竜と神と人間と#2

城山学園に通うことになった初日の朝。
ゆさゆさと揺られて目を開けてみると
「ご主人様朝ですよ」
目の前にメイド服の金髪ツインテールがいる。もちろんララだ。
「まだ眠いから寝かせろ…」
まだ朝早いだろうに…。
「珍しいですね。いつも早起きなのに」
そう言われて時計の針を見ると5時50分。いつもは日が昇り始める頃には起きているからな。珍しいといえば珍しい。
「逆だ。ララが早く起き過ぎなんだよ」
いつも通りなら、こいつは俺の目覚まし時計の音で起きる。こいつは元が人間だけあって起きる時間をコントロールできない。だから仕方ないことだとは思うが、多分俺と学校行けることに浮かれていたのだろう。
「学校にはテレポートを使えばいいからまだ寝かせてくれ」
夜遅くまで城山学園のことを色々調べていて少しだけ寝不足だからもう少しだけ寝ていたかった。竜でもこの人間体でいると寝不足という概念が出てくるんだ。それくらいは今では常識だが…。
「学校まで近いんですからそんなことしないで下さいよ!起きて下さい!」
「分かったからそのフォークで目を突こうとするな」
目を瞑ろうとしてる時にキラリと光るフォークで目を狙ってきたので注意した。
「私はご主人様と一緒に学校に通えるのが楽しみだったんですよ。だから早く行きましょうよ」
ララがゆさゆさと揺らしながら話していたら部屋のドアが開いた。
「遼。学校行くってことをララから聞いたよ。ご飯はララに任せてるから。後はララ。任せたよ」
「はい。奥様承知しました」
白衣を着た女はそういうと部屋を出て行った。あれが俺の母親ということになってる。
「ご主人様、着替えて下さい。私は下でご飯作って待ってますよ」
ララはそういうと部屋を出た。
 俺はキューブ状の携帯端末を充電ケーブルから外しスリープモードを解除した。
《おはようございます。マスター。今日の天気は晴れですよ》
キューブから音がすると思うが『ナビゲーションエネミー』だ。これは最先端の人工知能技術が入っている携帯端末だそうだ。
《マスター。今日から学校ですか?楽しんで下さいね》
「ナビ。今日のこれからの天気と気温は?」
《午後から雨が降ります。最高気温は16度です》
「午前中にやることを終わらせて家に帰るぞ」
《了解です。マスター》

食卓につき朝食を食べていたらララが
「昨日先生に言われたんですが魔力指数を測ってから来いだそうです」
『魔力指数』これもこの時代になってから出た言葉だ。魔力を数値化したものを魔力指数というらしい。どこの魔法管理区でもこの魔力指数によって魔法学校に通えるかどうかが分かる。入学適正年齢になったら管理区に住んでる人には『マジックサーチャー』とかいう腕時計型の測定器が送られる物だとか。測定をすると管理区の『魔法課』に送られて入学適正なら合格通知が送られる。
 ただし、俺や神レベルの存在にしか知らない『狂人』という突然変異で生まれる魔法能力者がいるらしい。魔力指数が攻撃する瞬間にしか上がらないらしく人間側では何も調査ができないうえに、猟奇殺人をするとても厄介な生き物もいることも覚えておいてほしい。ちなみにだが、ララも狂人に当てはまるがそれには白衣の女すら気付いていない。ララは魔力指数が相当高いのに関わらず特定の条件を満たすと神をも凌駕するらしい。まぁ、俺には敵わないが…。
「ご主人!聞いてますか?」
《ララさん。マスターは何やら考え事をしていたようですよ》
2人が口々に言うから、この話はやめておくか…。
「魔力指数を測ればいいの?」
「そうです。部屋に置いてありませんか?」
段ボールを開けた時にはなかったが…。
《マスター、私のインベントリに送られてますよ》
ナビはそう言うとインベントリ画面を出した。
「この腕時計のアイコンをタッチすればいいのか?」
《そうです》
ピコっと音が鳴るとマジックサーチャーが掌に落ちてくる。
「それを装着したら測定できますよ」
マジックサーチャーのベルトを締めると
≪ソクテイシマス………魔力指数ハ…13000デス≫
《マスター…。流石です。レベルXとは…》
≪サイテイマリョクガ13000デスガサイコウマリョクハミチスウ…≫
未知数って、まぁ竜だからな…。そうなのかも知れないな。
「流石ですね!さ、ご飯を食べたら学校に行きましょう!」

「暑い。16度ってこんなに暑いのか?」
体が溶けそう。俺の中での16度はもうちょっと涼しいイメージがあったのだが、何故だ。
「エアコンで除湿をすれば涼しいですけど、外は一段とジメジメしてますからね」
「これを使うか…」
周りに青いオーラを纏わせた。『アクアフロスト』という水系魔法だ。物を冷やす能力で、俺は主に飲み物を冷やすのに使ってるだけで魔法として使う時は炎魔竜ティアマトという伝説の炎の竜のブレスを防ぐ伝説の防御魔法だが…まぁ、日常でも使えるからとても便利だ。
「暑いからって伝説の魔法を使うって…ご主人様…」
「細かいことは気にするな」
《マスターここから屋根の上を走った方が学校まで近いですよ》
保護区は学園都市でもあり住宅地が多すぎる。屋根を登って行けば学校まですぐに着く。
「飛行魔法を使う『エアロ』」
宙に浮いてない。
「…。使えませんね」
≪キョジュウクデハマホウハツカエマセン≫
サーチャーがそう言った。
「……。はぁ!?魔法が使えないとか、意味分からねぇよ!」
コンビニで弁当に割り箸が付いていなかった時並みにキレた。
「はぁ…。魔法が使えないってことは」
「結界魔法を張ってるってことですよね」
結界魔法は魔法を打ち消す魔法だ。中2病患者が好きそうな魔法だな。
「だが、そんな魔法が通じるのは人間だけだ破壊魔法『ブレイク』」
結界が剥がれる音が鳴るとすごい勢いで走ってくる女が来た。
「何をやってる!お前!その魔法を消せ!」
「ご主人様の邪魔をするな!」
うるさいな。あの女は保護地区の魔法管理委員会とかいう使えない奴だ。
「ララ。攻撃するな。さっさと学校に向かうぞ。移動魔法『テレポーテーション』」
緑色のパーティクルが発生して瞬間移動した。

城山学園。総生徒数は960人。教師の数は知らないし、興味もない。
職員室とかいう部屋の前まで案内された。
「君がクラスXに転入した噂のドラゴンか。先ほど魔法管理委員会から破壊魔法の使用報告が来た。うちに面倒ごとが来るのが嫌だから―」
「面倒ごとが起きるのが嫌だから面倒ごとを起こすなって事か?ふざけるな。お前ら公務員は国民から金を奪って生きているんだよ。働け」
ま、俺は昨日までは引きこもりだったがな。女教師は何も言えずにいたので、職員室を出た。

