青春ブタ野郎はお仕事バニーガールの夢を見ない

オタリア 作

まずは『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』、アニメ化おめでとうございます!
さくら荘のペットな彼女の時から鴨志田先生ならびに溝口先生を応援していたので、今回の発表はとても感慨深いものがあります。

今回は、アニメ化を記念して小説を執筆しました。よろしくお願いいたします。

彼らのこれから

 とある三月の休日。この日は朝から大雨が降っていた。天気予報では明日の未明まで降り続くそうで、洗濯物を外に出すのは控えるようにと、お天気キャスターのお姉さんが伝えている。
 その様子を眺めながら、梓川咲太とその妹である花楓は朝食を摂っていた。
 お天気コーナーが終わり、画面が切り替わる。次に映し出されたのは猫の特集。
 とある県の動物園で猫の触れ合いコーナーを開いているらしく、その取材をしているようだった。
「見てお兄ちゃん」
「ああ。見てるよ」
「もー。そういう事じゃなくて。猫が可愛いって言ってるの」
「そうか」
 咲太は、アツアツの卵焼きに大根おろしをのせ、醤油を垂らして、一気に頬張る。
 花楓が食べやすいように程よい甘さに仕上げた卵焼きの出来栄えに満足しつつも、先ほどの花楓の言葉のどこに“猫が可愛い”という部分があったのか、疑問に感じる咲太。
 しかし、自分の妹といえども思春期の女の子なのだ。咲太にだって分からない事はあるので、その事については触れないでおくことにした。
 そうしてまったりと朝食を食べ、兄妹は揃って「ごちそうさまでした」を口にした。
「食器は洗っておくから、流しに入れておいてくれな」
「はーい」
 花楓は元気よく返事をすると、足取り軽くキッチンに向かう。そして、食器を軽く水ですすいでから流しに置いた。
 その様子を眺めていると、家の電話が鳴った。
「お兄ちゃん、家の電話鳴ってるよ」
「ああ」
 表示されている電話番号は咲太の恋人である麻衣のものだ。
 咲太は受話器を手に取った。
「梓川です」
「もしもし、桜島です。こちらは梓川さんのお宅でよろしいでしょうか? 今、咲太くんはご在宅でしょうか?」
 日本における電話口の典型的なやりとりのあと、最初に口を開いたのはやはり麻衣だった。
「……ちょっと咲太。普通に出ないでよ。ついお仕事の癖が出ちゃったじゃない」
 麻衣はどこか不満げだった。そんな彼女の様子を微笑ましく思いながら、咲太は答えた。
「僕みたいな受け答えしたら、麻衣さんはどんな反応するかなって」
「私を試そうなんて百年早いわよ」
 もし、この時麻衣と一緒にいたならデコピンでも喰らいそうな調子で麻衣が言った。
 それはそうと、と麻衣が前置きした。
「今日撮影が終わるから、そっちに帰れると思うわ」
「早く麻衣さんの手料理が食べたいなぁ」
 咲太のいつも通りのふざけた返し。麻衣ははあとため息を吐いて、声音に恥ずかしさを含ませて答えた。
「……明日帰ってきたら作りに行ってあげるから待ってなさい」
「へーい」
 その後はいつも通りの他愛も無い雑談をして、
「じゃあ、明日には帰るから」
「分かった」
 ばいばいと言い合って、電話は切れた。
 およそ一週間ぶりに聞いた麻衣の声。久しぶりなだけあって、まるで彼女とこの場で話しているような、どこか寂しさにも似た気持ちを自覚した。
「……僕って、麻衣さんにぞっこんなんだなぁ」
 先ほどまで会話していた受話器を眺めながら、咲太がひとり言をもらした。
 
 花楓の様子を見ようと振り返ると、キッチンで洗い物に挑戦している様子が目に入った。
 彼女は“かえで”からの意志を引き継いだ後、色々な事に挑戦するようになったのだ。
 まずは、中学校に通う事。
 次に、結果的には残念に終わったが、峰ヶ原高校の受験に合格して、咲太と一緒の高校に通う事。
 そして次のステップに進んだ花楓が始めた事が、家事だった。
 しばらくその様子を眺めていると、「ふぅ……」と一息ついてキッチンを離れる花楓。
 そのまま、ソファで雑誌を読んでいる咲太のもとにやって来た。
「洗い物、一区切りつきました!」
「おう、ご苦労さん」
 花楓の報告に、咲太は彼女の頭を撫でながら答えた。
「くすぐったいよぉ……」と言いながら、されるがままの花楓。
「そういえば、さっきの電話は誰からだったの、お兄ちゃん?」
「麻衣さん」
 そう答えると、花楓は咲太をじとーっとした視線で見て、唇を尖らせた。
「お兄ちゃんは麻衣さんに甘えすぎだよぉ」
「そうか? むしろ麻衣さんが俺を甘やかしてくれるんじゃないのか」
「それはそれで自意識過剰だよ、お兄ちゃん……」
 咲太を軽蔑するような花楓の視線。咲太にとっては麻衣の軽蔑の眼差しのほうがよっぽど怖いので、妹の怒った表情というのは可愛いなと思う咲太。
 そんな妹を愛おしく感じて、また花楓の頭を撫でるのだった。

