終焉に捧げる小夜曲 epilogue3 ~Regret~

――あれから時代(とき)が経ちようやく幸せを掴みかけた その第三章


epilogue3 ~Regret~

『だったら何でこっちのあいつを見てやらない?結局お前は昔の自分を見てくれた姿…否、言い残した事だけで生きてるのか。笑わせるな』
「――ッ!」
あの日見た光景と、頭から離れない一言に思わず起き上がり、額に手をあてた。
「嘘だ…」
どこかで俺の名を呼ぶ声に思わず、涙が止まらない。
そうだ、俺はいつも何処でも同じだ。
「…俺は…!」
困らせたくもないのに 苦しい想いなどさせたくもないのに
「…そしたらきっと、好きな人は笑ってくれるよ、か。」
そう呟いては自分の髪に触れる あの日言い残した言葉を思い出しながら
「…秋月」
もう1度逢えただけで、3人で何となく過ごす日が嫌いではなかった、なのに俺は彼女を苦しめて。

情けなくてどうしようもなかった

 ・ ・ ・ ・
『俺に理屈は通用しないぞ…もうここまで来れば理解できるな? 俺が貰うぞ』
昨日聞いた栄太郎さんからの告白と斎藤さんのあの顔は向こうに居た時、最期に見た物だったのに
「どうしてよ…ッ!」
どうして?いつまで?私はあの人達の心に揺れているの?
もうここは『幕末』なんかじゃない、私のいた『現代』なんだ。
私は、どこまで……あの時代を忘れられないのだろう。
その瞬間、ピンポーンとチャイムが響きドアを開けば、そこには栄太郎さんの姿。
『――…俺じゃ、不服か?秋月』
目を合わせればいきなりこの間の事を思い出して顔が一気に熱くなる。そんな様子を見て、栄太郎さんは笑いながら頭を撫でている。
「すまんな、こんな時間に。」
そう言われて時計を見れば午後11時、確かにいくら努力家の栄太郎さんでも作業の速さは異常…否、相変わらずと言っていい。本当にこれ伊藤さんの言う通りだよ…。
こんな時間なら、そろそろ寝る時間だと思ったのに。
「明日は学校ないんですか?」
「考えてみろ、お前も大学生だったならよく分かるはずだ。」
う、うーん…。そう言えばもう季節は7月末に差しかかって……まさか。
「夏休み…通りでこんな時間まで夜ふかし出来る訳ですね」
そう言うと「こら」と言わんばかりに、頭をコツンと叩かれた。
とりあえず、紅茶を入れていると栄太郎さんは珍しく天井を見上げている。
あの(幕末)頃も、ほとんど煙草を吸っていたような気がする。まぁ、久坂さんが煙草を吸わないのは当たり前として、栄太郎さんの周りは喫煙者が多かったからなぁ…。
言わば禁煙をしようとしても足を引っ張ると言う奴だ
テーブルに紅茶を置くと、私も座って用件を聞いてみる事にしてみた。
「あの、どうして… 「少し言いたい事があって来た」
そう言うと俯きながらただただ話始める
「…俺も斎藤もあまり口を開かんが、斎藤…特にあいつの寡黙さはお前が向こうで死んだ以降、酷くなったと聞いている。」
「え?」
確かに斎藤さんは寡黙で一匹狼、けれども笑ってくれる事もあったのに そんなに?
「あ」
私は突然ある事を思い出す。そう言えば後世、斎藤さんには奥さんがいて子供3人に武士道を教え込んで、自分の事はあまり語らず実の子にでさえ寡黙と言われている。そうして会津に墓を立てたのかすら未だ謎のまま
「思い出したか、俺も変名はしているが、あいつは事情もあって名前など相当あると聞いた。だが、『新撰組』としての斎藤一は死んだのだろうが、武士としての『斎藤一』は生きている。」
「…そう、だったんですか。」
そう静かに返答すると、「あくまで一般論だ」と言うとようやくこちらに顔を向ける。
「この間、お前になんて言ったか覚えてるか?」
「あ、え…はい……。」
玄関でその姿を見て、相当思い出したのにここまでくるとは……。もはや確信犯?
「あれは、事実だ。」
「え゛!?」
あっさりと行ってしまうその言葉に、色気も羞恥心もない声を上げる。
「お前と会えたのにも感謝しているし、今もこうしているのにも また感謝している。…だが」
そう言うと、とても真剣な表情でこちらに向かいながら答える。
