赤鰯

赤鰯

 冬左衛門は通りかかった長屋の井戸端で汗をぬぐった。暑さゆえ喉が渇き、家に帰るまでもたず立ち寄ったのである。釣瓶(つるべ)をたぐって桶に入った水に口を付けると、一気に飲んだ。甲斐の国からの旅帰りで、梅雨が明けようとする蒸し暑い日であった。半日かけて歩いてきたこともあり、冷たい井戸水が旨かった。
 釣瓶をもどしてからからと底に落ちていく桶の音を聞きながら、ふと井戸の脇を見ると古びた懐刀が落ちている。
 冬左衛門は懐刀に手を延ばした。手に持って見ると黒い塗りは剥げており、紋はあったのであろうが消えてしまっている。捨て置くか、懐刀を元に戻そうとした冬左衛門はその手をつっと止めた。そうだ料理に使う包丁の柄が取れている。この懐刀も研げば魚包丁になる。彼は刀を懐紙に包むと自分の家に向かった。
 半時も歩けば家に着く。努力家の父親と働き者の母親が住んでいた小さな家であるが、今は両親とも他界し一人暮らしである。
 学問の好きな冬左衛門は文書所の下端役人である。それでも好きな歴史の編纂や、古文書の解読などをすることができるのはありがたく、仕事には至極満足している。
 家に戻ると、開けた戸の隙間から猫の「ひげ」がでてきた。のったりとした大きな虎の雄猫が顔を上げる。
「これ、どうしていた」
 冬左衛門は猫に声をかける。
 そのとき後ろから声がした。
「お帰りなさいまし」
 美野だ。近くの長屋の大家の娘である。留守にするときなど、ひげの食事の世話などをしてもらう。
「あ、留守の間ありがとうございました」
「いいえ、ひげが甘えて大変でしたのよ、よほど甘やかしていらっしゃるのですね」
「はは、まあ、かまうのがこいつしかいなくて」
「これ今日のお食事、どうぞ、母親に持っていくようにいわれましたの」
 美野が手に持っていたのは竹の皮に包まれた握り飯と、器に入った煮物であった。
「それは、かたじけない、ありがたいことです」
「またお留守にするときなどお声をかけてください、ひげも私にだいぶなついてかわいいのです」
「お願いします」
「桶に水を持ってまいりますわ」
 美野は先に立って家に上がると、すぐに足を洗う水をもってきた。
「すみません」
 冬左衛門はわらじを脱いだ。
 その後、美野は膳に食事の用意をして帰っていった。大家は一人娘の美野を彼に押しつけたいようである。とってもよい娘で、容姿も申し分ないのであるが、冬左衛門自身、そちらの方が未熟で、どうも煮えきらないのである。
 旅の着物を脱ごうとしたとき、懐の刀を思い出した。取り出してよく見ると、だいぶ剥げているが決して悪い塗りではない。作りは丁寧で今のものではない。
 なぜ長屋の井戸端などに落ちていたのだろう。誰かが水を飲むために井戸に寄って、落としたのかもしれぬ。それとも捨てたのだろうか。
 冬左衛門は刀を床の間に置くと、着替え、用意された膳の前に座った。冬左衛門は、酒は飲めるが、飯のときに飲む習慣はない。美野がもってきたものを口に入れ、ありがたくいただいた。
 ひげがそばによってきた。猫の椀に飯を入れ汁をかけてやりそばにおく。ひげはうまそうにペチャペチャ食べ、食べ終わると、まだ食べている冬左衛門の膝の上にむりむりのぼってくる。膝を崩しあぐらをかいてやる。猫はその真ん中にじんどり、その格好で冬左衛門は残りの飯を喰った。食べ終わった冬左衛門は猫をどかして脇におくと、床の間においておいた懐刀をとって座布団にもどった。
 猫が膝にあがろうとするのを避けながら、懐刀の柄を持って鞘から身を抜こうとした。じゃりっという音がしてなかなか抜けない。
 小刻みに動かしながら引っ張ると少しばかり動いた。こうなれば大丈夫だろう。おもいっきり引っ張ると、がさっという音ともに刃が現れた。赤鰯だ。かなりの錆びだ。
 冬左衛門はたちあがると、刀と膳を流し運んだ。椀と皿の類を桶の水の中につけ、砥石をだして錆びている刃を研ぎ始めた。
 粗い砥石で全体の赤錆をおとし、その後細かな砥石の上に刃をすべらせた。
 冬左衛門はこのようなことも得意であった。
 裏返しながら、しばらく研ぐと、ざらついていた刃が黒くてらてらと輝きだした。
「なかなかいい刀だ」
 冬左衛門は刃を目の前にかざしてみた。自分の鼻が変に曲がって映る。
「もう少しだな」
 冬左衛門はさらに目の細かい砥石を持ち出して研いだ。
 自分で満足のいくまで磨くと、刃を水で洗いよく拭いた。刀鍛冶なら素人が磨いたことはすぐわかるだろう、それは本人も良く承知である。しかし、素人でここまで磨ける者もあまりいないだろう。彼にとって磨いているこの時間が楽しいのである。
