鳩羽つぐ、同級生のわたし、心象
Twitterに書き散らした「鳩羽つぐちゃんと同級生のわたし」をテーマにした散文その他のまとめです。
GWが終わる。鳩羽つぐちゃんの同級生のわたしはお休みの間もつぐちゃんに会いたくて仕方がなかったのだけれど、教室でつぐちゃんの顔を見たら、彼女がお休みに誰とどこで何をしていたかをどうしても訊ねることができなかった。家族で遊園地に行ったことも、なぜだか内緒にしてしまったのだ。
鳩羽つぐちゃんの同級生のわたし、つぐちゃんの鉛筆が毎日必ずきっちり削られて筆箱の中で揃っているのを眺めるのが好き。
六月、曇天の教室は自習時間で、クラスメイトたちは会話もなく与えられた問題集を解いている。白いカーテンが揺れるたび、わたしは気にするふりをして窓際の鳩羽つぐちゃんを見つめていた。指定のブラウスに羽織ったカーディガンの、少し余った袖口からのぞく指は、わたしの知らない公式を綴っている。
給食の時間、牛乳瓶の紙蓋をうまく開けられない鳩羽つぐちゃんに「わたしがあけようか?」って言うと、少し迷ってから「ん!」って牛乳瓶を手渡される。
帰り道、わたしの少し前を歩いていた鳩羽つぐちゃんが突然立ち止まって、ゆっくりと両目を閉じた。しばらくして何事もなかったみたいに目を開いたので怪訝な顔をしていると、救急車のサイレンに耳をすませていたのだという。遠く遠くなってゆくサイレンが心地いいのと笑って、つぐちゃんは歩き出した。
六月の鳩羽つぐちゃん、学校が終わるとお気に入りの長靴をはいて少し大きめの傘を両手で持ちながら通学路を歩くけれど、知らない家の庭先に咲いている紫陽花の上で雨粒が跳ねるのをじいっと見つめてしまい、カタツムリとも目が合うのでなかなか家に帰らない。
誰よりも早く教室に来て窓を開け、湿気で落ち着かない毛先を指で気にしながら鉛色の空を眺め続ける六月の鳩羽つぐ。
満月の夜に黒い羽で飛ぶ鳩羽つぐちゃん。
満月の夜に黒い羽を羽ばたかせる鳩羽つぐちゃんの夢を見た次の日、鳩羽つぐちゃんの肩甲骨のあたりにばかり目がいってしまうわたし。
太陽がのぼり始めたばかりの八月の海辺でひとり、裸足で貝殻や綺麗な石を拾い集める鳩羽つぐちゃん。
送電塔の群れの向こうで白い月が真面目な顔をしているのを眺める鳩羽つぐの前髪がそよいでいる。
物覚えが悪くてしょっちゅう先生に叱られているわたしが唯一完璧に覚えているものは、鳩羽つぐちゃんのおうちの電話番号で、3から始まる8桁の番号はすっかりそらで言えるようになっていたし、必ず3コール目の真ん中あたりでつぐちゃんが電話に出る、そのタイミングまで身体に馴染んでしまった。
紫陽花を/揺らす長靴/鳩羽つぐ
リノリウムの白い階段を駆け上がる鳩羽つぐちゃんの軽やかな足音と揺れるスカートのささやきと光指す踊り場の未来。
鳩羽つぐ、同級生のわたし、心象