*星空文庫

本編五部「変わり時…4」(現人神編)

ごぼうかえる 作

  1. 狂う世界
  2. 二話
  3. 三話

長編最終部四話目です。

狂う世界

ある田舎町。まわりは山に囲まれている。辺りはとても静かだ。その中、ひとりの少年の姿が目立った。

……そうか。そういう方向にいったか。やはり世界のシステムは崩壊の方へはいかない。はっきりした。
……だけど、壱の世界にいる神はマナの行動を許さない。壱の世界の日本を守っている剣王は特に……。

野球帽をかぶった少年、リョウは木の枝に座りながら海を眺めていた。寄せては返す波は不思議と止まっており、絵の中のように不気味だ。木の葉っぱも風に揺られた状態で止まっていた。満月が止まった状態のまま辺りを照らす。

「時間が止まった。僕も時を渡れない。ここからは黙ってみていよう」
リョウは目を満月に向けた。

※※

マナはスサノオに自分の思ったことをやれと言われ、とりあえずプラズマと健の安否確認をする事にした。ふたりの元へ行こうとした刹那、剣王が刀を構えて前に立った。

「待て。それがしは君を好きにはさせないよ」
マナが冷や汗をかきながら一瞬止まった刹那、ごうっと弓がうなる音がした。

「おっと」
剣王は軽やかにかわすと弓矢が放たれた方を見た。
目線の先でプラズマがボロボロになりながら弓矢を構えて目をすがめていた。

「君はスサノオのデータをなかったことにはしないんだな。辻褄があわなくなった子達は倒れてるのに。しかし、まだ立てたのかぁ。あの子は本気じゃなかったとはいえ、しぶといなぁ」

「あいつ、なんなんだよ!容赦ねぇなー。死ぬかと思ったぜ」
プラズマは今にも倒れそうだが気を失っている狼夜に悪態をついた。

「プラズマさん!」
マナがプラズマの元へ再度走ろうとしたらスサノオが声をあげた。

「未来神は一度、伍に入って俺を見ているからデータに誤りがないことになったんだな!あ、それから俺はもう壱にいるのが辛くなってきたようだ。マナ、眼鏡を取ったときに見える神社にこい。剣王を何とかしてな」

スサノオは足から徐々に電子数字に分解されていた。こちらの世界がスサノオを排除しようとしたようだ。

「え?スサノオ様!?眼鏡……」
「じゃ」
「ちょっと……」
困惑しているマナにスサノオは笑みを浮かべて消えていった。

「なんだかわからないけど厄介なやつが消えたみたいだねぇ」
剣王は再び刀を構えるとマナの眉間に合わせた。マナがどう動こうか迷っていると倒れているはずの健の声がした。

「とりあえず、剣王を抑えますか?」
健はプラズマの横でフラフラと立ち上がった。

「お前、大丈夫か?」
プラズマが心配そうに健を見据えた。

「はい。私も伍の世界に飛ばされてスサノオに会っているので気を失わずにすみました」
「いや、そっちじゃなくて怪我だ、怪我」
健もプラズマ同様にボロボロだったが元気そうだった。

「健さん……良かった」
マナはとりあえずふたりが無事でほっとした。

「私も無事のようだな。一瞬、気を失ったが」
驚くべき事にマイも平然と起き上がった。起き上がったマイに剣王は眉を寄せた。

「なんで君は目を覚ましたのかな?君は楔だがスサノオの記憶は抹消されたはずだよ」
「さあ?私にはなんにもわからんよ」
マイは剣王にケラケラと笑みを向けた。

それを横目で見つつ、健は仮説を口にした。

「マイさんは語括神、演劇の神です。そして主に人形を使ってシミュレーションをするんですよね?Kと同じ力を持っているのでどっかでリンクしたんじゃないですか?ほら、Kは改変後の記憶を持ってますから」

「だが私はスサノオを知らない」

「じゃああなたははじめから辻褄が合っていないのに世界が合わせようとしなかった不思議な神ということになりますね」

「とりあえず、剣王を黙らせようか……ククク……」
健の言葉を遮り、マイは剣王を見るように顎で合図した。

剣王はどことなく苛立っており、身体から神力があふれ出ている。

「仕方ありません。平次郎!」
健は先ほどと同じように五芒星を書き、人形を召喚した。
倒れていたえぃこ、びぃこは光の粒になり消えた。
入れ替わりで現れた人形はまたも手のひらサイズで青い短い髪をした少年の人形だった。

「君は平次郎殿か」
剣王はその人形を知っているようだった。

「剣王、今回は我が主の頼みだ。そちらにはつかない」
平次郎と呼ばれた人形は堅苦しく剣王に答えた。

「なるほどねぇ。それがしがKの使いを借りる時、知らなかったが君の使いだったのか。契約書だけで顔を見ていなかったからわからなかったよ」
剣王はにやりと健を見て笑った。

「はい。私のです。あなたがよく使う、きぅ、りぅ、じぅの三姉妹ドールは私の妻の使いです」
「ほぉ……」
健と剣王の間で解決され、マナ達にはよくわからない会話だった。

この三姉妹ドールと平次郎に関してはサキが関わった事件で登場するため、その事件を知らないマナ達がわかるはずもない。

「なんだかわからないけど、皆!剣王を倒すよ!」
マナは剣王を黙らせるという強行を取ることにした。

「身の程知らずだねぇ。それがしは今、余裕はないぞ」
剣王から恐ろしいまでの剣気と神力が溢れだした。

二話

健の使いのドール、平次郎はきりっとした瞳でつまようじを構えて剣王に飛びかかった。

剣王は平次郎を弾き飛ばそうと刀を振りかぶった。目を疑いたくなるような光景が目の前で起こった。平次郎がなんとつまようじで刀を弾いたのだ。

「つまようじで刀を!?」
マナは驚いて目を見開いたが弾かれた剣王は顔色を変えなかった。さも当然な事のように再び刀を振りかぶる。

「娘、俺の後ろに」
平次郎が剣王の斬撃を重たそうに何度も弾きながら静かに言った。

「あ、う、うん」
マナは戸惑いながら平次郎の後ろへ移動する。
移動してから健とプラズマの元へ走った。

「健さん!プラズマさん!」
「マナ、俺達より剣王だ!」
プラズマがマナを後ろに送ってから剣王を指差した。

「う、うん」
「私が人形を強化しよう」
マナが唾を飲んで頷いた刹那、マイがいつの間にか不気味に笑いながら隣にいた。

「え?」
マナがマイに目を向けるとマイのまわりに白い光が回っていた。マイの手から光の糸が飛び、平次郎に絡まって消えた。

「……っ!」
光が消えてからすぐに反応をしたのは健だった。

「ふふ」
マイが笑った時、平次郎の動きがさらに速くなった。
それでも剣王にはまだ余裕がありそうだった。

「強い……。これじゃあ時間の問題だよ」
マナが心配そうに声をあげた。

「俺も頑張らないとな」
プラズマは怪我を負いながらも正確に弓を放っている。
動きを予測して放っているが全く当たらない。

「早いな……。演劇殺陣強化の糸を使っても勝てそうにない。マナ、剣王を弐の世界へ送ってまごついている間にさっさと逃げるのはどうだ?」
マイが戦況を見ながらマナに提案をした。

「え!私があの中に入り込まないといけないの!?」
マナは光しか見えない戦場を指差し叫んだ。

衝撃と重い音、風が渦巻いているが速すぎて実体が見えない。先程斬られた経験をしたマナは震えていた。行かなければと思うが気持ちがついていかず、足を縛る。

「もうそれしかないでしょう……。私は平次郎のサポートで精一杯です」
健がマナに小さく頷いた。

健は何もしていないように見えるが平次郎に何かをしているらしい。そういえば、健の足元にはずっと五芒星が回っていた。

「弐の世界に送るにはさっきのを思い出すと手を剣王の前で振り下ろす……。その前に斬り殺される可能性もあって……」

「マナ、なるだけのサポートはするから頑張れ!」
マナがうじうじつぶやいているとプラズマが弓を構えながら必死に叫んでいた。

「いいから行け!あの平次郎とかいう人形も長くはもたないぞ!剣王と渡り合える奴はそうそういねぇんだよ!」
プラズマはさらに追加で声をあげた。

「う、うん!」
マナは冷や汗をかきながらとりあえず走り出した。

「平次郎!マナさんを守れ!」
健が平次郎に命令を飛ばした。

「承知した」
平次郎は短く静かに答えるとつまようじを振りかぶった。
「そんなうまくいかせないよ」
剣王はまだまだ本気ではなさそうだ。ますます化け物感が増している。

