エアー

太陽が、真夏の無邪気さでせせら笑っているのを、ほんとうは快く思っていないのだったが、私がそういった感情で胸をいっぱいにさせていることについてむこうはまるで無関心だったので、無限に降り注ぐ太陽光の斜線のすべてを、私は先程から無視し続けている。
視線の端で、その斜線をくるくるとかわしながら旋回する一羽の鴎、その鳴き声。鴎の鳴き声がひとつの懐かしさを呼び覚ますので、波の上で私は涙を流す。それを見て太陽がまた無邪気に笑う。そうやって太陽が地上に降らす光の粒たちは水面に衝突するとそれぞれが弾け、砕け、波紋に織り込まれながら輝き、私の涙に溶け合い始める。
鐘の音。どこか遠い島の小さな街の教会で、誰かを弔うために鳴らされる、低くて暗い祈りの音楽。それらが嘆きのように私の柔らかい耳へと響いてくる。という想像を巡らせることで、ようやく今日を始めることを赦される。赦すのは私。あるいは私ではない誰かの祈りであったかもしれない。
熱にさらされてぬるくなった水温を確かめるように、両手で透明の流れを掬い上げる。素肌に触れる鉄の枷の、その冷たさだけが私にとっての真実なのだ。そう確信する。
太陽が笑っている。水面は黙り込んだまま、光を飲み込みながらいつまでも揺らぎ続けている。

エアー

エアー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-06-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted