Fate/Last sin -01

 本日、ここ風見(かざみ)市は快晴、空気は冷たく、文句なしの冬晴れの日。
 突き抜けるような青空と、氷のように張りつめた冷たい風が、見慣れた街の景色を洗っていく。緑豊かな、やや高低差の激しい土地に敷かれた住宅街は、いつも通り静かで、穏やかな空気に包まれている。
 だが―――
「最悪!」
 私は半分泣きながら、通いなれた坂道を駆け下りていた。理由と言われれば、もう指を折って数えるくらいある。
 まず、目覚ましを無視してしまった。普段はアラーム音が突然耳元で鳴り出すと心臓が縮むくらい驚くので、目覚ましが鳴る前に起きて解除しているのに、今日はなぜか目覚ましが鳴ったことにすら気づかずに九時まで爆睡してしまった。
 二つ目。今日は一限目から、絶対落とせない大学の講義だった。三つ目、いつも通学に使う自転車は祖母が乗って出かけてしまった。四つ目、バスが目の前で発車した。五つ目、コートを着てくるのを忘れた。六つ目、絶対に遅刻する。
「も、もうやだ……!」
 息を切らしながら、大学の正門を通る。既に九時半を過ぎており、一限目の三分の一は終了していた。更に、私にはノートを見せてくれたり、席を取っておいてくれたりする友人は、ほとんどいない。数少ない私の友人も、きっと家で昼まで寝ているはずだ。
 ああ、何で……あの時ちゃんと起きていれば。昨日夜更かしをしなければ。自転車を確保しておけば。ていうか友人の一人でもいればよかったのでは。様々な後悔が一様に頭をぐるぐる回し、私は寒さに震えながらキャンパス内を走る。学生たちの配る謎のビラや様々なゴミにつまづいたり、異様な熱気を放つサークルの集団と思われる混雑に巻き込まれ怯えたりしながら、私は何とかして目当ての号館の玄関を通り―――
「痛っ!」
「うわっ!?」
 誰かと盛大に正面衝突をぶちかましてしまった。その拍子に相手が運んでいたであろう紙の束がまき散らされる。
「ご、ごめんなさいぃ!」
 条件反射で謝罪が口から飛び出た。何事もまず謝っておけば、のちのち怖いことになる事案は少なくなるのだ。私は慌てて冷たい床に散らばった紙を拾いながら、相手の顔色を窺うように目を向け、そして硬直した。
「あ……」
「悪いね、前、見てなくて。大丈夫?」
 そう手を差し伸べてきたのは、筆舌に尽くしがたいほど超美形の男性だった。だがあまりにも普通の人間とかけ離れたその容貌と、もともと男性恐怖症ということも相まって、私は差しのべられた手に怖気ついてしまう。
 彼の髪は童話の魔女のように白く、その瞳はルビーのように赤い。アルビノ、というのだろう。外国人のモデルのようにすらりとした体型に、高い鼻筋、そのどれもが完璧と言っていいほど美しかった。微笑み方も完成されている。だが―――
 臆病者の私には、その微笑みが酷く恐ろしいものに見えた。私は顔をひきつらせ、何とか笑おうと努力する。
「あ……はは、だ、大丈夫です、えと、す、すみませんでした……あは……」
「いいや、僕も不注意だったけど……ねえ、君さ」
「は、はい!?」
 怒られるのかと思い身をすくめたが、男性は身につけていたマフラーをするすると外すと、私の頭にひっかけた。
「こんな真冬に、コートも着ないで、ブラウスだけじゃ寒いだろう? それ、あげる。嫌いな人からの贈り物なんだ。良ければ貰って」
「え……」
「じゃあね。……僕もここの学生だから、また会うかもだけど」
 そう言うと、赤目の男性は散らかった紙を片付けてさっさと玄関を出て行った。最後まで、完璧な微笑みを残して。
「……誰、だったんだろう……って、あ!」
 呆けている場合ではない。私は世紀の大遅刻の途中だったのを思い出して、慌てて立ち上がり、講堂まで駆ける。教授の目を盗んで、何とか座席の隅に潜り込み、半分以上終わっている講義を慌てて取り返している最中に、ふとマフラーに目を向けた。
 赤いタータンチェックの、いやに肌触りのいいマフラー。ひっくり返してタグを見たら、案の定というか何というか、私でも知っている有名高級ブランドの名前が縫い付けられていた。




