【掌編小説】ほとぼり

六井 象

 ある夜、俺の夢の中に見知らぬ爺さんが現れ、「ほとぼりが冷めるまでかくまってくれ」と言うなり、こちらの返答も待たずにどかっとその場に座り込んだ。以来、どんな夢を見ても、視界の端に、背中を丸めた爺さんの姿が見切れるようになってしまった。それでも、始めのうちは「ほとぼりが冷めるまで」という言葉を信用して我慢していたのだが、一月が過ぎ、二月が過ぎ、半年が過ぎてもなお、爺さんは夢の中に現れたので、ある日とうとう我慢の限界に来た俺は、「いつまでここにいるんだ」と、爺さんの肩を強く小突いた。すると爺さんは姿勢を崩さず、その場にぐらりと倒れた。
 爺さんは俺の夢の中で死んでいた。
 こうなるともう一刻も早く死体を片づけたかったのだが、爺さんを夢の外へ連れ出す方法がどうしても見つからず、そうこうしているうちに爺さんの死体は腐り始め、やがて骨になってしまった。
 それからというもの、せっかく好きな女が裸で現れる夢を見ても、爺さんの骨を見るなり、女が悲鳴を上げて逃げてしまうというようなことが続き、夢を見るたびにストレスを溜める生活を送っている。何とかならないだろうかと、最近ではカプセルホテルや終電車のような、人が密集して眠る場所に出向いて眠ってみたりもするのだが、今のところ成果は上げられていない。
 ただ、あくまで今のところは、だ。だから、ある日突然あなたの夢の中に、身に覚えのない誰かの骨が散らばっていたとしても、それはまぁ、許してください。

【掌編小説】ほとぼり

【掌編小説】ほとぼり

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