Yellow Carnation
~第1章〜
俺は背が高くて大きいくせに自信がなくて弱虫だ。
去年の24時間TVが終わったあと俺に関しては特に何が変わったということはなく、たまにあるメンバーとの取材やラジオ収録、番組収録が終わると毎日every.に行き家に帰る、そんな生活を送っている。最近はありがたいことにドラマにも出演させてもらっている。
シゲはあれからドラマに舞台、執筆活動などマルチに活躍中だ。しかし、最近の顔色を見ると相当疲れているように見える。今日メールでシゲに家飲みをしようといい、シゲちゃんを癒してあげようという計画を立ててシゲの家の前まで来た。チャイムを鳴らしても出てこないので、よく来るからと貰った合鍵を使って部屋に入る。
□「ごめんシゲ〜ドラマの撮影長引いちゃって…」
そこで俺が目にしたのは、リビングの床に横たわるシゲの姿だった…!
□「シゲ、しっかりしてよ!死んじゃやだよ…!」
まさか俺が死体の第一発見者?重要参考人に…
〇「うーん…」
あ、なんだ、寝てるだけか。
も〜こんなとこで寝てたら風邪ひくよー?
そう言って揺すってみたもののシゲは深い深い夢の中。仕方ないなぁ…シケを抱き抱え、寝室まで運ぶ。
(シゲが女の子だったらどうしただろう…
柔らかな身体をねじ伏せて、
自分だけのものにしただろうか。。。)
………
変な事考えちゃった…
それにしてもよく寝てるなぁ
出会った頃に戻ったみたい。
幼い寝顔をみてそう思った。
かわいいシゲちゃんの頭を撫でながら、
ご飯のことをよく考える。
晩ご飯どうしようか…
俺料理出来ないし、、、お腹すいたなぁ…
なんかコンビニで買ってこようかな、おでんとか。シゲの好きそうなやつ。色々おつまみも。
ていうか
髪伸びたな〜
シゲには明確な変化が出た。
朝から番組収録、舞台のリハを経て本番、帰ってきたと思えばすぐにパソコンとにらめっこで原稿を直してる。
その繰り返し。
夜中にベッドで倒れ込むように寝て、朝すぐに仕事へ行く。少し心配もしたけれど、
〇「これくらい何ともない」
そう言うシゲをみて、
大人になったなぁと感じる。
黒水晶のように輝くその瞳には
誰が映ってる…?
…やま、こやま… 小山!
□「あ、俺寝てた!?!?」
〇「なんでお前ここにいんの…」
□「えっメール読んでなかったの?」
〇「悪い。帰ってきてすぐ寝てた」
□「ごめん…俺もいつの間にか寝てて…」
〇「気にするな。
お互い疲れてんだから仕方ない。」
□「うーん…あ、今何時だろ?」
〇「夜中の2時。さっき時計見た」
□「まずい!
台本覚えようと思ったのに 間に合うかな…」
〇「…とりあえず飯食うか?」
□「え、飯!?俺がなんか買ってこようか?」
〇「いい。冷蔵庫にあるものでなんか作る」
□「って…疲れてるんだろ?俺は別に…」
〇「気にすんな、一緒に食べる約束だったんだろ」
そうだったね。
シゲの何気ない一言に心がじわりとする。
翌日、今日こそは家飲みするぞ、と鍋の具材をひと通り買ってきて再びシゲの家に行った。
(今日はお鍋の具材買ってきたし、レシピもちゃんと調べたし、うん、多分出来る。鍋って具入れたらいいだけってシゲが前に言ってたし…)
今日は俺が料理を作るんだ!
しかし、チャイムを鳴らしても出てこない。
(どうしたのかな…いない…とか?でももう帰ってるはずだし…寝てる…かな?)
またか…と思いつつ合鍵を探していると、
扉が開いた。が、シゲの顔色がなんだか悪い。
□「…や、いやーいないのかなと思って何回もチャイム鳴らしちゃった。いたんだね、もしかして寝てた? 俺今日…〇「帰ってくれ。」
………え?