 刃を見た。映った自分の鼻の曲がり具合を見るとよい出来である。刃の先よりちょっと手前に、ほんの小指の先ほどの大きさであるが、薄っすらと赤い染みが浮き出ている。錆びが落ち切れていないのであろうか。いや錆の色ではなさそうだ。血のあとに似ている。この刀は血を吸っているのか。刀をちょっと離して見ると、分からない程度である。どのようなゆわれのある刀なのか分からぬがともかくいい刀だ。
 刃を鞘に戻すと懐刀を床の間にもどした。

 古文書所に出勤した冬左衛門は、塵倉(ちりくら)の整理を頼まれた。ほとんど使われていない三番目の文書保管の倉で、もう何年どころか、十年も開けていないと上司に言われた。入っているのは大して意味のある物ではないということで、塵倉と呼ばれているところである。仕事に必要な書類は一番蔵に、このあたりの武士の歴史は二番目の倉に整理されている。塵倉には無用の物が入っているというわけである。
 冬左衛門は三番目の倉の鍵を開けた。蜘蛛の巣は張っていなかったが、カビの匂いが鼻を突く。くしゃみがでそうなのを我慢した。
 予想に反して、棚は頑丈に作られており、時代の経った古い文書がきれいに並べられている。百年、それより前のものもあると聞いていることから、その点が彼にとっては楽しみなところである。
 冬左衛門は一と記された棚から書を手に取った。それには神世の世界が記されていた。いつ頃のものだろうか。私的な興味で作られた日本書紀のようなものだ。しかし、その当時、文が綴れるというのはかなり学問に通じていた者だろう。文字の裏を読みとると、その世代のことが垣間見られるに違いない。これはこれで面白そうである。しかし彼の仕事はこの地、この国の歴史を編纂することであり、それに関わるような記述を古文書から探し出すことである。それにはあまり役には立たぬであろう。
 二冊目を手に取る。日常の生活を書いたもので、おそらくまだ江戸ではなかったこのあたりに住む一般の人間の様子が分かるものだろう。
 何冊かみていくと、昔の鉄に関する文書がでてきた。江戸より前だ。古式な鉄の製造方法が書かれている。しかし刀を作ることに関しとても詳しく述べてある。そのころの刀はもろかったに違いないが、それを克服していく過程をみるには資料として一級の物である。
 その後に続いて何冊か刀剣の文書が積んであった。その一冊を手にとるとさまざまな形の懐刀の図が描かれていた。墨で描かれているが言葉で色の説明がある。朱塗りの物がほどんどで、形はどれも変わりはない。
 次の本をひらくとこれも懐刀であった。しかし前の物とは全く違っていた。妖刀とあり、絵は岩彩で色が施されている。見ているだけでもきれいな本である。絵の脇にはその謂われが記してある。
 この刀を作ったのは一人の刀鍛冶であった。名前は紅茸(べにたけ)とある。珍しい名前である。生まれは九州阿蘇の麓とあり、それ以外の素性は書いていないが、読んでいくと、この刀鍛冶は紅茸姉と呼ばれ、打ち出す刀はどれも妖刀とある。またこの女子(おなご)、気丈なことでも世に知られている、と書かれている。女性が刀鍛冶になることは大変珍しいことであり、男勝りの女刀鍛冶であったのであろう。
 当時も今も女の刀鍛冶が作ったものなど見向きもされないのではないだろうか。しかし違った。この書にはこの世にこれより強い刀はないとある。
 中程まで読み進めると、黒い塗りの懐刀の絵があった。芙蓉の花が描かれている。
 その説明がある。この刀は武家ではなく、大店の女主人から密かに護身用に頼まれたもので、頼んだ女性は紅茸と親しい間柄の女性である。ところがこの女性は男にだまされ、この刀で自害した。自害した女は恨みに思う男のところに化けて出て、夜毎あらわれ、とうとう男を呪い殺した。ある朝、男の胸にはその短刀がまっすぐ刺さっており、朝日に光っていたという。しかし別の誰か恨みに思う人間の仕業かもしれず、本当のところはわからない。
 紅茸の夢枕に自害した女主人が現れ、刀を返したいと言った。紅茸がそのことを申し出ると刀は紅茸に戻された。その出来映えの美しさから、紅茸はもう一度、研ぎなおし、朱塗りの鞘に作りなおした。紅茸の紋である三つの赤い茸が図案化されている。ということは自分の刀にしたのであろう。その刀の絵が描かれている。
 後に朱の懐刀は紅茸からとある有名な神社に献上され、魔除けの刀として祀られた。祭事の時に使われたとある。
 その神社が取り壊しになり、刀は持ち主が変わったようであるが、その消息は知れないとあった。噂によると、また紅茸にもどり、あらためて黒塗りの刀に作り直されたともあった。
