終焉に捧げる小夜曲 epilogue2 ~Acute~

――あれから時代(とき)が経ちようやく幸せを掴みかけた その第二章
 自体は過酷な道へと向かって行く


epilogue2 ~Acute~

あれから、理由を聞こうとしても泣いているからとりあえず気が済むまで泣かせ午前1時。
「…斎藤と何かあったのか?」
その一言に背中を震わせていた これは『当たり』だろう
あまりハキハキと物事は言わないが、いざと言う時になれば容赦なく口を開く。普段は俺達の些細な言い合いを止めているが、それ以外はほぼ無口と言っていい。
だがやはり、性分なのだろう。大事な事は必ず物事を言わなければ気が済まない…強情に見えるが、こいつの場合は強がりだ。
なんて考えていると煙草が短くなり、灰皿にギュッと押し込める。
俺は喧嘩の仲裁など全くをもってできない。あの頃さえ、いつも入江か桂さんが仲裁役であったから俺は思う存分行動できたと言っていい。
「…俺には、知恵だけ か。」
なら、先手を打つぞ。

 ・ ・ ・ ・
「はぁ、はぁ…」
木刀を振ってはもう85回、歳の所為かそれとも未熟なのか息が切れる。
秋月と揉めてから、もう3日は経っている。ここでも俺は秋月を困らせるのか?
あんな小さな身体で今までどれくらいの事をしてきたのだろう?会津での事…秋月がいたからこそ、俺は迷いもなく剣の道だけ極め生涯を終えられた。
もしいなければ俺は本当に――……。
すると鞄にジーパンのポッケにある携帯が震えている
「誰だ…?」
そう思って開けば吉田から。たった一言「午後6時過ぎ、ホールの奥のバーで待つ。話はそこでする」
アイツらしい文章だ
別に俺は吉田の事が嫌いな訳じゃない、ただ俺が遠慮なしに物を言う中、吉田は掌を返して返答する。頭の出来は向こうの方が断然上…だからこそ言える事もあるし、私情を避けてまで情をかける。
そんな所は嫌いじゃない
とりあえず一旦、施設のシャワーを借りて服を着替えては近くの公園で暇を潰す事にした。この光景は懐かしい。
新撰組が合った頃も屯所近くの境内で腰を下ろし、小刀で適当に何かを作っていれば子供が時々泥団子を渡しに来たものだ。すると、少年…まだ5~7歳辺りか?突然「お兄ちゃんここ座っていい?」という問いに「ああ」と短く答えた。
「ねぇ、お兄ちゃん。その背中にあるのなーに?」
「…居合い刀だ」
「いあいとう?どんな物なの!?良かったら見せて!」
と言う言葉に渋々と中身を取り出しては見せる。
「わー、これ刀だ。こんなの持ってたら捕まっちゃうよ?」
見た目はな、と視線を送り鞘を抜いては近くにある木を斬る動作をするが、確かにこれは物が斬れない。「こんな物だ」と答えれば、少年は目を輝かせている。
「お兄ちゃんカッコいいー!どこでそんなに強くなったの!?」
「俺には、剣しかない。後はおざなりだ」
と答え、座れば少年はきょろきょろと回りを見渡せば、少し太めで長い木の棒を見つけては「にひひ」と笑っている。俺も居合い刀を仕舞い、木刀のほうを取りだす。
「…そうしてると言う事は、これでいいんだな?」
「うん!」
とりあえず気配だけは隠し、ハンデとして右手のみで力加減は10分の2、実力も初心者レベルで相手をする事にした。
しかし相手は小さな子供、力もないのは当然として、いくら動きが早くとも俺と相対するならば、この動きの4倍以上は必要となる…が、諦めずに向かってくる。
まるで稽古をしていた秋月の目の様に そうして30分もすると少年は膝を折り、ぜぇぜぇと息をしている為、木刀を仕舞った。
「ふぁ~…お兄ちゃん強すぎるよ…でも手加減してくれたんでしょ?」
「ああ、アンタみたいな子供に全力は出さない。ハンデとして利き手でない右腕一本、力加減は10分の2。身体の動きも4倍以上は遅くした」
「そこまで相手の実力を見て、力をコントロールするの?」
「ああ」
「お兄ちゃん若いのにすごいんだね。ほんと」
「…そうでもない」
「しかも、お侍さんでもないのに髪、長いんだねー。サラサラしてるし」
――『や、っと…斎藤さんの髪に…触れられた…い、つも 綺麗だと思って、たんですよ…?』
「捨てきれん」
「何を?」
「別に髪などどうでも良かった。けれど好きな女に言われた事が今でも引っ掛かる」
「…おにいちゃん、寂しいね。どうしてそこまで気にしているの?その好きな人はまだ長いままがいいって言ったの?」
「!」
『いつも 綺麗だと思ってたんですよ?』
「…そうは、言ってないな。」
「だったら、お兄ちゃんらしくしなよ。そしたらきっと、好きな人は笑ってくれるよ。」
「かも、しれないな」
と答えると、女の声が聞こえ「お姉ちゃん!」と答えては「お兄ちゃんありがとねー」と少年を見送れば、俺もふと昔の事を思い出す。
『姉上!』
「…」
気付けばもう夕暮れ時、心に哀愁を抱え込んだまま俺は公園を後にし約束の場所へ足を運べば既に吉田はカウンターに座っていた。
「お前が3分も遅刻するとは珍しいな、いつもなら影のように佇んでいるだろ。」
と言っては、灰皿に煙草の灰を落として「何を飲む?」と聞かれ適当に答えた。
「…エクソシスト」

酒も入り、ただひたすら煙草を吸っている吉田に目線を向ければ、丁度目が合うと思えば逸らされ、俯いたままで口を開いた。
「お前、秋月に何を言った?」
「…何の話だ?」
「3日前、怒鳴り声が聞こえた。気が付かないとでも思ったのか?」
そう言っては、煙草を揉み消し俺の顔を見ながら話し始める。
「俺はすぐに分かったぞお前絡みだとな」
「それが、どう繋がる?」
「…ここ(現代)は何処だ?ここは元々、秋月自身がいた場所。だからこそあいつは向こう(幕末)では1人の志士として生きて、生を終えた。お前の言う通りならな。」
「…」
「病院であの意思を聞いたのは結構。だが、お前はいつまで『過去』」に囚われる?」
「そうでは…」
――…お兄ちゃん、寂しいね。どうしてそこまで気にしているの?その好きな人はまだ長いままがいいって言ったの?
――姉上!
「…図星、か。俺も最初は秋月の親同然だと思っていたが、あいつ自身の実の親はいる。」
どくん、と心臓が跳ねては俯いてしまう。
そうだ、そうだった。俺は秋月の言葉で生きて……
「『明かり』なんだろ?だったら何でこっちのあいつを見てやらない?結局お前は昔の自分を見てくれた姿…否、言い残した事だけで生きてるのか。笑わせるな」
「…お前に」
この男などに
「…お前に俺の何が解る?」
「分かっているから言っている、いつもそうだからこそお前自身も秋月も距離が詰められない。」
その瞬間、チリンと音がすると入口には目を見開いた秋月の姿が。
「栄太郎さん…何で、斎藤さんまで…?」
「丁度いい頃合いだ」
と言って席を立つと右腕で秋月を抱きしめ、左手で自分の顔の所まで持ってくる。
「俺に理屈は通用しないぞ…もうここまで来れば理解できるな?」
「貴様…ッ!」
「惚れた張れたの仕掛けだ、全部な。だから『あえて』言うぞ。」
指先でクン、と顎を上げるのを止めれば……こちらを見て、口を開いた。

「俺が 貰うぞ?」
「…え?」
と吉田の腕を払えない秋月は顔を声を上げた
「秋月!」
「…俺じゃ、不服か?秋月」
その姿に俺は目を見開き、ただ何も言える事はなかった。何故なら『俺と吉田の間で揺れている』という確定された言葉。
暗いこの場で、あまりにも残酷な事。
「え、栄太郎さんやめ、て…っ!」
抗う、見た事もない彼女の姿と声。
視界がずれる 俺の目に映るのは彼女の姿だけで自分の心に這っていた根が軋んで行く
ただその停止した時間の中で煙草の匂いだけが微かに残った

comming soon...

終焉に捧げる小夜曲 epilogue2 ~Acute~

どうも閲覧ありがとうございます

一気に泥沼に入りましたね
今さら吉田さんが策士である事のツッコミは遠慮願いたいです……
そして史実通り、高杉さんとタイプが似てる(と言っても周りに迷惑を掛けない人ですが)ので強引さと行動力をアピールした末路ですorz

斎藤さんもかなり苦痛を背負ってますよね、この状態だと。

もうすぐです、もうすぐでシリアスタイムは終わるので暫くお待ちください。

終焉に捧げる小夜曲 epilogue2 ~Acute~

――今という平穏な時間が流れている中 差し伸べられた手を握り返しては笑い合い幸せ……と言う甘い理想などなく、未だ残る鉛が『終焉』を見せてはくれない。 非日常でありながら、日常である現代での葛藤。 これは第二章 2人の男の話である

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-20

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND