竜と神と人間と#5

昨日は転校して来て早速面倒ごとに巻き込まれたが、金は沢山手に入ったし満足だ。今日こそ学校というものを見てみるか。西園寺から貰った校内図もあるし周るか…。
「お、御門君じゃないかー。完全に遅刻確定してるのに呑気(のんき)だね。」
朝から面倒な奴に絡まれてしまった…。遅刻って、この学校には勉強しに来たわけじゃないからな。金稼ぎに来たからそもそも、遅刻という概念はない。
「御門君その言い方はどうかと思うよ。それに、相変わらずの守銭奴だね。それは置いておくとして、今日は色々説明しないことがあるから、まずは既に送ってある説明書を読んでね」
朝から携帯端末に送られてきた内容は学校の見取り図と説明だ。俺はこれを見ながら校内を周ろうと思ったのに…。
「いいから読んでくれるかな?」
(うるさ)い奴だな。
さて今更だが、城山学園はかなり変わったところに建っている。切り立った崖の上にあり地下3階まであるのに日当たりは最高に良い。それに、A、B、Cと3つの区画に分けられている。A区画はXクラス以外の魔法科の学生がいる『教室棟』だ。B区画は部室、図書室、保健室、事務室、会議室、職員室がある『職務棟』だ。そしてC区画は生徒会室、書庫、理事長室、Xクラスの教室と一番理解不能な時空調律室(じくうちょうりつしつ)がある『特殊棟』だ。ちなみに学生寮がA区画の地下にあるそうだ。当たり前だが、全ての棟は渡り廊下によって繋がっているが特殊棟だけは入るのに許可証がいるが、Xクラスの生徒は免除されている。そして何より凄いのがここまでのボリュームを4階で収めているというのだ。あ、学生寮の説明が抜けてたな。地下1階から3階は学生寮になっている。学生寮とA区画が繋がっている。Xクラスの生徒もいるらしいが今度、時間があったら行ってみるとしよう。
「…っていう説明はもういいか?」
「十分伝わったよ。ちょっと蛇足もあるから長くなったね」
「で、この時空調律室ってなんだ?」
「屋上に行ったときに大きな時計塔があったよね?」
あの時は色々あって全然見ていなかったな。そんなのあったのか?
「ま、まぁその時計塔の中に時空調律室があるんだよ」
時空調律って事は神でもいるのか?神を学校に住まわせるとかすごいな。
「その予想は外れてるよ」
そうなのか。まぁ、百聞は一見に如かずってやつだな。とりあえず行こう。
「1つだけ言っておくよ怒っちゃ駄目だよ?」
なんだそれ、俺はそんなに怒りっぽくないぞ。

「世界観がおかしくないか?一応学校だろ?」
俺は開口一番に確認をした。神が住んでないのに時空調律室の扉は西洋の図書室みたいで厳かな雰囲気がある。あの探偵部の部室が元々が古文書を収納している書庫だとは思えないくらい普通の扉なのに何故だ。
「さり気なくディスらないで」
(扉の前で騒がないで)
なんだ?脳内に直接声が届く。
(早く入ってよ)
無気力そうな声が急かす。
「さ、入ろうか」
扉を開けて入ると、ノヴァの神域にも似ていた。いくつもの水晶玉が巨大なモニターの近くでフワフワと浮かんでいてホントに世界観が違う。神は本当にいないのか?
「いないよ。この人だよ。紹介するね。この寝ぐせ頭の人は(ほし)(かえで)。主に心理学とジオラマ実習の担当しているんだよ。普段はここでジオラマの管理とジオラマ実習に参加している人を監視しているんだよ」
「登。いきなりそんなに話してもこのツンツン髪の引き篭もり脳じゃ理解できないと思うよ」
怒るな…。初対面でここまで失礼なことを言うのは異種族では当たり前なんだ。落ち着け。
「あ、ははは…。怒らないし忍耐強いね。さて細かく説明をするね」
長い説明を要約すると、この時空調律室は星という3人目の人型竜(カイザー)が神の代理で世界の調律を保っているらしい。ジオラマ実習というのはXクラスの希望者のみが1年間受ける調律師になるための実習だ。実習内容は世界を1から作ってその様子を1年間見るという何とも不思議なものだ。星は神に頼まれてここで調律師として働いている。モニターの前にある水晶玉自体がジオラマでモニターにはジオラマの様子とログが映っている。ログの履歴をまとめたものは書庫に置いてあるらしい。
「様子を見るって言っても因果が乱れてアラームが鳴った時だけしか見てないよ。普段はそこの椅子で寝てるかゲームをするくらいしかやることないよ。御門も流石にこれには減点はしないよね?予想ログにそう書いてあるし」
メモを開いて『星楓を職務怠慢で20点減点』と書いてインベントリに戻した。
「何を言おうが20点減点。普段の様子も確認しろよ。そんなんで神の代理が務まると思ってるのか?」
「予想ログの予想が外れるって…。因果律の崩壊が起きるよ」
頭をすごい勢いで()(むし)っているな。怖いぞ。
「馬鹿なのか?予想したなら当たるまで言うなよ」
そう言うと星は掻き毟る手を止めて
「あ、そういわれるとそうだね。私も完璧ではないからね」
全く…。俺以外の人型竜はまともじゃないな。困ったものだ。
「いや、僕はその発想に訂正を入れたいな」
「元引き篭もりの守銭奴の技術者ってのもまともじゃないと思うよ。うん。自己分析能力が低いのかな?」
2人から総ツッコミを食らった。2人の方がすごいと思うぞ。オーパーツを真似した詐欺工作に世界管理の放置だぞ。守銭奴なんて人間でもいるからおかしくはない。
「入るぞ!お前達3人を理事長が呼んでいるぞ!私についてこい!」
扉が勢いよく開かれて生徒会長こと石川花音が大声で呼んだ。
「この無意味な論争はひとまず休戦にして行こうか」
「ここの理事長は少し変わり者だから楽しみにしておきなよ」
また面倒な人間に関わらなきゃいけないのか。平穏な生活にはいつになったら戻れるんだろう…。
明日こそ平和に過ごすぞ。

「よく来たな。ここに来たことにまず誉めてやろう」
開口一番このチビは何を言っているんだ?理事長はどこだ?
「御門。全部声に出てるよ」
「チビとはなんじゃ!我が理事長じゃ!」
机を叩きながらツインテールも連動して一緒に怒ってるな。それにしても種族はふむ…。弱い奴だな。
「この人は西園寺(さいおんじ)理沙(りさ)。この学校で一番偉い理事長だよ」
「一番偉い?竜の中では最弱の小型竜(パピー)と呼び声高いこの女が?」
「そんなことないよ。見た目はただの幼女で密かに会長にロリババアと呼ばれているけどすごい人ではあるよ」
「他のことが気になりすぎて良さが伝わらないんだが…」
「星!それは内輪だけの話って言ったでしょ!本人に直接言ったら傷つきますよ!」
「皆止めて!理沙っちのライフはもうゼロだよ!」
なんだこのやりとり…。
理事長はツインテールで顔を隠して完全に不貞腐れている。原因は星と石川だろ。俺は何も悪くない。
理事長(マ マ)落ち込まないでください。モナ王食べますか?」
「食べる!ミミだけだよ。いつも優しいな。大好きだぞ」
どうやら西園寺のところのメイドも来ていたみたいだ。
(本当に子供みたいだね。頬にチョコ付いてるし)
と微笑ましい光景を見て保護者のようなことを思っている西園寺。
(こういうところが幼女って思われるんですよ)
呆れながらも少しにやけている石川。
(このクソガキより私の方が理事長に向いている。調律師と兼業したい)
野心に燃えている星。
各々で色んなことを思っているが星だけ口悪いな。見た目とのギャップが激しいぞ。
「理事長。話が脱線しましたが、用件は何ですか?」
おっと3人とも脱線した元凶が俺なのは分かっているから何も考えるな。
「そうだな。ドラゴン三人衆と石川会長に頼みたいことがあってだな。空の警備隊をやって欲しいのじゃがよいかの?」
「それってなんですか?」
「空の警備隊。エアスクーターをミカドラボで開発して一番最初に問題になった空賊という空のギャングを取り締まる特殊部隊のことだろ?発足命令を出したのが俺だから詳しいぞ。家にある資料を後日送っておく」
空の警備隊は空賊を撲滅して廃業になって、今は空のパトロールをしている。随分と昔にアンパンの顔をしたヒーローも空のパトロールをしていたな。あれと同じくらい大変だそうだ。
「空賊はいなくなったんじゃないんですか?」
「流石、詳しいな。空賊じゃなくてスカイウイングっていう空の走り屋が増えて困ってるようなのじゃ」
ん?それは知らないぞ。スカイウイング?被害の届け出も出てないし。
「走り屋が増えてもルールを守っている人しかいないから問題はないんじゃないんですか?」
「残念なことに悪い奴がいなくなったら新しい悪い奴が出てきてしまうのがこの悲しい世の中なんだよね」
「確か、空賊がいなくなってから迷惑行為をする走り屋が増えてしまったんですよね?」
理事長のツインテールがビシッと天井を指すと
「その通りじゃ!具体的な被害は体当たり行為や囲み行為じゃ」
「その問題を解決すればいいんですよね?」
ん?空賊みたいに強盗行為は無いのか…。スクーターが傷ついても、うちで修理をすれば儲かるし、走り屋が欲しがるようなスクーターを開発したり改造パーツを作ればもっと儲かるしこれは俺には何の得もない気がする…。あ、だからこの案件がきてなかったのか。流石だな。
「ちなみに、国から謝礼金として1人当たり100万円が贈られるようじゃ。金で釣ってしまって悪いがどうじゃ?やってみるかの?」
「よし、やるぞ。俺がリーダーとして責任を持つ。やるぞ」
(予想ログを超えるくらいの守銭奴だね)
(でしょ?流石に引くよ。この温度差にね)
うるさい。俺は損得勘定で決めるんだよ。
(損得感情の方があってると思うよ。うん)
「御門。ここに来て間もないのにやる気で満ち溢れてるな。そこの2人にも見習って欲しいくらいだ」
(金が無かったら動かないって言ってみようかな)
(テレポート使って帰られたらまずい。余計なことは言わない方がいい)
2人とも煩いぞ。金が貰えないなら放置した方が儲かるんだよ。お前らには関係ないけどな。実際に金が貰えなかったら速攻で帰ってたけどな。まぁ、いい。
「早速、行くぞ!」
金の為に頑張るぞ。

竜と神と人間と#5

竜と神と人間と#5

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-04-22

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