終焉に捧げる小夜曲 epilogue4 ~Re~

――あれから時代(とき)が経ちようやく幸せを掴みかけた その第四章


epilogue4 ~Re~

午後1時、ベルの音と同時にドアを開ければ、そこには栄太郎さんの姿。
「…その恰好でいいのか?」
「はい?」
栄太郎さんも流石に季節が季節の為、7部袖の服を着ているが私の恰好と言えば、短パンと同じく7部袖。
ああ、まさかこの人が言いたい言葉は……。
「…よく学校にいません?この季節、みんな短パン程度履いてますよ?」
「でなくてだな…」
なんてがくり、としている栄太郎さんを前に私は一言呟いてはまたドアを閉めた。
「…素肌など、けしからん。」

 ・ ・ ・ ・
「わぁー、ここで斎藤さん働いているんですかー。」
と大きなレジャー施設のような建物を見ては栄太郎さんが側にいる
栄太郎さんは幾度かここに来た事があるみたいだけれど、私は初めてだった。
「迷うなよ、このまま階段を上って、左側に行けば通して貰える手筈になっている。」
「右には何があるんです?」
「繁華街だ、一応ここは借り物だと聞いているし、本部は東京内だが、ここは分家。一階はプールだからこのまま行くぞ」
そう言われ、駅のような入口にはスタッフさんがいて今、栄太郎さんが話を通して、すると2枚のカードを貰う。
「これは?」
「パスポート兼鍵だ。失くしたら一大事だから、しっかり仕舞っておけよ?」
と2人で入口を潜ればまさにそこは迷路だった。突然女性がタオルを巻いたまま出てきたり、色んな方向から声が聞こえているやら何やらで。…ここも碁盤の目ですか?斎藤さん
まぁでもすぐ傍には栄太郎さんがいる訳だし、きっと迷うことなく斎藤さんのいる場所に辿りつくだろう。すると、道場への入口があり、そのまま入ろうとするが、栄太郎さんはここで停止する。
「秋月、お前は入口の看板の奥まで行っていろ。すぐ追いつく」
「は、はい。」
何が何だかとっても分からないけれども、数分もすれば懐かしい栄太郎さんの姿。
「えー!これ自分で買ったんですか!?しかも足袋まで!」
栄太郎さんは確か1人暮らしをしているが、アルバイトはしていない。親御さんがどうやら仕送りしてくれてるらしいけれども案外生活難だと聞いたのだが…
「自前だ」
……どこまで出来るんですか、この人。
なんと思いながら道場に礼をして入ると、少し歳を取った中年のおじさんがこちらを見ている。それに社交辞令の笑みを浮かべる栄太郎さんの後ろに付いて行く。
「お待ちしていましたよ、吉田君。斎藤君の稽古を見たいだなんてもうどれぐらいかねぇ…はて、そこにいるお嬢さんは?」
「初めまして、私斎藤さんの友人である秋月と言います。」
と答えれば顎をしゃくりながら「そうか、そうか」と笑っている
「斎藤君は剣の腕はいいんだが、友人など君らが初めてだ。まぁ、稽古が終わるまでゆっくりしていきなさい。」
そう笑うおじさんに私は1つだけ疑問を持った。今日斎藤さんの務め先に行くぞと言ったのは栄太郎さんだけれど、何故?しかも動きやすい恰好?栄太郎さんのこの姿…まさか……。
「す、すみません。もしかしてこの恰好からして私達は訓練にでも来たのでしょうか?」
「そうだねぇ、吉田君はここに見学にくるが稽古はしに来た事ないよ。それに君達の稽古代なら、斎藤君から受け取っているわけだしなぁ」
なんて笑う中年のおじさん、否恐らくこの人はここの道場の総占め。言ってしまえば、斎藤さんの師匠とも言える人で。
「え、ちょ 待った!栄太郎さん!」と話しかければ普通に「何だ?」と答えられる。
「栄太郎さん、斎藤さんの実力…知って来ているんですか?」
向こうで、経験もしているのだけれど斎藤さんは、そこらの剣客…否、人斬りと言われる存在と敵対しても一太刀で斬り伏せる程の腕であって、本当に池田屋での討ち合いは奇跡に近い。
「ははは、確かに斎藤君は若いながら本家に入門した時点で、2段は取っているよ。」
「2段!?」
そうだ、冷静に考えれば今は居合い稽古だけれども あの腕では入門した時点で師範代に届く実力はあるだろうと思っていると、先生は「まぁまぁ」と声を掛けてくる。
「驚かずによく見て御覧、彼は殺気もあるが教えるのも、相手の腕を見込むのも巧い。」
という言葉にじっ、と見ていると確かに教科書通りの動きをしているし、『気迫』は合っても『殺気』はない。やっぱり才能の所為か、やる事はやっている。
「次、2の裏切り垳!」
「…綺麗」
他の門人さんなんかに目も向けずにただじっと斎藤さんを見続ける
果てもうどれくらい経ったのか分からずに、気付けば門人さん達が礼をして帰り支度をすると同時に斎藤さんもこっちへやってくる。
「大先生、今日は有難うございました。」
「何、他の段持ちの門人は私が見る役目だが、この間も本部から連絡がきてなぁ。」
「…その件については幾度もお断りしていますが」
「成程」と言うと、おじさんは私と栄太郎さんに居合い刀を渡しては笑っている。
「さ、私が立ち合おう。まずは、吉田君だったかな?」
「ええ」
とだけ短く答え、タオルで汗を拭く斎藤さんとすれ違うと「待て」と呼びかけられては、止まると斎藤さんはカシャン、と何かを床に転がした。
「…こんな物(盗聴器)で俺を騙せると思ったのか?」
「今に分かる」
そうしている内に、道場の真ん中で2人は礼をして、正座をしては刀を置き、もう1度礼をすると刀を下げては、抜刀。
「始め!」
と言う声が道場内に響くとも互いに動かず、殺気がこの場を包んでは他の門人さん達も視線を向けている。恐らく、こんな斎藤さんを見るのは初めてなのだろう。
「…止めておけ」
「剣は交えてないぞ、斎藤。」
「アンタじゃ一太刀で終わるぞ、あんな物を仕込んでここでも足掻くか。」
「怖いのか?惚れた女が見る中、負けるのが。」
――声が聞こえない でも、殺気だけが増して眼光はあの頃のまま。そうして、栄太郎さんが踏み込んだ所で、太刀を下げ、まるで軽やかに舞うかのように一閃。
「そこまで!」
ざわざわと響く中、気付けば門人さん達はさっさとこの場から姿を消していた。すると、おじさんは私に声を掛けてくる。
「…斎藤君が何故、本家に行かないか解るかい?」
「え?」
突然の問いかけに困っていると、「秋月」と斎藤さんの声が響く。するとポン、と肩に手を置いて「君の番だよ」と視線を送っている。
「…さっきの事は、後で教えよう。」
そうしてそのまま、栄太郎さんの真似をしながら構え抜刀…そんな時にふと気が付いた。
斎藤さんは左利き。でも本来刀は左に下げる物、でもあの時代で刀を右に下げるのは笑い者となる。けれど斎藤さんは左利きでありながら、左で抜刀する。
右利きの人間なら上に右手、左は下。だが斎藤さんは抜刀と共に右手を一瞬にして下げ、同時に利き手である左手を持ってくる。これが、斎藤さんの強さを物語る結果でもあるけれど。
「…懐かしいですね、この殺気。」
川辺での稽古と、池田屋での出来事を思い出す。あれは正に耐えがたい物ではあるけれど、『それを』感じながら斎藤さんは向かってくる。
袈裟斬りを青眼から上斜めに刃を向け、止めると、そのまま一文字の切り替えにギリギリ一歩手前で下がっては次は逆袈裟斬りへ。
「よくやるな、では」
「はッ!」と同時にあの時(池田屋)私の様に横薙ぎ、それを片手で防ごうとするが、これは女と男の力量の違い。真剣であれば力具合で刀は折れるけれど、これでは意味がない。
その時に「ぐッ…」と声を上げそのまま上に上げ、突きに転じる所で叫んだ。
「逃がさない、貴方だけは!」
池田屋で言った言葉、そして今こう言うのには意味がない。何故なら――……
「臆するものか!」
と言っては間合いを詰め両手での袈裟斬りで防いだ。やるべきは、今!
「…貴方は!」