 なぜその刀が気になったかというと、冬左衛門が長屋の井戸で拾った懐刀によく似ていたからである。懐刀はみな似ているものであるが、その抜き身になった三番目の絵を見ると、刃の波やそりの具合がそっくりである。刀を研ぐことのできる冬左衛門にはその似ている様子はよくわかった。しかし同じものであるわけがあるはずはない。とりあえずその本に紙の端くれを挟んで棚に戻した。
 その棚には他に数冊の刀と火縄銃の本があった。
 棚ごとに本の種類が違った。建物、産物、織物、いろいろある、読んでいけば歴史がわかるようになっている。ずいぶんうまい片づけ方をしてある。知識のある者がやったに違いない。これらの本を整理して、このあたりの歴史を編纂できれば仕事としてやりがいのあることであろう。塵蔵とはとんでもない、宝の倉だ。
 上司にそのように報告するつもりになり、その日は倉から出た。
 冬左衛門は上の者にこう言った。
「あの本の倉は、決して塵の本が詰まっているのではございません。このあたりの古きことがたくさんか書かれている貴重本ばかりです、しかも理にかなった形で整理されています」
「そうか、それでどうだ、処分できるものはあるか」
「とんでもございません、刀や火縄銃などの武器の歴史、食物や織物の歴史や、その作り方の本がきれいに整理されております。藩の歴史をまとめるとすると、大事な資料となるに違いございません」
「それでは、冬左衛門に任せるとしよう」
「喜んでいたします。もしそう言われなければ、私の方から申し出るつもりでおりました」
「それほど大事な本であったか、それではたのんだぞ」
「はい、ありがたきに存じます」
 ということで、それからは三番倉にでいりするようになった。

 家に帰るとひげがでてきた。部屋上がると隅に猫の皿がおいてあり、魚が食べ散らかしてある。その脇には布袋があり、冬左衛門が覗くと野菜や米はもちろん、魚の開きが入っている。食事の材である。
 美野が持ってきてくれたようである。時々自分の家の食事に必要な物を買うと、ついでに冬左衛門の物も買ってくれる。とても助かることであった。
 冬左衛門は自分で料理をした。とてもこまめな男である。
 寝所で着替えをすますと、早速夕飯の用意を始めた。米をとぎ、かまどに火をお越し釜をのせる。鰹節でだしをとり味噌汁を作る。だしの鰹節は後で味噌汁と一緒にして猫の餌にする。
 今日は半干し椎茸があった。ちょっとばかり水に漬け戻すと、包丁を取ろうとして、柄が壊れているのに気付いた。そのために拾った懐刀がある。
 冬左衛門は床の間においたままの磨いた懐刀をもってきた。
 所々はげている鞘から放つと、刃の先がきらりと光った。やけに綺麗である。まるで職人が研いだように輝いている。刃に自分の鼻がくっきりと写っている。
 冬左衛門は不思議に思いながら、まな板の上に刀おいた。
 これを包丁代わりに使うのは、刀の作者に申し訳ないとも思いながら、椎茸のいしづちのところに刃を当てた。とたん手が軽くなり、すっと椎茸の柄が持ち上がって、すぱっと先が切れ、こそっとまな板に落ちた。もう一つまな板に乗せ、刃をかざすと、茸からすい寄せられるように柄が落ちた。切ろうとした椎茸がすべてみずから刃に向かって動き、しづちが落ちていった。菜を切ろうとしたときも同じだった。菜の方から刃に向かって吸いあがるように切れていった。
 冬左衛門はそのように見えただけのことと思い、よく切れる刃だと感嘆した。刃を見ると全く汚れていない。刃には冬左衛門の鼻がいい曲がり具合でくっきりと映る。そのまま鞘に収め台所の隅に置いた。
 次の朝、いつものように朝飯を食い、汚れた椀を台所にもどし洗おうとしたときである。ふと脇においておいた懐刀を見ると、半分以上剥げていたはずの塗りが、くっきりと黒くなっている。不思議なことだと思いながらも椀を洗った。
 それからは、冬左衛門にとって懐刀で料理をするのが楽しくなった。何しろよく切れる。魚を切ろうとすると、魚の首が持ち上がるように刃に吸い付き、自分から頭を落とした。開くために魚の腹に刃を当てると、すーっと魚が刃に吸いよせられ、ぱっくりと開いて臓物が飛び出した。力をほとんど使っていない。なぜだろうと思う間もなく、魚がきれいにさばかれていってしまった。
 不思議としか言いようがない。大根の皮をむこうと懐刀を当てると、するすると薄く皮がむけていく。輪切りにしようとすると、等間隔にきれいに切れた。自分では手を動かした感覚がないほどあっという間のことである。
 冬左衛門は釣りの趣味がある。休みの日には天気がよいとちょっと遠出をして海の岩場で磯釣りを楽しむ。ある日のこと、数匹の鯊(はぜ)と、平目が四匹ほど釣れた。鯊は煮ておけばしばらく食えるが、平目はそうはいかない。家に帰る途中で美野のところに三匹置いてきた。
 美野のおやじは「ありがとうございます、若はこまめにようなさいますな、お父上とは大違いだ」と冬左衛門をほめた。冬左衛門の父親と大家は碁の友達であった。そういうこともあり、冬左衛門と美野は幼なじみといったところである、
 家に戻り、まな板の上に平目をのせた。その上には鞘を払った懐刀がおいてある。刺身も旨いがおろすのが難しい。煮て食おう。そう決めたところ、目の前の懐刀がすーっと平目の脇によりそうと、平目がひょっとまな板から浮き上がり、すーっと刃先に向かって滑り、表の身がきれいに切り出された。次に裏の身が切り取られ、三枚に下ろされてしまった。その後、皮がはがされ、切られて刺身ができあがった。
 さすがに気味の悪くなった冬左衛門は刀を鞘に収めた。
 剥げていた鞘は黒い朱塗りの真新しい様相を呈し、きれいな懐刀になっている。
 なぜだと思う前に、これを料理包丁などに用いては罰が当たるのではないかと思った。それほどに立派である。しげしげと眺めていると、鞘の真ん中に、紋が浮かんできた。金の輪の中に真っ赤な茸が三つ、中央から外に向かって描かれている。冬左衛門が三番の塵倉で見たものと画は全く違うが、雰囲気はそっくりであった。
 なんと気味の悪い刀だろう。どうしたらよいものか。迷った冬左衛門は、懐刀をまず床の間に戻した。新しい包丁を買わねばならぬ。
 懐刀は捨てることはできない、どうにか処分をしなければ、そう思っていたある日、同じ文書所で働いている、同期の剛毅(ごうき)が遊びにきた。独り者同士、たまに一杯やりにくる。彼は両親と妹と暮らしているのでなに不自由がない。
「どうだ、ほれ、うまい酒が手には入った」と一升徳利を吊るしてきた。
「どこのだ」
「越後のものだそうだ」
「今日は茸を煮たものがある。それにこの魚を買ってきた」
「おお、赤魚か、値が張っただろう」
「まあな、煮る、焼くかどうする」
「おまえは料理がうまいから、煮てくれよ」
「よし」と冬左衛紋は返事をして、台所に行き、新たに買った包丁をだしたが、ふとあの懐刀を思い出した。彼に見てもらおう。剛毅のいる部屋に戻った。
 床の間から懐刀をとり彼に見せた。
「この刀どう思う」
「いい塗りの刀だな」彼は懐刀を手に取ると言った。
「面白い紋だな、これは紅天狗茸という猛毒の茸だ」
「こんな紋は見たことがないが、知っているか」
「いや、知らない、紋ではないのかもしれんな、作った者か、作らせた者の趣味だろう」
 彼は鞘を放った。
「やや、これはよく研いである」
「俺が研いだのだが、こんなにきれいになるとは思わなかった」
「どうしたんだ」
「拾ったのだ、ぼろぼろだったのだが、手入れをちょっとしただけで、このようにきれいになった」。鞘の塗りが自然に戻ったことは言わなかった。
「なんだそれは」
「ほんとうなのだ、赤鰯だったのをこれまでにした」
「この刀は血を吸っている」
「もう魚をさばいてしまった」
「これでか」
「ああ、包丁代わりにしようと思い拾ってきたのだ」
「いや、人の血を吸っている」
 剛毅は剣の達人でもあり、刀の目利きである。
「不思議なことがある。魚をさばくとあまりにもきれいに切りあがる、自分で捌いているのではなく、魚が刃に吸い込まれる」
「なにを言っているんだ」
 剛毅は冗談だと思って笑った。至極当たり前の反応である。
「それでは、その腕前を見せてやる、この刀の腕前をな」
 冬左衛門は刀を持って、剛毅を台所につれていった。
 まな板の上にのっている赤魚の脇に、懐刀の刃先をゆっくりとおいて、手を離した。
 とたん、赤魚がすすすすすと動いてひっくり返ると、腹を刃に当てるようにして、いざった。刃が当たって腹が開いていく、内蔵が飛び出し、赤魚は煮るためのかたちになった。
「なんだ、これは、妖異だ、この刀には何かがとり付いている」
 眼を見張った剛毅が強い調子で言った。
「そう思うか」
「当たり前だ、刀が勝手に動いているのだ、おかしいと思わなかったのか」
「おかしいとは思った、だが、なにも悪さをしないし、このようにまな板に切るものを乗せたときだけ、料理の手助けをしてくれる」
「手助けではない、やっているのだ、気味の悪いことよ」
「俺も最初はそう思った」
「おまえはのんびりしておるな、雪輪寺(せつりんじ)の住職、雪上を知っているか」
「話はきいている、寺の住職なのに、陰陽師だそうだな」
「そうだ、その寺に持っていって見てもらうのだ」
「だが、いきなり、行ってみてもらえるかな」
「俺が話をつけておく、道場の俺の師匠が知り合いだ」
