竜と神と人間と#3

城山学園の屋上からの景色はとても綺麗だ。小高い丘の上にあるだけあって保護区全体を見渡せる。ちゃんと落ちないように柵も頑丈にできている。だが…。
「何で、扉全体が焦げているんだ?明らかに魔法を使ったような痕跡もあるし」
「うーん。それはね強力な火属性魔法を使ったからだよ」
「馬鹿か?何で扉に魔法なんか打ち込んだんだ?」
西園寺が「フヘへ」と笑いながら
「屋上で昼寝してる時に虫が飛んできて焼こうとしたら魔法陣の大きさ間違えちゃったからね。僕だってミスをするんだよ」
「コイツは意外と抜けてることがあるから親近感が沸くんだよな」
「僕もそういうところが気に入ったの」
人間らしいんだな…。って思わせるのが西園寺の戦法なんだろうが、実際は計算高いだけなんだよな。虫なんて重力魔法で潰せばいいのに…。
(そういうことはなるべく思わないでね。僕のイメージを崩さないで欲しいな)
実際には何が原因だったんだろうな…。…。ここは反応しないのか。何か秘密でもあるのか?
「御門だっけ?お前も転入初日に不運だな」
唐突に桐谷が話しかけてきた。
「会長に目を付けられたらこれから大変だよ?
続いて時雨も言うが、俺には何を言っているのかさっぱりだ。
「2人ともいきなり話を進めるから御門君が困ってるじゃないか。僕が説明するよ。さっき追いかけてきた女の人は石川(いしかわ)|花音|《かのん》。この学校の生徒会長だよ。噂によると閻魔大王と夢魔のハーフらしいよ(まぁ、ここだけの話全部事実だよ)」
マジかよ。クラスXってほぼ異種族の集まりなのか?
(んー。70%は異種族には見えない人だよ)
残りの30%はなんだよ。
(僕達と同族って可能性があるね)
なかなか面白い話を聞いた。
「…ていうことをしてるの。聞いてた?」
「ん?何がだ?」
時雨が何か話していたようだが、案の定聞いていなかった。
「あー。この感じは聞いてなかったな。登、説明してくれ」
「ほいほい。僕から説明するね。僕達3人は天誅蜘蛛(スパイダーズ)っていう世直し組みたいなことをしてるんだよ。」
「世直しって何をしてるんだ?魔法管理委員会とか国家魔法公安みたいに税金で飯を食べてる家畜の真似事か?」
西園寺は笑い、時雨は目を逸らしながら乾いた笑いをした。2人はこの気持ちを分かっているようだが…。
「公務員に何か恨みでもあるのか?」
桐谷は呆れたように聞いてきた。
「未だに学力だけで就職ってのが気に食わないだけだ。桐谷はそう思わないのか?」
桐谷は少し考えて
「スパイダーズは何だかんだでお世話になってるから一方的に非難はできないんだよな」
結局スパイダーズは何をしているんだろうか。
「スパイダーズは漢字で書くと『天誅蜘蛛』蜘蛛のように忍び寄って天誅するんだよ」
天誅って神の代わりの罰を与えるってことだよな。罰を与える奴はどうやって見つけてるんだ?
「そもそも、コイツは昔のゲームで『TENCHU』っていう忍者のステルスキルゲームが気に入って付けたんだよな」
「細かい設定は後付けだもんね」
「ちょっと2人とも!そういうネタバレはダメだよ。僕達は相談室でオンライン掲示板を使って依頼人の依頼をこなしてるの」
「『TENCHUオンライン掲示板』って何のひねりも無い掲示板でも人はくるからね」
「コイツは、才能はあるんだがネーミングセンスが壊滅的だからネーミングだけは任せたくないんだよ」
小説の書き方の本ってのを読んだことあるけど『完璧な主人公より少し欠点があった方が共感が持てる』って書いてあったな。竜が異種族と馴染むにはこういう風にあえて、自分を弱く見せるもんなんだな。
(いや、これはフリとかじゃなくて事実だから。流石にこれをわざとやるって難しいよ)
マジかよ。何かショックだな。
「折角だし、僕たちの部活に入りませんか?」
「お、奏が自分から誘うって珍しいな」
ん?部活?天誅部か?いや、TENCHU部の方が正しいのか?
「声に出てるよ。流石にそんな名前だったら会長に怒られるわ」
「とりあえず、生徒会室に行って新入部員の申請しないとね」
結局何部だよ…。
「ようこそ、探偵部へ」
あ、そこは普通なんだな。

