あの温かな巣には還れない

燕の父さんが
燕の母さんが
あちらへ こちらへ
人混みの中を飛び交って
あちらに こちらに
沢山の家族があって
温かな巣があって
沢山の可愛い子供たち
ぴーちく ぱーちく
黄色い口を大きく開けて
餌を強請る これでもかと

私にもそんな巣があったはずなのに

見上げて思う
私はきっと この巣の下に落ちた
偽物の雛だった
カッコウのように
偽物の雛だった
だから落とされて割れた卵の中から
気持ちの悪いバケモノが生まれて
それが 私なんだ きっと

だからもう
あの温かな巣には還れない
死なない限りは 還れない
かえりたくも ない 醜い巣の中に
私は未だに幻想を抱いている
餌を欲して真っ赤な喉を開いている

あの温かな巣には還れない

あの温かな巣には還れない

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-06-21

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