「貴方はまだ向こうでの自分を引きずっているんですか!?」

と言う言葉と同時に斎藤さんは目を見開き、動きが一瞬鈍くなる。
そうだ、私と斎藤さんは 今まで幕末で起きた事の全てを引きずっていると栄太郎さんが気付かさせてくれたのだから。
確かに私は栄太郎さんが死んでは、斎藤さんに断罪される為…せめて狼ではなく武士の志を持って生きて欲しいと伝える事で、戦いを終えた。
けれど斎藤さんは、それを誰にも告げることなく、剣の道を極めているものの感じていたのは『罪』。
その瞬間、斎藤さんは斎藤さん『自身』を取り戻して、綺麗に横薙ぎを そして私に敗北を。
すると、おじさんはパチパチと拍手を送っていた。
「お見事、見ていてこちらも何だか元気を取り戻したよ。さて、さっき斎藤君が本家に行かない理由を教えよう。」
それを聞き斎藤さんは、そっぽを向いているが おじさんはたった一言だけ言った。
「大事な人を守る、それだけの理由だ。」
「大事な、人…。」
「彼はここの剣術も、柔術も教えているが、ここの流派は『無外流』。例え、居合い刀や木刀でさえ人を如何にして斬るか…それだけを考えている。聞けば物騒だが、彼はその危険を晒してまで大事な人の傍にいたいのさ。」
そう述べていると、斎藤さんは相変わらずそっぽを向いているが、顔が赤い。すると栄太郎さんが斎藤さんに声を掛ければ、一瞬にしてまた白い肌に戻る。
「斎藤、これで分かっただろ?どうして俺がこんなくどい真似をしたか」
「…アンタにとって秋月が大事だからだろ?」
と言う答えに栄太郎さんは目の色を変え…え、ちょ これ確か高杉さんと初めて会った時の…。
滅茶苦茶キレている時の顔!!
「斎藤君、片付けは私がやっておくから君は…」
おじさんがそう言った瞬間、道場に残されたのは3本の居合い刀と私達の荷物。
「…いい友達を持ったもんだ」

「ちょ、栄太郎さん着替えるのは良いんですけど何で私達は捕縛されてんですか!?」
「吉田、アンタは何の真似をしてるんだ?」
ああ、怒ってますよ。怒りMAXですよ、っていうか斎藤さんいい加減空気読んで!
なんて考えている内に私達は1階の公共用プール施設に連れて行かれ、栄太郎さんの声が響いた。
「秋月…お前は『何故、こうなっているか』と言ったな?」
その声音に斎藤さんも「まさか」と言う顔で反応している
「頭を冷やせ阿呆共ッ!!」
と、そのまま私達は場違いな住人としてプールへダイブ。ああ、懐かしいなコレ……今度は私1人じゃないけれど。
その後、プールから上がると栄太郎さんは2枚のタオルを持ってきてくれたけれど斎藤さんは稽古着、私は私服。
再びロッカーまで戻ると、斎藤さんはそのまま稽古着を脱ぎ始める。
「ちょ、斎藤さん!」
と叫んでくるりと斎藤さんに背を向ければ、バサリと何かが頭上に。
温かい感触に戸惑いつつ、斎藤さんは変えの稽古着に着替えロッカーを閉めた。
「着ておけ」
1年前に聞いたこの言葉 けれど今度は無表情ではなく、微かに微笑んで。
「ありがとう、斎藤さん。」
私も同じように、彼に笑みを浮かべては答えた。

comming soon...

終焉に捧げる小夜曲 epilogue4 ~Re~

どうも閲覧ありがとうございます

ようやくシリアスから脱出して真剣モードまで来ました。
けれど吉田さんの「…素肌など、けしからん。」と「頭を冷やせ阿呆共ッ!!」発言はアンタいい加減幾つだ!!と内心ツッコんでいます(笑)
というか確か吉田さんは剣道も優秀だと史実で残されているんですが、新撰組内で1、2を争う斎藤さんとサシじゃ参るのも納得いくのに、話の流れとは言え、ヒロインがチート過ぎました……。しかし、結局は余裕の勝利。

そして道場へ置いてきた荷物はどうした!?

では引き続き第五章もどうぞ

終焉に捧げる小夜曲 epilogue4 ~Re~

――今という平穏な時間が流れている中に翳りが未だに残る 差し伸べられた手を1度放してはふと思う 非日常でありながら、日常である現代での葛藤。 これは第四章 2人の男と意志を決め込んだ女の話である

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-20

CC BY-NC-ND
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