〇「悪い、しばらく人と話す気になれない。
帰ってくれ。 じゃあ…」
シゲは無理やり扉を閉めようとする。
シゲの腕を咄嗟に掴み、聞く。
□「ちょ、ちょっと待って、どうしたんだよ急に。なんかあった?俺でよかったら話聞…」
〇「いいから帰れって言ってるだろ!」
そう言って俺の手を引っ剥がす。
□「………」
〇「違うんだ…小山が悪いんじゃない。今の環境に慣れないだけだ。最近はもうずっと寝る時間も削られてく…八つ当たりして悪い…」
□「うん。わかってる。環境が合わないことだってあるよね。俺は分かってる。大丈夫。シゲはシゲなりに頑張ってるんだよ。」
なんでこんなことしか言えないんだ…?
するとシゲがいきなり俺に抱きついてきた。
□「ちょっ、シゲ!?「…んなんじゃ…」え?」
〇「こんなんじゃ
錦戸くんと もう会えなくなる…」
錦戸くん…?
〇「前に錦戸くんと約束したんだ。『もっともっと頑張って、肩を並べられるようになったらまた一緒に仕事をしよう』って…」
□「シゲは十分頑張れてるよ。」
彼をそっと抱き締めた。
この心にあるもやもやは
なんだ
シゲの補助があったおかげで美味しい鍋を作ることが出来た。NEWSの懐かしい話で盛り上がり、シゲはお酒をぐいぐい飲んだ。シゲと一緒に食べれば、どんな料理だって美味しい。
でも今日は何か心に引っかかるものがあり、
俺はあまりお酒が飲めなかった。
しばらく飲んでいると、酔ったシゲは机に突っ伏して寝てしまった。このままでは風邪を引くと思い、抱き抱えてベッドまで連れていく。そしてしばらくの間幼い寝顔を眺めていた。
この目線の先にはいつからか
彼が映るようになった
俺が隣にいたって
彼をまっすぐ見ている
□「シゲが
俺だけのことを見てくれればいいのに…」
え?俺今なんて言った?
自分がポロっと口に出したことに驚いてしまった。俺はシゲにどうして欲しいのか…?
俺だけを
見ていてくれれば。。。
そう思った瞬間、体は勝手に動いていた。
シゲのセーターを捲りあげ、ジーンズと下着を一気に下ろす。かわいい乳首をくるくると弄りながら
シゲのモノを上下に動かした。
〇「ん…っふ、…ん、」ビクッビク
眠っているようだが、身体は素直に反応している。熟れた乳首を甘噛みし、舐め回す。そして荒い息を漏らす唇に吸い付いた。俺は必死で口内を貪った。ゆっくりと後ろの穴に手を伸ばした、
その時だった。
〇「んん…こや…ま…?」
□「!!!」
〇「な、にして…なんだよ…これ」
いつの間にか半裸になった自分の身体をみて、
軽蔑するような目で俺を見る。
□「あ、ちが…「何してんだよ」
□「ごめん…俺…おれは…」
〇「最低だ」
そ、だよね…
寝込みを襲うなんて最低だ。ましてや十数年一緒にやってきた親友だ。シゲは今相当なショックに違いない。
<イッショウモトニハモドラナイ…>
気がついたら泣いていた。
〇「…!こ、や…」
おれは無言でシゲの家を飛び出した。
外は気付かぬうちに大雨が降っていた。
はぁっ はぁっ はぁっ
濡れることも気にしないで、ただひたすら走った。
頬に伝う涙を誤魔化すために。
できる限りシゲと離れるために。
どれくらい走っただろう。
知らない土地まで来てしまった。
大型トラックの通った水たまりが
左半身全体にかかる。
さむっ… くらくらして地面にうずくまる。
なんでこんなことしたんだろう。
取り返しのつかないことをしてしまった。
□「シゲちゃん…」
俺は背が高くて大きいくせに自信がなくて弱虫だ。
なのに君のことが好きみたい。
〜第2章〜
○side
なんで俺、最低なんて言ってしまったんだろう。
ずっと小山に触れて欲しかった。この時を待っていたはずなのに。