そういえば、先ほどの結界魔法には矛盾がある。結界魔法は魔法を打ち消す魔法だが、破壊魔法は打ち消せない。破壊魔法は竜にしか使えないからな。結界魔法は人が使える全ての魔法には対応しているが、竜には対応していない。つまり、竜がこの世界にいることを予測していない。
「そこのツンツン頭の人ー。聞こえてるかなー?余計なことを考えないでクラスXに向かおうね」
うるさい奴は無視して考えよう。それと背後の天パにこの髪の事を言われたくない。
魔法学だけを学びたいから来ただけなんだよ。クラスXの場所は把握したからいいんだよ。ララも授業を受けてるみたいだし、屋上辺りにでも行くか。
「無視をしないでよ。私も君と同じ竜だよ。もちろん、他の人には『主人公』とだけ伝えてる」
『主人公』というのはノヴァから聞いたことがある。この世界は並行世界つまりパラレルワールドだ。並行世界に住んでいる主人公は特典がある。いわゆる『主人公補正』だ。主人公補正には『無敵(痛覚も伴ったり致命傷にはなる)』『都合がいいことが起こりやすい(ノヴァの力で運命を変える)』の2つがあるが、正直いらないし、そもそも貰えない。
「無視するのをやめろよー。嫌な奴だなー。私も面白い主人公補正持ってるぞー」
「心を読むな。何を持っているのかだけ簡潔に言え」
「色んな世界や時代に行ける能力だよ」
「そんなの使い道あるのかよ」
「あるよ。クラスXは主人公が多いクラスなんだよ。何故かって?僕が連れてきたんだよ。皆腐った世界を見るような眼をしていたからね。だから楽しい世界に連れてきたんだよ」
「わざわざ竜がすることなのか?」
「僕は色んな人に出会って話すのが好きでね、だからこの能力を濫用して色んな世界に行ってるんだよ」
「ご主人様!遅いですよ!ジュース買うだけでどんだけ時間をかけるんですか!私のも買いましたか?」
群青色のお団子頭が話に入ってきた。ご主人と言うからにはこいつもメイドなんだろう。ララと違って従順ってほどではなさそうだな。パシられてるし。
「学校の自販機には流石にカニは売ってないぞ」
「そんなの頼んでませんよ!上海じゃないんですから…。てか、今も売ってるんですかね?」
「それは知らないけどリンゴサイダーだろ?」
「流石です!あ、そこのツンツン頭の人は誰ですか?少しくらいご主人にそのツンツンを分けてあげて下さいよ」
う、ウゼェ。何だこの比類なきウザさは、初対面の人間に言うことか。そんで、この学校は自販機があるんだな。今では―
「当たり前のようにあるんだよ」
心を読まれた。
「申し遅れたね。僕の名前は西園寺(さいおんじ)(のぼる)だよ。そこのお団子さんは峰岸(みねぎし)未来(みく)。通称ミミ」
「ご主人を護衛する高性能アンドロイドメイドのミミちゃんでーす」
「…。職務怠慢で1点減点」
俺はメモ帳を開き書き込む。
「ん?どこが職務怠慢なのかな?」
「護衛してない。メイドのくせにマスターをパシりに使ってる。本来であれば10点は減点されるのを同族のメイドだから許しただけだ」
「厳しいねー」
当たり前だ。この世界は何年も見ているから腐りきっていることくらい分かる。だから、この学校から変えるべきだ。いや、変えるなら―
「ふむふむ。君は面白いね。折角だし屋上で話を―」
「登ー。遅いぞ!会長がキレてるぞ」
また心を読まれたなと思いつつ話を聞いていたら背後からの大きい声で話を遮られてしまった。後ろを見ると赤髪の男と片目が髪で隠れてる男が走ってきた。
「流石に授業中に抜け出すのは良くないですよ」
(聞こえてるかな?御門君?あの赤髪が桐谷(きりたに)(かける)で片目が時雨(しぐれ)(かなで)だよ)
「無視するなドラゴン」
「ミミさんも教室に戻りましょう」
テレパシーで教えてくれるのはいいが、こいつら俺の事をガン無視するなよ。
「2人とも。そこに転入生がいるのに無視するのはスパイダーズとしては良くないことだ」
助け舟ナイスだ。ん?スパイダーズ?また聞き慣れない言葉を聞いたな。意外と分からないことも多いんだな。
「このツンツン頭が転入初っ端から教師に暴言吐いたの?」
「ただの目つきの悪い人じゃないんですね。先生に暴言を吐く人だからもっと大男みたいなイメージがあったのに…」
言い過ぎだ。言葉のナイフを通り越して言葉の槍だ。貫通してる。俺の心を読んだのか、西園寺は「クスッ」と笑った。
「御門君は面白い人だ。折角だしもっと話をするために―」
「見つけたわ!西園寺登!今度こそペナルティを課してやる!ついでにそこにいる野郎共もだ!」
ん?野郎共(・・・)?あのメイドは…。逃げ足だけは早いみたいだな。
「とりあえず面倒だからワープするよ!」
転入初日から面倒だが、面白いな。外の世界は本とは違うんだな。百聞は一見に如かずか…。面白い言葉だな。

竜と神と人間と#2

竜と神と人間と#2

魔法も技術になる時、引きこもりの竜が動き出す

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-04-22

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