【掌編小説】すれちがい

六井 象

 近所の自販機の横にある空き缶用のゴミ箱には、「指をつかまれても無視してください」という注意書きが貼られている。
 何度もためらったような煮え切らない文字で、ただその言葉だけが書かれている。
 仕事の行き帰りにその自販機を頻繁に利用するのだが、注意書きの存在すら忘れている日と、注意書きが目に入った瞬間になぜだか泣きそうになる日があって、後者の日は大抵ろくなことがない。
 時々、自分が死んだ後のことを考える。
 天国行きか地獄行きかを分ける面接みたいなものがあるとしたら、多分その時にあの注意書きのことについて何か訊かれるような気がする。
 根拠はないけど、そんな気がする。

【掌編小説】すれちがい

【掌編小説】すれちがい

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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