音楽ですけど……」
「ぷにゅにちは、ぷりゅ柳シロヒメです」
「ぷりゅ柳白姫!?」
「本日のゲストは『アリス・クリーヴランド』こと、アホのアリスさんです。どうぞ、よろしくお願いします」
「愛称と名前が逆ですよ! って、そんなひどい愛称でもないです!」
「アリスさんはダメ従騎士をされているそうですが」
「やめてください、ひどいことを言うのは!」
「アリスさんはダメをされているそうですが」
「『従騎士』のほうを削らないでください! なんですか『ダメをしている』って!」
「ではここで、アリスさんの持ちネタを披露してもらいましょー」
「えええっ!?」
「はい、どうぞー」
「な、ないですよ、持ちネタなんて! なんですか、その無茶振りは!」
「ぷりゅうっ!」
 パカーーーーーーン!
「きゃあっ」
「いいから『やれ』って言われたらやるんだし」
「や、やめてください、暴力は! 無茶振りからの暴力は!」
「……と、これがアリスの持ちネタなんだし」
「こんな持ちネタないです! 白姫のただのいじめです!」
「もー、アリス、ノリ悪いしー」
「のれませんよ、こんなひどいことをされて! それより、なんなんですか、さっきからの一連のこれは!?」
「だから総合白馬の勉強だし。芸能界で目指すんだし」
「いや、関係ないですよね、白姫と芸能界!?」
「なに言ってんだし」
 白姫は「ふん」と鼻を鳴らし、
「関係あるに決まってるし。シロヒメ、アイドルになるんだから」
「えええっ!?」
 アリスはもう何度目になるかわからない驚きの声を張り上げる。
「アイドルに! 本当ですか!?」
「ホントだし」
「い、いつ? 自分、聞いてませんよ?」
「いつかはわからないし」
「えっ?」
「けど、いずれなるんだし。決まってるんだし」
「え、えーと……」
 アリスは言葉を詰まらせつつ、
「つまり……どういうことですか?」
「まったく、アリスはセンスがないだけじゃなくて頭も悪いし」
「悪くないです。普通です」
「えー、ぜんぜん普通じゃないしー。アリス、アホだしー」
「アホじゃないです! やめてください、ひどいことを言うのは!」
「事実だし」
「事実じゃないです!」
「事実、アホだしー。こんなわかりきってることわからないなんてー」
「なんですか『わかりきってること』って!」
「シロヒメがアイドルになるということがだし」
「あ、あの……」
 アリスはあらためて、
「だから、どういうことですか?」
「しょーがないから、説明してあげるし。アホなアリスに」
「うう……」
 悔しいが、ここは話を聞くためとアリスはこらえる。
「シロヒメはかわいいし」
「はぁ……」
「そして、賢いし。かわいくて賢いし」
「あの……それが何か……」
「えー、ここまで説明してわからないのー? やっぱりアホなんだしー」
「アホじゃないです」
「つまり、シロヒメにはいつスカウトが来てもおかしくないんだし」
「えっ」
「だって、そうだし。こんなにかわいくて賢い白馬、他にいないんだし。世間がほっとかないんだし」
「それは……」
 そうかもしれない。
 白姫は普通ではないというか……確かに他にはいない馬だ。
 ――いろいろな意味で。
「どうしよー。どこのプリュダクションにするか迷っちゃうしー」
「なんですか『プリュダクション』って」
「あっ、アリスにちょっと頼みたいことあるし」
「えっ」
「アリス、ペットやるし」
「はい!?」
「だって、よくあるし。アーティストがちょっと変わったペット飼ってるって」
「確かに聞きますけど……って白姫、アーティストじゃないですよ!?」
「何を言うし。シロヒメ、普通のアイドルレベルじゃないんだし。ぜんぜんアーティストって呼ばれるレベルなんだし」
「そうなんですか……」
 もはや反論する気力もなくなってしまう。
「というわけで、ペットやるし」
「なんで自分がペットなんですか!」
 さすがにそこは抗議する。
 しかし、白姫は、
「だって、アリス、ペットっぽいしー」
「なんですか、それは!」
「そのままの意味だし。飼いアリスなんだし」
「やめてください『飼いアリス』なんて!」
「いやがらなくていいし。『飼い殺し』的なカンジなんだし」
「よりイヤですよ! 何に飼い殺されてるんですか!」
「えー」
 白姫はシラけた目になり、
「なにムキになってんだしー。てゆーか、シロヒメに口ごたえするとか、何様のつもりなんだしー」
