お花見の再会から始まるオフィスラブ

三行から参加できる 超・妄想コンテスト 第73回「桜の木の下で」応募作+ジャンル応援キャンペーン ヒューマンドラマ「変わる」「独り」応募作の完全版

サクラチル? サクラサク?

 花見の場所取りかぁ‥‥新入社員の身としては抗えない命令。
 他にも場所取りの人達が、各々暇つぶしをしてる。
 あー、本とか持ってくればよかった‥‥ん、今横切ったのは?

「ちょっと待って!」

 思わず声をかけた。
 似ている。
 しかし、彼女は自分に声がかけられたとは思っていないらしく、歩く速度が変わらない。

 思い切って、走り出した。

「キミだよ、待って」

 ちょこんと後ろから肩に軽く、一瞬だけ触れる。

「はい? どちら様? ストーカーとか痴漢は、お断りします。気安く触れないで下さい」

 振り返った彼女の辛辣な言葉。
 ドキッとするほど綺麗‥‥淡い桜色に囲まれた中で、それよりも濃いピンクの服を着た女性。
 風が吹いて、桜吹雪が更に彼女を美しくさせる。

臼井(うすい)美桜(みおう)さんじゃないですか?」

「なぜ名前を知っているのですか? ストーカーなら警察に通報します」

 冷静にスマホを取り出す彼女。

「待ってってば! 覚えてないかな、同じ旭川アニメーション学院の同級生で、宮原(みやはら)徳人(のりと)

 慌てて自己紹介する。

「そんな名前に心当たりは有りません。出身校まで調べ上げているとは間違いなくストーカーですね」

 スマホを操作しかける臼井さんを遮るように名刺を差し出す。

「マジでストーカーじゃないですって!」

 彼女は汚い物を摘むように名刺を受け取る。

「フィットスタジオ・アニメーター‥‥自慢ですか? 不愉快です」

 名刺を落として踏みにじる。

「ちょ、酷いなぁ‥‥」

「私は就職できませんでした。嫌味としか思えません」

「えっ!? 臼井さんのCG、クオリティー高かったよ。特に女性CG‥‥そっか、ごめん」

 彼女のCGの数々、今も忘れない。

「それでは、さようなら。二度と私に付きまとわないで下さい」

 臼井さんは、背を向けて歩き出す。
 精一杯の勇気を振り絞る。

「俺‥‥学院時代から、臼井さんの事、片想いしてました! お付き合いして下さい!」

 精一杯の声で叫んだ。
 もう一度、臼井さんが振り返る。

 俺は学院で臼井さんが気になるようになった。
 クールで友達を作らない孤高の存在。
 結局、想いを伝えられなかった高嶺の花。

「俺、まだ新人のぺーぺーですけど、ウチでは原画が足りてないんです。推薦してみます!」

「取引ですか? 最低ですね」

「臼井さんと一緒に仕事がしたいです! 無理にお付き合いして下さいとは言いません! 何とか面接セッティングします!」

「分かりました。ご厚意には感謝します。連絡先としてフリーメールのアドレスを作ります。不審に感じたら即消去します」

 彼女はスマホを操作して取得したフリーメールアドレスを見せた。
 俺もスマホに臼井美桜の連絡先として登録。

「テストメール送ってみますね」

 彼女のスマホがヴァイブレーションする。

「届きました。では面接の件、宜しくお願いします」

 軽く一例して、また背を向けて歩き出す。

「あ、待って待って、良かったら紹介がてら、一緒にお花見しませんか? 課長も来ます」

 ‥‥。
 沈黙。
 高鳴る鼓動。

「‥‥分かりました、御一緒します」

 心臓が跳ね上がった。

「そうと決まれば、席取りに‥‥げっ」

 何だか関わるとヤバそうな雰囲気の人が居る。

「やっべ、席取りしてた場所、乗っ取られてる‥‥」

「頼りない人ですね」

 周囲を見回して、良さげなスペースが無い。
 って、臼井さんがヤバそうな雰囲気の人へと近づいていく。

「ここは、あの人が場所取りしてた所です。退いて下さい」

 ちょ、マジかよ。
 ぜってーヤバイって!

「なんやと? 今ここは俺が取っとるんや、なんぞ証拠でもあるんか? ぉおッ!」

「証拠ですか‥‥何かありますか?」

「あ、そのシート! ほら、宮原徳人って名前が‥‥」

 恐る恐るシートの角をめくると、ちゃんと名前が書いてある。
 持ち物に名前を書く、やっといて良かった。

「俺は宮原(みやはら)‥‥徳人(とくじん)や。さっさと失せんとイテまうぞ、コラっ!」

「身分証明書はありますか?」

「あ、あります!」

 慌ててマイナンバーカードを見せる。

「そんなもん、偶然の同姓同名や。ええ加減にせな、ジバキあげんぞ、オラッ!」

 うわ、小指無いよ、この人!

「身分証明書はありますか?」

 スマホで写真を撮る。

「何、写真撮っとんじゃ! ブッ壊したる!」

 臼井さんは躊躇いなく110番通報した。

「はい、事件です。場所は‥‥」

 ヤバイ、臼井さんが殴られる!

 咄嗟に間に割り込むと顔面を殴られた。

「更に今、暴行を受ました。鼻血も出てます」

 淡々と話す臼井さん。
 あー、鼻血が垂れ落ちる。

 パトカーのサイレンが聞こえる。

「出所早々‥‥ちっ、覚えとけや!」

 ヤバイ人は逃げ去った。

 少し遅れて警察官が来た。

「痛そうですね‥‥犯人は?」

「あっちに走っていきました。サングラスにパンチパーマ、黒っぽいスーツ、ネクタイは青でした。顔写真はこれです」

「通報と御協力、有り難う御座います。手配します」

 もう一人の警察官が無線で特徴を話し始めた。

「怪我は大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫‥‥です」

 ティッシュで血を拭いてから、鼻に詰める。
 俺、今カッコ悪い顔してるだろうな‥‥。

「明らかに危険人物と思われる人に無闇に関わらないで下さいね」

「はい‥‥有り難う御座います」

 直角の礼をして警察官を見送る。

「おー、宮原。食いもん買ってきたぞー」

「あ、先輩、お疲れ様です!」

「殴られたのか? パトカーがサイレン慣らしてたけど」

「まあ、何とか、なりました」

「で、こちらの女性は?」

「旭川アニメーション学院の同期で、就活中らしくて紹介しようかと」

「臼井美桜です。宜しくお願いします」

 軽く礼をするけど、クールな立ち振舞は変わらない。

 先輩がシートに買い物袋を置いて、腕で首から巻き込んで彼女に背を向ける。

「コレか?」

 こっそり、小指を立てる先輩。

「残念ながら片想いです」

 俺から腕を離して、彼女に向き直り、

「私は、こういう者です。今日は当社フィットスタジオのお花見です。美女歓迎しますよ」

 名刺を渡す先輩。

「有難う御座います」

 ちゃんと両手で名刺を受け取る臼井さん。

 間もなく課長が同僚を引き連れてやってきた。
 俺は、臼井さんを紹介して面接を取り付けた。

*

 後日、採用された臼井さんは、俺の隣のデスクに配属。
 仕事が楽しくなった。
 恋愛成就を祈って‥‥。

変わりたい!

 フィットスタジオ新人の俺は業務命令で、お花見の場所取りをする事になった。
 そこで再会した学院時代の片想いの相手、臼井(うすい)美桜(みおう)さん。
 クールで孤高な高嶺の花、俺は想いを伝える事もできず、社会人になった。

 色々アクシデントもあったけど、彼女が就職浪人になっている事を知り、告白もして、お花見に誘って面接をセッティング。
 見事に彼女は採用され、俺の隣のデスクに配属された。

 俺は宮原(みやはら)徳人(のりと)19歳。
 旭川アニメーション学院卒のアニメーター。
 フィットスタジオはアニメ制作会社。

 それから約一ヶ月過ぎた5月。
 5月病なんて言ってられないほど仕事が忙しい。

 そして、彼女との距離は一歩も縮められてない。
 告白の返事は‥‥

「取引ですか? 最低ですね」

 仕事に専念する彼女の横顔を眺めるのが清涼剤‥‥仕事中に話しかける勇気もない。
 昼休みもサッと居なくなって、時間ピッタリに戻ってくる。
 定時アガリ、話しかけるタイミングが無い。
 唯一知っているフリーメールアドレスは「不審と感じたら即消去します」と言われた物だけ。

 でも、片想いは日に日に膨れ上がってる。
 一歩踏み出す勇気を‥‥俺が変わらなければ、ずっとこのままだ!

頼れる先輩

「おう、宮原。昼飯一緒に行くか? 臼井ちゃんは‥‥いないのか」

「臼井さん、お昼休みには、サッと消えちゃって‥‥」

 先輩が俺の首に腕を回して囁く。

「で、臼井ちゃんとは何か進展あったのか?」

「それが‥‥一度も会話すら出来てなくて」

「おまっ、もう1ヶ月だぞ。あんな美人、他がほっとかないぞ」

「ですよね‥‥」

 そうだよ、臼井さんを好きなのは俺だけとは限らない。
 このまま何もしなきゃ、臼井さんは別の誰かと付き合い始めるかもしれない‥‥そんな事も気付かなかったなんて!

「とりあえず飯食いながら話そう。社食と外食、どっちがいい? いや待て、社食にしよう」

「はい、お供します」

*

「うーん、臼井ちゃんは居なさそうだな。外食派か?」

 食券を買った先輩が社食内を見回してる間に俺も食券を買った。

「おし、席はあそこにしよう」

「はい」

 同じ原画チームの同僚の男性陣が昼飯を食ってるトコに、ちょうど席が2つ空いてる。

「よう、相席させてもらうぜ」

「あ、芳村さんと‥‥宮原か。どうぞどうぞ」

 先輩の名前は、芳村(よしむら)茂雄(しげお)さん、25歳。
 先客は、お花見を一緒にした同僚、先輩。
 課長に誘われて断るバカはいないよな、フツー。

「お邪魔します」

 先輩の隣に座って割り箸を割る。

「なあ、ウチの原画チームに入った臼井ちゃん、美人だよな」

 ぶっ、いきなり臼井さんの話!?

「美人ですねー、まだ話したことないッスけど」

「そうそう、美人でミステリアス。近寄りがたい雰囲気まとってるけど、いいよな」

 先輩が、うんうんと頷いてから、

「臼井ちゃんと付き合いたいヤツ、挙手」

 ちょ、マジっすか!?

「そりゃあ、あんな美人が彼女だったら‥‥」

 妻帯者以外、全員手を挙げた、ヤバイよ。
 俺も、おずおずと手を挙げる。

「悪いが諦めろ、オレも狙ってる」

 ちょ、先輩!?

「芳村さん相手じゃ勝ち目ないッスよ」

 全員手を下ろした、俺も合わせる。
 ってか、先輩も狙ってるなんて聞いてないよー‥‥絶望的だ。

「ってなぁ、まあ、冗談だ。後輩が片想いしてる女を横取りしたりしねーよ」

 芳村先輩が俺の方を向くと、全員の視線が集まる。

「宮原?」

「おう、ウチに入る前、学生時代からの片想いだとよ」

 うげっ、いきなりバラされた!?

「あー、それで、花見の時に居たのか」

「はい、まあ‥‥場所取りしてたら偶然再会しまして」

「で、だ。宮原の事、援護してやってくんねーか?」

「芳村さんに、そう言われちゃ断れないッスよ。頑張れよ、宮原」

 皆、好意的に応援してくれるみたいだ。

「あ、有り難う御座います‥‥」

 ひたすら恐縮してしまった。

ファーストコンタクト

 臼井さんか席を外していて、俺は目の前の原画に集中していた。

「あっ‥‥」

 臼井さんの声と紙が散らばるような音に振り返る。

「ごめん、臼井さん。悪いけど部長の呼び出しで急いてるんだ。おい、宮原、代わりに手伝ってやってくれな」

 そう言って駆け足で去っていく同僚。

「あ、はい。手伝います」

 席を立って書類を拾おうとすると、

「心配無用です。問題ありません」

「うっ‥‥そう言わずに。し、仕事仲間じゃないか」

 一瞬、怯んでしまったけど、書類を拾うのを手伝う。

 拾い終わって、俺が持ってる分をデスクでトントンと揃える。

「あ、ページがバラバラになってる。並べ直さないと‥‥」

「自分で出来ます。‥‥ありがとう」

 僕の持っていた書類の半分を取り上げ、自分のデスクでページの並び替えをしてる。

 ありがとう‥‥か。
 嬉しいな。
 同僚の援護に感謝。

 定時アガリの時間。

「臼井さん、さっきはぶつかってゴメンな」

「不慮の事故です、お気になさらず」

 そのまま、カバンを持って帰ろうとする臼井さん。

「あ、せめて晩飯だけでも奢らせてくれないか?」

 引き止めた同僚に一瞬振り返って、

「いえ、結構です。それでは」

 スタスタと帰ってしまった。

「臼井さん、手強いな‥‥宮原、何か話とかできたか?」

「はい。書類拾うのを手伝って‥‥『ありがとう』って言ってもらえました。ありがとうございます」

「それだけか‥‥ドサクサに紛れて手を触れさせるとかしろよ。意識させて、トキメかせないと恋愛になんねーぞ」

「あ、そういう手が‥‥もう手伝うだけでも緊張しちゃって」

 もっと積極的にならないと!

「ま、一歩。半歩くらいか、前進できたんじゃねーか?」

「はい。あ、良かったらコーヒーでも」

「有り難く御馳走になるか」

 お互い帰り支度を済ませ、社内の自販でコーヒーを一緒に飲む。

「ふぅ、仕事疲れに染み渡るな‥‥ビールでも一緒に、って宮原まだ19だっけ?」

「はい」

「そっか。んじゃ、ご馳走さん」

「ありがとうございます」

お花見の再会から始まるオフィスラブ

お花見の再会から始まるオフィスラブ

運命の再会(?)をキッカケに学院時代から片想いの彼女が隣のデスクに配属された。 しかし、約一ヶ月たっても、会話ひとつ出来てない。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-05-12

Copyrighted
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  1. サクラチル? サクラサク?
  2. 変わりたい!
  3. 頼れる先輩
  4. ファーストコンタクト