はれもの

涙が止まらない。鏡の前で向き合っているわたしは無表情のままだ。これは心の涙か、いや、そんなロマンチスト発言は似合わない、らしくもない。時間が迫っている、心の準備も化粧も何も出来ず仕舞いだが、時間は絶対だ。反論なんて効いた試しがないから、黙って家を出た。

気がつけばベットの中だ、毎日コレを繰り返している。目を覚まして、身だしなみを整えようとして、時間に追われ、その後の記憶も何も残らずに、またここに戻ってくる。曜日の感覚はいつからか無くなっていた。今日が月曜だろうと、木曜だろうと、土曜だろうが、何が違う。わたしの、なにが変わるって言うんだ。

死にたい奴の本を読んだ。死にたい奴の曲を聴いた。死にたいって言う奴を見た。どうせ死なないくせに。

日暮れ時らしい、橙色の闇がわたしを照らしていた。仕事はどうした、それすらもどうでもよくなってしまった。窓を見つめて、流れてきた涙をただ流れるままに、助けを求めた。差し伸べられた手を振り払うくせに。

いらないものをひとつずつすてた。なにがいるのかわからないので、目についたものをあらかたすてたが、あんがいきぶんは晴れた。
お風呂に入ろうとして、シャンプーも入浴剤もすてたことに気がついた。仕方ないので近くの銭湯に行く。

闇が、明るい黒が体を包む。子供たちはこれを受けて育つのか。どうりで未来は絶望しかないわけだ。夢を語るには早く、また生意気で、叶える努力もしなかったのに、夢は夢だ。なんて言う奴を何人も見てきたが、わたしもその一人か?自分の夢すら忘れてしまったから、違うのかな。

月が出ていた。月光は意外と明るい。街灯が邪魔になるくらい、優しく、ひっそりと寄り添ってくれる。わたしは何しに外へ出たのだったろうか。
笑えない。だけど笑いながら帰った。面白いものを見た帰りみたいに、思い出し笑いが止まらなかった。思い出すたびに、怖くなる。

記憶がない。月光の中。笑いながら帰った後、どうやって家にたどり着いたのだろう。わからないけど、こうして鏡を見ているということは、無事に帰ってはこれた。今日もわたしは、涙を流して・・・

起きた。時間だ。家を出た。鏡を見れなかった。

ゆっくりと起き上がった。昨日はやる事も無かったから、早めに寝たのが功を奏したのか、目覚めが良い。いつもより早めに起きてしまったせいか、まだ朝の賑やかしい音は聞こえてこない。
せっかくなので、しばらくぼーっとしてた。テレビは興味ないので消した。顔を洗うのも少し待ってもらって、インスタントのココアを淹れて。カーテンも一度中途半端に閉めた。朝日があたらないように、目が眩しくないように。もう少し眠くなったから、起きることにした。時間は相変わらず絶対なのだ。顔を洗い、朝食を食べ終えて、歯を磨こうと洗面所へ行った時、鏡を見つめそうになった。髪に注意をやると、特にひどい寝癖はない。歯ブラシだけ取って、鏡を後にした。結局今朝も鏡は見なかった。もう泣いてるわたしは見えなかったから。

はれもの

はれもの

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-05-23

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