「それじゃあ、たのむ」
「その刃が人に向けられたらどうなる」
「考えても見なかった」
 懐刀がさばいた赤魚は旨いものであった。

 それから数日後、剛毅の口利きで雪上が会ってくれるということにった。昼前に冬左衛門は刀をもって雪輪寺にむかった。門を入ると庭のいたるところに赤い茸が生えている。
 玄関に立つと、声をかける間もなく、若い利発そうな僧が奥から現れた。
「ご住職にお話があり、まいりました、冬左衛門と申します」
「ああうかがっております、雪上(せつじょう)にございますどうぞお上がりください」
 その若い僧が住職だった。
 後について行くと、案内されたのは本堂ではなく、こぢんまりとした私的な部屋であった。南蛮渡来の長い足のついた机があり、その前の椅子に腰掛けるように勧められた。寺には似つかわしくない。冬左衛門は違和感を覚えながら腰掛けた。
「不思議な剣があるということを伺いました」
「はい、この剣でございます、友が申すには人の血を吸っているそうです」
 冬左衛門は包みの中から懐刀を出した。
「ほほう、立派な刀でございますな、中を拝見いたします」
 雪上は刀を受け取ると身を放った。見事な刀捌きだと冬左衛門は思った。
 刀はきらりと光り、雪上の顔を映しだした。
「すばらしい、だがどこにも妖気を感じませぬ、ただ、大昔、騒ぎに巻き込まれているかもしれません、確かに人の血のあとを感じます」
「やはりそうですか、だが妖気がないにしても、この刀は勝手に魚をさばきます」
「それはどういうことで」
「刀は落ちていたもので、赤鰯の状態でしたが、わたしが研ぎ、使い始めたときは、私の手がかってに動くのかと勘違いするほど魚をきれいに捌きました、最近はまな板に乗せますと、私の手が触れることなく、菜や魚を勝手に切ります」
「それは不思議、寺の賄い所でも見ることができましょうか」
「我家でしかやったことはありませんのでわかりませんが」
「ちょうど昼時、台所に何やらあると思いますので、試してみませんか」
 冬左衛門はうなずくと、雪上の後について台所に行った。
「ちょっとじゃましますよ」
 厨房では働いている老女の一人が沢庵を切ろうとしているところだった。
「オサキさん、切るのをちょっとまってくださいな」
 老女は振り返って、包丁を台の上に置き、後ろに下がった。
「これはどうでしょう」と雪上は沢庵を指さした。
「はい」冬左衛門は刀の鞘を払うと、刃先を沢庵の脇においた。
 なんと刀がすっと宙に浮いた。このような不思議は冬左衛門もはじめて見た。
 沢庵がまな板の上に立ち、刃にむかい滑るようによっていく。刃を通り越すと、音もなく一枚の沢庵が切れた。沢庵は自ら後ずさりするように元のところに動き、前に進んでまた一枚切れた。宙に浮いた刃は次第に下がり、何枚にも切れていった。
「なんと、これはみごと、懐刀がほこらしげに、光っておりますな。
 確かに妖刀でございます、しかし、私のでるところはございません、陰陽師が感じるいかなる妖気もありません。違う世界の仕業でしょう、しかも無邪気だ、料理を楽しんでいるようだ、私は僧侶の身で陰陽道に入り、さらに仏教の妖教にも通じたのですが、この懐刀にはどちらの気も感じられませぬ」
「料理のときだけ、この刃は物を切るのでしょうか」
「そうでしょう、オサキさん、沢庵をもう一本用意してくれませんか」
 老女が沢庵をもってきた。受け取った和尚が沢庵を床に置いた。
「どうです、鞘を抜いて、刃を床においてくださいませぬか」
 冬左衛門は沢庵のある床に懐刀をおいた。
 たしかに沢庵は動かない。今度は、むき身の懐刀をまな板にのせ、沢庵を置いた。そのとたん懐刀は浮き上がり、沢庵もまな板の上で立ち上がると、先ほどと同じように自分から輪切りになった。
「和尚の言うとおりです、まな板という場がないと懐刀は動きません」
「料理に関わった者の意思がこの刀に入り込んでいるのでしょう、料理をしたい一心の刀だと思われます」
「どのような力を持つ刀なのでしょうか」
「妖気がないということは、神の宿った鏡のように、ある人の強い意思が入り込んでいる刀です、おそらく今は冬左衛門さまのご意思です」
「私の見た古文書の中に女の懐刀作りのことがでており、その者が作るのはみな妖刀であると書いてありました。柄も似ております。やはり赤い茸の紋が描かれておりました、だがこの絵とは違いおとなしい感じの茸でした」
「ほー、確かにこの茸は毒の茸、して、刀鍛冶の名はなんと言いますか」
「紅茸といったと思います」
「私はきたことはありませんが、何かいわれはありそうですな」
「その書によれば、紅茸の作った刀が自害につかわれたようです」
「ふむ、この懐刀もなにかあるのかもしれません」
「この刀をどうしたらよいものか、かくべつ手元におこうとも思いません」
「この刀の好きなようにさせてあげればよろしいかと存じます」
「はて、それでは今までのように、菜を切りますか」
「それがよいでしょう、いかにも楽しそうに刀が働いていました、今は冬左衛門さまのそばにいて楽しいのです。刀の意を尊重したらよいと思います、いつか自分で自分の行くところを決めるでしょう」
「陰陽師でもある和尚様がそうおっしゃるなら間違いがないでしょう」
 冬左衛門は雪輪寺を後にした。土産に余計に切った沢庵をもらった。懐刀は冬左衛門の懐に収まっている。
 それからまもなくのことである。身なりのよい若い侍が訪ねてきた。
「拙者、薩摩の者で、橋本利三郎と申します。屋敷の主人の警護から身の回りの些細なことまですべての手伝いをしております。主人がとあるところから、おかしな懐刀のことを耳にされ、是非見てみたいとのことで、冬左衛門殿に頼んでまいれと仰せになりましたのでございます」
「して、この話はどこからお聞きになりました」
「一つは、我が藩の若い者が通う剣道場と、もう一つは、屋敷に出入りしている、陰陽師の方にございます」
「剣道場では剛毅という友が刀のことを知っております。陰陽師はもしやすると雪上和尚ではありませぬか」
「たしかに、剛毅殿といわれたと思います、ただ陰陽師は実柾といいまして、神官でござる」
「そうでございますか、いやお見せするのはかまいませぬが」
「それでは、ご都合の良き日においでくだされますか」
 
 冬左衛門はそれから数日後にその屋敷に通されていた。
 若者が主人といったのは、一時、江戸の薩摩屋敷の留守をあずかる者で、新崎石采(せきさい)といった。
「そちが冬左衛門か、不思議な刀をもつという」
「文書所の冬左衛門でございます」
 ずいぶんえばったものの言い様だと思いながらも頭を下げた。
「それで、その刀が魚を捌くのを見たいが、よいか」
「はい、まな板さえあれば、捌くと存じます」
「そう聞いていたので、向こうの部屋に用意してある、ついてまいれ」
 せっかちにも石采は立ち上がると、お供をつれて次の間に入った。
 冬左衛門が後について部屋にはいると、まな板の上に立派な鯛がのせてあった。
「さー、みせてくれ」
 冬左衛門は懐刀をぬき、まな板の上に置いた。すると、いつものように刀と鯛は宙に浮いた。見る間に鯛が刃の方に浮かんでいき、片身をそぎ落とした。半身になった鯛は表裏が逆となり、また刃の方に浮かんでいき、身をそいだ。鯛は三枚に下ろされた。さらに身と皮が切り離され、きれいな鯛の切り身ができた。
「おー、こりゃ、不思議な刀よ、どうじゃ、十両ほどでわしに譲ってくれまいか」
 石采が冬左衛門を見た。気乗りはしないが、といって、持っていてもしかたがない。迷いはあったが、雪上に刀が自分で行くところを決めると言われたことを思い出した。
「この刀がもし、石采様を選びましたらお譲り致します」
「どのようなことかな」
「刀をまな板の上で回します。刃先が石采様に近ければお譲り致します」
 そう言って、石采の反対側に立った冬左衛門は懐刀を板の上でまわした。刀はくるくると回り、止まった刀の切っ先はまっすぐに石采の方を向いた。
「おお、これはよかった、譲っていただくことにして良いな」
 頷いた冬左衛門に石采はその場で十両をわたした。
 もらった十両を懐に入れ、冬左衛門はどこか晴れぬ気持ちで家に戻ったのである。
 その後、三番倉を整理していると、人にまつわる古文書の集めてあった棚に、紅茸姉のことが書いてある書をみつけた。薩摩の女鍛冶が打ち首になったとある。女鍛冶屋が作った刀を使って、あるお屋敷の奥方様がその主人を刺し殺した。奥方はとある名のある家の娘で、その事件は刀が勝手に行ったことであり、刀鍛冶に責任があるとされたためとある。奇異なことである。
 その古文書を読んだ次の日、剛毅が家に来た。
「久しぶりだ、どうだ」
「おお、拾った刀が十両になった」と仔細を話した。
「薩摩に売っちまったのか、それにしても安く売ったものだな、あんな不思議な刀、俺だったら、刀だけ料理屋で働かせる。魚を捌くわけだからいい料理人だ、それで給金をもらう、俺は遊んで暮らす」
 それを聞いた冬左衛門は笑った。
「確かにそうだったな、だが刀自身が行くことを選んだのだ」
「どういう意味だ」
 冬左衛門は懐刀の刃先が石采の方にむいたことを話した。
「そんなことがあったのか、どうだその十両を貸せ、倍にしてやる」
「馬鹿を言うな、みんな飲んじまうんだろう、お前のお陰でもあるから少しならやろう」と冬左衛門はまたもや笑った。
「冗談だ、今日きたのはその刀に関係のあることなのだ、あの薩摩の留守の石采という男はくせ者らしい、色狂いでな、それで薩摩の地にはおいておけなくなって、江戸に役をつけて放り出したようだ。要するに評判が悪い」
「確かに、付き合いたくない男だった、お主、それだけをいいにきたのか」
「いや、もっとおかしなことがあってな、どうもその薩摩の屋敷でなにかあったようなのだが隠している、薩摩の道場仲間の様子がおかしい」
「なにをだ」
「それがわからん、あの和尚に聞いてもらえないか」
「あまりにも漠然としておるな」
「そうか、それじゃ、どうだ、あの刀がどうなったか知りたいとでも言って、様子を聞いてはくれないか」
「雪上和尚が薩摩の屋敷のことを知っているのか」
「いや、わからんが、何かありそうだ、あの刀のことを薩摩に言ったのは和尚だろう、実は俺は誰にも刀のことは言っていない」
「そうなのか、しかし、薩摩屋敷の使いにきた若侍は雪上のことは知らなかったが」
「雪上が陰陽師仲間に言ったのかもしれぬ」
 その二日後、冬左衛門は雪輪寺を訪ねた。
 本堂に通された冬左衛門の前に雪上は浮かぬ顔をして座った。
「和尚殿、ご無沙汰しておりました、今日うかがったのは」
 と冬左衛門が言い終わらないうちに、和尚は手を突いて深々と頭を下げた。
 なにかとうとい冬左衛門も、雪上和尚に秘めた思いのあることを察した。
「こちらこそご無沙汰いたしております。おいでになること、御用向き存じております」
 和尚は立ち上がり、本堂の釈迦像の前に置かれてあるものを持ってきた。
「お返しいたします」
 渡されたのは薩摩の石采にゆずった懐刀であった。
「なぜこれが」
 冬左衛門はおどろいた。薩摩でなにかがあった。剛毅の言ったことを思い出した。
「あなた様が、育てた刀にございます」
「どのような意味がございましょうや、私はただ錆を落とし、まな板の上で料理に使おうとしただけのこと、それで刀が勝手に魚を捌くようになりました」
「冬左衛門さまが料理に用いたことで、身を守るため、自害のためにつくられた懐刀が食材を料理することに目覚めたのでございます」
「しかし、なぜ、ここに」
「この刀には復讐の心もございました、もっと長くあなた様の所で料理をしておりますれば、復讐の心は薄れていったかもしれません」
「それはどういう意味でございましょう」
「この刀が紅茸と号した女鍛冶が作ったことはご存じだと思います」
「やはりそうでしたか」
「はい、紅茸は本名を、美藻といい、腕のいい鍛冶屋の娘でした」
 そこから、雪上は紅茸の生きざまを語りだした。
 美藻は一人っ子で子供の頃から父親の刀作りを陰から見ていた。決して作業場の中には入れてもらえなかったが、ちらちらとほかの部屋や、夏など開け放たれた窓から遠目に見ていた。父親がほとんど裸に近い格好で、汗水垂らして打ち込む姿はあまりにも強く頭の中にしみつき、出来上がったきらきらと光る刀のきれいなことも異常なまでの憧れになった。十五になったとき、自分でも作りたいと思うようになった美藻は父親に刀を打ってみたいと申しでた。
 十五というとそろそろ嫁にやる年である。美藻は親もかなりの美形と思うほどきれいな女子(おなご)であった。娘には決して厳しい父親ではなかったが、こと、刀を打つことになると、どのような偉い人にも我を通した。母親は全く口を出すようなことはできなかった。当然本人も、母親も、一笑にふされるものと思っていた。
 ところが、やってみるか、の一言だった。そのときの父親の気持ちを、その後、美藻は、娘が刀に興味を持つことで、刀鍛冶の婿が来ると良いと思っていたのではないかと、回想を述べている。
 それが父親の思いとは違い、美藻は重労働の刀打ちを喜々としておこない、腕をめきめきと上げたのである。やはり女子、長刀ではなく、短刀作りに力を発揮した。鞘はみごとな仕上げをした。鞘までも自分で作るようになったのである。
 これには父親も驚いたようである。二十歳の頃になると、茸の好きだった美藻は紅茸と名乗るようになり、その美貌でも有名になり、嫁としての引き合いはそれは大変なものであった。しかし男には興味をしめさず、刀を打つことに力を注いだ。
 ある日、薩摩のある武家からそこの妻の懐刀を頼まれ、それは見事な刀を作りあげて届けたそうである。そのとき刀を持参した美藻、すなわち紅茸の美貌にそこの主人が懸想した。それから刀を作るからという口実で、何度も屋敷に呼ばれ、とうとう手込めにされてしまった。一方、紅茸と主人の間に感づいた奥方は嫉妬にかられ、妄想に襲われ、その短刀で自害をした。その後もその武家はしつこく紅茸につきまとった。とうとう美藻はその主人に刀を向けた。しかし返り討ちにあい、切り殺されてしまった。古文書にあったこととは少し異なる話だった。
「それで、雪上さま、なぜ、この刀がここにあるのでしょうか」
「冬左衛門さまがお譲りになった相手を、この刀が切り刻んだそうでございます」
「え、あの留守役の石采様をですか」
「あの侍は、地元でも名うての女好き、藩としての困り者でございました。江戸にとばし、ともかく地元から離したのでございます、ところが江戸でも癖は直らず、その夜も床で、女にこの刀をみせたのだそうでございます。抜き身にして、枕元に置いたところ、刀の刃がするするとのび、大刀と同じほどの長さになったと思うと宙に浮きあがり、同時に石采殿が宙に浮き、刃に向かって滑り、腹がするりと切り取られ、ひっくり返ると背側も切り取られ、三枚におろされたのだそうでございます。すると、おろされた半身から真っ赤な茸がたくさん生えてきて胞子を散らしたそうでございます。そばにいた女は動くこともできずことの次第を始終見ていたのでございます」
 冬左衛門は自分でも驚くほどその話を落ち着いて聞いていた。
「もう一度うかがいます、なぜ、この刀が雪上さまのところにあるのでございましょう」
「はい、本当のことを申し上げましょう、紅茸には子供がございました、自分の父親が死んでからのことでございます、思い人がおったのです。産んだ子供は先方に引き取られました。私はその子供の孫にあたります、石采殿は紅茸を殺した男の血筋を引く直系の者でございます。冬左衛門様があの刀をもってこられたときには、紅茸の作ったものとすぐわかりました。あまりにも妖気が強く復讐心のこもった刀でした。嘘をもうして申し訳ありませんでした。冬左衛門様にみがかれ、料理包丁として使っていただくうちに、復讐心が消えていくものと考えておりました。それがあの敵に出会うとは思っておりませんでした。これも祖母の気持ちの強さだったのだと思います」
「して、また、お聞きしますが、なぜここに」
「長々と申し訳ありませんでした。この刀の妖気を封じ込めないと、また何をするかわからぬと申しでて、もらい受けてまいりました」
「雪上殿、嘘がありますな、この刀があることをあの石采殿に教えたのは雪上殿、ご自身であろう、この刀が復讐をとげられたのは雪上殿の計らいと見ます」
 冬左衛門はいうなり、前に置いてあった懐刀に手をのばした。ほとんど同時に、雪上の手も伸びていた。
 刀を手にした冬左衛門は、
「雪上殿、この懐刀はわたしが、包丁としてあずかります、もう血は吸わせませぬ、雪上殿もご自分の身を大切になさり、この妖刀を見守りくだされ、時にご報告に参ります、いや、この刀に料理をしてもらい、ともにいただきませんか」
 雪上は床の上で両手をついて頭を垂れていた。
「ありがとうございます」
 絞り出すように言った。
 冬左衛門は雪上の自害を止めた。
 
 薩摩の屋敷で死んだ留守居役の石采は病死として報告され、一部始終を見ていた女には金を握らせて江戸から離れてもらったようである、剛毅が薩摩に何かあるといったのはこのことだったのである。
 その懐刀が雪上にわたったのは、雪上が言った通りのようで、薩摩の屋敷に行って、気味悪がって誰も触りたがらなかった刀を供養すると、もらい受けてきたようである。
 その後、冬左衛門は料理の腕を上げた。
妖刀は人前では料理をしてみせることはなかったが、冬左衛門の前だけでは魚が跳ね、菜が飛び上がって刀の刃にかかって捌かれていった。
 冬左衛門は侍をやめ、美野を妻に迎え料理屋を開いた。旨くてきれいな料理を出す店と、江戸の中で名がきかれるようになった。
 ときどき雪上が料理を食べに来る。その時、冬左衛門は自分では包丁をもたなかった。刀に任せたのである。雪上が来たのがわかるのか、紅茸の作った刀は嬉々として、魚を三枚に下ろし、茸を刻んだ。
 雪上は祖母、紅茸の作った料理をじっくりと味わうのであった。

赤鰯

私家版第六茸小説集「茸童子、2020、一粒書房」所収
茸写真:著者 東京都日野市南平 2016-9-1

赤鰯

懐刀が勝手に宙に舞い、魚を三枚におろす。女刀鍛冶の怨念は?

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • 時代・歴史
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-05-11

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