終焉へ捧げる小夜曲 epilogue1 ~Sweet time~

――あれから時代(とき)が経ちようやく幸せを掴みかけた その第一章


epilogue1 ~Sweet time~

大事故に遭い、幕末に精神が飛んだあの日から退院して1週間後。どうやら私は1年も植物人間状態だったが、今じゃピンピンしてるけれど単位を落とし過ぎて結局退学と言う事態。
……けれど、それ以上に治まらないこの問題。
「だから、主はどけ。」
「…アンタが失せろ」
「はぁ…俺はこんな男などと茶など飲みたくない」
「奇遇だな、俺もアンタのその煙草の匂いなど嗅ぐ事に吐き気がする。」
「あ、あのー…お2人共、ご注文は?」
「俺はキャラメルエスプレッソとガトーショコラ」
「…コーヒー。ブラックでな」
「注文受け賜わりましたー…」
あれ以来から、私が1人暮らししていたアパートの隣にこの2人がいつの間にか居たという事実…。こうして喫茶店で働いているが、私がくる日にいつも来る。
一難去って一難と言うのはこの事なのだろうか…否、絶対そうだろ。それ以外に何がある?そうとしか思えない。
栄太郎さんは喫煙者だし、斎藤さんは甘い物は食べられない。つか、別々に座れよと思うのは私だけじゃないと思う。
毎回口論しながら、私が上がりになるまでいるという迷惑も含めているが、帰り時になるといつもいつもアパートに帰ると言う日々が好きで仕方ない。
もう、あんな頃みたいに争わなくていいのだから。敵でもなければ味方だとかどうでもいいこの世界を3人で歩いて行く

 ・ ・ ・ ・
「最近の政治家というものは政治をよく理解していないな、無駄がありすぎだ。」
ピッ、とテレビをつけては栄太郎さんはガラス製のテーブルに背を付け座りこんだままニュースを見ては煙草を吸っている。
「…政治不満を持つのはいいが、いい加減煙草は止めろ。秋月の作る飯の邪魔だ」
なんて言いながら、居合い刀を手入れしている斎藤さん。
「もう1度言うが主はどけ」
「…アンタが失せろ、もう秋月はお前の小姓じゃないぞ。飯を世話になる事を恥だと思え」
「それはそれだ。たかが飯すら作れん男が女に飯をせびるとはいい身分だな」
「だから、何でこう喧嘩するんですかー…。」
こっちの世界に帰って来てから驚いたもので、栄太郎さんは名のある大学に入っては法学部で勉強をしていて、斎藤さんはかなり大きな施設の道場で居合いから剣術、柔術の師範代を務めてるのだから。
けれどこう毎日毎日、朝ご飯と晩ご飯は私の部屋で食べている。
まぁ、栄太郎さんは料理できるから大丈夫だろうけれど、斎藤さんは放っておいたらレトルトか蕎麦のどちらかなので、こうして面倒を見ている。
私ももう22歳だけど、斎藤さんは1個下で、栄太郎さんは私と同い年。あ、ミートソースが出来た。
「斎藤さんは、布巾でテーブル拭くのお願いしますね。栄太郎さんは、お皿運ぶの手伝って下さい。」
「ああ」と2人は返事をしながらも、こうして手伝ってくれる中、栄太郎さんが口を開いた。
「今日はミートソースか、秋月が作る飯の中で1番美味いものだな。」
「ありがとう栄太郎さん。あ、斎藤さん一応タバスコ置いときますから。」
「…一、だ。何度言えばそう呼ぶ?」
「だ、だって…もう癖で…」
「吉田は名前で呼んで、俺は苗字か。酷い差別だな」
「…ふん、仕込みの違いだ。最初から『こう呼ばせておいた』のだ。武士なら潔く諦めろ」
「アンタも武士だろ」
なんて言うのがこの毎日。やれやれと思うけれど、やっぱり嬉しい。
2人は箸を使うけれど、私はフォークでパスタを巻いてた所、斎藤さんが声を掛けてきた。
「明日、確か休みだろ?俺は午後から仕事だが、午前なら買い物に付き合うぞ。」
「あ、ありがとう…ございます…。」
「ちっ」
「栄太郎さん、食事中に舌打ちせずに諦めて学校行ってください。」