屋上からワープをすることなく、すぐ近くに生徒会室があった。生徒会室は割と綺麗で広くて冷蔵庫があって快適そうなところだった。3人はソファでくつろいでいる。
「君も大変ね。転入初日からこんな頭のおかしい奴らの部活に強制的に入れられるなんてね。私の権限でなかったことにしましょうか?」
この女が石川花音か。コイツ自体は至って普通だが…。
「石川会長だっけ?その横にいる阿修羅像みたいな見た目の赤い奴はなんすか?」
「会長でいいわよ。奴は私の守護者(ガーディアン)で名前はシュラ。私が鬼のハーフってことはあの能天気男から聞いてるわよね?」
「まぁ、一応聞いてます」
話を分かりやすくまとめると、鬼種族は自分を護衛する守護者(ガーディアン)というのを召喚できるようで、最近増えてきたアンドロイド型の戦闘従者(バトルメイド)のように自分の命令に従順に動くらしい。もっとまとめると仏像型メイドだ。
(プクク…。仏像って。相変わらず面白いね)
いちいちうるさいぞ。
「私のシュラは見た目通り阿修羅像だから、腕も多いし生徒会の雑務は任せっきりなのよね。メイドみたいに文句は言わないからいいのだけどね」
(お前に聞こえると信じて言うが。文句はテレパシーで送れるんだが、この女は混血だからその能力が無いだけで文句は腐るほどあるぞ)
明らかに他とは違う声が聞こえると思ったら阿修羅像か。
(お前は良心の持ち主で良かった。あの能天気野郎はワシの仕事を増やして困っておるんだ)
「会長ー。シュラが仕事が少ないって言ってるよ」
「そうなの?じゃあ、これも任せておくね。仕事熱心なのね」
(ほれ、このありさまだ。お前も気を付けるんだぞ)
この学校は苦労人が多そうだな。というより、この男と関わっている奴が苦労人になってるのか。流石に同情をせざるを得ないな。
「会長ー。御門君は探偵部に入るみたいですよ」
「おぉ。お前の脳内伝心(テレパシー)は便利だな。じゃあ、判子を押しておくぞ」
ふざけるな…。何が脳内伝心(テ レ パ シー)だよ。ただのクソ能力じゃねぇかよ。
「はぁ、これからもよろしくお願いします。って言えばいいんだろ」
午前中で帰る予定だったのに長引きそうだな。

「ご主人様。問題児達(スパイダーズ)と関わっちゃ駄目ですよ?」
「ララさん。そんな酷いこと言わないでよ。折角だし探偵部に入らない?入学当初から目を付けてたんだよね」
天誅蜘蛛の奴らと話しながら教室に戻ったら、ララが駆け寄ってきて今はとても鬱陶(うっとう)しいことになってる。
問題児(ク ソ ド ラ ゴ ン)。少し黙れ」
「早く消えろ(クソ)
鋭い罵倒が聞こえて声の主を見るとパーカーに制服を組み合わせた何ともヤンキー風な女とiPadを片手に紙パックのジュースを(すす)ってる眼鏡天パがいた。
「2人ともさ、僕のおかげでこの世界にいるんだよ?そういうのはよくないんじゃない?」
「「そんなことよく言えるな。拒否権無しで並行世界(パラレルワールド)に連行したくせに」」
さっきの生徒会室での会話からも薄々勘付いていたけど、西園寺(コイツ)は相当のクズだ。もうさ、(ドラゴン)本来の残虐性が(あふ)れ出てるな。なのに、他の奴(クラスX)はとんでもなく性格の悪い魔導師(ウィザード)という認識でいるんだもんな。それでもおかしくないしな。というより、悪魔系のワイバーンに近いぞ。
(残念。僕は君と同じ人型竜(カイザー)だよ)
ふざけるな。西園寺(世界で類を見ないクズ)が最強のカイザーの訳がない。
「ご主人様!こんな西園寺(ご み)の相手なんてしたくないので先に帰ります!」
ララはテレポートを使って帰ってしまった。
「職務怠慢だねー。減点かな?御門く―グハッ」
ダッシュからの飛び蹴りが西園寺の脳天にヒットして机をなぎ倒して吹っ飛び教卓にぶつかって止まった。ナイスだ。(時雨、桐谷含め)が心の中で(ざまぁみやがれ)と口を揃えて言ってるぞ。
「ご主人。少し遊び過ぎです。また、理事長(マ マ)に怒られますよ」
「相変わらずミミの蹴りは容赦ないね」
西園寺が頭をさすりながらそう言った。俺はため息をつきながら西園寺の方に向かいながら
「お前の発言の方が容赦ないから減点する気も起きない。で、この2人(パーカーと眼鏡)は誰だ?」
流石に真面目に答えるだろうと思ったら
「僕の手下だよ」
ふざけやがった。
「次ふざけたら目を潰すぞ?再生するたびに潰すぞ?」
西園寺がヘラヘラ笑いながら言うので声を低くして威圧すると
「ジョークだよ。あのパーカーは木戸(きど)(ひかる)で眼鏡は星宮(ほしみや)海斗(かいと)だよ。詳しいことは後日話すよ」
木戸の方を見ると席に座って退屈そうにスマホを見てる。星宮はパソコンのキーボードを叩いていた。机が散乱してるのによくできるな。俺は変化魔法チェンジを使い机を元に戻しておいた。
「お?見ない魔法だね。使い勝手が良さそうだね」
「また口を滑らせて教室が荒れるのは嫌だし相談室で話を聞く」
能力的にはとても優秀なんだが、
「意外と真面目だねー」
こういうところがウザい。

