茸の惑星

茸の惑星

茸短編SF系小説です。PDF縦書きでお読みください

 太陽が燃え尽きようとしている。水星、金星はすでに冷たく凍りつき、地球もまさに熱がなくなろうとしている。地球上の生き物は、ウイルス、細菌類をのぞいて、皆死に絶えている。もっともはびこった生き物である人間という動物は、それでも、宇宙船団をしたて、銀河系の他の星に向かって長い長い旅に出てしまった。
 人間をのせた宇宙船団はいくつかの星によりながら、新たに住める星を探して移動していた。しかし順調だったのも飛び立って、わずか二百年、人間にとって五世代目が船の中で生れた時である。宇宙は広い、運が悪いというのであろうか、奴隷が必要だった文明に遭遇してしまった。船団は捕まり、ことごとく、人類は奴隷の位置におかれてしまった。ほとんど精神しか持ち合わせていないその異星人は、物質に中心が置かれ発達してきた人類には計り知れない生きものであり、脳に忍び込まれた暁には、すべてを自由にされてしまったのだ。その星の住人は人類の頭に生じた幸せの部分をすべて吸い取って養分としたのである。人間はからだの維持のために必要な物質的なものは十分に与えられたが、ちょっと幸せになると吸い取られ、いつも不満、不安という精神的苦痛の中で生活をすることになってしまった。
 人間が飛び去って、もう一万年になろうとしている。
 太陽系の運命はこれからである。人類が旅に出た地球上では、寒いながらも、新たな生き物が進化をしてきた。予想されていたことではあるが、鼠の仲間が動物界に君臨した。小さな鼠の脳は発達し、前足に新たな機能が生じ、人と同じような指をもつことができた。それにより、人が残していった彼らにとっては巨大な建物を修復することが可能になり、一大鼠王国を築いたのである。猫と犬、それにほかの生き物たちは、鼠に飼われる家畜として生き延びているにすぎなかった。
 しかし、鼠も人を超えることができなかった。地球から外にでるところまで能力は発達しなかった。冷たくなった地球上で、ほかの哺乳類と同様に土の中に埋もれて消滅していった。太陽の光が弱まり、植物の酸素を生み出す力は落ち、空気の少なくなった地球上で、植物は枯れ、人の残したコンクリートや金属の建物はことごとく崩れていった。土に化したのである。本当に地球になった。
 細菌やウイルスも熱を必要とする種族はすべて土として溶け込み、かろうじて、冷たいところでも生息できるものたちが、まだ少しは温もりのあるマグマであった地球のコアに向かって住む場所を移動していったのである。
 一つ元気に生きている種族があった。地中にはびこっていた菌類である。いろいろな茸になる菌糸が絡み合いながら、細菌類と同じように、地中深くに延びていき、何層にもなって発展していった。面白いことに、茸の種族同士の争いはなく、編み目のようになって、何千種もある茸が菌糸を融合させ地中深くに伸ばしていったのである。
 その状態は何千年もの間続いた。菌糸はだんだん寒さにも耐えうるような性質を帯び、地球は菌糸にのっとられるような形になった。地球のコアの火も消え、太陽の光もほとんどなくなった頃には、地球は冷たい土の固まりにすぎなくなった。
 土の中の水は氷つき、地球は膨らんで大きな球体となり、表面の空気中の水分が凍り付き、水の惑星が氷の惑星へと変わり果てていった。太陽系は暗い死んだ星の固まりになったのである。
 ただ、地球の中の菌糸は冷えきった土の中で少しずつ先を伸ばしていた。一部の菌糸は植物の細胞を取り込み、緑色になっていた。
 そんなある時、銀河系の奥から飛んできた星のかけらが太陽系に入った。地球が作られていく過程で隕石群が飛来したといわれる。さらに、生きものが繁栄し始めてから、大きな隕石が落ちて地球上から恐竜が亡びた。その時と同じように、太陽の方向からきた月ほどの大きさの星の欠片は、炎をあげながら、氷の固まりとなった地球に衝突をした。
 ところが、その星のかけらは、凍り付いた地球に撥ね飛ばされ、また、太陽の方向に戻り始めたのである。
 その反動は大きかった。地球は、玉突きのように、太陽系のはずれに向かって、動きだしたのである。ただ、その動きはゆるやかなもので、海王星をすぎ、冥王星より外にでるのに。何万年かを要したのである。
 それでも、冷たい地球は銀河の中をゆるゆると氷が溶けないほどの速度で移動していった。その間に、いくつかの恒星の圏内にはいったりすると、氷が溶け、水は空間に流れ出してしまった。やがて土も粉になりながら、宇宙空間に消えていった。地球内部では、それでも菌糸が伸び続け、地球は茸の菌糸の玉となりながら、球体を保ち、宇宙空間を浮遊していった。
 そして、何億年かを経て、菌糸の玉となった地球は、一つの若い恒星の重力にとらえられることになった。太陽に似て熱を放っていたが惑星をもっていなかった。地球が太陽から得ていたよりかなり弱い熱ではあったが、茸たちにとって好ましいものであった。その頃、緑色の菌糸は酸素をつくっていた。葉緑素を持っていたのである。
 大気には酸素が増え、菌糸の玉となった地球の表面からニョキニョキといろいろな種類の茸が生え、傘を開いた。
 元地球の表面は色とりどりの茸で埋め尽くされたのである。
 地球は茸の惑星になったのである。
 茸たちは思い思いに傘を開き、胞子を大気の中に放った。胞子は発芽をして、空中で菌糸を出し、菌糸同士が絡まって玉になった。そこでまた数十億年が経った。
 やがて地球の大気中にいくつもの菌糸の玉が浮かび、大気から飛び出した。飛び出した菌糸の玉は恒星の周りをまわる惑星となった。元地球だった茸星は茸の惑星を生み出す星となった。地球は恒星の周りにいくつもの菌糸の惑星を誕生させた。その恒星は茸の惑星をかかえる中心の星となった。惑星たちは茸を表面に生やし、胞子を宇宙空間に放出した。やがて、空気のない宇宙空間でも茸の星が作られ成長し始めた。
 宇宙空間で育った茸の星は,回転しながら、周りに広がって行った。
 こうして、新たな銀河系、茸星雲が誕生したのである。恒星が死滅しても、この星雲は存在していた。茸たちが光を必要としなくなったからである。
 この星雲の星は菌糸でできていた。みな生き物ということになる。
 太陽系は生命を生み、茸の星を生んだ。そして、生き物だけで作られる星雲をつくった。生物が星になった宇宙で唯一のできごとである。
 

茸の惑星

茸の惑星

地球が滅亡するとき、茸の惑星が生まれた。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-07-06

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