「おはよ、(かえで)
「ひっ!」
 食堂で昼食を食べていた私は、突然頭に乗った手に肩を跳ねあがらせた。だがすぐに、その手が私の数少ない友人、稲葉千里(ちさと)のものであると知り、ため息をつく。
「千里ちゃん、驚かさないで、もう……」
「大体、楓がビビりすぎなんだよ。いい加減そのビビり直さないと、社会でやっていけないよ?」
「うるさいな……仕方ないでしょ、生まれつきなんだから」
 私は正面の席に座った千里から目をそらしながら、お茶を飲む。千里はなおも畳みかけた。
「ビビりだって頑張れば治るよ! そうだな、お化け屋敷とか行く? 楓、どうせ暇でしょ。もうすぐ二年生になるのにサークルもバイトもしないで……って聞いてる?」
「聞いてるよ……」
 暇じゃない、と言おうとして口をつぐんだ。
 暇じゃないよ。だって、魔術師の修行で忙しいから。
 なんて、言っても信じてくれないだろうし、そもそも両親から、自分が魔術師の家系であることはむやみやたらに口外するな、と厳しく言われている。
 私より魔術の素養があった姉が突然失踪したのは、もう十一年も前のことだ。
 姉は、私よりはるかに天才だったという。姉が失踪したのは十六歳の時だが、その時には既に望月(もちづき)家の後継ぎとして正式に認められていた。詳しいことは未熟者の私にはよく分からないが、魔術回路の数が桁外れに多く、属性、というのもずば抜けて多く持っていたらしい。だが姉は、私が八歳の時に忽然と姿を消した。もちろん一家総出で探索したし、警察にも魔術協会にも相談したが、結局、今現在まで姉の行方は分かっていない。
「……だから楓も……って聞いてるの!?」
「え、なに?」
 私がぼうっとしているうちに、また恋愛持論を繰り広げていた千里は大袈裟に肩を落とした。
「また何も聞いてないじゃん~! ぼーっとしてる上にビビりなんて、救いようがないよ?」
「あはは……ごめんごめん……」
「全く……って、ねえ、それ何?」
 千里は私の答えを待つより早く、テーブル越しに身を乗り出し、私が隣の座席に置いておいたマフラーを引っ張り出した。
「何これ! 楓こんな高いブランドの物なんて持ってたの!?」
「いや、それは、貸してもらったというか、頂いた? というか」
 千里は目を光らせて私を見た。猛獣に好奇の目を向けられたような気分になる。
「男? まさか男か? このやろ~私に黙ってなかなかやるじゃん!」
「ち、ちが……! お、男の人から渡されたのは、まあ、そうだけど……」
 私は朝に出会った、というか事故った男性の顔を思い出した。忘れるはずもない、アルビノの美形だ。だが、ここの学生であると言っていたにもかかわらず、私は今まで彼を見たこともなかったし、あの時以来彼の影すら見ていない。
「ああ、その人。有名じゃん、知らないの? 二年生の白石杏樹(しらいしあんじゅ)先輩でしょ」
 彼の容姿を説明すると、千里は紙パックのリンゴジュースを飲みながらこともなげに答えた。
「フランス人と日本人のハーフらしいよ。超イケメンだし、性格、めちゃくちゃ王子でしょ? だから超モテんの。もうほとんど毎日女の子に声かけられっぱなしで、それから逃げるために研究室にこもってるんだって。美人って災難だよね~、流石、名前負けしてないっていうか」
「へ、へえ……そんなすごい人が何で……」
 改めてマフラーを見る。私はとんでもない事をやらかしたのでは……と、今更ながら恐ろしくなり、不安を払拭するように慌てて昼食をかき込んだ。