「『何様のつもり』は、むしろこちらが聞きたいですよ……」
「シロヒメはもちろん『シロヒメ様』のつもりだし」
「なんなんですか、それは」
 平然と言う白姫にアリスは脱力するしかない。
「とにかく、あまりおかしなことはしないでください」
「『おかしなこと』ってなんだし?」
「だから、その、もっと普通に……」
「それは無理だし」
「ええっ……?」
「シロヒメ、普通じゃないんだし。普通じゃなくかわいいんだし。普通じゃなくかわいくて賢いんだし。かわいくて賢くて、そしてかわいくて……」
「それはもうわかりましたから。あの、自分が言っているのはそういうことじゃなくて……」
「アリスも普通じゃないんだし」
「えっ」
「普通じゃなくアホなんだし」
「うれしくないです、そんな普通じゃなさ!」
「とにかく、シロヒメはいい意味で普通じゃないんだし。だからこそアイドルになってしまうんだし」
「白姫ぇ……」
 またそこに戻ってきてしまった。
「じゃあ、さっそく商品展開考えるしー」
「ええっ!?」
「アイドルとして売れたら、当然グッズ販売で儲けんだし」
「いやあの、気が早すぎませんか」
 そんなアリスの意見はあっさり無視し、
「白馬印のぷりゅぷりゅ石鹸とかどうだし?」
「石鹸? どうして……」
「アリス、知らないんだしー? 昔のオペラのスポンサーは石鹸屋さんだったんだし。だからソープオペラって呼ばれてたんだし」
「く、詳しいですね……」
「アイドルを目指す馬にとっては常識なんだし」
「常識なんですか……」
「ぷりゅぷりゅ石鹸を使うと、シロヒメみたいに白いお肌になるんだし」
「白いお肌……って白姫の場合は意味が違ってくると思いますけど」
「違わないんだし。白馬は白さが命なんだし」
「それはそれでいいですけど……」
「あと、お菓子もいいし」
「お菓子?」
「そうだし。『白馬い恋人』なんだし」
「なんですか、『ハクバい』って……」
「あと絵本も出すし」
「絵本?」
「タイトルは『うまのぷりゅーさん』だし」
「『くまの~』みたいなものですか」
「ソースもいいし」
「ソース?」
「『ぷりゅドッグソース』」
「かなり『ぷりゅ』で押しますね……」
「ぷりゅ押しなんだし」
「『一押し』みたいに言われても」
「それとそれとー」
「あの……」
 口もとを引きつらせつつ、それでもアリスはおだやかに、
「あのですね、白姫。アイドルって言っても、見た目ほど華やかで楽しいお仕事じゃないと思いますよ」
「そうなの?」
「はい。大変なことも多いと思いますし……」
「だったらアリスの出番だし」
「えっ」
「アリス……」
 白姫はアリスに向き直り、
「シロヒメとユニット組むんだし」
「えええっ!?」
「なんだし? 文句あんだし?」
「文句とかそういうことではなくて……む、無理ですよ!」
「なんでだし」
「なんでって……普通に考えて無理じゃないですか!」
「大丈夫だし。アリス、普通じゃないから。もちろん悪い意味で」
「だからうれしくないです、そんな『もちろん』!」
「とにかく大丈夫なんだし。シロヒメにまかせるんだし」
「そんな……」
「あんま、ごちゃごちゃ言ってんじゃねーし。聞き分け悪いとぶちのめすし」
「やめてください、暴力は!」
「とにかく、アリスがかわいくなくてもアホでも問題ないんだし。むしろ、かわいくなくてアホだからいいんだし」
「ど、どういうことですか?」
「シロヒメが目立つからだし」
 白姫はまったく悪びれることのない調子で、
「かわいいシロヒメとかわいくないアリスが一緒に歩いているんだし。アリスがかわいくない分、シロヒメのかわいさがより引き立つんだし」
「えぇぇ~……?」
「話してみてもそうなんだし。アリスがアホなことばっかり言う分、シロヒメの賢い発言が……」
「やめてください、そんなひどい目論見は!」
「ひどくないんだし。それが現実だし」
「そんなぁ……」
「よくあるんだし。合コンで自分よりかわいくない子がいると自分が目立つんだし」
「見習わなくていいです、そんな現実!」
「えー、いいでしょー? 友だちなんだしー」
「なんて都合のいい『友だち』発言なんですか……」
「友だち同士でオーディションに参加とかよくあるんだし」
「ありますけど……」
「というわけで、アリスも参加するし」
「いえあの、自分はともかく、白姫を参加させてくれるオーディションがあるのかと……」
「ぷりゅーっ!」
 パカーーーーン!
「きゃあっ!」
「なに、つけあがってんだし」
「つ、つけあがってないですよ!」
「自分のほうがかわいいとか思ってんだし? だから自分だけオーディションに参加できると思ってんだし。なんて図々しいアリスなんだし」
「そんなこと思ってないです!」
「まあ、いいしー。夢を見るのは自由だからー」
「は、はあ……」
「とにかく、アリス、シロヒメとユニット組むんだし。命令だし」
「ううぅ……」
 いろいろ追いつけていないアリスは言葉につまるしかない。
「まー、アリスが不安なのはわかるし。その程度のアリスだから」
「本当にやめてください、ひどいことを言うのは」
「けど、大丈夫だし。アリス、何もしなくていいし」
「えっ」
 何もしなくていい? それは一体――
「シロヒメにトラブルがあったら、そのとき、アリスが身代わりで犠牲になるんだし。いわゆる弾避けなんだし」
「なんてひどい役割なんですか!」
「それが芸能界の現実だし」
「ないですよ、そんな現実!」
「やりたくないんだし?」
「やりたくないですよ、普通……」
「大丈夫だし。シロヒメがブレイクしたら、アリスは切り捨てるんだし。いわゆる踏み台なんだし」
「何も大丈夫じゃないですよ! よりひどいですよ!」
「というわけで、安心するし」
「何一つ安心できません!」
「じゃあ、さっそくユニット名考えるしー」
 抗議はやはり無視され、白姫はどんどん話を進めていく。
「あっ、『シロヒメとその他』とかどうだし?」
「なんですか、それは……」
「ユニット名だし」
「自分は『その他』ですか……」
「なんだし、アリスのくせに名前入れてもらいたいんだし? なに調子のってんだし、アリスのくせに」
「そ、そこまで言われますか……」
「だって普通に考えてシロヒメとアリスじゃ価値違うんだし。シロヒメの名前を見ればみんな集まるけど、アリスだとみんな逃げてくんだし」
「逃げられるようなことしてませんよ……」
「何もしてなくても、アリスというだけでみんな逃げてくんだし」
「だから、なんでですか!」
「当たり前だし。アリスのそばにいたら自分までアリスみたいだと思われてしまうし。アリスみたいなアホだと思われたら人生終わりだし」
「なんてことを言うんですか!」
「もちろん馬生(ばせい)も……」
 そこで、はっと息を飲む白姫。
「………………」
「白姫?」
「……やっぱりやめるし」
「えっ」
「アリスとユニット組んで、シロヒメまでアリスみたいなアホだと思われたら問題があるんだし。シロヒメの馬生に関わるし」
「なんてことを言うんですか、何度も何度も!」
「ていうか、アリス、近づくなだしー。アホがうつるんだしー」
「もう完全にイジメですよ、その言い方ーーーっ!」

「というわけで、シロヒメ、スポーツ選手を目指すし」
「ま、また唐突ですね……」
「だってスポーツ選手も人気あるし。それに最近はアイドル並のイケメンもたくさんいるし。シロヒメにふさわしいし」
「そうですか……」
「そうだし。イケメンじゃないとシロヒメと釣り合わないんだし」
「はあ……」
「将来的にシロヒメ青年隊とか結成することになったら、当然メンバーは全員イケメンなんだし」
「それはもう完全にシロヒメの欲望じゃないですか」
「ハングリーさがスポーツ選手には必要なんだし」
「かもしれませんけど……というか、まだ引っ張ってますよ、総合司会を」
 アリスは早くも疲労感を覚えつつ、
「それで、どんなスポーツなんですか」
「ぷりゅ?」
「だからその……白姫は何のスポーツの選手になるつもりなんですか」
「そんなの、これ見れば、いちもくりょーぜんだし」
「いや、サングラスを見せられてもちょっと……確かにスポーツ選手はよくサングラスをつけてますけど」
「だったら、わかるし」
「わかりませんよ、多すぎて」
「なら、アリスが決めるし」
「ええっ!?」
「シロヒメにふさわしいスポーツをアリスが当ててみるし」
「そ、そんないきなり……」
 突然の無茶振りにあわてるアリス。
 すると、
「十、九……」
「やめてください、カウントダウンは!」
「八、七、六……」
「え、えーと……」
「五、四、三……」
「えーと……えーと……」
「二、一……」
「野球!」
 思わず言ってしまったアリスに、
「………………」
 白姫は、
「それ、ありだし」
「ありなんですか!?」
 自分で言ったことながら驚いてしまうアリス。
「いやあの、だって……野球ですよ?」
「問題あるし?」
「それは……」
 大いにあると思う。
 しかし、そうとストレートに言えないまま、
「白姫……馬ですから」
「馬だし」
「だから、その……」
「ただの馬ではないんだし。とってもかわいい騎士の白馬なんだし」
「あの……えーと……」
 それとこれとは関係ないんじゃ……とはやはり言えないまま、
「どうして野球なんですか?」
「いま、野球人口が減っているんだし。テレビで見たし」
「はぁ……」
「つまり、ライバルが減っている分、活躍できるチャンスがたくさんあるということだし」
「い、意外と打算的ですね……」
 思わぬ白姫の腹黒さ――というかしたたかさにあぜんとなるアリス。正直『思わぬ』ということもないような気もするが。
「けどライバルって……そもそもいないと思いますよ、馬のライバル」
「だったら増やすんだし」
「はい?」
「野球人口が減った分、野球馬口を……」
「なんですか、野球『バコウ』って」
 相変わらずの荒唐無稽な発言にアリスが戸惑う中、
「ぷりゅーか、馬だけでチーム組むんだし」
「ええっ!?」
「強いんだしー。ドリームチームなんだしー」
「ドリームって……」
 確かに夢……というか現実にあり得ない。
「あえて言うなら、ドリー馬チームだし」
「なんですかドリー『マ』って! とにかく無理ですよ」
「もー、アリスは文句ばっかり言うしー。やる気そぐしー」
「だって無理ですよ、いろいろな意味で」
「どんな意味でだし?」
「どんなって……その……普通に」
「シロヒメ、普通じゃなくかわいいし。むしろ問題ないんだし」
「あの、だから……」
 ますます困ってしまうアリス。
「そういうことではなくて、だから……えーと……」
「なんだしー、さっきからー」
 はっきりしたことを言えないアリスに、白姫が不機嫌さをみなぎらせ始める。
「シロヒメが野球選手になるのに不満あるんだし?」
「不満ということではなくて……」
「ウソだし。ホントはイヤなんだし。シロヒメ、才能あるから。あっという間に有名になっちゃうから」
「それは……」
 有名には……間違いなくなるだろう。
「まったく、アリスはホントに人間がちっちゃいんだし。すぐシロヒメに嫉妬するんだし」
「嫉妬してないです」
「まー、アリスもチームに入れてあげるしー。特別にー」
「いや、頼んでませんけど……」
「というわけでポジション決めるし、ホワイトプリンセスの」
「ホワイトプリンセス?」
「チーム名だし」
「『白』の『姫』……ってそのまんまですけど」
「シロヒメはもちろんエースで四番でサードでチームリーダーで監督でマスコットなんだし」
「いろいろ兼任しすぎてませんか!?」
「アリスはヒヅメ磨きだし」
「なんですか、それは!?」
「もちろんポジションだし。大事なポジションだしー」
「ぜんぜん大事に思えませんよ!」
「何を言っているし。馬にとってヒヅメは命だし。それをキレイに磨くんだし。こんな名誉あるポジションはないし」
「というか〝ない〟ですからね、そんなポジション」
「ないんだし!?」
「ないですよ……」
「なんてことだし! 日本の野球は遅れてるんだし! これから野球馬口が増えたらどうするんだし!」
「増えませんから、野球馬口」
「ぷりゅぅ~」
 白姫は考えこむ様子を見せ、
「どうやら……野球は馬に優しくないスポーツなんだし」
「まあ、優しくする理由が特に……」
「なんてこと言うしーっ!」
 パカーーーーン!
