弟のズボン

朝、寝ぼけていました。私。朝は弱いんです。

 間違えて弟のズボンを履いてしまいました。私。しょうがないから、そのまま学校に行きました。私。算数の授業で筆箱のチャックをジーと上げて鉛筆を出そうとすると鉛筆がありません。はぁ。と息を吐いてポケットを触ると何やら感触が……。何と鉛筆がありました。算数のお勉強が難しかったのにスラスラと問題も解けました。感激しました。私。科学の授業で学校の屋上に上がると、とても広くて大きな景色が見えました。家とか道路とか人とかアリンコよりも小さく見えました。私。先生が望遠鏡を覗いて遠くの街を見ましょう、と言いました。でも先生は望遠鏡を一つしか持っていません。だから、クラスメイトたちが競い合って望遠鏡の取り合いっこをしました。それで私は良いナぁ。私も望遠鏡で覗きたいなぁ、って思いました。するとズボンのポケットから違和感を感じました。私は手を突っ込んで触ると、鉄の様な塩ビ管の様なスベスベとしたモノが触れました。私がそれを取り出すと黒くて細い望遠鏡が出てきました。私はすっごーい、と思って望遠鏡のレンズから風景を覗き込み見ました。私。不思議に思いました。砂漠? がありました。ターバンを巻いた人が居ました。ひし形を切ったピラミッドがありました。チキンを売っているお店がありました。私。こんな街だっけ? 私の住んでいる街は? とか思いました。私。お昼休みにジャングルジムに登って遊んでいると、お友達がお父さんとこの前、釣りに行ったんだ! って自慢していました。いいなぁ。私の住んでいる街には海が無いし、そもそも、海なんて、生まれて此の方、行ったことないよ。それで私はジャングルジムから飛び降りて砂場に着地しました。私。今度は釣り竿が出てこないかなーって思ってポケットを触りました。プククーって大きくなるのが分かりました。早速、私はポケットに入っているモノを取り出しました。立派な釣り竿でした。思った通りです! でも、ここら辺に海だなんてないし、そもそも、お魚さんが泳いでいる池何てモノありません。でも、釣り竿を何となしに砂場の砂の方にポウッて投げてやりました。すると、砂場の底から大きなお口がガブリと被り付きました。それは昔、絵本で見た事のあるお魚さんで、銀色に光るヘントコリンナお魚さんでした。友達はビックリして腰を抜かしていました。私。可笑しくって大笑いしてしまいました。私。社会の授業を受けていると先生が、昔から戦争はあって、今もあって、これからも、未来もずっとあるんだよって言ってました。私。そんなの嫌だ! って思いました。それで私は目を閉じて、その後、ポケットを擦って思いました。悪い事をする奴は私の周りからみんな、みんな、居なくなれば良いんだって。私。目を開けました。黒板の前に居た先生と、隣に座っていた、みっちゃんと、かずえちゃんと、りょうくんが居なくなっていました。グルリと教室を見渡すとクラスのみんなが居なくなっていました。みんな、何時の間にかお家に帰ったのかと思って、少し怒りました。それで私もランドセルに教科書を入れてお家に帰りました。帰る途中に何時も見かける八百屋さんのおじさんと、散髪屋のおばさんは居ません。ジョギングをしているおねぇさんも居ません。厚化粧の高校生のおねぇさんも居ません。鳥さんは電信柱に居ます。はるいち叔父さんのお庭に居るタロウは吠えていますけど、はるいち叔父さんの叔母さんは居ません。お家にやっとついて玄関から入って、ただいまをしてもお母さんがお返事をしません。テレビは付いているけど真っ暗です。冷蔵庫からジュースと砂糖菓子を食べて弟を待っているけど、中々帰って来ません。どっかで寄り道をしているのかな? このズボンの事を早く聞きたいんだけどなぁ。私。

弟のズボン

弟のズボン

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-11

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