 千里の言った通り、その白石杏樹という先輩は本当にずっと研究室にいるようで、キャンパス内を歩き回ってもついぞその姿を見ることはなかった。
 うう、せめて何学部かくらい聞いておけばよかった……と後悔するも、いやいや、あの場面で男性に突然話しかけられるほど私の精神は強靭じゃない、仕方ない仕方ない、と自分で自分を慰める。そうこうしているうちに午後の時間はあっという間に潰れ、辺りは薄暗くなってきていた。
「いないな……本当に……これ、貰いっぱなしなんて出来ないよ……」
 赤いタータンチェックのマフラーを握ったまま、私はとうとう正門まで戻ってきてしまった。この時間では、もう他の学生たちはキャンパスを出て、坂を下った平地にある繁華街へと遊びに行っているだろう。街灯がちらほらと点灯する暗いキャンパス内は、閑散としていた。
 もしかしたら、人気者の杏樹先輩も、既に誰かと遊びに出てしまったかもしれない。
 きっとそうだ、そうに違いない、なら今度千里ちゃんにでも先輩の事を聞いて、誰もいない時間に研究室に返しておこう。そうしよう。
 私は自分自身に激しく同意し、帰宅の決意を固めて正門を出ようとした。が―――
「あれ、朝の」
 突然背後で美声がして、私はキュウリを見た猫のように飛び上がる。
「ぎゃー!?」
「そんなに驚く?」
 彼は私の正面まで歩いてきて、軽く笑った。街灯の青白い明かりが、真っ白でふわふわな彼の髪の毛を絹のように透かしている。その赤い目に見降ろされて、私ははっとしてマフラーを差し出した。
「あの、あのこれ、ありがとうございました! こんな高いもの、やっぱり貰えません……!」
「……」
 先輩は一瞬だけ驚いたように眉を上げたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「いいんだよ。言っただろ? 僕が嫌いな人からの贈り物だから、むしろ貰ってくれるとうれしいんだけど」
「え、でも……」
 先輩は穏やかな口調で、どこまでも優しくそう言ったのに、私はどこか鼻白んでしまった。優しいのに、怖くないのに、どこか相手にされていないような気持にさえなる。
「じゃあ、僕は帰るからね。また」
「……っ」
 はい、ありがとうございました、また、と言おうとして息を吸い込んだ瞬間、

 キィン、と聞き慣れない激しい音が響いた。

「……!?」
 私たち二人はその金属音にも似た何かに、揃ってキャンパスの方を振り返った。
 すっかり夜の闇に閉ざされ、人気のなくなった号棟と木々が並ぶキャンパスから、その音は聞こえてくる。キン、とか、ガツン、とか、まるで固い金属同士をぶつけ合っているような高い音だ。
「な、何……? まさか、泥棒じゃ」
 臆病な私はその場に凍りついたままだったが、先輩は違った。
「見てくるよ。危ないから、先、帰ってて」
 綺麗な微笑みで私にそう言って、平然と夜のキャンパスの中へ歩いて行ってしまう。
「そ、そんな……」
 待って、行かないで。一人じゃ、怖くて動けない。
 私はそれすらも口に出せず、正門の近くで凍りついたまま暗闇を見据えていた。追いかけるか、逃げるか、逡巡している間にも金属音は徐々にこちらへ近づいてくる。
 明らかに普通じゃない。まるで誰かと誰かが、鉄の棒で叩き合ってるような激しい音だ。それも人間同士とは到底思えないほど激しく。
 まさか、魔術?
 その考えが頭をよぎった瞬間、バキン、と一層激しい音が響き渡った。

「は――――」
 息を呑む。
 今までで一番大きな音と一緒に、私が立っている場所から一メートルも離れていない、アスファルトの地面に何かが突き刺さったのだ。
 それが小ぶりのナイフであると認識した次の瞬間には、もっと大きな黒い影が植え込みから転がり出るように突進してきて、そのナイフを引き抜いた。
「あ……」
 そのナイフを引き抜いた影は、がくりと足の力が抜けその場にへたり込んだ私を見下ろした。
「あらまあ、可愛い子猫ちゃんだわ」
 街灯の光に照らされたそれは、私と同じくらいの身長の女の子だった。変わった形のワンピースに、柔らかそうな栗色の髪の毛の頭は黒いベールを被っている。私よりも小さいのではないかと思うくらい可憐な細指で引き抜いたナイフをくるくると弄びながら、彼女ははちみつ色の瞳で私を見下ろしていた。
「可哀そうに……怯えていますのね。でももう大丈夫。怖いヤバン人はわたくしが追い払って差し上げますわ」
 何のこと、と聞こうと口を開くよりも早く、頭上から声が響いた。
「誰が野蛮人だ。全く、好き勝手言いやがって」
 間をおかずに、見えない場所から何か鋭いものが放たれ、目にもとまらぬ速さのそれを少女がナイフで叩き落とした。ガツン、と激しい金属音と共に、真っ二つになった鉄の矢が地面に落ちる。
「筋は良い。ただのお嬢ちゃんだと思ってたら、とんだ芸達者なこったァ」
 ハッハッハ、と軽快な笑い声と共に、頭上から背の高い男性が姿を現す。人間離れした跳躍で、十メートルはあるかという木から地面に降り立ったその男も、異様な雰囲気を纏っていた。長い銀髪を後ろで結い、和装ともつかない変わった衣服を着ている。
 その男は地面に座り込む楓を、赤い縁取り化粧をした血のような色の瞳で見下ろす。
「よう、そこのお嬢ちゃん。お前、この女士のマスターか?」
 私は突然現れた二人の、異様なまでの魔力の気配に怯えて何も答えることができない。
 知らない。わからない。こんなに強い魔術、見たことも――――
 本当に?

 奇妙な既視感に襲われて、くらりと眩暈がした。
 本当に私は、これを知らない?
「いやだわ、怖がっているじゃないの。およしなさいな」
 押し黙ったままの私を見かねて、ナイフを持った少女は困り顔をする。
「彼女はわたくしのマスターではなくてよ。ただの通りすがりの魔術師でしょう」
「何だ、お嬢ちゃん魔術師だったのか? まあマスターじゃないなら関係ないか。早めに家に帰った方がいいと思うぜ?」
 危害を加える様子がない二人に、ほっと安堵し、わずかに肩の力が抜けた瞬間だった。
「アーチャー。お前の目は節穴なのか」
 コツ、コツと、アスファルトの上を固い靴底が叩く音が響き渡って、暗闇の中から一人の人間が姿を現した。
 全身真っ黒の衣服に、マニッシュショートの黒髪。それと対称的に、中性的な顔立ちは病人のように真っ白い。彼―――彼女? ともかく、突然姿を現した人間は、男性にしては華奢すぎる片腕に担いでいた人間をどさりと乱暴に地面に落とした。
 それは、ついさっき私が追いかけられなかった人だ。
「せ、先輩……」
「あら、まあ」
 隣で黒いベールの少女が声を上げる。地面に投げ出された先輩の顔は白く、気を失っているのか、ピクリともしない。慌てて駆け寄り、外傷がないか確認しようと彼の右腕を持ち上げたところで、私は硬直した。

