桜と紫苑の約束
「もう、こんな季節か……」
俺は桜の気を見上げそっと微笑んだ。
白く儚いその花は風に揺れ散っていた。
ーー桜ってさ散り際が綺麗なんだよねーー
ふと、彼女の声が脳裏に響いた。
桜の季節に出会い、一目惚れし、桜が散るくらいにこの世界から消えた愛しい人。
彼女は癌で、俺と出会った時には余命一年だった。そして、それを知ったのは彼女と出会って半年後の事だった。
それでも俺は彼女が好きだった。苦しみをほんの少しでも分け合って楽にしてあげたかった。
俺が自分の素直な気持ちを伝えると彼女は涙目になりながら
「散っていくんだよ、出会った時に見た桜みたいに」
「それでもいい、君のそばにいさせてくれませんか?」
「はい!」
その日から俺は彼女をできる限り色んな所へ連れていった。
水族館に行ってイルカショー見てずぶ濡れになったり、映画館に行ってキスシーンでキスしたり色んなことをした。
最後の方はもう、外出許可が出なくて病室で一緒に過ごしたけど、花で栞を作って交換したりした。
ふと、俺は彼女に貰った本を鞄から取り出した。自分が居なくなってから開けと言われた一冊の少し古びた本。
近くのベンチに座り栞が挟まれた本を開いた。
すると、そこには、俺と過ごしたたくさんの思い出が綴られていた。
泣きそうになりながらページを捲った。
ふと、ページとページがノリかなんかでくっついているところがあった。
なんだろうと思いながら慎重に剥がした。
そこには俺宛の手紙があった。驚いて開くと、恐らく、自分の灯火があとわずかだと分かっていて、それでも伝えたいからというような決意が込められている気がした。
『慶ちゃんへ
慶ちゃんがこの手紙を見ている頃にはもう、私はいないんだよね。あの世ってどんなとこだろう、生まれ変わったらまた慶ちゃんに会えるかな、なーんてね。あんまり変なこと書くと慶ちゃん泣いたり私の後追いしそうで怖いなぁ〜、慶ちゃんは真面目にやりかねないもん。まぁ、そんなことになったらNEWSの皆さんが止めてくれるって信じてるけど(笑)
慶ちゃん、泣いてばっかりいないでちゃんと前を向いて歩くんだよ、前向かなきゃ転ぶからね(笑)また、加藤さんにいじられたり手越さんに笑われちゃうよ!しっかりしろリーダー(笑)
ふぅ、そろそろ書くの疲れたからこの辺で終わろうかな。私の分まで生きてね、大好き、愛してるよ、慶ちゃん。さよなら
P.S.
慶ちゃんに上げた桜の栞あるでしょ?あれの裏面に書いてあるフランス語解読して見るべし』
いつの間にか涙が頬を伝い手紙を濡らした。
「っ〜〜」
乱暴に目元を拭い栞の裏面を見た。
”Ne m'oublie pas.”
流石にフランス語はわからないのでネットで検索した。
あぁなるほどね、そう呟きながら俺はまた涙をこぼした。
そう言えば栞を作る時に言ってたな、「桜の花言葉フランスだと違う意味になるんだ」って。
こんな、回りくどいことしなくてもそう思いながらベンチで泣き続けた。
ねぇ、覚えてる?あの日君に渡した栞の花。
あの花は紫苑、この花言葉の返事にピッタリだね。
ーー紫苑の花言葉はあなたを忘れない
桜の花言葉は、私を忘れないでーー
桜と紫苑の約束