「「ごちそうさまでした」」
「はい、お粗末様。」
「すまないな、秋月。手伝いたい事があったが、明日提出のレポートがある故ここで失礼させてもらう。」
「いいんです、伊藤さんこう後世に言ったらしいですよ?『栄太郎が生きていたら総理大臣になるだろう』って」
すると、少しだけ驚きと照れた表情を見せる。
「…そうか。じゃあお休み」
「お休みなさい」
そう言って見送ると、斎藤さんは溜息を吐きながら居合い刀を置く。
「秋月」
「はい?」
「…あの男の事好きなのか?」
「え!?」
な、何言ってんだこの人……。突然過ぎて、斎藤さんの顔を見れない。
「分かった、その反応だけでいい。」
「ちょ、待って下さい斎藤さん!」
「何だ?」
あの頃から変わらない、眼光とこの様子は――……。
『断るなら金輪際俺の前に姿を現すな。ここの川辺にも、2度と…来ない。』
「…どうして、泣くんだ?」
「知らないッ!!」
やめて、やめてよ。そんな目で私の事を見ないで
「…出て行ってください、斎藤さん。」
「…」
沈黙の中、私はベットの前で蹲って泣いた。
そうして向こうも――……
ガァンッ、とドアを叩きつけては「畜生…」と小さく呟いた。
「…ここでも、俺はアンタを苦しめるのか。」

もう数十分も過ぎて蹲ったまんま、するとベットにある携帯が鳴ると、着信は栄太郎さんから。
『何があった?よければ話は聞くぞ』
「…っ」
私達の住んでいるアパートは壁が薄い、だからきっとさっきの声が聞こえて心配してくれたんだ。忙しいのに。
いつだってこうだ、あの時も私は栄太郎さんの為に何が出来たのだろう?まだあの人は、そのままなんだ。
そうして、携帯と鍵を持ってすぐに部屋を出ると栄太郎さんの部屋のインターフォンを押すと、すぐに出てきてくれた上に自分はデスクにある椅子に座りながら、紅茶を出してくれる。
「どうした?」
部屋中に立ちこめた煙草の匂いと紅茶の匂いが混ざって、辛い。
「…斎藤と何かあったのか?」
「!!」
「やはりか」と言わんばかりにデスクから立ち上がると、私の側まで来ては背中をさすってくれている。けれどもやっぱり、この煙草の匂いは嫌い。
「そう気に掛けるな、病院で斎藤が言っていたが『秋月が俺の道を照らしてくれた大事な奴だ』と聞いている。俺もお前の事は大事だ、でなくば池田屋での事は起きなかった。」
だからなんです
この2人がどうしても嫌いになれないから、大事だから、時代を越えた今でも貴方達の間で揺れ動いてる。
「…馬鹿」
私はどうして『好き』の一言が言えないんだろう
もう、嫌だよ。

comming soon...

終焉へ捧げる小夜曲 epilogue1 ~Sweet time~

どうも閲覧ありがとうございます

さて現代編が始まりましたが、しょっぱなからギャグ方面に走り申し訳ないですorz
ちなみに吉田さんが煙草を吸っているのは、村塾時代に松陰先生が煙草嫌いな事からキセルをへし折ってましたが何せ周りにあんだけ喫煙者がいればいくら禁煙を試みても足の引っ張り合いだと思いましてw(ちなみに喫煙者の方の名は挙げません)
でもギャグから一気に、シリアスに入りましたね。
ちなみにここから更にドロドロ感とシリアスは増していきます、すみません。

けれども最後はやっぱポジティブに行きたいので……第2話をお楽しみに。

終焉へ捧げる小夜曲 epilogue1 ~Sweet time~

――あれから時代は幾つ過ぎたのか けれども差し伸べられた手を握り返しては笑い合い幸せ……と言う甘い理想などなく、未だ残る鉛が『終焉』を見せてはくれない。 非日常でありながら、日常である現代での葛藤。 これは序章 1人の女と黒い髪の男の話である

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-20

CC BY-NC-ND
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