「こいつも、その魔術師もマスターだ。令呪があるだろう」

 彼の白く薄い手の甲には、目の覚めるような赤い刻印が浮かび上がっていた。
 そして、それは先輩の手を掴んだ、私の右手の甲にも存在する。
「サーヴァントも連れずに何のつもりだ、魔術師。―――私を舐めているのか」
「ち……違う……! こんなの、さっきまで無かった! それに、令呪とか、サーヴァントとか、私は知らない!」
 私が勇気を振り絞って言ったその一言も、黒髪の彼女の冷たい一瞥にすげなく一蹴された。
「何を知っていようがいまいが、令呪がある以上お前はマスターの一人で、私の敵だが?」
「そんな、無茶苦茶な……」
 私は右手の甲を見下ろした。
 だが、知らない、というのは半分嘘だ。
 私は実のところ、これを知っている。
 知っている、という直感だけで、理解しているわけではない。サーヴァント、マスター、令呪、この三つの単語が私の記憶の隅を揺らしているだけだ。だが肝心な部分だけが思い出せない。私が怯えてもだついているうちに、黒髪のマスターはつまらなそうに言った。
「何にせよ、兵力の無いうちに削げるならば好都合だ。アーチャー、始末をつけておけ」
「ええ? 俺? 嫌だなぁそういうの。丸腰の相手を射るなんてもううんざりなんだけど……って、おい!」
 銀髪の男――アーチャーは軽く舌打ちをした。黒髪のマスターはアーチャーの言葉を最後まで聞かず、人間離れした跳躍力であっという間に号棟の屋上をいくつか渡って、キャンパスの外へと出ていく。
「あーあ、あいつ、大体俺の言うこと聞かねえんだよなァ」
 上空を見上げてため息をつくアーチャーに、黒いベールの少女はにこやかに言った。
「なら、アーチャーと、そこの魔術師さま? 私と取引いたしましょう」
「……取引?」
 少女はうふふ、と照れくさそうに微笑んで続けた。
「わたくし、この美しい殿方のサーヴァントになりたいのです。ですから、わたくしはこの殿方を連れて行きますわ。魔術師のお姉さまは、アーチャーがお好きなようになさって?」
「ちょっと……」
 私は少女の突然の言い分に驚き、恐る恐る声を上げた。それでは、私の命の保証が無いし、先輩だってどうなるか分からない。
 だが黒いベールの少女のはちみつ色をした瞳に気圧されて、私は口をつぐんだ。
「大丈夫、今のマスターとは円満に縁を切りますし、この殿方が魔術師でないことくらい分かってましてよ。それに、アーチャー、貴方はこの魔術師のお姉さまを殺したいのですか?」
 アーチャーは片眉をあげて、それから肩をすくめた。
「やれやれ。マスターは怒らせると面倒だが、まあ、初回限定サービスって事で一肌脱いでやるよ。こんな生まれたての赤ん坊みたいなお嬢をやったところで、俺の胸糞が悪ぃだけだしな。アサシンの取引に乗ってやろう。今晩は停戦だ」
「ふふ、貴方本当に人がよろしいのね。でも今回ばかりは感謝いたします。――――では、御機嫌よう」
 そう言うと、黒いベールのアサシンは先輩を抱きかかえたまま器用に一礼して、夜の闇に紛れるように消えていった。
 私は状況が呑み込めないまま、茫然と立ち尽くす。
「ま、そういうわけだ。そもそもあのアサシンとも前哨戦みたいなもんだったしな、とりあえずあんたの事は聖堂教会まで運んでやる。そこの神父にいろいろ聞くといいさ。んで、体制が整ったら、俺はあんたを全力で倒しに行く。戦争って、そういうもんだろ?」
「そんなこと言われても……ぎゃ!」
「おーおー暴れんな、何もしねえよ」
 ひょい、と赤ちゃんを抱きあげるようにいとも簡単に抱え上げられ、突然浮いた体に戸惑って身を竦める。アーチャーはそのまま、黒髪のマスターがしていたように上空へ飛び上り、屋根伝いにどこかへ移動し始めた。
「ま、待って、マフラーが……!」
 赤いタータンチェックのマフラーが上空の風に煽られて、手から滑り出てしまう。風の音で聞こえないのか、私の小さな声にアーチャーが気づく気配はない。
 私はいつまでも、飛んで行った赤を探して夜の街に目を凝らしていた。

Fate/Last sin -01

to be continued.

Fate/Last sin -01

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-17

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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