あの日から、今日まで

あの日から、今日まで

始まり

透き通った冬の空の、
飛行機雲を眺めていたあの日。

12月の冬の頃。

気がつけば、私は私だった。
どうしてか、
空を眺めていたことを覚えている。

あ。
私は誰だろうって。

心に冬の雨が降った気がした。

孤独は寒かった。

冬を纏う世界に、
たった一人、放り出された気がした。

ただぼんやり、
空を眺めて。

現実味はないのに、
寒さははっきりしていた。

気がつけば、峰子と名前を付けて、
そう私を呼んでいた。

とある小説の登場人物が好きで、
その子の名前にした。

綺麗な子でありたかった。

風に穏やかに揺れている花のように、
夜空の星のように。

母は私の名前を呼ばなかった。
家族の対応と、
私の望む対応のズレは、
少しずつ苦しみに変わっていた。


違うの...お母さん...私の名前は...。

どうして...。

どうしてみてくれないの。

他にも、
目を背けられない、
苦しいことを抱えてしまった。

苦しかった。
私が親しくなった子は私ではない誰かを見ている。
私ではない誰かが褒められる。

寒かった。
誰も私を見ないし、
知らない。

解離という現象を自覚をしてたわけじゃない。
ただ、
心でずっとそう感じていた。

夜になれば、
糸が切れたように、
理由もわからないままに泣いていた。

愛が欲しかった。
まだ幼かった頃の記憶の、
母に握ってもらった温もりを望んだ。

私は私を見て欲しくて、
母の役に立てば、
愛されると信じて私なりに頑張ろうと思った。

気がつけば、走り出していた。

そうすれば、
私を見てもらえて、
愛を与えられて、
なんて願いながら。

夏の日の夜

夏の日の夜

まだ黄金の光を神さまの祝福、とか神秘めいたものを感じていた頃、

世界と触れ合う感覚に喜びを抱いていた頃、
走り始めたばかりの頃、

私は信じていた。

世界はずっと変わらないし、
私もまた変わらない。

信じるとは、疑わないこと。
信じるとは、小さな静寂。


小さな静寂の世界にあって
触れる一つ一つに灯火を感じたのです 」

夏のまとわりつくようなじめじめした風に、星がぽつぽつ、と輝く夜空に。

耳を澄ませば、名も知らない虫の鳴き声が聞こえてきたからこそ。

バケツの水の中の使い終わった花火に寂しさを感じたからこそ。

突如として、漠然とした不安におそわれて。
信じる、に綻びを感じながら。
変化の波と訪れを感じながら。
溢れそうな涙を、心配はかけたくないからこそ、必死に悲しさ、苦しさ、飲み込んで。


世界は川に沈んでいて、
今日も、人も、何もかもが、
過去へと流れます 」


私が嵐の前だと感じる夏の夜の話。

あの日から、今日まで

あの日から、今日まで

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-05-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 始まり
  2. 夏の日の夜