美化された記憶
あれから、3年がたった。3年。もう、3年がたつのか。彼女の傷は、まったく癒えてないと、共通の友達から聞いていた。そうすることによって、自分を守っているのかもしれない。なんとなく、その気持ちは、わかる気がした。
僕の罪は、そんなにも、許されないものであったのか。そんなはずない。と、考え直す。
「彼女の人生を終わらせたい。」
ふと、呟いた僕に、何言ってんのこいつ、とでも言いたげな声が聞こえてくる。
「もう終わらせれてようなものだと思うんだけどなぁ」
淡々と。まるで、何百回も練習したように、なんの、淀みもなく。言い放った。
はっ、として、僕は振り向く。それは、まぎれもなく、彼女だった。
「なに?殺してくれるの?」
そう。なんの曇もない目で、聞いてきた。あんな、澄んだ綺麗な目で、そんなことを言えるものなのか、と、人事のように思った。そして、すべての力が彼女に持っていかれたのではないかと思うほど、力が抜け、たちまち、立てなくなった。
ショックだった。いや、受け入れられなかっただけだ。
"彼女が生きている"という事実に。
彼女を記憶から、心から、消すことで、僕自身を守ってきたのかもしれない。
もう、彼女が生きていると証明された世界で生きてはいけない。
僕は、彼女に向かって走り出した。
彼女を刺すために。
美化された記憶
僕は、思った。
彼女が好きだと。
それでも愛していると。
美化された記憶の中で。