まさか寝ている間にされるなんて思ってもいなかった。起きてすぐに見えた光景に咄嗟に口走ってしまったんだ。
俺はずっと錦戸さんが憧れの人だった。
間違っていることははっきりと言い、しっかりと自分の中に軸を持って生きている。俺もそんな男になりたいと感じていた。気がつけば目で追っていた。
恋愛感情など全く無い。本当に好きだったのは小山だ。ずっとずっと前から。
小山は俺が錦戸さんのこと目で追っていたのは薄々感づいていたのは知っている。
それでも否定しなかったのは俺が小山を好きなことを知られたくなかったから。
壮大な勘違いをした小山は今俺に「最低」という言葉を投げつけられて苦しんでいるのではないか。
アイドルには見合わない安っぽいビニール傘を2つ持ち、俺は家を飛び出した。
□side
どこまで遠い場所まで来たんだろう、
ギリギリと痛む頭、何時間も歩いて限界を見て迎えた両足に、全く何も口にしていないために体力は尽きて視界がぼやける。
見上げるとぼんやりと空が明るくなってきている。ただ俺には太陽など見えず、
辺り一面灰色の朝靄に曇っている。
これはもしかしたら俺の幻覚なのかもしれない。心の中のもやもやが今こうやって目に見えているのかも。
掴めないものだと分かっていても、それでもどうにか濃霧を捕まえようと手を伸ばす。
当然、強く握った拳の中には何もない。捕まえようと追いかけても俺の腕からするりと抜けていく。
そう、まるでシゲのように。
もう、楽になりたいという気持ちがだんだん通りを支配し始め、足を踏み出すたびそれしか考えられなくなっていた。
ふと横の国道を見て向かいからトラックが走ってくるのが見える。
大型トラックだ、あれならすぐに楽になれる…
そう瞬時に感じてガードレールを跨いで道路に出た。
ライトが俺を捉える。
眩しさに目を細めて。
耳をつんざくようなクラクションも
今の俺には聞こえなかった。
後悔は………ない。
直後に、今まで感じたことのない
大きな衝撃を身体中に受けた。
大好きだよ。シゲちゃん。
さようなら。どこかでまた会おう
〜第3章〜
〇side
「速報です。アイドルグループ、NEWSのメンバーである小山慶一郎さんが朝方トラックにはねられ、意識不明の重体です。事故原因は自殺未遂と見られています。現在、警察が詳しい状況について捜査中とのことです。」
病院内を全速力で走る。
手術室の前の自動ドアが開くのが遅くてもどかしい。手術室に入ろうとしている看護師を捕まえ、小山は!?小山は無事なんですか!?としつこく聞く。
「加藤さん、落ち着いてください。この病院内で最も腕のいい医者が3人で全力を尽くしてくれています。きっと助かるはずです。」
そうですか…そう言って廊下にあった椅子に脱力して腰掛ける。
小山がこんなことをしたのは絶対に俺のせいだ。俺があんなことを口走ってしまったがために小山は…。
俺は震えが止まらなかった。
それから3時間後、約4時間の手術を終えて医者が戻ってきた。
しかし、明らかに顔は曇っている。
まさか…
「あの…小山は…?」
彼らは俯いて、小さく首を横に振った。
俺の視界は真っ白になり、膝から崩れ落ちた。
目が覚めたのは薄暗い公園のベンチだった。
俺は屋根のある場所まで歩く気力はなく、ただ雨に濡れながらぼんやりとついたり消えたりしている電灯を眺めていた。
車の音もしない、人の声もしない虫も全く鳴かない、ただ静かに雨の音だけが響くこの不自然な公園で少し遠くにもう一つ灯りが見えた。
目を凝らして見ると、同じようなベンチに小山が俯いて座っていた。
足を前に出すたび跳ね返ってくる泥も気にせず彼のもとへ走った。
○「小山!!体は大丈夫なのか!?早く病院に戻…□「大丈夫。シゲに会いに来ただけ。」
そこでようやく気付いた。
ここが現実世界ではないことに。