「秋月自身に惚れこんでいるのは事実、だが俺は『女』としてではなく『知り合い』として好いている…というのが合っている」
「へ…じゃあ、あの日あんな事したのは…」
「演技だ」
だなんて、堂々と言い始める。うわ、何だろう…すごい上手だ。
「秋月、お前は斎藤が好きなんだろう?」
「え…?」
そう言われていきなり昔の事を思い返してしまう。そうだ、あの時全部、全部……。
助けてもらった時、稽古して貰った時、栄太郎さんが死んでしまってから生きてきたのは全て、あの人に伝える為。
「俺と斎藤の間で揺れているのは知っている。事実俺が死んでからお前が変わった…けれども最期はその未熟さを全てあいつに押し付けた。違うか?」
「…確かに、私がそうであった事を伝えて嫌な目に遭わせてしまいました。」
「その面では…今も後悔している様だな」
と言われると身体がビクリ、と跳ねてはいつも話していた時のような声音ではっきりと事実を述べられた。
「お前も馬鹿じゃないのは承知だ、だが…いつまでお前らは『過去』に囚われている?」
「!」
「俺達はあの頃の名前で生きているが、俺はもう既に死んでいるから斎藤が敵だとも思わなければ、お前の事も小姓扱いはせず、長州だのなんだのとは最早どうでもいい話だ。」
そうだ
「秋月、お前はまだ向こうでの自分を引きずっているのか?」
その通りだ
確かに向こうで思い込んだ事は事実、でも私は最期に何を願った?
――…また、いつか 逢いたい。
すると、ふっ、と笑ってはまた再び頭を撫でている。
「合格だ」
笑いながらそう呟くと、立ち上がり壁…つまりは右の部屋の住人である斎藤さんのいる部屋の壁…しかも一番薄い所にコンッ、とノックするとどうやら少し声が聞こえたらしく、栄太郎さんもそれに応答する。
「分かったか?明日だぞ、明日。秋月は俺が連れて行くから、お前は待っていろ。」
そう言うと何も響かない 何も言わないということはあの人にとっての「承知」の合図。
するとまたこちらに振り向いて、口を開いた。
「…明日、斎藤の務め先に行くぞ。」
「ええっ!?」
何でそうなったのかさっぱり分からぬまま、軽く足を汲みつつ、微笑み…否、『悪意』のある笑みを浮かべている。
「と言う訳だ。明日の設備当番は斎藤のはず、ならこの手を利用するほかあるまい。」
それに付けくわえ「もう1つ」と答えれば、またいつもの栄太郎さんの顔でもう一言。
「後悔を清算して来い、互いにな。」
たった1つ言い残せばそのまま玄関まで足を運び、笑っては言った。
「明日は動きやすい恰好で来い…それじゃ、おやすみ。」
「はいっ!」
そうしてドアが閉まると共に私は答えた
「知り合い…か」
自分が居るべき場所では、俺は本当は秋月を愛していた。
けれど、もうここでは違うのだ。何もかもが。
「だが、後悔はないぞ。」

comming soon...

終焉に捧げる小夜曲 epilogue3 ~Regret~

どうも閲覧ありがとうございます

さて、ここに来てようやく明るくなり始めました。
そして相変わらず吉田さんは策士なのです
しかし、この話は斎藤さんやヒロインの後悔だけではなく、吉田さんの後悔……つまり3人共色んな傷を負っている訳です。
次からは徐々に明るくなっていきますが、どうしてもギャグが止まらないのは何故なのか知ったもんじゃないですね、仕方ない。
では第三話もお楽しみに

終焉に捧げる小夜曲 epilogue3 ~Regret~

――今という平穏な時間が流れている中 差し伸べられた手を握り返しては笑い合い幸せ……と言う甘い理想などなく、未だ残る鉛が『終焉』を見せてはくれない。 非日常でありながら、日常である現代での葛藤。 これは第三章 同い年の彼の告白と女の話である

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-20

CC BY-NC-ND
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