「きゃあっ! し、白姫が一番優しくないですよ!」
「他に何かあるし? 馬に向いてるポジション」
「ないですよ、そんなの! というか、シロヒメ、ぜんぜん野球に詳しくないんじゃないですか!」
「そ、そんなことないし……」
 と言いつつ、白姫は話題をそらそうとするように、
「まー、野球にこだわることないしー。シロヒメ、どんなことでもできるからー。才能あるからー」
「確かに白姫はなんでもできちゃいますけど……」
 同意しつつ、アリスは暗い気持ちで思った。
 確かに白姫は人間離れ……というか馬離れしてなんでもできるのだが――
 その分、何をやるにもとにかく飽きっぽいというか。
「シロヒメ、ぷりゅバウアーとか決めちゃうしー」
「なんですか『ぷりゅバウアー』って!?」

 そして――
「ぷりゅー」
 白姫は、
「なんだかめんどくさくなってきたしー」
「はぁ……」
 やっぱり……。
 内心思ったその言葉を、アリスは心の中だけにとどめておく。
「もー、なんでもいいんだしー。シロヒメが有名になれるならー」
「だめですよ、そんないいかげんな気持ちじゃ」
「いいかげんじゃないし。みんなだって有名になりたくてスポーツやってるんだし」
「そんなことはないと……」
「あーもー、なんでもいいしー。アリスが決めちゃうんだしー」
「ええっ!?」
 突然、選択をふられたアリスはあわてふためき、
「そんな……む、無理ですよ」
「なんでもいいし。シロヒメ、なんでもできるから」
「だから、そういういいかげんな気持ちでは……」
「いいかげんじゃないし。アリスがどんな無茶振りしても乗り越えられるという強い意志がシロヒメにはあるし」
「無茶振りしてるのは白姫ですけど……」
「いいから決めるし! 早く!」
「そんな……」
 鼻息荒く迫られ、弱り切ってしまうアリス。言うことを聞かないと、またいつヒヅメが飛んでくるか――
「十、九、八、七……」
「だから、やめてください、カウントダウンは!」
「六、五、四、三……」
「えーと……えーと……」
「二、一……」
 アリスは、
「くじで決めましょう!」
 またもとっさに叫んでいた。
「………………」
 何も言わない白姫に、アリスはあたふたと、
「いや、くじじゃなくてもいいですけど、占い? みたいなそういうので決めれば……」
「………………」
「す、すみません! 何も考えてないわけじゃなくて、いいかげんなわけじゃなくて……」
「……それだし」
「えっ」
「アリス、名案なんだし! 占いなんだし!」
「は……?」
「アリスにしては悪くないこと言うんだし。アリスにしてはめずらしいんだし。アリスなアリスにしては」
「なんですか『アリスなアリス』って!」
 思わぬ成り行きに戸惑いながらも、
「本当に占いで決めるんですか? それでいいんですか?」
「占いで決めるんじゃないんだし」
「は?」
「占い『に』決めるんだし」
「えぇ……?」
 言われていることの意味が飲みこめないアリス。
 白姫はじれったそうに、
「だーかーらー! シロヒメ、占い師になるんだし!」
「ええええええっ!?」
 さらなるとんでもない発言に、アリスはいままで以上の大声を張り上げてしまう。
 白姫は顔をしかめ、
「もー、うるさいしー。アリスの無駄にでかい声でシロヒメの繊細な耳が傷ついたらどうすんだし」
「う、占い師って、あの占い師ですか?」
「他にどの占い師があるし」
「いや……ないですけど」
「馬的に言うと、ぷりゅない師だし」
「なんですか『ぷりゅない師』って!」
 白姫は早くも自信満々な顔で、
「そうだし、シロヒメ、占い師に向いてたんだし。サングラスもそのまま続行だし」
「確かに、占い師は個性的な格好をしてる人が多いですけど……」
 アリスはいっそうの戸惑いを隠しきれず、
「でも……できるんですか?」
「何がだし」
「だから、占いですよ」
「もちろんできるし」
 白姫は得意げに胸をそらし、
「占い師はよく道で詩とか書いて売ってるんだし。シロヒメにもできるし」
「それは占い師じゃないと思いますよ……」
「というわけで一句詠むし」
「ええっ!?」
 どこからともなくおごそかな調べが流れ、
「お馬の子、そこのけそこのけ、アリスが通る。――シロヒメ」
「って、なんですかそれは!」
「シロヒメの俳句だし」
「どういう意味ですか!」
「アリスが通るから危険だということを伝えてるんだし」
「危険じゃないですよ!」
「えー、危険だしー。アホがうつるしー」
「なんてことを言うんですか!」
「とにかく、馬のかわいさとアリスのうっとうしさを共にあらわしている傑作なんだし。シロヒメ、才能あるしー」
「だから、それは占いじゃないですよ……」
「これでいつそのときが来ても大丈夫なんだし」
「えっ……『そのとき』?」
「そうだし。いざ切腹するときにもちゃんと辞世の句を……」
「詠まなくていいです、そんな句! というか、する必要ないですよ、切腹!」
「それがあるんだし」
「えええ!?」
「シロヒメ、実は……白形平次だったんだし!」
「シロ形平次!?」
「そうだし。江戸の平和を守るぷりゅっ引きなんだし」
「なんですか『ぷりゅっ引き』って!」
「蹄鉄を投げて悪者をやっつけるんだし」
「危ないですよ! というか、占いとかけ離れすぎちゃってますよ!」
「ハッ! いつの間に……」
「シロヒメ、本当にテレビ好きなんですから。特にお昼の再放送が」
「まー、詩とか俳句に関しては、あとで『ぷりゅぷりゅ記念日』としてまとめて出版するし」
「出版……できるんですか?」
「いまは占いなんだし!」
 白姫は強引にアリスの疑問をはねつけ、
「シロヒメ、やるんだし! ぷりゅぷりゅ占いだし!」
「ぷりゅぷりゅ占い!?」
「ぷりゅの響きでその日の運勢を占うんだし」
「なんですか『ぷりゅの響き』って!」
「さっそくアリスを占ってみるし」
「えええっ!?」
 驚くアリスを前に、白姫が目を閉じる。
「ぷりゅ~~~……」
「う……」
 何か『念』のようなものをにじませ始める白姫に、アリスは息を飲む。
 ――と、
「ぷりゅました」
「『ぷりゅました』!?」
 白姫は言った。
「アリス、死刑」
「なんでですか!」
「占いでそーゆーふうに出たんだし」
「そんなの占いでもなんでもないですよ!」
「ぷりゅぅ~?」
「う……」
 白姫に「文句あるのか?」という目でにらまれたアリスはあたふたと、
「そ、そもそも、なんで占い師なんですか?」
「えー、また説明するのー? アリスは本当にわかってないしー」
「すみません……」
 複雑な表情のアリス。一方、白姫は偉ぶって、
「芸能界では運が大事なんだし」
「はあ……」
「手相が見れるとか風水がわかるとか、そういう芸能人たくさんいるんだし。シロヒメもただのアイドルじゃなくて、占えるアイドルという付加価値を出すんだし」
「そうですか……」
「実際、芸能人は占い師によく悩みとか話してるらしいし。うまくいけば弱みつかめるかもしれないし」
「なんて悪いことを考えているんですか! やめてください!」
 アリスはあわてて、
「占い師にならなくても普通に……えーと……」
 もう、かなり『普通』から遠ざかってしまっている気もするが――
「というわけで、シロヒメ、占い師になるしー」
「白姫ぇ~……」
「ぷりゅを信じなさい」
「えぇぇ!?」
「信じるものは、ぷりゅわれる」
「なんですか『ぷりゅわれる』って!?」
 戸惑うばかりのアリスに、白姫は、
「アリスはマネージャーだし」
「マネージャー!?」
「お付きの巫女? なんかそういうのやるし」
「『なんかそういうの』って、ずいぶんいいかげんな……」
「ちなみにアリスがやることのメインは情報収集だし」
「情報収集?」
「相談者から言葉巧みに個人情報を聞き出すんだし。それをシロヒメが占いで当てたことにして……」
「って完全にインチキじゃないですか! 詐欺じゃないですか!」
「なんてことを言うし。占いで大事なのは信用なんだし」
「は、はあ……」
「シロヒメを信用してもらうために、そういうちょっとした仕かけをほどこすんだし。あくまで相談者のためなんだし」
「なるほど……ってなんだかやけに手慣れてませんか?」
「というわけで、アリス、相談者見つけてくるし」
「えっ!?」
「ほら、さっさと行くし」
「ちょっ、そんな、いきなり……」
「いいから行くし! シロヒメ、占い師として有名になるんだから。有名になってテレビに売りこむんだから」
「そんなこと言われても、いきなり人なんて呼べませんよ」
「だったら、またアリスのことを占うんだし」
「ええっ!?」
「アリス、死刑」
「だからどうしてですかーーーっ!!!」

 それから――
「ぷりゅー」
 うんざりというようにため息をつく白姫。
 そこに、
「白姫、次の相談の方が……」
「もうだしー?」
「あの、みなさん、お待ちしてますから……」
「アリス、代わりにやっとくしー」
「ええっ!? む、無理ですよ」
「まー、確かに無理なんだし。かわいいシロヒメとかわいくないアリスでは差がありすぎるんだし。暴動が発生するし」
「そこまでですか……」
「そこまでのレベルだし」
 白姫は深々とため息をつき、
「ぷりゅーか、なんでこんなに集まっちゃってんだしー」
「それは……」
 これまでにあったことを思い出すアリス。
 白姫が「占い師になる」と言ってから早一ヶ月――
 当たった。
 まったく予想できなかったことだが、白姫の占いは多くの人々を引きつけた。
 引きつけすぎた。
 評判が評判を呼び、いまや白姫に占ってほしいという人たちが連日長蛇の列を作るほどになっていたのだ。
「なんでこうなっちゃったんですかね……」
「まー、ちょっと考えればわかりきってたことなんだし」
「わかりきってたんですか?」
「わかりきってたし。そもそも白馬というだけで縁起がいいんだし」
「そうなんですか……」
「そうだし。白い動物は幸運につながると言われているし。ハッピーホースなんだし」
「はあ……」
「それに加えてシロヒメだし。かわいくて賢いんだし。大人気になっても仕方ないんだし」
「大人気に……なりすぎましたね」
「罪なシロヒメだしー」
 と、時計を見て、はっとなるアリス。
「白姫、そろそろ『お言葉』の時間ですよ」
「えー、もうー?」
「ほら、大勢の人が待ってるんですから。行きますよ」
「ホントに罪なシロヒメだしー」


 見渡す限りの人で埋め尽くされた大講堂。
 その檀上に、おごそかな和楽器の音色と共に白姫が姿を現す。
 直後、講堂は歓声に包まれた。
「白姫さまーーっ!」
「ぷりゅ神さまーーーっ!」
 そこに、
『みなさん、お静かに』
 マイクを通したアリスの声が響く。
『では、本日のお言葉をみなさまにお伝えします。……どうぞ』
 うながされた白姫が一歩前に出る。
 そして――
『ぷりゅ』
 爆発するような大歓声があがる。
「きゃーーーーっ!」
「白姫さまーーーっ!」
「白神さまーーーっ!」
「ぷりゅ神さまーーーーっ!」
 大勢の人たちの興奮ぶりを見て、アリスはいつものように圧倒されてしまう。
(な、なんでこんなによろこんでるんでしょうか……)
 わからない。それが正直な感想だ。
 壇上にいる白姫も最初は熱狂ぶりをよろこんでいたが、最近はうんざりという顔を見せ始めていた。
(これは……ちゃんと話し合わないと……)


「そろそろじゃないですか」
 その日の夜、アリスは白姫に向かってそう切り出した。
 白姫は疲れた顔で、
「何がだし?」
「だから……白姫の計画がですよ」
「けーかく?」
「はい」
 アリスはうなずき、
「白姫、言ってたじゃないですか。アイドルになりたいって」
「言ってたし。『なりたい』じゃなくていずれ『なる』んだし。かわいいから」
「占い師を始めたのも、そのきっかけにっていうことでしたよね」
「そうだったんだけど……」
 複雑そうな表情を見せる白姫。
 アリスは言葉を続け、
「じゃあ、もういいじゃないですか。占い師はこれくらいにしましょうよ。悪いことをしてるわけじゃないですけど、なんだかこれじゃよくないような気がして」
「………………」
「白姫……」
 沈黙する白姫を前に、アリスは不安になる。
 彼女もこの状況に納得していないように見えていたのだが、実はまだ占い師であることに未練があるのだろうか。
「アリス」
 白姫が口を開く。
「みんなは……何をしにここに来てるんだし?」
「えっ」
 思わぬ問いかけにアリスは、
「何をって……白姫に占ってもらいに」
「………………」
「ただ白姫を見たいっていう人もたくさんいますけど。拝むだけでありがたいなんて言って」
「………………」
「イヤ……なんですか?」
「そうじゃないし」
 白姫は首を横にふり、
「……シロヒメじゃなくていいんだし」
「え?」
「占いをするのは他の馬でもいいんだし」
「そんな……」
 アリスは驚いて、
「そんなことはないですよ。みんな、白姫に占ってほしくて来るんですから」
「本当にそうだし?」
「本当にって……」
「たとえばだし。他にシロヒメみたいに占える馬がいたら?」
「それは……」
 アリスは言葉に詰まる。
「で、でも、白姫は白姫ですから」
「シロヒメはシロヒメだし」
 うなずく白姫。
「けど、みんなはシロヒメに会いに来てるんじゃない気がするし」
「えっ」
 アリスは息を飲む。
「白姫……」
「………………」
 そして白姫は、
「占いができて幸せをもたらす幸運の白馬。それはシロヒメのことだけど……でもシロヒメのことじゃないんだし」
「………………」
「シロヒメは……」
「……!」
 はっとなるアリス。
 白姫の目に涙がにじんでいた。
「シロヒメは……やっぱりこんなのイヤなんだし」
「………………」
「シロヒメは、シロヒメと一緒にいたいっていうみんなと一緒にいたいんだし。シロヒメじゃないとダメっていうみんなと一緒にいたいんだし。だから……もう……」
 痛いほど白姫の気持ちが伝わってきた。
 白姫の周りには、彼女を慕ってくれるたくさんの子どもたちがいた。
 しかし、占いが思っていた以上の盛況となってしまい、そんな子どもたちと会う時間もなくなっていた。
 馬は――孤独を苦手とする生き物。
 そして白姫にとって、身近に接してくれる子どもたちと、『ぷりゅ神様』を必要とする人たちとはまったく違っていたのだ。
「わかりました」
 アリスは言った。
「やめましょう、白姫」
「アリス……」
「大丈夫ですよ。みなさんには自分から白姫の気持ちを説明します」
「……ぷりゅがとう」
「それに芸能界に入るには他のやり方でも……」
「やめるんだし」
「えっ」
 戸惑うアリスを前に、白姫ははっきりと言った。
「シロヒメ、やめるんだし」
「やめるって……」
「芸能界に入って有名になることをだし」
 白姫はためらいなく、
「スポーツ選手にも占い師にもならなくていいんだし。シロヒメはシロヒメだし。そんなシロヒメが好きって言ってくれる友だちがシロヒメにはたくさんいるんだし」
「白姫……」
 アリスも涙腺をゆるませ、
「そうですよ。白姫の言う通りです」
「アリス……」
「帰りましょう……みんなのところに」
「ぷりゅ」
 こうして――
 思いがけず大騒ぎになってしまった白姫の『アイドル計画』は終了することになった。


 ――はずだった。
「なに、勝手に『終了』とか言ってんだしー」
「えええっ!?」
「シロヒメ、アイドルになるのをやめるなんて言ってないし」
「ちょっ……なんでですか!? 有名になるのはもうやめるって……」
「それは言ったし」
 うなずく白姫。
「まー、わざわざシロヒメから何かやる必要ないっていうかー。前にも言ったと思うけど、シロヒメ、ほっといても有名になっちゃうからー。かわいいからー」
「はあ……」
「けどいまは身近にいる子たちを大事にしたいんだし。だから、シロヒメ、テレビじゃなくて周りのみんなのアイドルになるんだし。ご当地アイドルなんだし」
「ご当地アイドル……とは微妙に違う気がしますけど」
「とにかくアイドルにはなるんだし! というわけでレッスンだし!」
「が、がんばってください……」
「アリスもやるし!」
「ええっ!?」
「言ったし、シロヒメとユニット組むって。アリスにはきっちりダンス仕込むし」
「ダンス!? いえ、あの、自分はともかく白姫は……」
「なめんじゃねーし!」
 パカンッ! パカンッ! パカララララララ、パカラララッ!
「これくらいは余裕だし」
「あ、相変わらずなんでもできますね、白姫は」
「なんでもできるし。賢いから」
「『賢い』のレベルを超えちゃってますけど……」
「さあ、アリスもこのステップをマスターするし!」
「ええっ!? 白姫みたいには無理ですよ!」
「それは当然だし。シロヒメ、才能あふれる白馬だから」
「そういうことではなくて、馬と人間は違いますから」
「だから、なんだし?」
「だから……えーと……」
「騎士と馬とは一心同体なんだし! だから馬にできることは騎士にもできるし!」
「一心同体って、そういうことではないと……」
「えー、できないんだしー? じゃあ、アリスは騎士になるの無理なんだしー」
「えええっ!?」
「まー、もともと無理だとは思ってたけどー。ダメダメだからー」
「そ、そんなことありません! 自分、やってみせます!」
「なら、さっそくやるし!」
「はい! えーと、こうやって……」
「ぜんぜん違うしーーっ!」
 パカーーーーーン!
「きゃあっ!」
「この足さばきがステップの基本だし」
「ステップじゃなくて、いまのはキックですよ!」
「いいからやるしーーっ!」
「きゃあーっ!」
 結局――
 白姫のアイドル熱はまだまだ治まりそうにないのだった。

シロヒメは未来のアイドルだしっ☆

シロヒメは未来のアイドルだしっ☆

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-10

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