そこにはない

緑が広がる 美しい街

誰も知らない 不思議の街

その街には 葬式屋がない お墓もない


だって その街の住人は 永遠に死なないから__


12時のベルが鳴る

お昼ご飯だよ

笑い合う楽しそうな家族

死という概念がないから 毎日が延々と訪れる

誰も悲しいことなんてない

何も疑問を持たない

全ての住人の幸せが確立された 素晴らしい社会


だと、誰もが思っていた


ある少年がいた

その少年には 呪いがかかっていた

いつか命が尽きて 動かなくなってしまうだろう

喋ることも 歩くことも

人間としての活動をしなくなるだろう と

そこで初めて その街の住人は

死 という言葉を知った


なんて可哀想な子

痛々しくって見てられないわ


その少年を蔑み 同情し 哀れむ人たち


でも少年は 少しも悲しくなんてなかった

だっていつか終わりが来るんだから

終わりがあるから なんだって楽しいんじゃないか

馬鹿な人たちだなぁ くらいに思っていた

今思えば 少年はすごく強い人だったんだ


でも ついにその日がやってきた

そう 少年の最期だ

少年は もう少年ではなくなっていた

ただの老い耄れた爺になったのだ


ああ 可哀想に

本当に哀れだわ

終わりを迎えてしまうなんて


やはり住人は 可哀想に思った

きっとこれが普通のことなのかもしれないな

悲しくなんてないのに


少年だった爺は やっと息を引き取った

少年だった爺は 最後にこう言っていたらしい


__僕は幸せだった。死ぬことができるから毎日を大切に生きることができたんだ。

__死ぬっていいもんだよ。


住人は 号泣した

可哀想とか悲しいとか そんな感情ではなく

住人は気づいた

終わりを迎えないことは なんて恐ろしいんだ

ああ 私も死にたい


こう泣き叫んだのだ

誰が予想できただろうか こんなこと

死の概念がない街は

知ってしまったが故に 死を望むようになってしまった

こんな恐ろしいことに、


私たちの世界では きっと死を怖がる人もいるでしょう

でもそんな人たちに この物語を読んで欲しいのです

死を迎えるのは決して怖いことじゃない

終わりが来ないのは きっと死ぬより怖いことだって

生きるのもいいけど

死ぬってのも いいもんだよ

そこにはない

そこにはない

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-02-24

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted