終焉に捧げる小夜曲 epilogue5 ~If...~

――あれから時代(とき)が経ちようやく幸せを掴みかけた物語のエピローグ


epilogue5 ~If...~

全て失って最期に伝えて 忘れられない思い出なんていくらでもあった
けれど自身の甘さがこうしたのだから それは私自身がよく知ってる
――…だから またいつか逢いましょう
そうして次に目を覚ましたらあの人達は私を待っていてくれた
欲張りだけれど、もし叶うとしたら私は   たい。

ずっとずっと待っててくれた2人に

『貴方はまだ向こうでの自分を引きずっているんですか!?』

そう言ったあの日から、私は斎藤さんどころか栄太郎さんとも会っていない。
少し前までは、にぎやかで楽しかった日常が壊れた。
7月末の暑さから、既にもう鈴虫が鳴いている季節へと移り変わって 私は1人取り残されて。
寂しい夜をまた泣きながら過ごすとその最中、携帯が鳴っている。メールではなく電話で
「もしもし」
「…秋月」
聞こえた声は、あれ以来聞いていない低い声。
「斎藤さん…?」
「済まないな、最近顔を合わせてなくて。」
と言いつつ、「仕事が溜まっててな」と付け足しては沈黙。
「…用がないなら切りますけど」
「否、1つだけ言いたい事がある。」
何なのだろう?多分仕事の事は嘘だって分かってる なのにこんなに時間が経ってから何を言いたいのかさっぱり解らなかった
「明日、予定はあるか?」
そう言われ、スケジュール帳を見るけれど予定は何もないが、たった1つの丸印。明日は私の誕生日
「ないですよ」
「…分かった、少しアンタに見せたい物がある。午前10時に駅まで来てくれ」
突然言われた言葉と、切れた電話。ただただ解らず、取り残された空間の中 私は眠った。

「…」
突然の電話 今、言うべきはこの言葉だけ。明日になればきっと解る ただ彼女が来てくれるかどうかが解らない
月が暗く、青と紫の交った空の中。不安を促すようなこの空から逃げるかのようにカーテンを閉めた。

 ・ ・ ・ ・
『アンタに見せたい物がある。午前10時に駅まで来てくれ』
そんな信じられるかどうか解らない言葉を聞いては私は斎藤さんを待っていると、もう既に彼はホームに影の様に佇んでいる。
「あ、斎藤さん…。」
どうして?これは嘘じゃなかったの?そんな風に考えていると強引に腕を引っ張られ、気付けば新幹線の中。
「ねぇ」
何でこんな時に会おうとしたんですか?と言おうとしてやめた。斎藤さんはただ、走り移り行く景色を眺めているだけなのだから。
「秋月」
「ん…」
ふと名前を呼ばれ、目を擦ればどうやら寝てしまったらしい。けれども斎藤さんは「行くぞ」とだけ言って、ここから降りた。
駅を出て、見て見ればそこは懐かしい景色。1年前まで、ずっと見ていたこの街。
「わぁ…京なんて久々だなぁ」
「ああ」
そう言われては、馴染んだ京の街を歩くけれど もう、あの頃の面影はどこにもないし最初に訪れた壬生村の屯所など『跡』でしかない。
「…ここが、俺の始まりだった。先が何なのか分からずに踏み入れたこの場所。結果的には俺達(新撰組)はこの時代の徒華程度の価値」
確かに、新撰組が辿った道は『破滅』でしかなかった。時世という波に呑まれて沈んだ華
「それでも俺は、ここにいるのだと信じた。」
と今にも泣きそうな表情で、そのまま屯所を出て街に出るが、栄太郎さんと来た着物屋も小間物屋も、斎藤さんと一緒に来た蕎麦屋すらない。
「…もう、何もかも無くなっちゃたんですかね。」
「『何もかも』じゃない」
たった1つだけある 思い出の場所――斎藤さんと初めて会った川辺
「ここ…」
「解っているだろうが、俺は仕事が溜まってた訳じゃない。ただ、もう消えた場所を辿ってここに来た。あの池田屋はもう影すら見えんが、数珠を持って斬った者へほんの懺悔も済ませた。」
「そう、ですか…。」
ただせせらぎ、夕暮れ時になる時に一瞬だけ強い風が吹き抜ける。
「きゃッ…!」
両手で押さえては止む事のない風が、一気に駆け抜ける様な感覚と温かい感触が私を包んでいる。
目の前が真っ暗で、何も見えない。でも、心臓の音だけが耳を離さない。
「あの頃の俺は、何もできなかった。」
上から響く斎藤さんの声
「敵と知っていても、離せずに結果的にアンタを傷つけて…どこへ行ったのか追っても影はどこにもなかった。」
なんだろう、すごい心臓の音が五月蠅い。
「でも、捕まえた。」
すると、ようやく自分の背に斎藤さんの腕がある事に気が付いて、風に乗った言葉と共に目を見開くのは10秒後。

「愛してる」

たった5文字のメッセージ
私を追って 私は斎藤さんを追って、最期に辿りついたのは会津と言う遠く遠く離れた場所。
何でだろう?なんで上手く声に出せないのだろうか
逢いたかった ずっと探してた
今はすぐ、こんなにも近くにいるのに。
「わ、私は……。」
焦がれた人を守ろうと――……
「秋月、言葉は…。」
貴方の事を ずっと
「あの遠く離れた会津の地で、貴方に信念を言った。」
けれども、この言葉だけは伝えきれなかった。だから今、震える声に変わって。
「『一さん』が好きです」
「……今」
今度は貴方が目を見開いて 腕を振りほどいて
「やっと見つけられた、ずっと追いかけてた背中に。また逢いたいとあの地で願って」
すると、3人で過ごした最後の日の様に少しだけ微笑んで。 温かい感触を、唇に感じた。
初めて会った、思い出深いこの場所で。
「…でも」
――もし叶うとしたら…

「……」
煙草の匂いが立ち込めたこの場所で、俺はボールペンを握っては手を走らせる。
フー、と紫煙を吐き出せば明るい天井。
もう変わったのだ、俺は。この時代は。だから割りきらなければならない――もう慣れているじゃないか
『我慢』と言う感情を それを押し殺せる事さえも
けれど、彼女の笑みだけが俺の心を捕えて離さない。
その瞬間だった
携帯のディスプレイを見れば、『秋月言葉』と記されている。途絶えない音が五月蠅くて仕方ないのに。
だから、もう1度だけ心を押し殺して。
「もしもし」
「吉田か?」
「……」
何してるんだ、お前は。俺の一時の感情を返せ、この阿呆。
「秋月がお前に言いたい事があるらしいが、今はいないんでな。携帯を預かってる」
「んで、何の用だ?」
もう、午後6時を過ぎては辺りが暗くなってきているというのに。
「海浜公園で待て…との事だ。すぐに来い」
「だから何の用だと…!」
「今に分かる」
あの日、立ち合った場所で自分が言った言葉をそのまま返してくる。糞…本当に相手にするのも疲れる相手だ。しかし、これはこれでいいのだ。
斎藤が俺をどう思っているか知らんが、俺の理屈、言いたい事さえも全て理解しているのだ。頭ではなく、本能で。だから何も言わずだとしても割と付き合いやすいが、多少あのいきなり佇む癖だけは止めて欲しいものだ。忍はお前は。
そう言われ、切れた電話。鍵と携帯、そして煙草とライターだけを持っては家を出た。だが、どうやら俺の計算が狂う。
「…はぁ」と溜息1つ。家から遠いこの場所に呼び出して置きながら既に2時間は経過している。
煙草を取り出し、火を付け吸っては吐く。その瞬間だった
目の前にあった噴水がもう一回りある噴水を包んでは、ライトアップ。終わればそこには、秋月の姿。
「秋月…お前は……」
何を言いに来たのだろう?アイツ(斎藤)との事か…と考えているとすぐに後ろに斎藤の姿が。すると秋月が頬をいきなり抓り、髪を触っている。
あまりにも限界を超えそうな怒りを爆発させようとした瞬間に「よし、異常なし。」とだけ呟いた。
「は…?」
「うん。栄太郎さんは確かに色白だし、髪も文句なし…」
「お前、何言って……」
と答えた瞬間、ヒュンと斎藤が何かを投げつけ、受け取るがただの銀色のチェーンだった。正直言ってこいつらが何をしているのかさっぱり分からない。すると秋月がチェーンを奪っては「よいしょ」と言いつつ、言葉を続けた。
「私、一さんの髪は触ったことあるんですけど、栄太郎さんはないんですよね。」
「何の話だ」
突然のどうでもいい告白に呆気を取られていると、秋月は「屈んでください」と言いがら首にチェーンを通す。首の大きさより少し余裕をもった長さと固めな作り、そして目に入ったのは赤い石とシルバーのリング。
「これは…ガーネット…?」
「意味は解ります?」
「否…」
俺はそういう物に一切興味もないし、金銭的な意味でもそんな物とは無関係故に意味など分かりやしない。すると秋月は笑いながら答えた。
「『変わらない愛情』と『深い絆』ですよ」
待て、お前は確か斎藤の事が好きなんじゃないのか?と問いかけようとした瞬間、今度は斎藤が俺にまた何かを投げつけ、見て見れば同じ作りのネックレス。
無色透明の石の側には同じくシルバーのリングだが、俺のは右で斎藤のは左。
「俺のはムーンストーン、意味は『愛を伝える』。」
「それが一体どう繋がる?」
と困惑しながら、2人に尋ねてみると秋月は、「その指輪の位置を見て下さい」と言っては、話を続ける。
「そのシルバーのリング、栄太郎さんのは右で一さんのは左でしょう?」
「見れば分かる、だがこれはどういう意味だ?先程から気になっていたが、斎藤の呼び方が名前ではないか。」
そうだ、この間までは『斎藤さん』と呼んでいたのに今は……。
「栄太郎さんには変わらない愛情と、深い絆。リングの位置は相手への願いだと言う事ですよ」
「は…?」
変わらない愛情と、深い絆。リングの位置は相手への願い?どういう事だ?本当に何が何なのか分からずに困惑して口を開いた
「秋月、じゃあお前は斎藤を… 「最後まで人の話を聞いて下さい」
と言っては、コホンと咳を吐き そのまま言葉の羅列が続いて行く。
「斎藤さんには互いに愛を伝える、リングの位置は信頼と相手への想いを。」
「じゃあ、これは……」
そう呟けば、秋月はこちらを見て俺の頬に再び触れる。
「栄太郎さんは、昔から言いたい事が顔に書いてあるのは十分承知ですよ?」
――もし、願いが叶うなら……。
「私は確かに2人の心の間で揺れています。でも…」

「再び瞳を開いたら2人達は私を待っていてくれた、欲張りだけれど、もし叶うとしたら私は2人を愛したい。」

絶句 その瞬間に秋月は俺と斎藤の腕を引っ張って
「結婚は出来ないけれど、それでいいんです。私は私のまま…『秋月言葉』でいたい」
「指輪の大きさは解らないからこうなってるんだけれどな」
そう、斎藤(友)も微笑んで。
「ちょっとぐらい、傲慢でもいいじゃないですか!」
秋月も笑みを絶やさずに、俺も自然と笑みが零れた。

もし願いが叶うなら 私達を一生このままでいさせて下さい 神様

fin.

終焉に捧げる小夜曲 epilogue5 ~If...~

どうも閲覧ありがとうございます

ようやく現代編最終章です
長いものでしたね、ここまで……。書き手としてもご覧になっている皆様にとってもそうであったと思います
ある意味これで何とか纏まりましたね

それと余談ですが、実はこれの番外編と謎の15話があるんです。

しかし一通り話は終わったので、これを踏まえてこの2つを見るか、そのまま放置か……どっちでもいいです。
始めに言いましたが、やっぱり最後だけはポジティブに行きたかったのでこれででも十分ハッピーエンドを迎えちゃってますし。
とりあえず、この『終焉に捧げる小夜曲』を読んで下さった皆様に感謝いたします。

残るは番外編と15話のみですね
なのであとがきの方もあっさりとさせちゃいます

では皆様次は別の作品で会いましょう

終焉に捧げる小夜曲 epilogue5 ~If...~

――幸せから一転、沈黙が訪れた日。 ようやく戻りかけたそんな日にたった一本の電話 非日常と日常の狭間 これは2人の最後の話である

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-20

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND