魔女は獄門にて哭く

みなさま、初めまして。J・マッパーと申す者です。
今日から超不定期で小説を書いては更新していきます。不出来な文章かもしれませんが、登場人物の皆が最大限活躍できるよう頑張りたいと思います。
基本的には女主人公が頑張るお話です。(2018年5月9日更新)

プロローグ

 子供のころ、私はよく外で遊んでいた。
 友達を家まで呼びに行くと、それからは夕方まで鬼ごっこをしたり、缶蹴りをしたり、疲れたら野原に寝っ転がったりしていた。
 私は、友達と遊んでいる時間が好きだった。家の中にいても、お父さんとお母さんはすっかり疲れきっていて、私に構ってくれなかったから。
 その当時は、どうしてお父さんとお母さんが疲れているのかが私には分からなかった。だって、私は元気だったから。自分が元気なら、みんな元気だと思っていたし、だからこそ、遊んでくれない二人に対していつも駄々をこねていた。
 対するお返しは、お父さんの怒鳴り声とお母さんの無視。
 それを受け取って、ようやく私は諦めて不貞寝していた。
 そんな日々も、長くは続かなかった。

 ある日。いつものようにお父さんとお母さんに構ってもらおうと声をかけると、二人とも了承してくれたのだ。
 私は喜び、満面の笑みを浮かべて二人に抱きついた。それを見たお父さんは小さな声で笑い、お母さんは軽く私の頭を撫でてくれた。
 私たちは室内で、ごっこ遊びをした。内容は、魔王のお父さんを勇者の私とお母さんが倒すというものだった。
 いつもは家具に使っている魔力を、二人は私と遊ぶために使ってくれた。
 炎の球が飛ぶのを、水の塊が防いだ。
 ひょうと吹く風を、鋭い氷の刃が切り裂いた。
 魔術の応酬は絵本で見たようなものよりも遥かに強烈的で、私はいつの間にかお父さんとお母さんの芝居を見る一人のお客さんになっていた。
 芝居が終わると、私は目を輝かせて拍手を送った。「私もいつかああいうことが出来るのか」と聞くと、「勿論だよ」と返ってきて、それがまた嬉しかった。

 ……その翌日。
 目を覚ますと、私は見知らぬ場所にいた。
 そこは私の部屋よりも暗くて、狭くて、冷たかった。
 ここは何処だろうと、きょろきょろと辺りを見回す。
 やがて一つの人影を見つけると、私は駆け足でそちらへ向かった。
 人影の正体は男の子で、背は私と同じくらいだった。
 「ここは何処なの?」と聞くと、男の子は小さく笑って、それからこう言った。
 「檻の中。捨てられたんだよ、君は」と。
 その言葉は、私に現実を認識させるには十分すぎる言葉だった。
 泣き崩れる私を、男の子は優しく撫でてくれた。小さな温もりが、私の頭上を行ったり来たりした。それはまるで親からの愛のようで、そう思うとまた涙が出た。

 この日を境に、日常は変わった。
 そして、私の中での家族も、変わってしまった。

1話(1-1)

 外から窓へと差し込む陽光を浴びて、私は目を覚ました。
 大きく伸びをして、身体を動かす準備を整える。
 「……懐かしい夢」
 ぼそっと呟き、先ほどまで見ていた夢の内容に思いをはせる。
 今からもう十年前の出来事。私が親から捨てられた頃の記憶が、何故か今になって夢となって甦ったのだ。
 だから何だといわれるとどうしようもないが、私の中ではとても不思議だったのだ。
 どうして、「今」その夢を見る必要があったのか、ということが。
 「いけない。どうやらまだ、僕は夢うつつみたいだ」
 ベッドから立ち上がり、頬を手で何度か叩く。痛みはぼんやりとしていて、情けない。
 私は眠気を強制的に追い払うために、寝室を出てリビングにある台所へと向かう。
 寝室からリビングへと通じるドアを少し開くと。
 「やあ、時雨。おはよう」
 不意に、ドアの向こう側から声がした。
 見ると、私のよく知っている人影が一つ。どうやら先客がいたらしい。
 「やあ、修哉。来るの早いね」
 「まあね。ちょっと用事があったからさ」
 手に持った新聞を読みながら、こちらへ顔を向けることなく修哉はそう答える。
 私はそんな彼をぼーっと見つめる。
 私の部屋を、あたかも自分の部屋であるかのように堂々と振る舞う目の前の男の名は、九字宮修哉。年は十七で、私と一緒。背は私よりも十センチ高い百七十三センチで、体格はスラっとしている。顔も申し分なく、正直誰とも付き合っていないのが不思議なくらいの美男子だ。
 彼曰く、私とはもう十年以上の付き合いらしいが、私は覚えていない。
 「へえ。用事って何さ?」
 「ああ、もう終わったよ。時雨の寝顔を拝めたからさ」
 「殺すよ?」
 「冗談だからその冷たい返事止めて」
 両手をあげる修哉を見て、私は小さなため息を漏らす。こんなふざけた性格をしている奴と、どうして昔からやっていけたのだろう、といつも思う。
 そして、こんなやり取が眠気覚ましに役立っているのだからタチが悪いというものだ。
 「下らない冗談を言わないでくれ。それで、用事は?」
 「これ」
 返答の代わりに、こちらへと新聞を差し出す。
 それを荒く引き取り、書かれている記事を読む。
 「左上の見出し、読んでみて」
 「——『あなたの記憶、蘇らせます』? ……なんだこれ」
 修哉が示した記事の内容は、見出しに書いてあるように、人の忘れた記憶を思い出させるというものだった。
 医療技術は一切使わない。小一時間に及ぶカウンセリングによって、失っていた記憶を呼び起こすらしい。しかも、ただ呼び起こすだけでなく、その記憶を自身のものだと認識させ、違和感を覚えることがないらしい。加えて、この方法は記憶喪失だけでなく、アルツハイマー病にも効果があるらしく、脳医学の専門家が「彼女の話術が、神経細胞に保存されている記憶を呼び起こすよう促しているのではないか」と生真面目に語っていた。はっきり言って胡散臭いのだが、どうやら修哉はこの記事に注目しているらしい。
 「いやほら、時雨って記憶喪失じゃん」
 「まあ、そうだけど」
 「今のお前は、過去のことなんてどうでもいいって思ってるけど……昔は、思い出を作ることをすごく大事にしてたんだ。だから、過去の自分を知ってほしくってさ」
 「ふうん。どうでもいいことに執着するんだね、修哉は」
 「いや、だからそのどうでもいいことを過去のお前はな……」
 「あのさ、修哉」
 これ以上口を開かれてもうんざりするだけなので、私は修哉の発言を遮る。
 ちら、と彼の顔を見る。今にも泣きだしそうな顔をしていた。
 私は、何故かその顔を直視したくなかった。だから、そっぽを向いて、なびいた黒髪をさっと直しながら口を開く。
 「いい加減、過去の僕のことは忘れてくれ。君が今話しているのは僕じゃない。僕だったものの、亡霊だ。分かるかい? ……死んだんだよ、過去の僕は。それを今の僕に投影されても、困る」
 最後まで、言いたいことを言い切った。後悔なんてしない。そう思っていたのに、今自分の心の中では後悔の念がゆらゆらと蠢いている。
 そのせいか、私は彼のほうを振り向いてみたかったが、見なくても彼の身体が震えていることが分かったから、結局振り向くことはしなかった。
 「じゃあ、僕は外出するから。またね、修哉」
 そう言うと、修哉を置いて逃げるように外へ出る。
 外の空気は冷えていた。ぶるりと身体を震わせてから、自分が寝巻きのままだったことに気づく。今はいない、過去の私が買った水色のガウン。
 「まあ、これは自分の行動に対する報いってやつかな」
 あはは、と乾いた笑いを漏らす。そう考えると、剥き出しになった脚を突き刺すように襲う冷気が、まるで自分への処罰のように思えてくるから面白い。
 とはいえ、いつまでも外にいては目立つ。
 「はあ」
 私にしては大きめのため息をついて、ふらふらと歩きだす。
 それはまるで、あてもなく彷徨う亡霊のようで。
 ……ああ、そうか。
 なるほど、過去との繋がりを持たない私は今、亡霊と大差ないわけだ。

魔女は獄門にて哭く

お疲れさまでした。いかがだったでしょうか。
読んでも「?」な方が多いでしょう。安心して下さい、私もです。
これから捨てられた女の子がどうなっていくのか、そして男の子はどんな立ち位置で登場するのか!
そのあたりは、これから考えていきます。(2018年5月9日更新)

魔女は獄門にて哭く

記憶を失った女主人公が、男主人公と生きていくお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-05-09

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Copyrighted
  1. プロローグ
  2. 1話(1-1)