――――そして翌日。
 昨日の大荒れの天気とは打って変わって、今は綺麗な晴れ模様である。雲ひとつさえ、その青空には浮かんでいなかった。
 そんな晴れの日。梓川家のインターホンが鳴らされたのは、朝食を食べ終わってから間もない時の事だった。
 妹がそれを指摘するよりも早く、咲太は玄関に向かっていた。
 花楓が「お兄ちゃん、麻衣さんの事になると行動早いんだからぁ……」とぼやいていたが、咲太は無視する事にした。
 玄関を開けると、そこにはメイクをばっちり決めた仕事モードの麻衣が立っていた。
「お帰りなさい」
“こんにちは、麻衣さん”でも無ければ“今日の麻衣さんはエロいなぁ”でも無い。
 久しぶりに我が家にやって来た彼女を心から歓迎し、そしてお疲れ様という意味もこもった言葉。
 そんな咲太にちょっぴり驚きつつも、見た者を魅了する大人びた笑みを浮かべて、「ありがとう」と言い、麻衣は靴を脱いで家に上がる。
 麻衣はさりげなく咲太に荷物を預けて、リビングに向かっていった。

――そして、ただ今、梓川家のリビングは驚きに包まれていた。何故なら……。
「僕たちの生活ぶりがドラマ化されるんですか?」
 咲太の問いに、麻衣は頷いてから説明を始める。
「正確には“ノンフィクションドラマ”と表現した方が的確かもしれないわね」
 いまいちピンと来ない咲太。花楓はソファに座ってお気に入りのアイドルグループのライブを見ていた。
 今までの中で、どこにドラマ化されるような要素があったのだろうか――咲太は記憶を振り返り、そして一つの可能性に思い当たる。
「……もしかして、僕が高二の時から秋ごろまで、麻衣さんの知り合いのテレビ局の人が撮影しに来ていた、あれの事ですか?」
「そうよ。今回、その時の撮影素材を編集してドラマ化してみないかって、私の方に話が来たのよ」
「ちなみに、おれはどれくらいの期間放送されるんですか」
 麻衣は顎に指をあてて、しばらく考え込んだ。
「まだ詳細は分からないけど、素材の量からして三ヶ月から六ヶ月といったところかしら」
「結構振れ幅があるんですね」
「そうね。そこら辺はテレビ局サイドが決定するみたいだわ」
 それに、と言って、咲太は言葉を続ける。
「今回テレビ局がドラマ化する目的って、主に麻衣さんの日常を放送するためですよね」
「そうね。咲太の言う通りだわ」
 そう言ってほほ笑んだ後、麻衣は出されたコーヒーを一口飲んだ。その時、咲太の視線は、こくんと動く麻衣ののどに向いていた。
 咲太の視線を感じて、麻衣は髪を優雅にかき上げて、静かな口調で言った。
「……今日の夜、ご馳走にしようと思ったけど、どうやらいらないようね」
「何を言ってるんですか麻衣さん。そんなわけ……」
「だったら、言う事があるでしょ?」
 麻衣は咲太にそう問い掛けた。怒っている事は確かなのだが、麻衣の瞳には若干何かを期待するような感情も見え隠れしていた。
 これだから僕の麻衣さんは可愛いなと心の中で呟いてから、咲太は口を開いた。
「麻衣さんに見とれていました。ごめんなさい」
 すると、麻衣はあははと笑いだす。そして、笑いすぎたおかげで溜まった目元の涙を拭った。
「……冗談よ。咲太に会わないと、私もつい意地悪になってしまうみたいね」
 そう言って、今までの仕事モードをしまって、咲太の前でしか見せない女の子らしい雰囲気で言った。
「ただいま、咲太」
「おかえりなさい、麻衣さん」
 まるで、遠距離恋愛をしているカップルが久しぶりに再会したかのような様子で“おかえり”“ただいま”を交わす二人であった。しかし、咲太と麻衣にとってはこれが日常の事なので、なにも特別な事では無かった。
 ラブラブな二人をソファからそっと見ていた花楓は、そっと呟いた。
「――私も、麻衣さんに負けないように頑張ろう」

青春ブタ野郎はお仕事バニーガールの夢を見ない

今後も、青ブタが盛り上がる事を祈っております。

青春ブタ野郎はお仕事バニーガールの夢を見ない

電撃文庫様より絶賛発売中の、『青春ブタ野郎シリーズ』の『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』のアニメ化を記念した二次創作です。 2018/3/27 : 作品の権利表示が誤っていましたので、正しいレーティングに変更しました。お詫び申し上げます。 誤 『Copyrighted』 → 正 『Derivative work』

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-03-10

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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