「すごい力……。こんなの動けないよ……。でも、行かないと!」
マナはカチカチ震える歯を抑えながらとりあえずがむしゃらに戦いの渦に飛び込んでいった。

「ひっ!」
一瞬だけきらりと光る刀が見えた。斬られたと思ったが目の前に飛び込んできた平次郎に助けられた。つまようじが刀を弾く音が響く。

「守れる保証はない。早く用を済ませろ」
平次郎が早口でまくし立てた。

「もうやるしかなーい!」
マナは奇声を発しながら剣王に突進し、刀が迫るのを感じながら手を一本犠牲にする覚悟で手を斜めに切った。

「ちっ!」
剣王が呻いた。足元が白く光り、剣王は弐の世界に吸い込まれていった。

「はあはあ……ど、どうだ!ど、どうかな?」
マナは肩で息をしながらまず手があるかを確認した。振りかぶった右手は問題なくついていた。
剣王は弐の世界に消えた。

マナは安心したように息をつくと腰が抜けてその場に座り込んでしまった。

「ふぅ……って、え!?」
マナが地面に目を落とした時、無惨に倒れている平次郎を見つけた。

「平次郎さん!?」
「平次郎はマナさんをかばって斬られたようですね。大丈夫です。人形は死にませんから」
健が困惑していたマナを落ち着かせようと声をかけた。

「へ、平次郎さん……ごめんなさい……ありがとう」
マナが震える声で倒れている平次郎をすくいあげた。

平次郎は人間ならかなりの深手だったが平然と立ち上がった。マナの手のひらにちょこんと乗っている平次郎は
「問題ない」
とひとこと言うと健に目配せをしてから白い光に包まれ消えていった。

「ありがとう。平次郎。なんとかなりました」
健が安堵のため息をつきながら平次郎を労った。

「平次郎さん、ありがとう。おかげで生きてたよ」
ともあれ、なんとか剣王を退ける事ができた。
しかし、剣王はまたすぐに戻ってくるはずだ。剣王がKからKの使いを借りられる技を持っているからだ。

「とりあえず、今のうちにスサノオ様が言っていた神社に行こ!腰を抜かしている場合じゃない!」
「はあー、死にかけたのにハイだな……。ふう、無事だったのが奇跡だ……」
マナの意気込みにプラズマはため息をついた。

「あ、そういえば……」
剣王がいなくなってからアヤ達が倒れていることを思い出した。

マナは少し離れた所で倒れていたアヤと残りふたりの場所まで行った。

「アヤさんと……歴史神さん?」
顔を覗き込んでみるが起きている雰囲気はない。

マナの問いかけにも答えないので完璧に意識を失っている。よくみると気を失っているだけではなく、何か違和感だ。
なんというか呼吸のようなものがない。

「時間が止まってるんだな。動いているのは俺達と未来だけだ」
プラズマがこちらに向かってきてアヤ達の状態を確認する。

「時間が止まっている?未来だけ動いているってどういう状況!?」
「だから、未来だけ動いてるって事だよ」
「わからないよ!」
平然と答えるプラズマにマナは頭を抱えた。

「不思議ですね。風を受けたまま止まってます」
健は木々を眺めながら興味津々につぶやいた。

「この男、いい男だな。この男に一度、殴られてみたい。紳士の男ほどそそる」
マイは同じく意識を失っている狼夜をうっとり見つめていた。マナとプラズマはマイの言葉に少しゾッとしていた。

「あの、とりあえず彼らはここに置いといて行きます?」
健の言葉にプラズマが顔をひきつらせながら頷いた。

「そ、そうだな。アヤ達は気を失っている上にさらに時間が止まってる。起きないから置いてこう」

「なんでアヤさんがここにいるかわからないけど……アヤさんは平気だよね?」
マナはプラズマに心配そうに尋ねた。

「たぶん、平気だろ。それよりもスサノオが言ってたとこに行くのが先だ。剣王はすぐに出てくるぞ」
プラズマはそわそわしながら答えた。

「わかった。じゃあ、アヤさん達は置いていこう」

マナはアヤを一瞥するとなんとなく天守閣を眺めた。剣王が作り上げた城……この世界を守るという強い決意を感じた。

……私はこっちの神々の意見も尊重する……

うまくいくかはわからないが今、両方を背負っているマナには退くという文字はなかった。

三話

スサノオが指定した神社に行くために高天原から現世に行く事にした。
「あ、時間が止まっているなら鶴が呼べないな」
「問題ない。私は上部の弐を出せるし渡れる。私が出した世界から現世に行けばいい」
残念そうにうつむいたプラズマを横目で見ながらマイが薄い笑みを浮かべて言った。

「あ、私も弐を出せますし、渡れますよ?」
健も付け加えて提案した。そういえば健はワイズに捕まった時、弐を出して皆を逃がしたのだった。

「ああ、そうか。それでも現世に行けるのか」
プラズマは渋い顔をして近くの木によりかかった。

「では、私より健とかいうなよなよした男に任せる方が安全だろう」
「な、なよなよ……。ま、まあ、わかりました!私が弐を出して現世に連れていきます」
マイの言葉に少し傷つきながら健はため息混じりに言葉を発した。

「じゃあ、さっさと行こうか」
プラズマのかけ声で健が頷き先程と同じように弐を出現させた。

「なんか嫌な予感がするんだけど、行くしかないし」
マナは何かを感じとり顔をしかめていたが何があるか検討がつかなかったので考えるのをやめて弐に足を踏み入れた。
またネガフィルムが沢山絡まったようなものがある宇宙空間に出た。

「マッシー、またよろしく。今度は現世に」
健は胸ポケットに潜んでいたマッシーに声をかけた。

「はー、めんどくさっ。またやるのー?じゃあ、ドライイチゴちょうだいね?」
「わ、わかったから……」
マッシーは相変わらず不機嫌そうにしていた。健はなだめてマッシーを進ませる。

「ひとついいか?そのハムスターは時間の干渉を受けてないのか?」
「あ、そういえば……」
プラズマの疑問に健は首を傾げた。

「Kの使いだからとか?」
「そのなよ男が時間停止を受けていないからなのでは?先程、平次郎とかいう人形も動いていたが?」
マナの言葉にマイが答えた。

「お!そうかもしれないな。仕組みはわからんが。君、頭がきれるんだな」
プラズマはマイの意見に納得し、頷いた。

とりあえず、一同はマッシーを操り現世を目指した。
時間停止の影響か弐の世界もおかしかった。現在進行で動いていた人の心が停止しているためネガフィルム内の映像も停止している。
奇妙で不気味だ。もっともこの弐の世界も元々普通ではないが。

「もう着きますね。また図書館から現世入りする感じになります」
健は一同が動き始めてからすぐに到着を知らせた。

「早いな……」
あまりの早さに不安を覚えたプラズマは冷や汗をかきながらつぶやいた。

「世界が停止しているため、動きやすいですね。まあ、一部は動いているみたいですが」
健がちらちら辺りを見回しながらつぶやいた時、足が地面についた。

「地面だ」
マナは毎回の事、不思議に思いながら健の後を追って歩く。
健はマッシーを労い、ポケットに入れると図書館方面を指差した。

「あっちに歩いていくと人間の図書館につながります」
「じゃあ、さっさと行こうか。なんだか嫌な予感がするんだよ」
プラズマの言う嫌な予感とは何かわからないがマナもこれから起こることに対して嫌な予感がしていた。

……なんだか敵がいそうなそんな予感……明確にはわからないけど悪寒みたいな……

マナは唾を飲み込むと気合いを入れた。

しばらく霧の中を歩き、気がつくと本棚が沢山ある空間に出た。

本棚には本が一冊しかない。真っ白い本だ。この本は天記神という書庫の神が運営している図書館に通じる本だ。本を開くと弐の世界にある図書館に行ける。今回マナ達は逆をやったのだ。天記神の図書館がある空間から現世の図書館に戻ってきた。マナ達がいるこの場所は現世にある霊的空間なので人間には認知できない。霊的空間を出ると人間が使う図書館に出る。

「よし、現世まで来れた」
霊的空間を出ると突然賑やかになった。子供が絵本を読んでいるキッズスペースはいっぱいでなにか調べものをしている学生達は図書館にある机に熱心に向かっている。しかし、奇妙なことに人々は蝋人形のように全く動かない。

「不気味……」
「時間が止まってるからおかしなことになってるが無事にこちらに来れたな」
人間が使う図書館に出た所でプラズマはまず一息ついた。

「人が多い図書館だな。どこの図書館だ?」
「あ、鶴を呼べないからあの神社から遠い図書館だったらどうしよう?」

マイの言葉にマナは大切な事に気がついた。弐の世界にある天記神の図書館から現世の図書館はランダムだ。どこに飛ばされるかわからない。

「ま、まあ、出てから考えよう」
盲点だったと頭を抱えるマナにプラズマは顔をひきつらせて頷いた。

とりあえず外に出たマナ達は場所の確認のため駅前の地図を眺めた。この図書館は駅近にある図書館だった。駅前はごちゃごちゃ人が行き交っているが皆オブジェのように固まっている。うるさい環境だが音がまるでない。

「あ!ここ、あの学校がある近くの図書館だ!良かった!奇跡だ!」
マナは月影藤高校の文字を見つけた。この学校はマナが壱の世界に来た時、はじめてアヤとサキに会った場所だ。

「近かったか!良かった」
「マナさん、どこら辺に神社があるかわかりますか?」
喜ぶプラズマの横で健が辺りを見回しながら尋ねた。

「わかるよ。学校の屋上で見たの」
「じゃあ、さっさと行くぜ。さっきから誰かに見られてるような変な感覚がするんだよ」
プラズマは顔をしかめ、気配をうかがったがよくわからなかった。

「私も感じる。とりあえず行こうか」
マナも気持ち悪さを感じながら神社へと歩き出した。

『本編五部「変わり時…4」(現人神編)』

『本編五部「変わり時…4」(現人神編)』 ごぼうかえる 作

長編最終部四話目です!

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-06-11
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