少しおどおどしている小山を力いっぱい抱きしめた。
○「なんであんなことしたんだよ!勝手に俺の前からいなくなるなよバカ小山…!!」
□「俺はね、背が高くて自信が無いくせに弱虫なんだ。○「知ってる。」なのにシゲのことが好きみたい。」
○「それも知ってる。俺も小山のことが好きだよ。」
□「え?だってシゲは錦戸くんのことが…」
○「ちげーよ。本当に好きなのは小山だ。ていうか、『なのに』じゃねーよ。図体ばっかり大きくて怖がりで弱虫な小山が大好きなんだよ!」
□「ふふ、それ褒めてるの?貶してるの?どっち?」
そう言って2人で笑い合いながら泣いた。
気持ちが通い合えて嬉しい気持ちと反面、これから好きな人と生きていくことができない痛みも大きかった。
2人とも落ち着いたところで小山が口を開いた。
□「ねえシゲ。昨日の続き、してもいい?」
この世界に雨宿りする場所はない。
雨でビチョビチョのベンチしかないが、別にここでもいいと思った。
この世界に他人などいない。
2人だけの世界。
□「俺ね、日の出までしかここにいられないんだ。だからその前に…。」
俺の後ろを解かしながらぽつぽつと話す小山は少し悔しそうだった。
空は既に明るくなってきている。
○「こやまぁ…早くッい、れてッ」
□「入れるよ?シゲ。痛かったら言って…?」
指とは違う、とてつもない質量のモノが入ってくる。
こんなに苦しいものだなんて想像してなかった。
○「こや、まぁ…ぁ…キス、して?」
小山の顔をぐいっと引き寄せ、自ら唇を寄せる。小山の舌が口内に侵入してきて、全神経がそこに集中する。
すると、馴染んできたのか小山がゆっくりと腰を揺らし始める。
雨はもう止んでいた。
キスをするとなぜか痛みは消えていて、逆に快感の波が押し寄せてくる。
○「ずっと…あッ…親友でいたかった…んっ」
「うん」
○「おじいちゃんになってもッ…一緒にいたかった…」
「うん」
○「NEWSがなくなってもっ…2人でやっていこうって…んあっ///…約束したのに…」
「そうだね」
小山が腰を打ち付けるスピードを上げる。
中では肉壁を擦りぐちゅぐちゅと音が鳴る。
俺もそれに合わせて腰を揺らす。
□「出すよッシゲッ…」
○「ん…はぁ…きてッ///」
小山の白濁が俺のお腹の中で弾ける。
その感触と温もりがじくじくと思考を蝕んでいく。
雲は消えていて、大空が広がっている。
周りに建物はなく、360°オレンジと青のグラデーションが美しい。
小山のを後ろに入れたまま抱きしめる。
幻が醒めるまでせめてこのままでいさせて。。。
□「シゲ。俺が風に吹かれて見えないところに行っても、俺が隣にいなくても、シゲはシゲらしくまっすぐ生きるんだよ」
○「小山は風に吹かれるほどヤワじゃねーだろ…」
□「いくら離れてても心はそばにいるから、だからシゲは幸せになって」
○「小山がいないと意味ねぇんだよ…」
そこで小山の感触は完全に消えた。
小山の顔は微かに見える。
□「最後に1つ。」
○「なに…?」
「俺がシゲを好きなこと、
また会えるまで忘れないで」
そう言い残し、小山は消えた。
金色の星のカケラが目の前に現れ、
朝日に舞って消えた。
頬を濡らした涙は
俺の明日を咲かせるものなのか。
〜第4章〜
目を覚ますと、病院のベッドにいた。
どうやらショックで倒れ、一晩寝込んでいたらしい。立ち上がると少し目眩がする。
小山は今、一時的に遺体安置所に運ばれているらしい。行きますかと看護師に聞かれたが、あんな夢を見た後だ。小山の顔なんて見れない。今は気分が悪いのでまた明日来ますとだけ答えた。
重い足を引きずりながらエントランスに降りると、マスコミはこの病院に運ばれたことにすぐさま気づいたようで、一瞬にして俺を取り囲み、一斉にシャッターを切った。フラッシュで目も開けられない。
たくさんの記者が俺に訪ねてくる。
「小山さんの携帯を警察が調べたところ、亡くなる前日から直前にかけて、加藤さんからの留守電やメールが10件以上発見されたと言われていますが、加藤さんは小山さんの自殺原因について何かご存知なのではないですか?」
俺は心配で何度も連絡をしていたが、小山は電源を切っていた。それを警察が調べたようだ。
「小山とは何もありません。ここでは病院の迷惑でしょうし、お引き取り下さい!」
「昨晩、加藤さんが誰かを探すようにして歩き回っているのがあらゆる場所で目撃されています。小山さんを探していたのですか?」
「お二人は以前から恋愛関係にあるのではないかと噂されていますが、何かトラブルがあったのでは?」
俺と小山の関係について深いところまで突かれ、心拍数が上がる。
たくさんの記者が早足で歩いていても俺のあとを付いてくるので自分の車には戻れない。この状況に見かねたマネージャーが用意してくれていたレンタカーに乗って家に帰った。
しかし、マンションの入口にも俺の家を特定したのか数人の記者がいた。病院のときと同じことを聞かれ、無視して屋内に入り、エレベーターに乗り込む。
すると、誰もいないはずなのに一言「人殺し」と聞こえた。怖くなって耳を塞いでも2人…3人…と声の主は増えていく。
そうだった。小山を自殺に追い込んだのは誰でもない俺。この俺だ。
そう思い返した途端、この世界から消え失せたくなった。
たった30秒ほどの時間がとても長く感じられた。
吐き気と戦いながらフラフラしたまま家に入る。テレビを付けてもメディアはこの事件の話でもちきりだ。
勘弁してくれ…ほっといてくれ…
急に胃から胃液がせり上がってくる。
トイレに駆け込み、胃の中が全てなくなるまで吐いた。トイレの四方から、床から天井から、全面から壁を殴る音がする。トイレにうずくまり、力いっぱい耳を塞いだ。
怖くて、自分が小山を殺したんじゃないかと思うと怖くて、自分に対する嫌悪感と小山に対する罪悪感で脳はぐちゃぐちゃになり、ただただ身体は震えるばかりだった。
〜第5章〜
テレビからは相変わらず罵る声が聞こえる。
つい最近まで笑いあっていた声は簡単に蔑む声に変わると気づく、いつもと違う金曜の朝9時。
人間は知らないから差別する。
知ろうとしないのに差別する。
異質なものを遠ざけたいのは
知ろうとしないからではないのか。
俺達が恋愛関係にあったとしてもなかったとしても誰だって変わらず毎日は続く。
ただし、メディアに気持ち悪いと取り上げられ罵られ騒ぎ立てられた人間はどうなのか。
明日に希望はあるのか…?
きっとない。俺に明日は来ない。
死んだら小山に会えるかな。
ずっと一緒にいられるかな。
役割を持たない足を引きずり朝靄が広がるベランダへ出る。
大切に育てていた黄色いカーネーションの植木鉢に足が当たり、鉢が割れ土が散らばり、花びらが数枚、足の裏にまとわりつく。
下を見下ろせば、大きな渦が巻いていた。
全て幻覚だと分かっている。
掴めないものだと分かっていても、それでもどうにか濃霧を捕まえようと身を乗り出し手を伸ばす。
足が離れ、身体が軽くなる感覚に
夢を見ている気分だ。
灰色の渦はすぐそこにあるはずなのに近づくことはない。
自分が落ちているのか浮いているのか分からないほど
世界はスローモーションに見えた。
もういっそのこと渦に巻かれて飲み込まれ、
沼の底にいるバクテリアの餌食となりたい。
地獄で2人、償いのために罰を受けたなら
神様は僕らを
この罪を
許してくれるのだろうか。
スローモーションの世界の中、
足から空へ向かって離れていく黄色い花びらを
ゆったりと眺めていた。
Yellow Carnation