砂漠に咲く禽
またひとつ、禽が咲いた。えいえんの夜を纏ったこの冷えた砂漠に唯一、光を灯すのは、色もかたちも異なる大小さまざまの禽たちである。風もない、星々の瞬きだけが聴こえてくるような砂漠でひっそりと芽吹いた禽たちは、羽根の擦れる乾いた音を鳴らしながら花開く。
今しがた咲いたのは、丸みのある雌鶏ほどの大きさのものだが、朱色を基調として尾に近付くほど黒を帯びた羽根の一枚いちまいは上質な敷布を思わせる滑らかさで月に煌めいていた。
禽たちは目覚めない。羽根を広げることも、甲高い声で啼くこともなく、ただ目を閉じてそこに在った。最後に禽が咲いたのを確認してから幾分久しいが、これまでの禽たちに比べればむしろ間隔は短い。「浄化」用の水を次の開花までに十分に貯めることができなかったからだ。貴重な雨水の入った樽から必要な分だけを桶に移し、濃紺の花模様をあしらった更紗を浸す。そうして水気を切った更紗で、咲いたばかりの禽の羽根を丁寧に撫でる。ごく小さい砂の粒が羽根にまとわりついているのを、気が遠くなるような長い時間をかけて取り除いてゆく。この「浄化」が私の役目であった。
どれくらいの時が経ったのか。果てしない夜に満たされた砂漠はいつまでも変わらぬ姿を保っていたが、時折見上げると星が流浪を続けているのがわかる。
最後の一枚、いっとう黒い、艶めかしい光沢のある天鵞絨めいたその羽根をそっと撫で終わると、「浄化」は完了した。朱色の羽根はまるで本当に熱を持っているかのように燃え、終着点の黒へ向かってその熱を鎮めているようだった。
これでいい。これでまたひとつ弔いをすることができた。
見渡せば、月光に照らされた禽たちが砂漠のあちこちに咲いており、朱、緑、紺、そして金……とそれぞれに羽根を輝かせている。完全なる静謐の中に佇む彼らはさながら墓標のようであり――その実墓標なのだった。
禽たちは遠く離れた空の向こうでひとつの星が死んだ時、この砂漠で花開く。私という諦観者によって慎ましやかに弔われ、墓標となって人知れず砂の荒野を照らすのだ。
すべての作業を終えると、私は無意識のうちに星々のいる方を眺めていた。いま視界の右端で瞬いた、白くて儚げな光を届けたであろうその星が、まだ私の手に触れられていないことを心から祈りながら。
砂漠に咲く禽