*星空文庫

わずらい

一色亜月 作

風邪をひいたと思った。

熱があるように感じた。食欲もなくて身体が重かった。受診をして、踵をひきずりながら歩く。薬局へ薬を取りに行かねばならない。

薬局は病院に負けず混んでいて医者のようにふんぞり返った白衣がえらそうに薬の説明をしている。医者の受診と同じような質問と説明。こんなものがなければこんなに混まないのだけど、白衣にとっての自己顕示欲に誰もが抗わず従う。自分の番がきて伏し目のまま低い短い声で、イエス·ノーだけで流したら白衣が粛々と薬を出した。
渡された薬のシートにはドライバーとハンマーとネジとバネがパッケージングされていた。変わったチョコレートかと思った。ふざけてるのか?はじめて白衣に目をやると、白衣はこれがあなた様に処方されたものです、と老眼をかけ直しながら処方箋を見る。
「『ハンマーで惚けた頭を叩き幾つかなくなったネジをドライバーで締めてもうひきずらないように踵にバネをつけて飛びなさい。』だそうです。」

風邪ではないようだ。
医者というやつはほとんど病名をいわない。
さっきの医者もそうだった。んー、そうですかー、わかりましたー、あー、はい胸出してーええ、はい吸ってー、吐いてー、んー、はぁ、えっと…、もう胸をしまっていいのかどうかもわからないままカルテを書く医者を眺めてマヌケにシャツを肌から浮かせていた。あまり医者や薬に頼らない者としては何かしらの告知が欲しい。その裾野が広くて風邪のようなそんな感じのやつです、とでは医者のプライドが傷つくということなのか。病の原因も名前も当の本人が知らないでは何時間も待って病院に行った意味がない。それでも症状に合わせたスペシャルでオリジナルなのをお前にくれてやったからそれ飲んでさっさと治しな!とでもカルテに書かれているのか。ドイツ語ではわからない。

病は気からというのならついでにそのわずらいを二度と反芻しない酒くらい出せるはずだろうけれど、医者に酒の免許はない。恐らくは他力本願ではままならないということだろう。

確かに今の自分にはちょうどいい、気の利いた薬でネジをしめる。

医者でも壊れた時間はなおせないらしい。

『わずらい』

『わずらい』 一色亜月 作

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-06-24
Copyrighted

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