デート・ア・ライブ 琴里セブンス

オタリア 作

 いつも読んでくださっている方はありがとうございます。そして、初見の方は初めまして。オタリアです。
 今回は、『デート・ア・ライブ18 澪ゲームオーバー』発売を記念しまして、執筆しました。とても短いお話ですが、少しでも皆様の心に残ればなと思いつつ、どうぞよろしくお願いいたします。

When she was seven years old......

 これはまだ、琴里が七歳、士道が十歳の時の話である。
 琴里はこの年小学校に入学し、士道は小学五年生に進級した年でもある。
 ちなみに、現在の季節は初夏である。通りを歩く人々の装いが軽装へと変わり、電車の空調もひんやりとし始めた頃、五河家では毎夏恒例のプール開きが行われていた。
 と言っても、よくあるビニールのプールに冷たい水を張って、兄妹仲睦まじく遊ぶという、至極単純なものではあったけれど。
 というわけで、士道と琴里は小学生らしく、手で作った水鉄砲を相手に発射して遊んでいる。
 その傍らでは、パラソルの下でジュースを飲みながら読書に耽る母親の遥子の姿がある。
 時折息子と娘の様子を伺っては微笑みを浮かべる。
 清々しい夏の青空に漂う白い雲。それは、まるで琴里の純粋さを表してもいるようで、遥子は席を立つといつの間にか琴里の頭を撫でていた。
 母親に頭を撫でられた事に若干の不思議さを感じつつ、琴里は純粋無垢な笑みを浮かべる。
「えへへ……おかーさんにいいこいっこされちゃった」
 そう言って、琴里は士道の方を向く。琴里の視線を受けた士道は、優しくい笑みを見せると、
「良かったな。琴里」
「うん!」
 ちょうどその時、リビングと中庭を隔てるドアが開けられて、父親の竜雄が顔を出した。
「おーいみんな。お昼ご飯の準備が出来たから上がっておいで―」
「はーい!」
「分かったー」
 琴里はびしっと手を上げて答え、士道はおもちゃなどを片付けながら返事をした。

 お昼ご飯を食べ終えて、兄妹は一緒にお昼寝をする事になった。先に提案したのは琴里で、どうやらおにーちゃんがいないと寂しいようだ。寂しがり屋の妹に、士道は優しく頷いた。
 寝る場所は士道の部屋。琴里はハイテンション気味にハイジャンプでベッドに乗る。
「わーい、おにーちゃんのお布団だー!」
「あんまりはねるとケガするぞー」
「へいきへいきー」
 自由闊達な妹を可愛く思いつつ、士道はベッドに横になった。それを見て琴里も真似して士道の横に寝転がる。
「ほら琴里。もうちょっとこっち来な」
 そう言って、士道がさりげなく琴里の体を抱き寄せた。
 中学生の琴里であれば充分ドキッとするシチュエーションなのだろうが、この頃の琴里は、兄妹だから当たり前の触れ合いだという認識であった。
 士道は琴里の髪を撫でてそっと呟いた。
「おやすみ、琴里」
「おやすみだぞー、おにーちゃん」
 先に寝息を立て始めた士道の顔を間近に見ながら、琴里が呟く。
「大好きよ、おにーちゃん……」
 そして、士道の頬に自分の唇を触れさせた。

 わずかに開いた扉の隙間から二人の様子を観察していた竜雄・遥子夫妻は、仲睦まじい様子に安堵を覚えているようだった。
「ふふ。ことちゃん、しーくんに寄り添って寝てるわ」
「ああ。士道も琴里の面倒をちゃんと見てくれてるし、もしかして俺たちがいなくても大丈夫かもしれないね」
 竜雄がそう言うと、遥子は唇を尖らせて不満げな視線を夫に向けた。
「……たっくん。デリカシー無さすぎ」
「うっ。ごめんはるちゃん……」
 怒られてしゅんと縮こまる竜雄の様子を見て、遥子は抑え気味に笑った。
「冗談よ――。だけど、ことちゃんがしーくんに頼らないで、自分一人の力で歩いていけるようになるまでは、私とたっくんがいないといけない」
 遥子の言葉につられて、竜雄は琴里の様子をそっと見た。
「……そうだね。でも、それは琴里自身がこれから向き合っていかないといけない事だと思うんだ。
 だけどどうしても一人では対処出来なくなる時だってあると思う。そんな時、士道がそばで支えてくれれば、親として安心だ」
「ええ。たっくんの言う通り」
 夫妻はそっと扉を閉めると、どちらからともなく寄り添い、一階へ下りた。

 その夜、琴里と士道は共にお風呂に入る事になった。普段であれば、竜雄か遥子がお風呂に入れるのだが、最近、士道に琴里を任せている夫妻だった。その理由は単純で、昔からしっかり妹の面倒を見ている士道を見ているからで、安心して任せれられるからであった。
 さて。脱衣所で衣類を洗濯かごに入れ、体を洗うタオルを持って風呂場に入る。
「ちゃんと体洗うんだぞ?」
「はーい!」
 びしっと手を上げて、琴里が返事をする。椅子に座ると、あらかじめ濡らしておいてタオルに石鹸をなじませて、肌を優しくこする。これについては遥子が琴里に教えていた事で、強くこすりすぎて肌荒れをするのを防ぐ目的らしかった。
 お互いに一通り体を洗い終えると、琴里が言った。
「ねえおにーちゃん、背中洗って」
「分かった」
 琴里の腕の長さだと背中まで届かないため、琴里とお風呂に入る時は決まって背中を流してあげているのである。
 石鹸を含ませたタオルで、妹の背中を優しくこすっていく士道。妹の肌はすべすべで、長い髪からちらりとのぞくうなじが、何故だか士道の心を掴んで離さなかった。
 極力そちらには意識を向けないようにして妹の背中を洗ってあげる士道。
「ほら、終わったぞ」
「おにーちゃん、ありがとー!」
 満面の笑みを浮かべる琴里。よしよしと頭を撫でると、琴里は気持ちよさそうに目を閉じて士道にぴったりと体を寄せた。
「まだ髪洗ってないから。ほら、前向きな」
「うん」
 再び琴里が前を向く。シャンプーを手で泡立てて、琴里の髪を撫でるように手を動かしていく。その感触を楽しむかのように、琴里は鼻歌を歌いながら待っている。
 シャンプーを髪になじませるように、ゆっくり、ゆっくりと。これは遥子から教わった事だ。
 シャンプーの後は、シャワーで髪を包んでいる泡を流す。
 水分を含んだ琴里の髪は、その重さに従うように、腰まで自然に垂れている。琴里が背中にかかった髪を自分の胸の方に持ってきて、手で撫でる。どうやら、士道の洗い具合を確認しているらしかった。
「――うん。ばっちり!」

 お風呂から上がり、士道と琴里はリビングに戻ってきた。ソファでは夫妻が隣り合ってテレビを見ていた。
「お風呂上がったぞー!」
 一目散に両親のいるソファに駆け寄り、ぼすんと腰掛ける琴里。それを見てほほ笑みながら頭を撫でる竜雄。
「お帰り琴里」
「ちゃんとしーくんの言う事を聞いた?」
「うん! おにーちゃんと仲良く入ってきた!」
 我が子の報告に思わず頬を緩ませる遥子。そこに士道もやってきて、遥子の隣に座る。
「しーくんも、琴里の面倒見てくれてありがとうね」
「大丈夫だ。昔から琴里の面倒見るのは自分の担当だから。それに、琴里のおにーちゃんだし」
「士道も随分成長したなぁ……」
 竜雄が感極まったように目元を押さえた。「大げさねぇ……」と言いつつ、遥子がティッシュを差し出す。それを受け取ると、竜雄は目元に溜まった涙を拭って、ティッシュ箱からもう一枚抜き出して、鼻をかんだ。
 ふと、士道がたった今疑問に感じた事を両親に聞こうとした時、竜雄の膝の上に乗っかって頭を撫でられていた琴里が、父親の顔を見上げながら質問した。
「そういえば、おにーちゃんって、小さい頃どんな男の子だったのだー?」
 それは、琴里からしたら何気ない質問だった。だけど、竜雄と遥子は互いに顔を見合わせて、そして士道の顔を見た。士道ですら昔の事はあまり記憶が無い――というより、“思い出したくない事”として認識しているために、今まで気に掛ける事も無かった。
 遥子は真剣な表情になり、琴里の頭を優しく撫でながら言った。
「――それは、ことちゃんがもっと大きくなってから話してあげる」
 母親にそう諭されたからなのか――または、琴里自身が何かを察したのか。それは分からなかったが、琴里はそれ以上の質問をすることは無かった。
 
 士道と琴里が自室に戻ってしばらく経過した、午後十二時過ぎ。
 夫妻は缶ビールを飲みながら、談笑していた。そして今話しているのは、先ほど琴里がした質問に関連する事だった。
「……やっぱり、ことちゃんには“あの事”は言えないわよ。ねえ、たっくん?」
「そうだね。はるちゃんの言う通りだ。士道がどうして“私たちの家に来た”のか。それを聞かせるのは、琴里にはまだ早い。――せめて、琴里が中学生になってからだと思ってる」
「――そうね。それくらいになれば、ことちゃんの事だから、きっと自分で考えてどうするか考えてくれるわ。だから、今は……」
「そうだね……」
 夫婦は互いに寄り添い、士道と琴里がこれから先も仲の良い兄妹でいてくれる事を心から願うのであった。

 後に、琴里が九歳の誕生日を迎える時、世界を脅かす精霊となり、ラタトスクの司令官となり――そして、“精霊”にまつわる世の中の渦に巻き込まれて行こうとは、この時、夫妻は夢にも思っていなかったのである。

デート・ア・ライブ 琴里セブンス

 いかがでしたでしょうか。
 
 いつか、また私の作品でお会いできることを祈っております。

デート・ア・ライブ 琴里セブンス

『デート・ア・ライブ18 澪ゲームオーバー』発売を記念して執筆した小説です。今回は、琴里が七歳の頃を想像しました。 作品の設定は二次創作の研究目的に借用しており、著作権はすべて著者の橘先生、イラストのつなこ先生などに帰属します。 この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございます。

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更新日
登録日 2018-03-25

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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