君と恋する帰り道
【君とこいする帰り道】
『あー楽しかったぁ』
「うん、そうだね…」
桜庭なおは、友人である御手洗亮太に誘われて映画館に来ていた。
彼が見たかったという新作の映画を観終わり、外に出てみるとすっかり暗くなっている。
「随分暗くなっちゃったね…桜庭さん、時間平気?」
端末を取り出し電源を入れて時間を確認する。帰るにはまだ早いだろう。
『うん、平気。御手洗くんは?』
「僕は平気」
少しだけ隈の残る目元を嬉しそうに緩めながら彼が微笑む。
また何日も徹夜をしたんだろうか、と心配になるが、私が口を出すことではないだろうと心配の種を頭の隅に押しやって彼の隣を歩く。
「…………」
『…………』
ひんやりとした空気としばしの沈黙が二人を包み、どことなく気まずい雰囲気が流れる。
いつもはこんなことないのに、今日の彼は少し雰囲気が違うような……
そんなことを考えていると、御手洗が不意に声を絞り出す。
「…そ、それにしても今日の映画すごかったね。グラフィックも音響も綺麗だったし、シナリオも作り込まれてて…」
『へ、ぁ、うん、すごかったよね。感動しちゃった。続編とか出るのかなぁ』
「どうだろう、僕はあの監督好きだから出て欲しいけど、でもあの監督こだわりがすごくて気に入らないイラストレーターさんとかすぐクビにしちゃうみたいだから、きっと続編出るとしても結構先のことだと思うなぁ……って、ごめん僕ばっかり喋っちゃって…!」
かぁぁ、と彼の頬が赤く染まってゆく。
好きなことを話している時の彼はとても生き生きしていて心地よいのに、どうして恥ずかしがるのだろうか、と内心首を傾げながらなおは笑う。
『ううん、御手洗くんの話聞くの楽しいから好きだよ』
「そ、そう…?」
そう小さく呟いて彼は俯く。
再び沈黙が流れ、なおが何の気なしに空を見上げると、真っ黒な空からちらちらと白い雪が降って来た。
『わぁ…ね、御手洗くん、雪だよ!』
「わ、ほんとだ」
『綺麗……でも、ちょっと寒いね』
ふるりと身震いをし、手を擦り合わせてはぁ、と白い息を吐く。
すると、彼が不意に手を伸ばして───手を握られた。
『っひゃ、あ、あの…御手洗くん…?』
「ぁ…ご、ごめんその、嫌、だった?」
先ほどよりも頬を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうに頬をかく。
『い、いやじゃない…よ…』
つられるように頬が熱くなるのがわかる。ドキドキばくばくと心臓がやけにうるさくて、うまく彼の顔が見られない。
「あ、あのさ…桜庭さん」
『な、なに…?』
「その…送っていくよ、危ないし…」
『あ、ありがとう…っ』
彼もこちらを見られないのか、うつむいたまま手を引かれる。
そわそわ落ち着かない気持ちになりながら、こんな時が続けばいいのに、なんて思ってしまう自分にさらに恥ずかしくなりながら、白い雪だけが二人を優しく見守っていた。
End
君と恋する帰り道