脈拍

彼は いい音楽を聴くと いつもこう思った

ただ音が鳴っているだけなのに どうしてこんなにも感動するのだろう

音楽とは 言ってしまえば ただの音だ

それが重なると アンサンブルになり

もっと重なると オーケストラになる

ただ それだけなのに

どうしてここまで人の心を動かし影響力を持つのだろう

そうすると 彼はこうも思うんだ

もしかすると 人の心は音で音楽でできているのかもしれないな

そして本能的に いい音を聴くと心が動くのかもしれない

ああ きっとそうだ


音楽とは 人間の最も近くにある 最も魅力的な芸術だ

それは 絵画や建造物 モニュメントの比にならない

全ての芸術が嫉妬する それほどの魅力を持った芸術

時間の流れを武器にする 時間的芸術

それが音楽なのだ

ああ きっとこれほどにまで素晴らしいことはない

そう深く感じるのだ

常にそう感じてしまうのだ


ある時 音楽とは 言葉だ

いつでも世界中の人に通じることのできる

どこでも通用する 便利な言葉なのだ

きっと世界共通言語は 英語なんかじゃなくて音楽なのだ

人種も宗教も性別も国境も 全てを超えて訴えかけることができる

時には 祖国への思いを

時には 愛する人への情熱を

時には 行き場のない激しい怒りを

ある時には 人々を癒す優しい気持ちを

何にだってなる

何にだってなれるのだ


彼は深く深く考えた

そして深く反省した

音楽について考えると

自分がどれほど愚かな人間かということが

丸裸になっていくようで

とても切なくて怖くて

居た堪れなくて

恐怖に押しつぶされそうで

心臓の音がよく聞こえる

ああ 音だ

彼のビートは 彼のものだ

彼の最も身近な音楽は 脈拍なんだと

彼は その時の恐怖をのちに語り継ぐのだ

脈拍

脈拍

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-31

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