CLOUD SIDE - prologue - (第1話)
星を救ったはずのライフストリームは、新たなる厄災を世界に降らせた。メテオを食い止めるために発動したホーリーと、地表から溢れたライフストリーム。しかしライフストリームの光の中に潜んでいた黒いナイフは、人々の体に刺しこみ、蝕んでいったのだ。
星痕症候群 --- 新たなる厄災。
ライフストリームに溶け込んでいたジェノバ細胞が、抵抗力の弱い者の体内に侵入し、鋭い痛みと共に体を蝕んだ。皮膚は黒くただれ、膿となって、最後は死に至らしめる。治療法の無い、恐ろしい病だ。
メテオが降って来た日、ライフストリームの強い光を浴びた者は、すぐに星痕症候群を発症し、数日で死んでしまった。人によって潜伏期間と発症するまでの間はまちまちだったが、ミッドガルに住んでいた者は特に酷く、その日1日を生きて行くのが精一杯だった。
ほどなくして、ミッドガルの近くに新しい町、エッジが生まれた。生き残った人々の希望と、強い精神力があってこそ出来た町だ。クラウドは、ティファとバレット、マリンの4人で、しばらくはエッジに住んでいたが、バレットの提案で、ティファは再びセブンスヘブンを開店させることになった。クラウドは店で使う食材を調達に遠出するようになり、徐々に客足も増え、セブンスヘブンの経営は順調だった。お店が安定した頃、バレットはマリンをティファに預けて「おとしまえをつける旅」に出た。それぞれが、大きな罪を背負って生きていくために動き出したのだ。
* * * * *
「ああ、そうだ。ちょっと頼んでもいいか?」
食材を手に入れたところで、男はクラウドに言った。
「なんだ?」
「あんたミッドガルの方へ行くんだろう? ついでと言っちゃなんだが、ミッドガルに居る弟にコレを渡してもらえないかな。住所は、ここだ」
一枚のメモ書きを手渡され、それを見て小さく頷き、クラウドは男から荷物を受け取った。
「これは礼だ、とっときな」
わずかだが、それはお金だった。
「でも、ついでだし…」
クラウドは、握らされたお金を見て言うと、男は苦笑を浮かべた。
「たいしたもんじゃない、気持ちだ。こっからミッドガルまでは、危険で出られねぇ。遠回りしてたんじゃ、気が遠くなる程の道のりだしな」
「分かった。じゃ遠慮なく」
「そうしてくれ。弟に会ったら、よろしく伝えてくれ。俺も元気でやってるって」
クラウドは頷いて答えた。
ミッドガルへ戻るには、バイクを使うのがほとんどだったが、主にレンタルだったり、時にはトラックの荷台に乗って移動することもあった。移動するトラックは、剣を背に携えたクラウドを見て、たいていはボディガード代わりに乗せてくれていた。
乗り物を乗り継いで、ようやくミッドガルに到着したクラウドは、男から手渡された住所のメモ書きをポケットから出した。メテオが降って来た影響で、町は瓦礫の山のように見えたが、瓦礫の横に家を建てたり、店を構えたりする者も多かった。それなりに、この町も生き続けようとしているのだ。
メモ書きの住所を頼りに辿り着いた所は、ミッドガルの壱番街があった場所だ。住所は、おそらくはメテオが降る前のものだから、そこに同じ人物が住んでいるかは分からないが、クラウドはとにかく人を探した。
元は立派な建物であっただろうが、3階建ての上は吹っ飛んだように壊れていた。1階と2階には人が住めそうだが、1階は大きなショウウインドウのように開けていた。そこに、1台のバイクを整備している男が居た。男はクラウドの足音に気づいて振り返った。
「あんた、ナリオっていう名前か?」
クラウドは不躾に彼に訊ねた。
「あ? 誰だお前?」
「ロイトという人から、荷物を預かって来た」
「兄貴から?」
どうやら、届け先に間違い無いようだ。クラウドは、預かって来た荷物を差し出した。男はそれを受け取ると、急いで中身を開けてみた。中身を見つめた男は、息を吐き出すように笑った。中身が何なのかクラウドには分からなかったが、彼が心安らぐような物だったのだろう。
「ありがとな、わざわざ届けてくれて」
「いや。それから、よろしく伝えてくれと言われた。元気でやってるから、と」
「そっか…」
男は嬉しそうに頷いた。
「ところで…」
「なんだ?」
「そのバイク……」
「ああ、コレか? フェンリルっていうんだ。もうちょっとで出来る」
「こういうの…造ってるのか?」
「まあな。元々俺は、神羅でバイク類のメカニックやってたんだ。ずっとミッドガルに居たから、あれから家族がどうなったのか分からなくて。俺、ただコレを造ることしか思い浮かばなくてさ」
「そうなのか…」
「ああ。噂で、ヒーリンに住んでる奴が、武器類を買ってくれるって話を聞いてさ、それならコレも買ってもらえるかもしれねぇって思ってるんだ」
「売るのか?」
「ああ。まぁ、まだ買ってもらえるって決まったわけじゃないが」
「いくらだ?」
「えぇ?」
男は眉をひそめた。あまりに性急な展開に、少々面喰らったようだ。
「お前、コレ売って欲しいのか?」
「……買えるかは分からないが」
「値段は決めてねぇけど、安いもんじゃないぜ?」
「金以外の条件ではダメか?」
「えぇ? そんっなに欲しいのか」
バイクがあれば、食材の調達も出来るし、トラックに乗り継いだり、バイクをレンタルすることも必要なくなる。それに、自分のバイクを持って移動することは、クラウドにとっては必要だった。
男は腕を組んで考え込んだ。荷物を届け、家族の無事を知らせてくれたクラウドには、ある程度の譲歩をしてやりたいと思っているが、彼も生活がかかっている。それだけでは、せっかく造り上げたバイクを譲ることは出来ない。彼は、クラウドの真剣な眼差しを前に悩んでいた。
「ナリオ、居るか?」
そこへ、突然の訪問客がやって来た。その男は、ナリオと同じ神羅のメカニックにいた者だった。
「よぉ、どうした?」
「あれ? 来客中か? 珍しい」
入って来た男は、クラウドを見て指差した。
「あ、あんた、セブンスヘブンの旦那じゃねぇか?」
すっかりティファの店も有名になっていたようだ。クラウドはそこに住んで居るのだから、見覚えられていてもおかしくはない。
「え? 噂のティファの旦那って、お前のことなのか?」
ナリオがクラウドを指差すと、クラウドは首を振って答えた。
「旦那じゃない、ただの幼馴染みだ。俺には…」
言いかけて、クラウドは口を噤んだ。クラウドの気持ちは、彼らには関係のない話だからだ。
「なーんだ、違うのかよ」
男達は、嬉しそうに肩を叩き合った。
「なあ、さっき金以外で、って言ったよな?」
「ああ」
「一生、ただでセブンスヘブンで飲み食い出来る権利ってのはどうだ?」
今度は、ナリオに提案されたクラウドが悩んだ。セブンスヘブンはクラウドの店ではない。食材の調達を手伝ってはいるが、ティファが切り盛りしている。しかし、目の前にあるフェンリルは、どうしても欲しくて仕方が無い。結果、クラウドはティファに許可を得るべく、電話をかけることにした。クラウドは理由も言わずにティファに訊ねたが、彼女はあっさり許してくれた。
「よし、これでフェンリルはあんたのもんだ。これも何かの縁だし、整備があれば、安くしてやるよ」
「改造も出来るか?」
「もちろんだ。急いで仕上げるから、ちょっと待ってな。乗って帰りたいだろ?」
クラウドは、久しぶりに笑って頷いた。
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