「ここが探偵部だよ」
『第1相談室』という看板に重そうな鉄の扉。相談するのを躊躇(ためら)うような女子力の高い香り。
「ここの部屋のコンセプトはなんだ?この部屋にふさわしくない香りは何だ?」
「あ、それはね、ご主人がこの部屋で色んな食べ物を食べて生活感が出ちゃうからとりあえずその臭いを打ち消す為のルームフレグランスなんだよ」
「お前はここに住んでるのか?」
「うん、そうだよ。冷暖房完備、シャワー室もあってネット環境抜群で部屋も広いからそこのソファで寝てるよ」
「何しに学校に来てるんだ?てか、家に帰れ。学校に私有スペースを作ってるから5点減点。それより時雨と桐谷はいないのか?」
「別件で今日は来れないけど、ご主人と御門さんがいれば大丈夫ですよ!」
「とりあえず、説明をするね」
この学校には『探偵部』というのが3つある。ただ、それぞれ役割が違うんだと。『探偵部 支部』と『探偵部 本部』と、この『探偵部』があり支部は学校の生徒からの依頼をメインにしている。本部は国からの大きな依頼と大人からの依頼をメインにしていて、この探偵部は無印(ノービス)と呼ばれていて、学校外からの全ての依頼をしている。他と違うのは最低でも5千円は払ってもらう。その代わりに支部や本部にはできない「殺人」「復讐」もできるのだ。
そして、この部屋の扉が鉄でできているのは依頼内容の関係で防音にしているからだ。他と違ってメールやSNS、掲示板でしか依頼を受け付けていないが、依頼の詳細を伝えたり依頼料を渡すには生徒会室にある隠し扉から入れるようになっている。
こんな狂ったことができるのも城山学園の理事長である西園寺(さいおんじ)理沙(りさ)のおかげのようで身内のよしみでやっているようだ。武器も種類豊富なので様々なことできる。ちなみに、星宮は支部に木戸は本部に所属してるようだ。
「これくらいかな?依頼人がもうすぐで来るから見てみるといいよ」
《イライニンガキマシタ》
「ミミ。開けて」
「はい、いらっしゃいませ」
依頼人は少し小柄な女子高生のようだ。
「えっと、私立春海女学院の藤宮(ふじのみや)|夏海|《なつみ》さんだね?」
コクリと頷くと
「はい。そうです」
私立(しりつ)春海(はるみ)女学院(じょがくいん)って魔法学もやっている有名なお嬢様学校じゃないか。なんでそんな悩みがなさそうな人がここにいるんだ?
「依頼の詳細を聞いていい?それとも読み取る?」
「読み取ってください」
テレパシーはこういうところでも使えるんだな。
(御門君も読み取れるなら読み取っておいて)
ふむ、なるほど。これはかなり深い闇を持ってるな。
内容は教師に強姦されて、写真を撮られて脅されていると。学校外でも凌辱されているが、教師自体はとてもいい人らしく誰にも相談できないそうだ。これは法での裁きより重いものを与えねばな。
「どんな復讐をしたいの?それとも殺す?料金は特別に同じにしておくから決めて?」
「殺してください。できれば私も参加させてください。一応変身魔法使えるので何か手伝いたいです」
「殺し方のプラン決めようか」
「殺し方のプランですか?どんな感じにすればいいですか?」
「結果的に殺すとしてもどんな感じに苦しめたいとかある?」
「失神するまで首を絞めて失神したら水をかけて起こしてを繰り返して、最後に頭を粉々にしたいです」
「麻酔無し去勢とかはいいの?」
「あの顔がいつもチラついてイライラするので顔を潰せば後は好きにしてください」
凄いな。変身魔法が使えるのか。狂者(バーサーカー)という種族は狂人(くるいびと)と違って強い殺意があれば誰でもなれる種族だし、変身時は髪は白くなって目が据わってロシア人形みたいになるんだっけ?男は確かピエロみたいになるんだけど、
かなりホラーチックで狂者(バーサーカー)は好きになれない。
「メモもしたし、早速初仕事だよ」
「依頼料は後払いなのか?」
「その日の気分で変えてる」
適当すぎだろ。
「あの、貴方は?サイトにはサウンド、ウイング、クラム、ミミの4人と聞きましたが…」
サウンドが時雨、ウイングは桐谷で峰岸がミミ。そして、クラムが西園寺(こ い つ)か…。3人は自分の下の名前から取ったっぽいな。コードネームみたいでカッコいいな。俺だったらゲートがいいな。ネトゲでも使ってるし…。
「この人は新しく入ったゲートって人なんですよ」
あ、決定なのか。拒否権は無し?
「時間は標的(ターゲット)が退勤をした時だね」
「勤務地を出てすぐの曲がり角のホテルで待ち合わせの連絡をしたのでそこで待機しましょう」
手際がいいな。こういう復讐や暗殺って時間をかけてじっくり調べるんじゃないのか?それこそ探偵みたいなことするものだと思ってたよ。
(君は自分の研究所で開発された物には興味ないのかい?)
いきなりなんだ。便利なもの以外に興味は無いんだよ。
(そうじゃなくて、技術が進歩してるんだからそんな古臭いことしないくていいんだよ。調べるには『ポータルタブレット』1つで十分なんだよ)
ポータルタブレットは正式名称じゃない。正式には『ミカドラボ製 座標確認兼移動端末(ポータルチェック&ワープタブレット)』だ。通販サイトのレビューコメントも略してるし迷惑なんだよ。『無駄に長い名前なので☆2です』ってコメントを見た時はイラッとした。文明の機器を紹介したり人に聞く時はしっかりとして欲しいよ。
(うわ、長いしウザいからまた今度にして。とにかく能力は把握してるよね?)
ウザいとかいいんだよ。ポータルチェック&ワープタブレットは座標を指定したところに何でも転送できるから便利なんだよ。ゴミ捨てとか食器を片付けるのに使える。ついでに言うと人も種族問わず転送できる。サイオンジラボのみたいに生物兵器も無いからミカドラボで便利グッズを買うべきだ。
(宛先不明のステマはいいから新しい機能が追加されてるのは知ってるよね?そのおかげで調べるのも片手間でできるんだよ)
あの新機能はララが『買い物に行く時に欲しい物があるのを事前に分かる機能が欲しい』って言って追加したんだよな?そんな使い方があるってのは意外だったな。
(開発者とユーザーで意向が違うってのはどうなんだろね…。ま、そんなことはいいから処刑台に来ない罪人を捕まえに行こう)
なんだ?変な表現するんだな。ま、行くか。午後7時が命日だな。

竜と神と人間と#3

竜と神と人間と#3

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-04-22

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